NetScience Interview Mail 2005/04/14 Vol.317 |
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【深井朋樹(ふかい・ともき)@玉川大学 工学部 知能情報システム学科 教授】
著書:『脳を知る・創る・守る 4』(共著、クバプロ)
『ニューラルネットの統計力学とカオス』 ニューラルネットワークシステムとカオス, pp 189-244.(椎野正寿,深井朋樹. 合原 一幸編. 東京電機大学出版会, 1993)
『脳の情報表現』深井朋樹、加藤英之、北野勝則. Computer Today 2002年7月号、pp. 9-15(サイエンス社).
『脳内時計の神経機構』(岡本洋、深井朋樹. 別冊・数理科学2002年10月, pp. 51-59(サイエンス社).
ホームページ:http://brain.inf.eng.tamagawa.ac.jp/indexJ.html
○脳はどのように時間や記憶を情報表現しているのでしょうか。どんなものであるにせよ神経の発火パターンとして表現されているはずです。ではそれはどんなものなのでしょうか。どんな神経回路で実現されているのでしょうか。このような問題を「神経情報表現」と呼びます。この問題に対してモデルの立場から研究を行っている深井先生のお話をお届けします。(編集部)
…前号から続く (第14回)
■記憶と視覚の大きな違い−−視覚というか感覚認知との違いって、「時間」の問題でしょう。 ○はい。もっとも、たぶん……、でも、生き物の仕組みから言うと、そういうセンサリーの−−もっと言えばセンサリー・モーターとかの仕組みを基本にして、記憶の仕組みとかもできているんじゃないんですか。時間の知覚に関連する仕組みとかも。運動生成においても知覚においても時間は重要な情報であるはずで……。 ■うーん、どうだろうな。もちろん感覚野を通して入ってくる情報が、記憶のネタになっているという意味では無関係のはずはないのだけど、記憶に残さない感覚入力も多いわけだから、感覚受容の根本が記憶とメカニズムを共用している必要はないのでは。 ○まったく別物なんですかね? 時間に関してもね、センサリー・モーターと、記憶の問題を一つ繋ぐような、何かこう「基本原則」みたいなのがあって、それを変形することで、それぞれ使っているのかなと思ったんですけど、そういうことでもないんですか。センサリー・モーター、要するに運動と、記憶、この両者を繋ぐのが時間の知覚なんじゃないかなーという可能性はないんでしょうか。 ■うーん、そうだという積極的な材料があるわけじゃないんだけれども、でもまあ、やっぱりいろんなモダリティで入ってくるね。視覚情報、聴覚情報というのは別々なルートで入ってくるけど、まとまった1つのイベントとして認識しなきゃいけないということを考えれば、クロックの機構を共有するぐらいのことはしているかもしれませんね。まったく違う、ストップウオッチみたいなのを持ってみんなでやるよりは、何か共通のルールがあった方が当然いいからね。 ○はい。
■ガンマ波なんていうのも、ひょっとしたらそこに関係しているのかもしれないですしね。センサリーでは、何か注意に関連するゲートとして、それは扱われるんだけど、そのゲートがいつ開いたかっていうのは、もっと高次の部分でははっきり認識しているのかもしれないし。ここの聴覚のゲートは、この時間で開いているとかね。 ○そうですか。でも何か先生のお話を伺っていると、確かにそのタイムスタンプは実際にあってもおかしくないのかなという感じもしてきますね。何か。 ■うん。そう思ってもらえると嬉しい。 ○物理的に−−物質、そうか、物質でタイムスタンプを押す以外にないわけですよね、当然ですけど。 ■と思うんですよね。一連のイベントをそんな長い時間でね、何分とか何時間にもわたって、取りあえず順番に並べて記録しておこうと思ったらば、スタンプを付ける以外にないと思います。それは取りあえずのスタンプ、結局利用されずに情報がいらなくなったらはがれていくと。使われたならば、さらにどこかに映して大切に取っておくみたいな。
○しかもそれがいろんな階層、ミリ秒、秒、分、時間、日、年といったいろんな階層で存在しているわけですよね。
■うん。その過程のところどころで神経回路レベルでの活動に依存した情報の書き込みやら呼び出しのプロセスが絡むだろうから、そこには我々のやているようなモデル研究が活用される日もあるかもしれない。
■いや、でもね、本当は、まあ、これはあんまり書かれるとちょっとまずいかもしれないんだけど。 ○まあ、どうせチェックは全部していただきますので。
■実験の先生方、特に日本の先生方は、モデルが役に立つと思っている人がほとんどいない気がして、脳研究なんかやめちゃおうかと思う日もある。
○中沢さんは、最近出た『脳はどこまでわかったか』(朝日選書)にも寄稿されてますね。 ■CA3のNMDAレセプタのノックアウト・マウスを作るに当たって、CA3が何をやっているかという、いろいろなモデルの仮説があるわけだけど、そういったことを頭に入れた上で、CA3の機能をテストするような実験をそのノックアウト・マウスを使ってやっていらっしゃるんですよね。 ○はい。 ■だからやっぱり、本当に系論論とか回路モデルのレベルとね、遺伝子・分子のレベルというのは、だんだん融合した研究をしなきゃいけない、あるいは出来る段階に入っているんです、明らかに。 ○ええ。 ■日本にもそういう分子レベルの研究者がいないわけじゃないのかもしれないけど、日本の場合ね、そういう観点を持っている人は、あんまりいるように見えない。 ○そうなんですか、素人目には、それはすごく不思議なんですけど。何でみんなもっと協力しないんですか。はたから見ているから余計そういう気がするのかもしれませんけど。 ■一つにはね、研究者の人数が少ないということもあるだろうとは思うんですけどね。アメリカの研究者って数が膨大だから。よく見るとみんながみんな、総合的なレベルの研究ができているわけじゃなくても、本当にトップクラスの人たちだけでも、ある一定のボリュームの研究に育っていく。これは明らかにあるかもしれないと思う。 ○はい。 ■しかし、もう1つにはね、やっぱりその、何ていうんだろう。大学や大学院レベルの教育システムの差が出ているんじゃないかと思うな、日本とアメリカの大きな違いというのはね。これは外から見ていて思うことに過ぎないかもしれないけど。 ○どう違うんですか。 ■例えばその神経科学1つ取ってもね、日本にはいま、神経科学学科なんてないでしょう。ないんですよ、department of neuroscienceとか、department of Cognitive neuroscienceとかね。 ○うん、そうですね。
■で、アメリカにはそんなのがここ数年で山のように出来たわけですね。そこにはモデルの人もいて、実験の人もいてという。人文系の人もむろんいる。まあ、本当にここ数年でできたんですけど。 ○ふーん。 ■最近、少しはよくなったと思うけど、昔の日本の大学院なんかというと、例えば物理なんかでも、ある一分野をやっている人は、他の分野のことを何も知らないとかね。しかももっと下手をすると、同じ分野のほかのグループの仕事すら知らずに本当に目先のことに道具のように使われたりすることもあった。そうすると結局、大学院を出た後に、その先、仕事を広げていくことはできないでしょう。もちろん発展させられるかは個人の能力に大きく依るわけだけど、アメリカの場合ね、その辺を常に意識してシステマティックに教育している。少なくとも一流校ではね。 ○それは、組織側が意識しているんですか、それとも個人が意識しているんですか? ■組織が。 ○組織が意識している? ■これはね、僕は個人の問題じゃないと思うんです。たぶん、日本人とアメリカ人とどっちが優秀とか、そういうレベルで比べたら、別にそんなに遜色なんかないだろうと思う。アメリカに行ってみたら、日本人の方が優秀だという人もいるぐらいだから(笑)。 ○組織的に、じゃあ何かこう学際的な知識と知見というか、何か見識を持った人間を育てるメカニズムがあるということですか、アメリカの方には? ■うん、いろいろあると思いますね。僕は自分ではアメリカには留学したことないから、人からの受け売りになっちゃうけれども、例えばアメリカの大学院の場合は、主専攻と副専攻というのがあるらしくて、例えば主専攻が物理で、副専攻は生物とかね。副専攻、主専攻が逆とかね。で、そうやって、広くいろんなことを勉強させられるんですよ。で、実際そのときに同じ教室で学んだ仲間が、後でお互い教授になったときにコラボレーションするなんていうのも結構あるし。 ○らしいですね。
■そういう機会が逆に与えられていないと、勉強1つ取っても大変ですよね。 ○(本棚をさして)これですか。
■ああ、これこれ。これをね、やっぱり読みましたけど、非常に僕がラッキーだったのは、脳の専門家じゃないけれどもね、化学を修めた人が非常勤で来ていて、そのころ僕は東海大だったんだけど、その人がね、そのセミナーに参加してくれたんですよ。 ○解剖学的な用語がなかなか覚えにくいですよね。 ■そう。今でも英語でそのまま覚えたものは、日本語で言われると分からないことがある。
○ああ、それは研究者の方と話していると、よくありますよ。研究者の方は英語名しか分からない、僕のほうは日本語名しか分からないとか。解剖学用語の覚えにくさは、インタビュー・メールで配信中の泰羅先生でさえ仰ってました。
■いや、もう、解剖もそうだしね、もう物質の話はもう何から何までちんぷんかんぷんという感じでしたよ(笑)。で、そこがね、そういう人がそばにいて、ある程度クリアできたというのがずいぶん大きかったと思うね。うん。 ○(笑)。 ■それからもう一つ、僕は物理出身なんで、何でもすぐ単純化したり、すぐに一般化しようとする傾向があったんだけど−−物事は本質だけ見ればいいとか言っちゃってね。でも生物では、そういうやり方はいけないということも感じた。中途半端でご都合主義出来名ことしか出来なくなる危険がある。一般化や単純化が最終目標だとしても、途中のプロセスまで単純化してはいけないと思うんですよ。 ○なるほど……。 ○次号へ続く…。
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発行人:株式会社サイネックス ネットサイエンス事業部【科学技術ソフトウェアデータベース・ネットサイエンス】 編集人:森山和道【フリーライター】 |
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