NetScience Interview Mail 2005/03/17 Vol.313 |
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【深井朋樹(ふかい・ともき)@玉川大学 工学部 知能情報システム学科 教授】
著書:『脳を知る・創る・守る 4』(共著、クバプロ)
『ニューラルネットの統計力学とカオス』 ニューラルネットワークシステムとカオス, pp 189-244.(椎野正寿,深井朋樹. 合原 一幸編. 東京電機大学出版会, 1993)
『脳の情報表現』深井朋樹、加藤英之、北野勝則. Computer Today 2002年7月号、pp. 9-15(サイエンス社).
『脳内時計の神経機構』(岡本洋、深井朋樹. 別冊・数理科学2002年10月, pp. 51-59(サイエンス社).
ホームページ:http://brain.inf.eng.tamagawa.ac.jp/indexJ.html
○脳はどのように時間や記憶を情報表現しているのでしょうか。どんなものであるにせよ神経の発火パターンとして表現されているはずです。ではそれはどんなものなのでしょうか。どんな神経回路で実現されているのでしょうか。このような問題を「神経情報表現」と呼びます。この問題に対してモデルの立場から研究を行っている深井先生のお話をお届けします。(編集部)
…前号から続く (第10回)
■うん、正直に言って、僕の中でも、全部そういったものが整理できているわけじゃない。できていればこのインタビューも苦労しないですむけれども。 ○はい。
■で、僕らが1つ目を付けたのは、どこで処理されているのかという問題とは切り離して、神経回路のメカニズムとしてどんなものがそれらしいかを調べようと思った。 ○はい。
■そこで、ある仮説のもとに簡単なモデルを立てた。『脳を知る・創る・守る 4』の中でも書いているけれども、ニューロンが双安定な性質を持っていると考えて、アップ状態とダウン状態があった場合に、そんなニューロンがリカレントなシナプス結合でつながっているとする。しかも、そこにはノイズ的な入力があって、いつまでもアップ状態ではいられないような状況を考える。そうしたときに、t=0で全てのニューロンが一斉にアップ状態に持ち上げられたとする。 ○はい。
■この現象を使えば、神経回路のダイナミクスによって時間というものが表現できるだろう、それによって認知や記憶なりもできるだろうと。それが単純な発想だったんですね。 ○ほう。 ■前頭葉とか見ているとね、覚えている時間−−まだ論文にはしていなくて、学会発表程度なんだけど、サルに例えば1秒とか5秒とか、そういったいくつかの時間長を提示するわけです。音で聞かせるとか、あるいはライトをつけてやるとか。で、何秒か遅延期間というのを置くわけ。で、その遅延期間が終わったら、自分が記憶していた時間だけボタンを押させるわけですよ。そうすると、遅延期間中はどうしても時間を覚えていなきゃいけないから、時間の情報に関係する活動が録れるだろうと。 ○なるほど。 ■で、実際にそれらしものがいくつか録れていて、例えば5秒の長さを覚えなきゃいけないときに、刺激の標示や時間の再現のときに応じて発火するニューロンがある。1秒のときにはあるニューロンが発火し、5秒のときには別のニューロンが発火するとかね。あるいは、1秒というのを覚えていなきゃいけないときに、その遅延期間中に、それに応じたニューロンが活動をするとか、そういったいろいろな活動が見つかっている。確かにニューロンレベルの何か、時間の認知や記憶、想起に関係する仕組みが脳にはあるということなんですね。前頭葉がその中枢かということまでは分からないけれども。だから、我々のモデルもあながちウソではなさそうであると。 ○ええ。 ■ただ時間って、いろんなところで関係する活動が録れるんですね。例えば小脳や大脳基底核なんかでも。あの、アイ・ブリンクってあるでしょう。 ○アイ・ブリンク? ■あ、瞬きのこと、目を一瞬閉じたりすること。目の玉に空気か何かをぷっと吹き掛けると、嫌だから目を閉じるじゃないですか。で、吹きかける時間を決めておくわけですよ。適当な合図の1秒後にふっと吹き掛けるとか、あるいは5秒後にふっと吹き掛ける。そうすると、だんだんそれが嫌だからその時間を予想しながら待ち受けるようになって、その時間になったら目をぱっと閉じる。で、そのときに小脳の活動でね、その時間にフェーズ・ロックした活動とかが見られたりするわけなんです。 ○ふーん……。
■だから小脳が時間のコーディングのおおもとだといっている人もいるし、あるいは大脳基底核にむしろ中枢があるという人もいたりする。もしかしたら全部かもしれないね、大脳皮質も大脳基底核も小脳も全部かもしれないけど。 ○はい。
■応答するニューロンが、1秒と5秒で違っていたとしたって、それだって別にその活動が1秒と5秒という、時間情報だけを表しているとは断言できない。別のどこかで作られた時間の信号を受けて活動しているだけかもしれないしね。 ○だから結局、心理学のアンケート調査みたいな−−結構そういうので面白い実験はいっぱいありますよね、何か、時間の本とか読むと。出てくるけど、でも何か、どうもしっくりこないわけですよ。何か理屈で説明してもらいたいところがやっぱりあって。ばーっと全部でまとめて見るとどうなのというのが分からないし。 ■何しろ時間に関係する全ての心理現象を説明できるモデルがないからね。ちょっと雑誌の記事にも書いたけどね、時間のモデルで1つすぐに思い付くのは、周期的な活動、リズムを刻んでいるような活動を利用することですけれどね。 ○遺伝子とかの人がよく言っているようなやつですかね。 ■まあまあ、そうです、それのもっと時間が短いバージョンだと思えば。遺伝子だと、例えば日周時計なんかだと、1日サイクルになっちゃったりする。サイクルがもっと短い、例えば数十ミリ秒とかの範囲で起きれば、秒単位のクロックとして行動にも使える。で、例えばガンマ周期(〜40Hz)だとかシータ周期(〜5Hz)だとか、そのぐらいのリズム活動であれば、そのリズムを基にした時間だと見なせるでしょう。で、それ、そういうモデルを立ててる人もいるわけですね。でも時間に関係してそうなリズム活動はまだ見つかっていない。まあ、いろんな説はあるけれども、決定打はない。 ○ふむ。 ■ただ、時間って人間には正確に認知できないから、必ず誤差があるわけですよね。心理実験でよく知られているんだけれども、その誤差がね、例えば10秒とかそのぐらいの時間長の範囲だと、統計的には、認知したい時間の平均値に比例するゆらぎが誤差に出てくるんですよ。そういう統計的規則性をウェーバー則というんだけれどもね。 ○ええ。 ■ウェーバー則は、実はさっき言っていたようなリズム活動では、単純に考えると、うまく説明できなくて、というのは各周期の間に、ある誤差がNサイクル繰り返すとたまるとすると、統計理論が教えてくれるところによれば、√Nに比例して誤差はたまっていかないはずなので、それを時間の長さで割っちゃうと、それは周期Nの個数に比例するから、Nで√Nを割るとルートN分の1になっちゃうわけ。この割り算の結果がNによらず一定になるというのがウェーバー法則なんだけど、そうなっていない。だからリズム活動では説明がうまくできないんですね。 ○はい。
■ところが、僕らがニューロンの持続発火を基にして作ったモデルというのはね、ウェーバー則は一応出てくるんですよ。だから、何かしらかそういうメカニズムが働いているのかなという気はするんだけれどもね。
○時間……。うん、でも時間の何か一番こう素朴に不思議なところは、「何で時間を感じることができるのかな」ということもあると思うんですけど。 ■うん。 ○やっぱり時間というのが−−まあ、そういう意味で、先ほど先生がおっしゃった「認知の一番の基本だ」というのは、まったくその通りと思うんですけど。
■いや、本当にその問題って結構難しいよね。
○ええ、そうかもしれませんが。意識の問題とも関係があるのは間違いないと思います。
■うーん、そうですね。以前、ある対談にひっぱり出されて、神経の計算理論で「こころ」がわかるか、意見を言わないといけなかった。気の利いた話が全然出来なくて、それ以来、その問題が頭の隅に何となく引っかかっている。そもそも何を問えば、その問題の答えに近づくのか、も、よく分からないままです。 ○ええ。そんな感じですよね。 ■で、さっきも言ったけど日常的な経験で、こうぼうっとしているときには、時間がゆっくりしか経たないような気がするし、まあ集中しているときにはすぐ経つと。それはやっぱりその覚醒のね−−まあ、ぼうっとしていることと、単純に覚醒のレベルと結び付けていいかどうか分からないけど、何ていうかな、脳のステータスの違いによって実際に認知される時間と、物理的な時間の関係ってやっぱり変わってくるわけですよね。
○ええ。
■うーん、どうでしょうね。普段から時間の認知のために、あるいは時間と意識が関係あるとして、自分の意識の動きをモニターするために、そんなに脳がリソースを使っているとは思えないから、僕はその議論はあまり好きではないねえ。ただ、脳の物理的状態の違いと時間経過の感じ方の違いの間に関係があるという話には、まったく根拠がないわけじゃないと思う。 ○ああ、そうか、統合失調症の人とかは何か、ゆっくり時間が進むとかいう話がありましたっけ。どっちだったかな、何かどっちがどっちだったか、僕も正確に覚えていない。
■うん、統合失調症というと、大脳基底核が関係するですよね。大脳基底核は重要なドーパミンのソースなので、そこで病気と時間の認知が結び付いていますからね。それはあり得ると思うんですよね。 ○ふーん。
■一方でね、ドーパミンって、細胞の興奮性などをやっぱりコントロールするんですよ、いろいろと。それは電気生理実験によって、もうよく分かってきている。 ○でもまあ、脳全体に回せるATPの量も限界値がありますからね。当然、何かこう、例えばその先生方のモデルのような、砂時計みたいなやつとか、持続的な神経発火を維持するのも、エネルギーが掛かるわけですよね、やっぱり。
■まあ、そうですね。例えばアップダウン状態を維持するのにも、何かしらかのエネルギーはいるだろうし、常にそういう区別された状態があるというわけじゃないかもしれないから。
○うん、たとえば濃度勾配とかで、よく細胞の走性とかって話がありますよね。物質の濃度勾配を検出して、濃い方向へバーッと動いていくと。あれも当然、変化ですよね。変化検出ができないと分からないわけだから、たぶん根本的な、たぶん本当にかなり原始的なレベルから、きっと何か時間軸上の変化を検出する仕組みがあるんだろうと思うんですけど。そういう、一時的にちょっと前の状態をレジストしておいて、次に生かすというか、履歴で変えていくというか、そういう仕組みがあるんだろうと思うんですけど、具体的に何がどうなっているのか分からない。でも、単細胞生物でさえそういう仕組みを持ってるわけでしょ。最近、そこが気になっているんです。 ■そうか。 ○ええ、計算論的な立場だったら、こういうふうに考えるとうまく説明できるとかというのがあるのかなと思って。 ■ああ、なるほどね。だとすると、ほとんど助けにはなってないかな。 ○次号へ続く…。
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発行人:株式会社サイネックス ネットサイエンス事業部【科学技術ソフトウェアデータベース・ネットサイエンス】 編集人:森山和道【フリーライター】 |
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