NetScience Interview Mail 2005/03/31 Vol.315 |
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【深井朋樹(ふかい・ともき)@玉川大学 工学部 知能情報システム学科 教授】
著書:『脳を知る・創る・守る 4』(共著、クバプロ)
『ニューラルネットの統計力学とカオス』 ニューラルネットワークシステムとカオス, pp 189-244.(椎野正寿,深井朋樹. 合原 一幸編. 東京電機大学出版会, 1993)
『脳の情報表現』深井朋樹、加藤英之、北野勝則. Computer Today 2002年7月号、pp. 9-15(サイエンス社).
『脳内時計の神経機構』(岡本洋、深井朋樹. 別冊・数理科学2002年10月, pp. 51-59(サイエンス社).
ホームページ:http://brain.inf.eng.tamagawa.ac.jp/indexJ.html
○脳はどのように時間や記憶を情報表現しているのでしょうか。どんなものであるにせよ神経の発火パターンとして表現されているはずです。ではそれはどんなものなのでしょうか。どんな神経回路で実現されているのでしょうか。このような問題を「神経情報表現」と呼びます。この問題に対してモデルの立場から研究を行っている深井先生のお話をお届けします。(編集部)
…前号から続く (第12回)
○「海馬がやっているのが情報の圧縮だ」というのは、結構、いろんな人が言い出しているなという感じが、何となくあるんですけどね。 ■うん、あの、ご存じかもしれないけれどもね、ほら、自閉症ってあるじゃない。 ○はい。 ■あるいはサヴァンというのがあるでしょ。
○ええ。いわゆる「天才」的な才能を示す奴ですね。 ■そうそう。それでいろんな症状が出るんだけれども。これは本で読んだ受け売りですけどね。あれです、1つのパターンとして、小さいころの記憶というのかな。ある日、例えば「何月何日の朝、起きて、あなたは何をしましたか」とか聞くと、ずっと1日中、本当に24時間なにをしていたかを正確に言えるというような症状があるらしいんですね。実際にビデオで撮っておいて、後で何年かしてから聞いてみるということをやるようなんだけれども。 ○ありますね。テレビのドキュメンタリー等でも見たことがあります。
■で、そうするとね、海馬そのものというのは、おそらく垂れ流しというんじゃないけれども、情報をずっと、何ていうんだろう。どんどん受け入れてエンコードしていくだけの能力は持っていると。 ○そうでしょうね。 ■海馬自体は、物理的な時間で入ってくる情報を、全部引き取ってしまうんだけど、そこで、正常な脳では、適当なコンプレス−−というか、コンプレスというよりも切り捨てといった方がよりいいのかもしれないけれども。コンプレスというと、何か時間を圧縮して全部覚えちゃうみたいな気がするから。取捨選択したものを大脳皮質なり何なりに送ってそこで固定化するという、そういう機能があるんだろうなと思うんですよね。 ○はい。
■そこを説明しているようなモデルというのは、コネクショニストモデルにはいろいろあるんだけど、実際のニューロンやシナプスのミリ秒レベルのダイナミクスから見て、満足のいくレベルでモデル化出来たものは、やっぱりまだないと思うんだよね。 ○じゃあ先生方も今後はそこを目指すと。 ■その気持ちはある。でもね、海馬はものすごく競争が激しいんでね。 ○いや、でも一番面白いところだろうと思いますけど。脳のその情報の圧縮と展開の能力、その能力というのが、やっぱり、脳がほかのコンピューターとかと全然、違う重要なポイントなんだだろうなということは、素人から見ていても思うので。
■そうですね。やっぱりそこだよね。そうそう。 ○はい。
■で、そこには「時間」がやっぱりどうしてもかかわってくるんだよね。 ○ええ。 ■だからどうなっているのか知りたいなと思っているんだけど。 ○ええ、どうなっているんでしょうね。そこが一番面白いところだと思うんですけど。 ■うん。だからリスマンなんかが言ったような話というのも、そこにやっぱり関係してくるのかもしれませんけどね。部分的には圧縮ができているからね。 ○ああ、さっきの話ですか。
■やっぱり今、一番モデルで議論がなされていないというか、議論はあるけれども、実験といまひとつ合わないなと思うのは、長期の記憶としての固定化の部分だという気がしますね。 ○いいえ、なるほど、分かりました。
■せっかく来てもらったから、ある程度、分かるまで−−でも分かるといっても、僕の方も分かっているわけじゃないんだけど(笑)。
○先生が、今、一番力を入れていらっしゃるのはどこですか。 ■あの、今一番力を入れている部分は、大脳皮質の局所回路による入力情報のインテグレーションですけどね。ま、実はこれも思い込みかもしれないんだけど、大脳新皮質と海馬って、すごい細胞が似ているんですよね。でも全く同じということではない。 ○ほう?
■回路構造は海馬の方がずっと特殊な感じなんだけど。大脳皮質の局所回路というのはどの領野でも似たような回路なんですけれども、でも錐体細胞とか、それからインターニューロンの種類なんかも全部似ている。 ○ほほう。
■で、記憶の問題にしても何にしても、大脳皮質の局所サーキットがどういうふうな働きをするかというのが分かるって、すごい大切なことだと思うんです。 ○なるほど。 ■ただそうは言っても、特定の領野から切り入らないと、何も分からなくなっちゃうから、取りあえず、まあ、前頭皮質とかね、ワーキング・メモリーであるとか、その辺を直接的なターゲットにして、ここ数年はやってきたという感じなんですね。 ○ふーん。
■で、ごくごく最近は、さっき言っていたような、アップ・ステートとかダウン・ステートとか、そういった最近の実験で見つかった現象に興味を持っています。どうしてかというと、そこでは状態遷移が自然に秒のスケールで起きている。 ○膜電位を測っていればいいという問題ではないんですか。 ■いや、まさにその通りなんですけど、膜電位ってどうやって測るかというと、基本的には細胞の中に針を刺すわけですよ。で、細胞の中に針を刺すのは脳をしっかり固定化しちゃってね、そのために麻酔を普通するんだけど、そういう状態だったら、技術を積んだ人だったら、まあ、できる実験なんですけどね。だけども例えば…… ○あ、要するに生体の中でそういう双安定性があるんだということを、示さなきゃいけないということですか。 ■いけない。でね、それも麻酔がない状態で示さないといけない。で、それはなかなか難しいです。 ○でしょうねえ……。
■ただ、やっぱり外国には最近それをやろうとしている人が何人かいて、プレリミナリーな結果はいろいろ聞いたこともありますけどね。 ○あらら。
■ただね、覚醒状態でもあることを示した実験もあって、実は著者の一人がノーベル賞をもらった人だからちょっと心強いんだけど、少数派ですが、ないわけではない。 ○なるほど。
■それに対して例えば行動プランニングとか、まあ運動野よりも前の部分というのは、もっと選択的に行動生成に関係している思うんですよね。だからアップダウンとかが保持されて、積極的な役割をしている可能性だってあるんじゃないかなと思っているんです。で、そっち側から取った人がまだいないと思う。
○大脳皮質って、視覚とか聴覚とか、いろんな領野は確かにありますけど、何で「時間野」とかはないんですかね? ■そこなんだよね。時間野。 ○次号へ続く…。
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