NetScience Interview Mail 2005/03/24 Vol.314 |
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【深井朋樹(ふかい・ともき)@玉川大学 工学部 知能情報システム学科 教授】
著書:『脳を知る・創る・守る 4』(共著、クバプロ)
『ニューラルネットの統計力学とカオス』 ニューラルネットワークシステムとカオス, pp 189-244.(椎野正寿,深井朋樹. 合原 一幸編. 東京電機大学出版会, 1993)
『脳の情報表現』深井朋樹、加藤英之、北野勝則. Computer Today 2002年7月号、pp. 9-15(サイエンス社).
『脳内時計の神経機構』(岡本洋、深井朋樹. 別冊・数理科学2002年10月, pp. 51-59(サイエンス社).
ホームページ:http://brain.inf.eng.tamagawa.ac.jp/indexJ.html
○脳はどのように時間や記憶を情報表現しているのでしょうか。どんなものであるにせよ神経の発火パターンとして表現されているはずです。ではそれはどんなものなのでしょうか。どんな神経回路で実現されているのでしょうか。このような問題を「神経情報表現」と呼びます。この問題に対してモデルの立場から研究を行っている深井先生のお話をお届けします。(編集部)
…前号から続く (第11回)
○たとえば北澤先生の実験とかにしても、僕はすごい不思議に思えるわけですよ。腕をクロスしただけで、ぽんぽんと手を叩かれたときの時間順序判定が逆転するとか。あの時間順序反転の実験は、時間順序判定そのものが体性感覚でそのまま行われているわけじゃなくて、いちど脳で処理をした後で、もう1回体のほうに戻しているということを意味しているわけですよね。
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「動き投影仮説」、つまり動きを検出して、それから時間順序をあとから再構成しているから順序が反転するんじゃないかというのが、北澤先生の説だったですけれども、 ■でもさすがにそれはちょっと難しいですけど(笑)、うーん、正直ないけどね。時間といったときに、時間を比較するということと、時間そのものを認知したいということと、またちょっと違うとは思うんですよね。どっちが先に起きたかとかさ。 ○はい。
■そういったイベントの間の時間順序を付けるということと、日常的スケールでの時間そのものの認知とは、またちょっと階層が違う気がしていて。 ○ふむふむ。時間の認知そのものと順序判断が違うというのはどういう意味あいですか? 時間の認知ということについて、もうちょっと詳しく。 ■一番はじめのほうの話にも出てきましたけど、日常的な経験で大切な時間認知のスケールというのは秒とか、それ以上の長いスケールのわけだけども、それはニューロンとかシナプスのダイナミクスの時間スケールとはずいぶん違っているわけですよね。 ○ええ。
■で、例えば何かある2つの刺激が同時なり、ちょっと時間がずれて入ってきて、その短い時間に起きたものが、どっちが、早かったか短かったか判断する。こういった課題で問題になってくる時間のスケールは、神経のダイナミクスのスケールとそれほど変わらないわけですよね。 ○ふむ。 ■だからね、そういう問題と、やっぱり秒とか分とか1時間といったスケールとかで起きている時間の問題とは、僕はちょっとレベルが違っていると思うね。で、その秒スケールで起きている問題が本質的に絡むと、まだはっきりしたことは、ほとんど分かっていないというのが正直な感じなんですよね。 ○うーん。じゃあ、そこから先、それこそ1年前とかになってくると、もうお手上げという感じですか。
■正直お手上げですよね。でも、秒スケールくらいまでなら何とかなっていきそうな気がするから、いろいろやっているわけですけれども。
■まあ、本当にまじめな話、うん。僕らなんかがモデルで普通話しているのは、サーキットの中をニューロンが信号をやりとりし合う、そのダイナミクスでしょう。電気信号の世界ですよね。1年、2年になってくると、これはやっぱり分子だの、物質レベルのメカニズムも絡んでくるわけですよね。 ○ん? 昔の記憶は「昔の記憶」という状態になっているということですか。物理的に? ■ないとは言い切れない。例えば利根川進先生とかは、そういう物質の安定性に最後は還元して一生ものの記憶とかを理解しようとしているわけですよね。 ○ああ、そうか、そうなのか。そうかもしれませんね。……ああ、そうか、利根川先生たちのアプローチはそうなのかも。勝手な憶測ですが。
■だから僕らのようなモデルの人間がやっているのは、そこへたどり着く、一ヶ月だか一年といったレベルのそういう中間状態に回路で起こる現象なんだと考えてる。 ○うん、でも確かにそういうふうに物質的に変わっているんだったら、昨日の記憶と10年前の記憶が全然、違うものということになりますよね、本当に。 ■そうそう。でね、実際あの、海馬とかで脳の学習の基礎だといわれている、シナプスの可塑性という現象は聞いたことがあると思うんですけど、あれもね、やっぱりいろんなタイムスケールの現象があるんですよ。 ○はい。
■で、さっきから何度も言っている、例えば一番最新のね、いや、一番最新とは言わないけれども(笑)、比較的最新、まあ、何年か前に分かった知見というのは、実はシナプス可塑性はニューロンの活動に比べて、ずっとゆっくりしたペースで起きるという考えがあったんだけど、実際はそうじゃないものがあって。 ○「ある」と見なされると。 ■そう、見なされるわけですね。そうするとこの送り手側から受け手側へのシナプス結合が増強されると、このシナプスがね。逆の時間関係になっちゃうと減衰させられる。こういうものをスパイク・タイミング依存な可塑性といって、今、いろんな脳の分野で、最初海馬で見つかったんですけど、大脳新皮質にもあるし、それからまだほかのところでも、いろいろ。電気魚なんかの小脳みたいなところをやっている人もいた。 ○実際に見る見る変わるということですよね。
■そうそう。 ○はい。
■で、まあ1つの説としてはね、「シータ・バースト」と言うんですけれども、シータ波(〜5Hz)の間隔で、高い周波数のスパイクのまとまりを何発かこう束にして送ってやる。 ○ニューロンのスパインの頭がでかいやつと、ちっこいやつがあって、でかい奴は変化しにくいけど小さい奴は変化しやすいんだと。そういう差が実際にあるんだというのは、今年の<脳の世紀>の講演会でも、ビデオでプレゼンされていて拝見しました。一言でシナプス結合といってもああ、実際に、物理的にこんなに違うんだと。あれは感動しました。 ■うん。だからその辺がね、ひょっとすると物質レベルの、さっき言っていたもっとうんと長期の記憶と短期の記憶の違いに絡んでいるのかもしれないし。ただ、いったんそういう物理的な差があるシナプスが出来ても、その差を何十年も維持するためには、タンパク質の合成とか、遺伝子レベルの機構が働くだろうから、それだけでストーリーが終わるわけではない。 ○ええ。 ■だからとにかく、そういうふうに一言でLTPだの−−LTPって長期増強ってシナプス結合を強くすることなんだけど、そういう現象でもいろんなタイムスケールの違う現象があって、やっぱりそういう何段階もの関門を経て、やっとこう長期的な記憶とかね、そういうのになっていくわけですよね。 ○ええ。
■その辺をね、最後の物質レベルまでやるというのは、これはなかなか大変なんだろうけれども、でもそういったプロセスも視野に入れて、モデルを考えてやることは大切だと思っています。 ○次号へ続く…。
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発行人:株式会社サイネックス ネットサイエンス事業部【科学技術ソフトウェアデータベース・ネットサイエンス】 編集人:森山和道【フリーライター】 |
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