NetScience Interview Mail 2005/03/10 Vol.312 |
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【深井朋樹(ふかい・ともき)@玉川大学 工学部 知能情報システム学科 教授】
著書:『脳を知る・創る・守る 4』(共著、クバプロ)
『ニューラルネットの統計力学とカオス』 ニューラルネットワークシステムとカオス, pp 189-244.(椎野正寿,深井朋樹. 合原 一幸編. 東京電機大学出版会, 1993)
『脳の情報表現』深井朋樹、加藤英之、北野勝則. Computer Today 2002年7月号、pp. 9-15(サイエンス社).
『脳内時計の神経機構』(岡本洋、深井朋樹. 別冊・数理科学2002年10月, pp. 51-59(サイエンス社).
ホームページ:http://brain.inf.eng.tamagawa.ac.jp/indexJ.html
○脳はどのように時間や記憶を情報表現しているのでしょうか。どんなものであるにせよ神経の発火パターンとして表現されているはずです。ではそれはどんなものなのでしょうか。どんな神経回路で実現されているのでしょうか。このような問題を「神経情報表現」と呼びます。この問題に対してモデルの立場から研究を行っている深井先生のお話をお届けします。(編集部)
…前号から続く (第9回)
■あ、そうか、これを言ったら一番分かりやすいかな。 ○はい。 ■で、そうなると、ミリ秒レンジで働いている神経細胞が、どうやって秒とか、それより長い時間スケールで起こっている時系列の記憶を作るかというのは、トリビアルな問題じゃないわけですね。 ○ええ。 ■そうすると、何か、そこにはノン・トリビアルな、非自明なメカニズムがあるはずだと考えられるわけで、そこを何とか明らかにできないかと。 ○ええ。 ■例えばさっき話していたワーキングメモリのようなアクティビティーというのも、接着剤みたいなものになっているのかもしれない。秒単位の時間で隔てられた、2つのイベントの情報を、ある意味で接着しているわけですね。そういったプロセスをどうやって説明するかということでしょうね、結局はね。 ○はい。 ■やっぱり物理をやってくるとそういう「スケールの問題」って気にはなるんですよね。現象の背景、現象をつかさどっているダイナミクスと、それが生んでいる機能、行動のタイムスケールというのが全然違うと、そこには何かしらか、非自明なメカニズムがあるはずだと。 ○はい。
■例えば時系列といったときにね、ある神経が発火して、次に別の神経が発火してという場合に、その発火の順番がミリ秒のオーダーで、精緻な時系列になっているという状況を作るのは、そんなのはわけもないことです。あの、何ていうのかな、今知られている学習ルールとかそういうのを使えば、いくらでもモデルはできるし、僕たちも理論的解析を手がけたことがあるんです。
○どういう仕組みだと先生はお考えですか。
■一つには、リカレントネット内部の自発発火が怪しいと思ってる。普通は行動に無関係な、単なるノイズと思われているけど、大脳皮質にはどこにでも存在しているから、あらかじめ特定の目的のために用意しておく必要がないところが、接着剤としての役割に向いてるような気がする。 ○時間の整合性とは?
■タイムスケールが変わっても、入力が起こった順番を、ちゃんとコードしているとか。 ○ニューロンの発火は同期しているんですよね。同期している……
■ニューロン全部の、膜電位の信号だけがシータ波で同期している。で、1つ目のニューロン群はね、例えばガンマのこのサイクルで発火したとしましょう。その後、2つ目のニューロン群が入力によって発火させられたとします。そうすると、シータ波の何サイクルか経つと、2番目のニューロン群は、ガンマの1サイクルだけ1番目のグループに遅れて、同期発火するようになるんです。 ○ふむ。 ■何ていうのかな。このモデルへの入力は、保持されるべき記憶のコンテキストか何か知らないけど、そんな情報かもしれませんね。それ自体は秒という行動のタイムスケールで、入ってくるんだけれども、それをニューロンのダイナミクス−−ミリ秒のオーダーで入れ子になったシータ波とガンマ波ですが、それらを使って順序という時間情報を圧縮したわけですね。 ○ふんふん。
■だけどさ、これだけじゃ「エピソード」にならないわけね。「エピソード」といったときには海馬のニューロン活動で表現された順序情報を大脳皮質に固定化しないといけないし、その情報は海馬の助けがなくても読み出されるものでなければいけない。
○(笑)。
■他にもいろいろ面白い話しがあるんですが、ともかく、ミリ秒レベルのニューロンのダイナミクスが、秒スケールで起こる行動レベルの情報を保持したり記憶したりする仕組みを知りたいと。
○先生は、あの、記憶とかでも−−まあ、何でしょうね。こう、あるタイムスタンプみたいなものが付いていて、ハードディスク・ドライブのFAT(File Allocation Tables)みたいな、何かアドレスのインデックスが振られていて、それがこうガシャッとまとまることで、1つの物事が何か表現されているという、そんなイメージですか。
■あの、そのイメージを語るほど、海馬についてはまだモデルは作っていないんだけど。 ○うん。 ■うん、それを付けるのが海馬なんじゃないかなという気はしているんだけれどもね。
○でも、そもそも「タイムスタンプ」ってどうやって記憶にくっついているのか……。
■あの、タイムスタンプをどういうふうな意味でとらえるかだけれども。 ○ああ、はい。モリスの迷路の話ですね。 ■で、その人はね、「シナプティック・タギング(Synaptic tagging)」という話をしていたんです。タイムスタンプの一番プリミティブな形って、シナプスに、海馬なら海馬のニューロンのシナプスに、何かしらか重要な入力が入ってきたということを覚えておくことでしょう。例えば強い入力が入ってきたシナプスには、何かしらかの分子レベルの機構が働いてね、マークが付いているんだと、タグされているのではないかと。 ○ええ。
■例えば彼が好んで例に出した話は、ケネディが撃たれたときのこと。 ○ええ。 ■だからケネディが撃たれたということが1つの要因となって、記憶にその前後に行われていた自分の行動が固定化される、ケネディの暗殺とアソシエートされて覚えられると。 ○ふむ。
■で、そのときにさ、そのタグされている情報というのは、そのときに自分が何をしていたという、その情報ですよね。それは、もしも後で「ケネディが撃たれた」という刺激が入ってこなければ、そのまま失われてしまうものなのかもしれない。そのニュースの刺激がその細胞なり回路なりに入ってきたことで、シナプスに保持されていたタッグが実際に働いて、特定の神経の配線パターンの固定化を通じて、記憶として、その情報が固定化されていくと。
○まあ、たぶんそれは何かこう、それは確かにそういう機構はあるだろうなというのは、まあ、そういうケネディの記憶とかいう、まあ日常的なスケールの話でもそうだと思うし、一方で、僕が、このインタビュー・メールのやつで前の前の回の柏野先生とかの話がそうだったんですけど、こう聴覚系の処理と視覚系の処理は、脳の中でも最初からずれているし、そもそも音速と光速は時間が違うからずれているんだと。だからどこかで必ずタイミングを脳は取っているはずだというような、まあミクロなレベルでもそうだと思うんですよね。
■ああ、それは確かに私にもはっきりとは言えないけども。 ○ええ。たぶん人間が普通に「タイムスタンプ」と言っている意味だと、何かこう時間軸のスケールがあって、で、それぞれ何かを印としてぺたぺた張っておいて、で、時間軸をスケールと比較参照してやればいいじゃんという話になると思うんですけど、そもそも時間軸というのが、脳のなかにはないわけですよね……。 ■時間軸というと、それは海馬とはちょっとまた違う話になるかもしれませんけど、内的な時間の認知の問題ということですか。 ○そうですね、それもありますよね。いや、だからたぶん時間の話ってややこしくて、いろんなスケールでいろんな問題があるとは思うんですけど。 ■うん。 ○それこそ先ほどのスケールの話でいえば、しかもそれがミリ秒タームで動くニューロンの回路がやっているわけですよね。こういうことが全体像としてはどういう感じになるのかなというのが。何か、それこそ一番最初に話に出した、先生が本の中で書かれていた話で、3次元の認知のあれとかの話はよく調べられているけど、時間認知についてはあんまり調べられていないという……。 ■そう、まあそうですね。その話からすべきだったのかな(笑)。 ○あまりに何か、いや、何かこう、レベルに確かにすごい差があって。 ○次号へ続く…。
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発行人:株式会社サイネックス ネットサイエンス事業部【科学技術ソフトウェアデータベース・ネットサイエンス】 編集人:森山和道【フリーライター】 |
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