NetScience Interview Mail
2000/04/13 Vol.095
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◆Person of This Week:

【山口真美(やまぐち・まさみ)@中央大学 文学部 心理学研究室 助教授】

 研究:認知心理学、発達心理学
 著書:単著・共著の著書はあまり書かないのですが,書店で手に入る本として,
    現代のエスプリ1996年350号(目撃者証言特集号)とか,
    言語1998年11月号(顔特集号),
    大顔展の図録(書店販売予定)などになります.

○認知心理学、発達心理学の研究者、山口真美さんにお話を伺います。
 山口さんは特に顔認知の研究を行っておられます。
 平均顔を作ったり、赤ん坊の認知発達の研究など、面白さが分かりやすい研究です。
 (編集部)



前号から続く (第7回/全8回)

[27: 最近の学生へ]

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○ついでに、というとなんですけど<インタビュー・メール>は研究者のタマゴみたいな人も読んでいるんです。また、先生が初めて女性でご登場頂いた方なんです。そういうところでのご苦労とかありましたら、教えて頂けますか。文学部だとまた事情は違うでしょうけども。

■ああ、残念ながら、私はそういうのは幸いにしてなかったんです。むしろ私は、タイミングがよくて。まだ今ごろもそんな感じが続いていると思うんですが、女性の研究者や教官を取らなくちゃいけない、というタイミングにあたって、異動していったような気もするんです。

○大学でもやっぱりそういうのがあるんですか。女性教官を増やしておこうか、といったような?

■あると思いますね。数的に増やさなくちゃいけない、と。
 これは別の大学の話ですけれど、人事の話とか聞いていると「できれば女性が」といったことを聞いたことがありますよ。発達とか教育心理とかは、女性教官の数は多いんですよ、研究者の母集団自体も女性の数多いし。でも視覚心理や認知心理とかは、女性教官はものすごく少ないですよね。まあ、今でも心理学全体として、それほど女性の教官数は多くないと思うんですけども。
 ああ、でもそういっても、他の学科と比べると、発達や教育心理を入れれば、心理学は女性教官が多い方に入りますね。で、「どう?」っていうときに私はいいところにいたような感じかもしれません。
 うーん、しかし正確なところを言うと、性差別がなくなったところで入れた・・という感じかもしれないですね。そう言わないと怒られるような気がしてきた。教育学部にいたときは女性教官多かったけど、文学部は少ないですよ。今の大学の女性教官は、教授会全体の10人以下です。

○なるほど。

■ATRに行ったときも、私の前には日本人の滞在型女性研究者は2人くらいしかいなかったような。あそこは研究者の絶対数が少ないんで、大学ほどの性比率ではありませんが。でも私が行った後は女性研究者がかなり増えましたね。私が入った後に女性がわーっと入ったという感じだったかも。でも女性だからどうこう、というのは私はありませんでした。

○分かりました。では質問を変えて。最近の学生一般に何か言いたいことはありますか。

■うーんなんだろなあ。難しいですねえ。

○先生のところを希望する人多いでしょ。顔の研究なんていうと。

■いや、ゼミは私のところは少ないんですよ(笑)。

○え、なんで?

■必修の授業でも、成績が水準に達しないと平気で落としますし、口も悪いから。自分に自信をもって、自分でしっかりやっていけるから大丈夫だって思うような学生しか来ないんじゃないかな。
 最近の学生っていっても、一言では言えないし、卒論提出であたふたさせられた後だからイメージ悪い時期だし、難しいなあ。
 うちのゼミは規準を高く設けているんですよ、新しいオリジナルな論文を心理学的手法にキッチリのっけて書ける、のが目標なんで。人まねの発想だったり、自分の発想をキチンとした手法で科学的に展開できないような学生は、滅茶苦茶しごきますから。

○うん、だから一般論っていうことよりも、こういう学生に研究者になってもらいたいな、っていう前向きかつ具体的な話で結構です。

■あ、でも「なってもらいたいな」っていう人はしっかりしているから、自分で就職先見つけて、就職しちゃいますよね(笑)。「この子あたまいいな」と思った子とかは特に。今年はけっこうしっかりした子が残ってくれたから良かったけど。

○ふむ(苦笑)。

■逆に残って欲しくないのは、間違った自己探しじゃないですけど、なんか知らないけど研究者になりたくて、何か知らないけどいるんだな、っていう人かなあ。

○ああ、先送りにしていく人たちですか。

■うん、でも昔の時代のような、明確な先送りじゃないみたいで。

○と、仰いますと?

■昔は自分で「先送りにするんだ」ってしっかり自覚して先送りにしていたと思うんですが、最近はそうじゃなくてね…、もっとすごい先送り。なんか、やる気はあるけど、中身がぜんぜん付いてきていないような、自分の事を客観的に見れていない、自覚できるレベルの前にいるようなタイプ。本人は真剣で「やりたいんです」って言ってて、本人はやれると思い込んでいるんだけど、見込みがずれているというか、自分を客観的に見れていないというか。そもそも、どう努力したらいいだろうか、の道筋を見れないような人。
 論文でも、“前置き”あたりを見れば、その学生の本質が一目瞭然わかりますよね。自分の考えを客観的な土台に置いて料理できているかどうか、が。独善で、自分の思い込みだけ押しつけてつっ走っちゃってるのとか、ちょっとまずいですよ。今までの研究や思想の流れの中で、自分がどういう位置にあるかを示そうとしなくて。
 そこら辺の意識が、もう崩壊しているとしか思えない人は、研究者にならないほうがいいと思う。実験のやり方なんかはトレーニングでどんどん洗練されるけど、着想を料理するあたりの能力は、あらかじめもっていないと、苦しいだろうな、と思うんですが。
 こういうタイプの人にこそ、人の話を聞いて欲しいんだけど、こういう人達の中には、話自体が通じないというところもあって。

○え?

■あ、話が通じないというのは、 学生の頭の中で「話の枠組み」というものが理解出来ていないという感じなんですよ。 対等に話をして、Aということを言えばBという言葉が返ってきて「やりとり」というのが普通成立するとしますよね、ところがこの枠組みで返事が返ってこないんですよ。 話の枠組みじゃなくて、単語レベルで反応して返答してきちゃって、話がどんどん本筋からそれちゃって、ちょっとこっちの方がついていけなくなっちゃっうような。そんな感じで話がどんどんずれていく学生とか。
 これでも本人は筋通っていると思っているのがすごいんですよ。最近よく放映されている、人の揚げ足取るような「討論もどき」テレビ番組の影響じゃないかな、とも思うんですけれど。人の揚げ足取るような、単語で反応することを討論と思っているような気がします。
 それとか、こういう学生は院までいかないけど、自分に自信がなくってガードしすぎちゃって、人の意見が全く聞けないというような人もいます。自信がないと自分の意見って変えられないでしょう。

○そういうもんですかね。

■うん、そういう気がしますね、最近。人の意見を聞くということは、自分をしっかり持っているという自信がなければ聞けないでしょう。
 あと、基礎学力がないんでしょうか、最近は。「最初の頃は言われたことが全然分からなかった。でもだんだん分かるようになりました」って、4年生についこの間言われましてね。どういうことなんだろうなあと(笑)。

○(笑)。でもそれは最近の話じゃないんじゃないですか。学生ってみんなそういうもんなんじゃないですか。僕が学生の時には「学生の頃には何がつまらんとか面白いとかは分からん。だから黙っていうことを聞け」と言う教授がいたんですが、そのときは何言ってるんだと思っていたんです。けれども今になってみれば、確かにそうかなあと思いますし(笑)。

■うん。でもそういう大きな話じゃないんです。「この論文のここを直しなさい」とか「この実験計画のここをもっとはっきりさせなさい」とか、そういうレベルの話が通じないんですよ。なんなんだろうと思いますよ。
 そもそも、どうやったら相手に自分の論文の内容やら考えが伝わるか、そのためにはどういう手段を用いたらいいのか、という、“科学的な態度というか前提”自体、理解できていないように見える学生もいるのは事実ですね。自分側のOSの準備もせずに、なんとなく聞いて教えてもらおうというような態度で来られると、ちょっとむかつきますね。自分と、自分と相手との関係を客観的に見れない学生って、いますよね。
 先行研究の内容をきちんと理解しようとせずにちょっと利用してヒトマネした実験計画をたててくるのがうまいの学生もいますが、多分まあ優秀なのかもしれないけど、こういう学生も、徹底的にたたきます。ただ、こういう学生さんは、しごけば理解してくれるし話しもちゃんと聞いてくれるんで、伸びるんですけど。なんだかんだ言い訳のように言っていますが、基礎学力のない学生に来られると困る、の一言に尽きるという感じですが。

○ふーん。

[28: 女性教官]

■女性のほうに話を戻すと、女性は最近、大学あたりではもっと取ろうという流れがあるんで、割といいと思いますよ。私は別に嫌なことはなかったし。研究者社会では女性はやりやすくなっていると思うんです。特にね、私は学生をよく泣かせちゃう、っていうか学生が勝手に泣いちゃうんですが、私だったらセクハラにならないんで(笑)。

○ハハハ。なるほど、女性教官は女性を泣かせてもセクハラにならない?

■気楽ですよ、女性教官は(笑)。
 でも真面目な話、最近の学生に対しては、男性教官はひやひやですね。最近の子って、ちょっと注意しただけで泣くんですよ。「あれ、この表どうしてこうなの?」って言っただけでポローッて泣く子がいる。そんなことされたら指導できないじゃないですか、ドアを開けておいても。あ、男性教官は、研究室のドア開けておくことが多いですね。セクハラと訴えられるのを防止するため。
 そういう中では、女性教官は恵まれているかもと思いますねえ(笑)。思い切り言えるんで。

○(笑)。

■いわゆる「アカハラ」、アカデミックなセクハラはぜんぜんなかったですね。権威のある先生のそばにいなかったせいもありますが。

○(笑)。

■大学時代、院時代の指導教官が、それほど「権威」っていう感じじゃなかったから、ラッキーだったのかな、とも思いますけども。それにだいたい、風貌っていうか私みたいに変な格好していると「あれは要注意だから」って感じになるんじゃないかな、という気もします(笑)。

○「要注意」? なんですかそれ?

■いつも自由な格好してたから。どうもね、オーソドックスでコンサバな格好している人は狙われやすいみたいな気がします。言うこと聞く感じじゃないですか、見た目が。なんかこう、ちょっとクセのある格好している人は狙われにくいと思いますけど。狙われないというよりは、避けられているのかもしれないですね。
 でも、一度だけ嫌なことはありました。福島大にいた時には自治体の人といろいろ仕事をやらなくちゃいけなかったんですけども、そのときに、携帯に長電話してくる自治体関係のオジサンはいましたね。つまんない自分の自慢話を延々1時間も2時間も。その時、面識ないからこういうことするんだな、一度会ったら絶対かけてこないだろう、と確信したんです。
 それでまあ、私は風貌で得しているんだなあと思いましたね。

○なるほどね、雰囲気ということですか。

[29: 色気ってなに?]

○雰囲気って言葉が出たところでついでですが。
 よく男同士の雑談で、「色気」のあるなしっていう話をしますよね、っていうか、僕はするんですが(笑)、あの「色気」ってなんなんでしょうか。先生がやろうとしていらしたという、男らしさ・女らしさにも関わってくるところだと思いますが。

■うん、なんなんでしょうね。しぐさとか風貌ですよね、それこそ、顔の特定特徴部分だけじゃなくて、何かあるんだと思いますけど。
 最近の学生でも一年生あたりだとギャル系の子が入ってきますが、それもまたまたぜんぜん表出が違いますね。私は女性教官だから、媚びうっているわけじゃないんでしょうけど、「分からないんですけぉ」ってクネクネしている子いますね。

○くねくね(笑)。
 そこまで露骨じゃなくても、何か違う感じの人いますよね。それがいわゆる「女性らしい」しぐさだとか雰囲気の表出ってことなんでしょうけど。定量的に測れるんでしょうか。

■ええ、測れそうですけどね。本人たちはぜんぜんそのつもりがないことも多いっていうのも不思議ですね。

○座っているだけで色っぽい子とかもいますからね。意外と役者さんとか、女性らしさをはっきりと描かなくちゃいけないイラストレーターとかは、そういうの知っているかもしれませんが。

■そうですね。

[30: トラブルは、うまく自分を表現していけば回避できる]

■私は子どもの頃、自分が自分らしく見られないのが嫌で、そのせいで、しぐさとか服装とかを変えていったところがあります。中学生とか高校の頃の自分の見られ方がすごく不本意で。なんなんだと思うことが多かったんで。

○どんなふうに思われることが多かったんですか。

■自分はただぼんやりしていて、 人と話しをするのに力を使うのがすごく嫌なだけだったんですが、 おとなしい子と勝手に思われていたんですね。制服着ていたせいもあるんですが、とにかく勝手なイメージをあてられているのが凄く嫌だった。だから大学生時代とか大学院時代は、逆に反発したような態度や格好を前面に出すように心がけていたかもしれません。
 スーツとか、人に見られることを意識した、個性を無くすような方向にある服は大嫌いなんで、スーツを求められるような席でも、スーツを着ないで、個性的な格好をするように心がけたりとか。 「そういうやり方で人と接すると損するよ」と、ありがたいありがちなアドバイスを言われたこともありますけれど。今は、正直に来たのが、よかったと思います。
 たしかに誰からも好かれるような態度を取る人もいますけどね、アドバイスされたような接し方で生きてたら、セクハラにあいやすかったでしょうね。主張のある格好をしていれば、セクハラに会うことも少ないですし(笑)。いいように使われることもないし。
 相手を女性として見るんじゃなくて人として見てくれる人とか、公正に研究で人を評価するような人としか、接してこなくてよかったんで、ラッキーでした。

○なるほど。

■アカハラとかそういう問題は、うまく自分を表現していけば回避できる…という暗黙のテクニックが自分にはあったから、私にはぜんぜんなかったです。
 でも、現実にそういう状況にある人にとっては、単純な対人関係レベルじゃなくて、もっと複雑な問題を抱えている場合もあるかもしれないですけれど。

○先ほど教育心理は嫌いだと仰いましたが、今みたいな話は教育心理にも応用できそうな気がしますが。応用は別の人がやるにしても、理論面でとか。

■そうですね。でも私は教育心理学会とかも入ってないし、嫌いなんで(笑)。

○(笑)。まあぜんぜん内容が違いますからね。
 でも教官とのつき合い方とか。

■ありますね。私は指導教官のいうこともあんまり聞かなかったんで(笑)。 さっき話した、人の言うこと聞かない困った学生とは、昔の自分のことではないだろうか、と思って恐くなることもあります。 いや、本当に尊敬した人の、納得のいくことは、ちゃんということ聞くんですけど。納得行かないことは、やっぱりきかなかったかもしれない。

○結論としては、納得できないことはしなくてもいいんだと。

■そうですね。

[31: 身体性]

○しかし、やっぱり不思議ですね。なぜ顔研究を?

■顔っていうか、もともとは、進化にも興味があったんですね。

次号へ続く…。

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http://www.iwanami.co.jp/kagaku/  岩波書店

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 6月1日(木) 午後 東京有楽町朝日ホール 入場無料 要・申込み
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■ U R L :
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 IT革命・消費主導にいかに対応するか/21世紀の繊維ファッションビジネス
http://www.sen-i-news.co.jp/1.0/page.asp?id=4602

◇環境庁選定 名水百選  環境庁水質保全局水質規制課
http://www.eic.or.jp/eanet/meisui/index.html

◇環境マネジメント入門 東洋経済
http://www.toyokeizai.co.jp/shushoku/eco/02.html

◇「環境会計」をめぐって あさひ銀行
http://www.asahibank.co.jp/corporation/businessplaza/200003/plaza000301.html

◇NECコンセンサス サイエンス・フロンティア
 永続的なサケマス漁業のために、海洋での生態にせまる
 水産庁北海道区水産研究所
http://www.sw.nec.co.jp/con/sci/1/index.html

◇日経BPエキスパート・ドット・コム エンジニアとスペシャリスト向け転職情報サイト
http://www.nikkeibp-expert.com/

◇宇宙開発事業団の財務調査結果の概要 総務庁
http://www.somucho.go.jp/soumu/new_f.htm

◇インターネットに接続されたサーバの不正利用について 宇宙開発事業団
http://yyy.tksc.nasda.go.jp/Home/Press/Press-j/200004/spa01_000407_j.html

◇人間協調・共存型ロボットシステム(HRP)記者会見フォトレポート
http://www.moriyama.com/diary/2000/HRP/HRP.html

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  皆様からお寄せいただいた情報を掲示する欄です。情報をお待ちしております。
  基本的には一行告知ですが、情報が少ないときにはこういう形で掲示していきます。
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NetScience Interview Mail Vol.095 2000/04/13発行 (配信数:21,752部)
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編集人:森山和道【フリーライター】
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