NetScience Interview Mail 2004/04/08 Vol.272 |
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研究:運動の学習と制御の神経機構、脳内の時間順序表現メカニズム
著書:小脳における上肢随意運動の学習機構の解明.
『ブレインサイエンスレビュー2001』(伊藤正男,川合述史編/医学書院、2001:216-243.)
到達運動の制御と学習の神経機構.
『脳の高次機能』(丹治順,吉澤修治編/朝倉書店,2001:106-118.)
研究室ホームページ:http://www.med.juntendo.ac.jp/kenkyu/09index.html(建設予定)
研究内容の参考になるウェブサイト:
▼HFSP NewsLetter No.13 ―多才な運動を実現する脳の機構の解明へ―
http://jhfsp.jsf.or.jp/news/letter/no13/nl-05.html
▼HFSP NewsLetter No.17 ―ノイズが開く運動制御の可能性―
http://jhfsp.jsf.or.jp/news/letter/no17/nl-03.html
▼AIST Research Hot Line 手の交差で時間が逆転 ―脳の中の時間―
http://www.aist.go.jp/aist_j/aistinfo/aist_today/vol01_06/vol01_6_p12.pdf
○腕をコップに向けて伸ばす、このような運動を「到達運動」と言います。このとき、脳のなかでは腕を制御するためにある種の計算が行われていると考えられています。ではそれはどのような規範に基づいているのでしょうか。北澤先生はこのような運動制御における小脳の役割について研究しておられます。
また、北澤先生は実に不思議な現象を発見しました。右左の手をポンポンと叩く。どちらが先に叩かれたのかは、目をつぶっていても分かります。ところが、腕を交叉するとこの時間順序の判定が逆転するというのです。これはいったい何を意味するのでしょうか。
身近な身体に関する研究の話です。不思議なことは私たちのすぐそばにいくらでもあるということを感じて頂ければと思います。(編集部)
…前号から続く (第9回)
■それで、ある日、手をクロスしようと。 ○え(笑)? ■クロスしたら、面白い結果が出たんですね(笑)。 ○ある日クロスしようって思ったのは、どうしてだったんですか。 ■それはですね、ある日突然、たまたまですね。「クロスしよう」と思ったんですね(笑)。説明しろと言われても難しい。 ○取りあえずやってみた?
■そうですね。取りあえずやってみたわけです。 ○ラインモーション・エフェクト? なんですか? ■白い線を画面にパッと表示します。すると同時に出現したように見えるわけです。ところが、音を片方でピッと鳴らしてから表示すると、そっちから書いたように見える。 ○ああ、聞いたことありますね。 ■光をつけると、光がついた方から書いたように見えるという話なんですね。それで手をおいて、皮膚刺激をすると、皮膚刺激されたほうから書いたように感じる。で、手をクロスして刺激しても、手を刺激したほうから書いたように感じると。という話を僕は聞いたことがあったんですね。 ○なるほど。 ■そのときの「手をクロスしている」というイメージが、きっとどこかに隠れていたんだと思うんですね。それで来たんだと思うんです(笑)。このままだと埒があかないから、今日はちょっとクロスしてみようと。3人目の被験者の方の図がこれなんですが、驚きましたね。 ○時間順序逆転、刺激されたほうが逆だと感じたと。 ■こんなことが起こるとは別に予想していたわけではないんですよ。 ○0.3秒以内の間に刺激すると錯誤が起こるという話でしたよね。0.3秒ってずいぶん時間がありますよね。それでもけっこう分からなくなるものなんですか。 ■この方の場合はですね、0.3秒のところだと100%判断が逆転してますよね。しかも、ものすごく確信度が強いんですよ。 ○確信度が強い? ■「絶対にこっちが先だ」というわけです。0.3秒では逆なんですが。でも伸ばしていくとまた正解になるわけです。 ○被験者は手は見えないようにしているわけですよね。 ■手を交差して刺激装置を手にセットするところまでは眼はあいてますけどもね。眼をつぶって耳栓つけてヘッドホンつけて、ホワイトノイズを流して実験しました。実験の前には、片方だけ刺激して指をあげてもらう。すると98%以上正解します。ところがポポンと両手に刺激が来ると、間違っちゃう。 ○なるほど。 ■つまり、時間順序の表現に関して、すごいバグがあるわけです。人間の脳には。 ○ええ、ええ。 ■脳が現実の世界で生きていくときに、たくさんの情報を取り込んで、それ全てにタイムスタンプを押していたら多分ダメなわけですよね。適当に手抜きをしないと爆発してシステムがダウンしてしまう。 ○ズルをしているわけですよね。
■そうです。 ○脳のなかに再現された空間に信号を配置してから時間の処理が始まると。 ■取りあえず、ちょっとつまらない結論ですけどもね。 ○え、つまらないとは? ■皮膚座標系の上で時間を判断しているのではない、と。少なくともそれは言えているという結論ですが、手抜きになっているのかどうか定かではない。 ○結果として、そうとしか解釈しようがないというのは分かるんですけども、幻肢についてのラマチャンドランの『脳のなかの幽霊』(角川書店)じゃないですが、あるいは錯触とか−−触覚のイリュージョンですね、ああいうののヘンな実験いろいろありますよね。僕はああいうのを読むのも聞くのも好きなんですが(本誌インタビュー:下条 誠、「触覚のイリュージョン」などを参照http://www.moriyama.com/netscience/Shimojo_Makoto/Shimojo-5.html#15)脳のなかに再現された空間に信号が配置されてから時間の処理が始まるっていうのは、逆にめんどくさいんじゃないかと思うんですが、そのへん、たとえば情報論の立場からするとどうなんでしょう。そのほうが計算コストの面からして「おいしい」んでしょうか? ■あまりおいしそうに見えませんよね。 ○ええ。明らかにこっちのほうが計算コストが低いんだよ、ということが示されれば、ああなるほど、と思えるんですが
■実は「動き投影仮説」というのを作りました。 ○「動き投影」。 ■一言で言えば、時間順序は、あとから再構成するんだという考え方です。2001年の一本目の論文のディスカッションのところにも、はじめはいろいろ書いたんですが、原稿を見て頂いた先生の評判があまり良くなかったので(笑)、論文に書くのはちょっとやめておこうと。2000年から2003年まで参加していたさきがけ研究の「協調と制御」領域(総括:沢田 康次先生 http://www.jst.go.jp/kisoken/presto/kenkyu/h12-05/index.html)では作業仮説として表に出していましたが。 ○ベクトルで? ■ベクトルを表現しているところと、イベントを表現しているところがあって、それをあとでくっつけて ○こっちが前でこっちが後だとかいうというわけですか? それ、なんだかめんどくさそうですが……(笑)。 ■めんどくさそうに見えて、脳のなかの情報はもともと分散表現じゃないですか。各々のエリアは割と単独で動いていて、お互いの通信はけっこうプアなんですよ。脳の重さの65%は通信用の線維ですが、それでも、一個のニューロンは10の3乗くらいのニューロンにしか繋がってないですよね。ほんとうにごく一部同士でしか繋がってない。先ほどの男女差の話にもつながりますが、通信にはコストや時間がかかるから機能が分化したという説もあります。分かれてしまった情報に時間順序をつけるには、あとでまとめるしかありません。 ○ふむ。 ■動き投影仮説では、「動き」のエリアでは右手と左手の連続する信号が例えば右から左への「動き」として表現されると仮定します。しかし、この領域では「何が起きたか」あるいは「どこで起きたか」については殆ど情報を持っていません。「動き」を早く検出しようとすれば、太い線維を割り当てないといけないですから、情報の繊細さは失われてしまいます。「動き」のエリアでは「何が起きたか」っていうことは分かりにくいだろう。一方、別のエリアではごく繊細に「何が起きたか」という情報を表現できるけれども、細いファイバーの信号に頼っていて、時間の情報はほとんど消えてなくなっている。そこでは「右手と左手が刺激された」ということは表現されているけれど、順序はわからない。 ○ええ。
■そこで時間順序を判断しろと迫られたらですね、両方を使って、たぶん推測するしかない。その推測の過程で、エラーが紛れ込む。 ○ふむ。なるほど。
■動き投影仮説で説明すると、左手・右手と刺激したら左から右へのこういうベクトルが「動き」の領域にできると考えます。一方、「順手の左手と右手で刺激が起きた」という空間的な表現が別の場所にあって、両者がくっついて、正解が出ると。 ○うーん。
■仮説を提唱するからには、サポートするデータがないといけないわけです。 ○はい。 ○次号へ続く…。
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発行人:株式会社サイネックス ネットサイエンス事業部【科学技術ソフトウェアデータベース・ネットサイエンス】 編集人:森山和道【フリーライター】 |
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