NetScience Interview Mail 2005/04/07 Vol.316 |
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【深井朋樹(ふかい・ともき)@玉川大学 工学部 知能情報システム学科 教授】
著書:『脳を知る・創る・守る 4』(共著、クバプロ)
『ニューラルネットの統計力学とカオス』 ニューラルネットワークシステムとカオス, pp 189-244.(椎野正寿,深井朋樹. 合原 一幸編. 東京電機大学出版会, 1993)
『脳の情報表現』深井朋樹、加藤英之、北野勝則. Computer Today 2002年7月号、pp. 9-15(サイエンス社).
『脳内時計の神経機構』(岡本洋、深井朋樹. 別冊・数理科学2002年10月, pp. 51-59(サイエンス社).
ホームページ:http://brain.inf.eng.tamagawa.ac.jp/indexJ.html
○脳はどのように時間や記憶を情報表現しているのでしょうか。どんなものであるにせよ神経の発火パターンとして表現されているはずです。ではそれはどんなものなのでしょうか。どんな神経回路で実現されているのでしょうか。このような問題を「神経情報表現」と呼びます。この問題に対してモデルの立場から研究を行っている深井先生のお話をお届けします。(編集部)
…前号から続く (第13回)
○大脳皮質って、視覚とか聴覚とか、いろんな領野は確かにありますけど、何で「時間野」とかはないんですかね? ■そこなんだよね。時間野。 ○最初から感覚情報と一緒になっているんですかね。
■でもね、こんな感じなのかもしれないよね。 ○分散して存在していても、でもどこかで、一つにまとめないといけないですよね。マスタークロックみたいなものがあるんですかね? 何か1つの−−別々の事象というか、別々の領野で処理された情報を、どこかで1つにまとめないといけないですよね。それはどこでどうやって−−。
■うん、それはまだどことは言えないけどあるかもしれませんね。 ○ふむ。
■ただやっぱり最終的には、本当にそれが時間だということを言うためには、エレクトロ・フィジオロジーの実験が必要になると思うんですよね。だから、まだ先のことになりそうな気はするけど。 ○うーん。 ■何ていったかな、これは僕はある人に聞いたんだけど、コンピューターがあるじゃない。コンピューターって1つ「クロック」という中心的なペースメーカがあって、処理の同期を取るのは、全部そのクロックが信号を送ってやっているでしょう。 ○ええ。 ■でも、実はある一定のレベルから上に集積度を上げようとすると、かえって大変らしいんですよね。分配する配線というのをロバストに作り込むというのは難しいらしくて。 ○ああ、なるほど。 ■で、一つ一つの素子自体に時間を、例えばリズムでもいいけれど刻んで、ローカルなコネクションだけでシンクロさせたりとかね、そういうことで同期を取ろうというアイデアというのは実は20〜30年前にあったらしいんですよね。 ○なあるほど。 ■今でもちょぼちょぼと研究があるらしいんだけど、それと似たようなことって、脳にもあるような気もちょっとするんですけど。 ○ふむ。そっちの方が何か「生き物っぽい」感じがしますけどね。 ■うん、生き物っぽい感じがするでしょう。 ○何か脳の話とかを聞いていると、何かこう、みんながわーっと力を合わせてじゃないですけど、同じ機能を持つ単細胞あるいは単純な回路がいっぱい集まって安定性を保っている、そういった仕組みがあちこちにあるんだなというのを感じるんで。
■ああなるほど、そんな現象はありますよね。同期活動ってまさにその典型なのかもしれないと僕は思うんだけれども。
■いやあ、なかなかね、サルの時間の実験なんかも実はすごい訓練するのが大変でね。タスクが難しいので、思うように進まない部分があって。本当はもう2〜3年前には、ある程度、少なくともこの辺がこうだということは分かるかなと思っていたんですけどなかなかそれすら、うまくいかないんですけど。 ○人間を使ってもやっていらっしゃるんですか。 ■いや、人間はね、僕はやっていない。ただ、サルの実験は東京都神経研のグループとやっているんですけど、同じ神経研のね、別の人たちが人間を使ってMRIでやっぱり時間認知のタスクをやっていて、尾上さんとおっしゃる方ですが、たしか大脳基底核の辺りの活動が上昇していると、そういうふうなことを聞いたりしますけどね。 ○何かビジョンとかの処理の話に比べると、分からないことがいっぱいという感じなんだ、じゃあ。 ■やっぱり人間ってそれだけ、ビジョンによりかかっているところがあるでしょう。目に見えないものは分からないというか、「時間」って、その典型だと思います。 ○あまりに基本的過ぎて分からないんですかね。 ■うん、時間がなければ物理現象は記述できないわけだけど、ある意味で言うと空気みたいな存在というか、意識しない限りは、あることが強烈には伝わってこないというかね。 ○それはアウグスティヌスの言葉ですね。「時間とは何か」と問われて「もし誰も私に尋ねないなら私は知っている。尋ねられて説明しようと思うと私は知らない」と。
■ああ、うん、うまいこと言ってますね。でもそういう印象は誰しもありますよね。だからやっぱり、注意が向かなかったということでしょうね。まあ、至極当然だと思うんですけどね。
○ちょっと疑問なんですけど、よくあの、計算論的神経科学系の人の講演とかを聞いていると、シータ波のリズムが海馬でどうのこうのという話は、よく出てくるじゃないですか。 ■ああ、「ない」というわけじゃないんですけどね、そこはやっぱりいろいろ結構、議論があって。シータ波ではないんですけど、例えばビジョンだと、ある一派はガンマ波というのがあると言っているんですよね。ドイツのジンガーという、マックス・プランク研究所の人なんだけど。私みたいな理論屋が同期とか、そういう現象に注目したのは、その人たちのあるアイデアがあったからということがあるんだけれど。それはバインディング問題と呼ばれていたんですけど、ご存じかもしれない。 ○結合問題ですね。 ■そうです。例えば一次視覚野を考えると、個々のニューロンって、視野のある部分にしか反応していないわけで、全体の認識はないわけですね。視覚対象が一つのまとまりのある認知対象になるためには、部分部分がまとまりのある全体に統合されないといけない。例えば猫なら猫の輪郭というのに属しているということを示すのに、同期というか、もっと言えばガンマ・オシレーションによる同期がいるんだという。 ○ふーん。
■ただ、面白い仮説だったので、そこをいろいろ、ほかのグループなんかも調べたんだけれども、今ひとつはっきりしない。結果自体が振動していると言った人がいたよね(笑)。 ○(笑)。
■今もまだ決着が完全についたわけじゃないんだけれども、もしもバインディング問題が本当にガンマ振動で解決されているとすると、視覚情報を処理している間、ずっとオシレーションがないといけないことになるわけですよね。だけど、そういう持続的なガンマ振動は見つかっていない。 ○ああ、はい。 ■ジンガーたち自身もそういう意見に、変わってきていると思うし。注意ってことは信号のゲーティングというか、信号の切り出しみたいな、これは重要そうだからもっと詳しく見てみましょうかといったような時に、脳の億へと信号を伝える作用なんかが考えられる。 ○そのために同期させて、そういう信号が出てくるんですか。
■そうそう、短期間なものでも同期したスパイクの束は、下流のニューロンにより大きなインパクトを与えることができる。そういうメカニズムじゃないかといわれていて。
■で、一方でね、海馬とか記憶に関係している部分というのは、やっぱり、振動がものすごく強く出てくるのは事実なんですよ。例えばまあ、海馬にもガンマ波があるでしょう。ムスカリンという物質が、ご存じですかね。 ○ムスカリン。
■うん。アセチルコリンという、コリン系のね、伝達物質と同じような働きをしている。で、それが例えばなくなると記憶がうまくできなくなったりとかいう実験があるんだけれども、実際セルのレベルでね、ムスカリンなんかを投与してやると、ガンマ・オシレーションが非常に強く出るようになることなんかも分かっている。 ○ふーん。
■あと、このインタビューのはじめのほうで言っていた、内側嗅皮質で一定の周波数を保つニューロンがあって、我々もモデルを作ったという話をしましたよね。で、実はその周波数というのが、シータ波のオシレーションの範囲なんですよ、ほぼ。それもね、ムスカリンを与えたときだけに出てくる現象なんですよ。それ以外のときは持続発火自体をしなくなる。 ○まあ、ありそうですよね、何か。もともと、そういう周期的なものなんだったら。 ■そう。 ○次号へ続く…。
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発行人:株式会社サイネックス ネットサイエンス事業部【科学技術ソフトウェアデータベース・ネットサイエンス】 編集人:森山和道【フリーライター】 |
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