NetScience Interview Mail 2004/04/15 Vol.273 |
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研究:運動の学習と制御の神経機構、脳内の時間順序表現メカニズム
著書:小脳における上肢随意運動の学習機構の解明.
『ブレインサイエンスレビュー2001』(伊藤正男,川合述史編/医学書院、2001:216-243.)
到達運動の制御と学習の神経機構.
『脳の高次機能』(丹治順,吉澤修治編/朝倉書店,2001:106-118.)
研究室ホームページ:http://www.med.juntendo.ac.jp/kenkyu/09index.html(建設予定)
研究内容の参考になるウェブサイト:
▼HFSP NewsLetter No.13 ―多才な運動を実現する脳の機構の解明へ―
http://jhfsp.jsf.or.jp/news/letter/no13/nl-05.html
▼HFSP NewsLetter No.17 ―ノイズが開く運動制御の可能性―
http://jhfsp.jsf.or.jp/news/letter/no17/nl-03.html
▼AIST Research Hot Line 手の交差で時間が逆転 ―脳の中の時間―
http://www.aist.go.jp/aist_j/aistinfo/aist_today/vol01_06/vol01_6_p12.pdf
○腕をコップに向けて伸ばす、このような運動を「到達運動」と言います。このとき、脳のなかでは腕を制御するためにある種の計算が行われていると考えられています。ではそれはどのような規範に基づいているのでしょうか。北澤先生はこのような運動制御における小脳の役割について研究しておられます。
また、北澤先生は実に不思議な現象を発見しました。右左の手をポンポンと叩く。どちらが先に叩かれたのかは、目をつぶっていても分かります。ところが、腕を交叉するとこの時間順序の判定が逆転するというのです。これはいったい何を意味するのでしょうか。
身近な身体に関する研究の話です。不思議なことは私たちのすぐそばにいくらでもあるということを感じて頂ければと思います。(編集部)
…前号から続く (第10回)
■仮説を提唱するからには、サポートするデータがないといけないわけです。 ○はい。 ■最近になってようやく、MRIがうまく行きだしました。さきほど、コントロール(対照)のタスクが難しいという話をしましたが、最近、非磁性の点字の刺激装置を作ったんですね。これを使うと、時間順序判断に対して、数の大小判断というタスクを対照として使うことができます。 ○どんなものですか。
■右手にポッチを4個出して、左手に5個ポッチを出すと。4個と5個を70ミリ秒の差でポンポンと出す。で、ある実験では時間順序判断をして、あとの側のボタンを押すように指示します。この場合は左側が正解ですね。もう一つの対照実験では、多いほうを押せと指示しておきます。この場合も左手を押すことになるわけですね。難しさをちょうどうまい具合に合わせておけば、刺激も反応も全く同じなんだけど、注目する性質だけが、こっちは時間でこっちは数ですね。それだけの違いにできる。そういうふうにしたんですね。 ○両者の実験で共に活動する部分は差し引いて、時間順序判断のときにだけ活動する脳の部位を見るということですね。
■そうです。すると、右利きの人だと、右半球と左半球ということで見ると、左半球のほうが強いわけですね。残ってくるのは、中側頭回と、いわゆるブローカ野周辺、44−47野なんですよね。不思議なことに。 ○ふむ。
■中側頭回に残った活動は、実は、ランダムドットを動かすという視覚刺激に応答するMT/V5と呼ばれる領域と重なりがあります。眼を閉じた状態で実験しているにもかかわらず、視覚的な動きの刺激で活動するエリアに少なくとも隣接した場所に活動が残った、というわけです。「動きのエリア」だと思っていいんじゃないかと思われる場所が活動しているわけですね。 ○ふーむ。 ■外からTMS(経頭蓋磁気刺激)でこういう場所に外乱を与えて、本当にこ判断ができなくなることを示さないといけないんですけが。これは今後の課題です。実際におさえていきたいなと思っているところです。
○話変わりますが、時間順序というと、下條先生のところにいらした神谷さんという方がやった、未来の色が見えるという実験がありますよね。TMSで第一次視覚野の働きを阻害すると、視野に「穴」が開くんだけど、その穴に客観的には未来にあたる色が知覚された、という話(例えば『心を生み出す脳のシステム』(茂木健一郎/NHK出版)P.238〜254を参照)。あれは神経活動による情報処理によって生まれる表象に時間順序があって、それがTMSによって混乱した結果なんだという話だったと思いますが、関係があるんでしょうかね。
■ありそうですよね。 ○え? すみません、もう一度。
■もともとは、緑の△と赤の□を見せているだけなんです。それを50msecくらいの時間差でパパッと見せると、途中を動いていくように見えると。十分に両者の距離が近ければ。 ○なるほど。そういうことになりますね。
■未来が過去を変える例として、「カラーファイ」という名前がついています。 ○アニメーションするんですか? 勝手に頭のなかで? ■ええ。色は補完しないんんですよ。色はパッと変わる。 ○でも形はモーフィング??
■そうそう。面白いですよね(笑)。 ○そんなふうにモデル化しろってことになってるんですかね。 ■形は徐々に変わるものもありますよね。でも、色はけっこう恒常性が強いですからね。だから色は突然変わったと思うんですかね。どういうことなんでしょうね(笑)。よく分からないですけどね。色の恒常性を超えた変化があるとパッと変わるようになってるんでしょうかね。 ○たとえば、「回転体だと思え」となっているとか? ■回転体で、違う色が出てきたとかね。
○面白いですね。 ■どうなってるんでしょうね。 ○そもそも人間が、頭のなかで3Dレンダリングしているかどうかも分からないですけど。 ■やってないでしょう。適当でしょう。手を抜いてるんですよ。 ○だから視覚のイリュージョン、錯覚があるわけですよね。 ■そうですよね。手抜きしているからイリュージョンがあるんでしょう。 ○しかし、手抜きしている割にはうまくいってますよね。
○それは、たぶん、先生がお書きになっているところの「空間座標にはすべての感覚情報を位置づけることができるから、異種感覚由来の情報に時間情報を付与するにはまさにうってつけの方法だと言える」といったところとも関わることだと思うんですけども、脳のなかで、空間とか情報とかがどういうふうに表現されているのかと。このへん、僕は読んだだけでは意味が分からなかったんで教えて頂ければ。
■視覚や聴覚や触覚の受容器はどれも違う場所にあってそれぞれの受容器の座標系で信号をコードしています。大脳皮質の一次感覚野の場所も各々違います。しかし、外界での1つのイベントから生じた異種の感覚情報は、もう一度1つのイベントにまとまらないと困りますね。さきほど、運動前野の「手中心座標系」を話題にしましたが、ここには視覚と触覚両方の受容器からの信号が収束します。このあたり、異種の感覚情報が脳でどのように統合されているのか、はまさに現在進行形のトピックスですが、おおまかには「空間」を軸にして異種感覚が統合されるというイメージを持っています。あるいは異種感覚由来の信号が収束するところにもう一度「空間」が再構成されるのかもしれませんね。 ○ふーん。 ■「動き」を表現する大脳皮質の領域も、視覚限定ではなくて、異種感覚由来の信号が「動き」として統合される領域になっているのかもしれません。相手の「動き」に対応しなくてはならない状況では、そもそもの感覚種にこだわっている場合ではありませんよね。動きには早く反応しないといけないですからね。
○最近ロボットやVRなんかでは、実空間を仮想化するという研究が流行ってるじゃないですか。その流れのなかで、人間のヴァーチャル化っていうのが最近いくつか見られるんです。 ■爆発しちゃうんじゃないですかね。新宿の雑踏を歩かせたりしたら、1m行かないうちにこけて壊れますよ(笑)。 ○そうですよね。だから多分、人間は世界のありようを一々全部モデルにして持ってるわけじゃないんだと思うんですよね。むしろ、3Dゲームみたいな感じなのかなあとは思うんですけども。最近の3Dゲームは群衆もリアルタイムで動いてますが、高解像度で生真面目に計算しているわけじゃない。あんな感じで端折った処理になってるのかなあ、とか。そのへんが、じゃあ研究のレベルでは具体的にどんなふうに脳の処理を見ているんだろう、というところが僕は面白いと思っているんですけども。 ■まだまだ入り口ですよね。なんか、すらすらと答えたいですけどね(笑)。 ○コップを見た瞬間に、確かに何か知覚されているような感じはありますよね。
■ありますよ。うまくできてますよね。すごくうまくできてます。 ○はい。 ■だから本当は世界はこんなふうに見えてるはずなんです、という絵が良く出てくるでしょ。 ○ええ。中心だけがクリアに見えていて、まわりはボケボケでゆがんでいる絵ですね。 ■あれはもう悲惨な世界ですよね。世界の大部分がボケていて。でも僕らは実際にそんなふうには感じてない。確かに周辺は文字が読めるわけじゃないけど、すごくクリアに、ボケのない世界が繋がっているように認識、あるいは確信していますよね。なんか上手にやってますよね。 ○ええ。
■それこそ3Dゲームみたいにね、なんか取りあえずそれらしく見せておく。そういう仕組みが脳のなかにあるんじゃないですか。
■時間については色んな面白い話があります。たとえば、ふと時計を見たときに、針が止まっているような感じがすることありませんか? ○ああ、あります。一瞬止まっていた針が、いま動き出したような感じがするときが。秒針が止まって見えることがあります。 ■ありますよね。そういうことが実際に脳のなかで起きている、というんです。 ○次号へ続く…。
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発行人:株式会社サイネックス ネットサイエンス事業部【科学技術ソフトウェアデータベース・ネットサイエンス】 編集人:森山和道【フリーライター】 |
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