NetScience Interview Mail 2000/04/20 Vol.096 |
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【山口真美(やまぐち・まさみ)@中央大学 文学部 心理学研究室 助教授】
研究:認知心理学、発達心理学
著書:単著・共著の著書はあまり書かないのですが,書店で手に入る本として,
現代のエスプリ1996年350号(目撃者証言特集号)とか,
言語1998年11月号(顔特集号),
大顔展の図録(書店販売予定)などになります.
○認知心理学、発達心理学の研究者、山口真美さんにお話を伺います。
山口さんは特に顔認知の研究を行っておられます。
平均顔を作ったり、赤ん坊の認知発達の研究など、面白さが分かりやすい研究です。
(編集部)
[31: 身体性] |
データベース |
■顔っていうか、もともとは、進化にも興味があったんですね。なんでこういう「身体」っていうものがあるのかな、とか。なんでそれぞれの生物に身体っていうものがあてがわれているんだろうか、とか。なんで地球上では、進化っていうシステムにのって進んでいくのたろう、どうして生と死があるんだろ、って考えていたんです。
○また、えらく普遍的な疑問ですね。
■ええ。でも、やっぱり少しでもそういうことを知りたいなと思うんです。
ATRに行く以前には、実験やる時間と、そういうことを考える時間をきちんと確保していたんですけど。ATRや前の大学に移ってからは、契約のこともあるんで、研究研究で業績かせいでいて、そういう「暇なこと」をゆっくり考える時間がなかったんです。
で、いまは私立大学に移ったんだし、なんか、私立大学の教官だとキャラが立ってないとダメだし(笑)、ちゃんと考えたいなと思ってます。今は文学部だから、そういう問題を考えやすいですしね。
○でもそれと「表情」とはあまり結びつきませんが?
■表情はそうですね。でももともと興味あったテーマである「身体性」、 具体的に言うと“我々は身体をどうコントロールしているか”という問題とは、つながっていると思います。
特に最初の頃の、ごまかしがどう漏洩するかとか、表情っていうのはどこまでコントロールできるのか、とかは、そういうことを扱った問題ですし。
○ふむ、なるほど。
それは、別に先生の精神分析をするわけじゃないですが(笑)、中学・高校生の頃に張られたレッテルに対する反発から来ているんじゃないんですか。「人をステロタイプにはめるな」って怒られるかもしれませんが。
■うーんそうですね。自分ではあんまりそういうのはないつもりなんですけども。
だけどもしかすると、表出をコントロールする、身体をコントロールするというのは、研究世界・現実世界ともに共通するテーマなのかもしれないですね、自分にとって。今、現実世界で一番力をいれていることとして、ヨガをやっていますし。ヨガというのは、身体と心の経路を認識し直す・つながりを取り戻す、という現実的なトレーニングだと思っています。
○ふーん。僕はヨガはよく分からないんですよね。怠け者だからかも(笑)。
でも身体に興味を持つっていうのは結構普遍的な感覚ですよね。手はどうして動くのかといったことから始まって。そういう疑問を持ったことは、誰でも一度はあると思います。
■うん。手をじっと見ていると自分の手に見えなくなってくるとか。そもそもなんでこの、身体っていうめんどくさいものがあるんだろうかとか。
○めんどくさいですか?
■うーん、私はどちらかというと、わりと、社会とか他人とか無視しちゃうタイプなんで(笑)。だけど、人前に出るには取りあえず、着替えたり髪の毛とかしたりして、普通にして出ていかいなくちゃいけない、また家帰ったら着替えるのに。そういうことがめんどくさいなあと思ったりするわけです。
それとか、毎日毎日作り上げては崩すの繰り返しが見えてきて、面倒だなあと。
○…?
■たとえば、ご飯食べて排泄するの繰り返しとか、論文や仕事であっても仕上がったら次のがやってくる・・という同じことの繰り返しだし、そういうことがすごくバカバカしく見える瞬間があるんです。でもそういうときにまた思うんですよね。
多分、こういうくだらない繰り返しとか、自分の予想に反して現実世界と衝突したりするようなことこそが、生きているということなんだろうな、と。
夢の中だったら、自分の予想どおり事が進んでいって何にもぶつからないし、面倒くさいシーンはパスするわけで。それはまたつまんないでしょうね。
予測できないことにぶつかって世間と折衝するのはすごくめんどうくさい、身体というのもめんどうくさい、だけどその面倒なところが生きている証拠なんだろうな、と思うわけです。
いつかは、こういうことについてゆっくり考えたいなあと思っています。
○分かるような気もしますが、たぶん僕が抱いている不思議な感覚と、山口先生が持っている不思議感はきっと違うんだろうな、という気がします。すごく個別なものだろうなと。
■そうでしょうね。人として生まれてきたからには、なんでこんなふうに生まれてきたんだろうとか、基本的な問題は、抱かなきればいけない疑問なのかなと思っています。少なくとも心理学をやっている研究者は、抱かなきゃいけない疑問なんだろうな、と昔から思っていたんですけど…、
○うんうん。
■でも学会とか、行くたびに失望していましたね。そういうこと考えている人はあんまりいないから。本当に面白い人もいますけど、ほとんどの人達は素朴な人が多いんですよ。研究者として本当に考えなくちゃいけないことじゃなくって、取りあえず現状の研究者的な学習能力だけ積んじゃってる人が。
一昨年くらいまでは、学会に出るのが嫌でしたね。期待するほうが悪いとも言われるんだけど、もうちょっと考えて欲しいのに考えてくれない人っていうのは、自分よりだいたい年齢の上の人に多くいるようにみえたし。 年齢上なんだから、ちゃんとしてくれよ、と思ってしまいましたから、評価が辛くなっているのかもしれませんが。 で、自分が年をとってきてだんだん下の人が増えてきたんで、上の人が見えなくなってきた。 それで最近は、ハッピーです。でも今は、自分が評価される側にいるのかと思うと怖いんですけど。
○なるほど。最近の流れとして、若い人たちがやっぱ面白いですね。「この分野は俺の領域じゃないから知らなくていい」とか言わないってこともあって。
[32: 人間以外の動物の場合 〜アイコンタクト] |
○ちょっと人間の話から外れますが伺って良いでしょうか?
人間以外の哺乳類でも、当然顔認知の発達過程というのはあるんだと思うんですが、顔に対する馴れってあるんでしょうか? 子犬とか、よくこっちの顔をジーッと見てくるじゃないですか。
■そうですね…。哺乳類だと、匂いが重要だと言われていますけど、顔も見てますよね。でも霊長類以外で顔実験って、あまり見たことないですね。
これが鳥類になると、また別の系統のがあるんですけども。
○鳥ですか。どういう実験ですか?
■私がやっていたインプリンティング研究もその系列なんですけども、鳥の場合、顔じゃなくて、全体の模様のようなもので 個体識別をするので 、その部分を見せて、どういうものを好むか、という実験がやられているんですね。
鳥だとそういう研究があるんですが、私の知る限り、犬猫の実験はなかったような。
○以前雑談で、どうして、犬や猫とも「目が合っている」ような気がするんだろう、それはなぜだろうかという話をしたことがあるんです。どうしてなんだろうかと。人間が「そんな気がする」と感じているだけかもしれませんが。
■しますね。特にイヌは。
○獲物を捕るためには、あるいは敵から逃げるためには目とかを見たほうが良いからじゃないかとかも言われたんですが、どうもそれだけとは思えないような気がするんですけど、どうなのかなあと思いまして。
■うーん、そうですね。
同じ様な疑問を以前もったような気がするんですが、思い出せないなあ。
不思議ですよね。イヌって、そんなに視力いいわけじゃないんですけどね。でも目玉見ているような感じがしますよね。だけど、イヌに関する実験はやられていないですね。
目玉だけ見せて反応を見る実験が、動物でやられていたかもしれないです。トリだったかどうか、ちょっと忘れましたが。畑などで害鳥駆除のため、目玉の風船みたいなのを置いておくこととかありますよね。あれは、トリだと役にたつんですよね。
○うーん。思いこみかもしれないなあとは思うんですけども、なんか引っかかるなあと思って。子犬とか、「おいで」って言われるのを待ってるようなときも、ジーッとこっちの顔を見ているじゃないですか。そういうことから考えても、敵を避けるとかいったことだけから、イヌの顔の認知が発達するとは思えないし。
■ああ、そうですね。イヌは群れで行動しますしね。 群れの中の地位も厳しいし。だけど匂いをかぎあっているはずで、 なんで目を見ているんでしょうかね。分からない(笑)。
[33: 複雑な図形だからこそ「顔」を見る?] |
○顔って凄く情報量がありますよね。少なくとも人間の場合は、過剰に意味づけされているようにも思えるし。
■図形としても複雑ですからね。たとえば、目の前に立たれたとしたら、 他の身体部位よりも、顔は情報としてゴチャゴチャしていますし、よく動くから、その視覚的な複雑性にひかれて見るんじゃないかという気がします。
○でも、複雑じゃなくてもいいんじゃないですか? たとえばロボットなんかでも、取りあえず「顔」っぽいものをくっつけておくと、人間はそっちに目を向けちゃいますよね。
■ええ。そうですね。でも、それは大人の場合ですよね。「これが顔だな」という知識があるからだと思うんです。赤ん坊やイヌとかだと違うんじゃないかなと。
赤ん坊の実験で、顔をよく見る、っていうことを発表したときに、一番最初に批判された点が、“赤ちゃんは複雑な図形を好む”という話とのからみだったんです。 顔は、白黒のコントラスト比が激しいという、赤ちゃんが好む図形パタンをもっているんですね。特に目のあたりはコントラストが激しいですよね。目鼻口の模式図形というのも、シマシマ模様に似ている感じですよね。
○ああ、なるほど。
■だから、顔のもつ、そういうパターンが、図形的な刺激として魅力的で好ましいのかな。ひょっとしたら、さっきの話の、コイヌが顔を見るっていうのも、イヌが視力があんまりよくないとしたら、ハイコントラストの図形 パタンを好む現象の一つ として顔を見ているのかもしれない。覆面してみたり、眉毛のようなコントラストの強い部分を消して立ってみると反応が違うかもしれないですね。
○ああ、理研でやっているような−−要素を一つ一つ消していって、どこまで顔に見えるか実験みたいな、あんな感じで。
■ええ。手のあたりに複雑な図形を描いてみたりして。
○なるほどー。どうなるんだろう。
■子どもやイヌの場合は、そういう複雑な刺激に引っ張られている可能性がありますね。大人の場合は、これが顔だと思い込んでいるから、カメラでも、のっぺらぼうでも良いんでしょう。顔らしきものであれば。
○じゃあ赤ん坊にロボット見せてみて、もし赤ん坊が「顔」の部分を見たらどうするんですか?
■あ、それは面白いですね。 もし顔の部分がカメラだとすると、カメラ自体はわりとゴチャゴチャした感じだから 見ちゃうかもしれないけども、のっぺらぼうだと、どこを見るんでしょうね。それは面白いかもしれません(笑)。 カメラが固定されて動かなかったら見ないかもしれないですし、可動式だったら見るかもしれないですしね。
○ふむふむ。 素朴な質問を続けちゃいます。なんで子どもは、自分の顔と、相手の顔が同じだと思えるようになるんでしょうね? 確認もせずに…。つまりどのように自己イメージが作られていくのだろうかということなんですが。
■うん、「生まれてすぐにたくさん見たものと同じものを持っていると思いこめ」というふうにプログラムされているのかもしれませんね。だからひょっとすると最初に変なものばっかり見せていると、自分の顔もそんなふうだと思ってしまうかもしれません(笑)。
そういえば、ペットの中で、自分をヒトと思い込んでいるように見えるのとか、いますよね。ヒヨコから育てたペットのニワトリで、靴に性行動をしかけているのがいる、という話も聞いたことがあります。ニワトリの場合、ヒトよりも靴の方が、自分の目線の先にあるので、対象刺激となっていたんでしょうね。
○なるほど、うーむ。でもそれは実験できないですもんねえ。
顔にはいろいろと分からないことが多いんですね。
本日はどうもありがとうございました。
【1999/12/22 中央大学 文学部 多摩キャンパスにて】
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*次号からは植物分子生物学の研究者、玉置雅紀氏のインタビューをお送りします。
[◆Information Board:イベント、URL、etc.] |
■イベント:
◇海洋科学技術センター施設一般公開
平成12年 5月13日(土) 午前9:30−午後4:00 (受付は午後3:30終了)
http://www.jamstec.go.jp/jamstec-j/EVENT/KOUKAI/2000/index.html
◇第7回衛星設計コンテスト
http://www.nasda.go.jp/satcon/index_j.html
財団法人 日本宇宙フォーラム 普及啓発部
◇「宇宙物語 − Coming True in the 21st Century」
宇宙インフラストラクチャワークショップ
http://hope.tksc.nasda.go.jp/infra/ws/index.html
日時:2000年5月18日〜19日 場所:つくば国際会議場 エポカルつくば 大ホール
◇宇宙科学研究所主催「宇宙科学講演と映画の会」
日時:2000年4月22日(土) 14:00〜17:30(開場13:30)
場所:津田ホール(JR総武線「千駄ヶ谷駅」駅前)
◇国際総合福祉機器展 BARRIER FREE 2000(バリアフリー2000)
http://www.itp.gr.jp/bf/
日時:2000年4月20日(木)〜22日(土)
会場:インテックス大阪
■ U R L :
◇「NASDA NEWS」4月号
http://yyy.tksc.nasda.go.jp/Home/News/News-j/221index.htm
◇深海地球ドリリング計画アンケート調査(第2回) 海洋科学技術センター
http://www.esto.or.jp/od21/enquete2.html
◇国立情報学研究所 創設
http://www.nii.ac.jp/index-j.html
◇環境白書 平成11年版
http://www.eic.or.jp/eanet/hakusyo/h11/mokuji.htm
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