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2004/11/18 Vol.299
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【泰羅雅登(たいら・まさと)@日本大学総合科学研究所・日本大学医学部先端講座教授】

 研究:認知神経生理学
 著書:『脳のなんでも小事典』(共著/技術評論社)
    『脳のしくみ』(池田書店)

 研究内容の参考になるウェブサイト:三次元構造認知の神経メカニズム

○腕を伸ばしてコップを掴むとき、わたしたちは何も考えずに、適切な大きさに手を広げてコップを掴むことができます。どうしてでしょうか。人間がものを見たとき、脳ではどのような処理が行われているのでしょうか。たとえば人間は片目でものを見たときにも立体的に空間を感じることができます。それはどういう仕組みなのでしょうか。
 また未知の空間を探索、すなわち知らない場所を訪れたとき、脳にはどのような変化が起きるのでしょうか。
 今回からは、運動と視覚、この二つの神経学的基盤に関する研究についてのお話です。同時に、意識と無意識の際(きわ)の問題を探る話でもあります。(編集部)



前号から続く (第6回)

[17: ゲームをやっているときの脳]

○むしろ、面白いとかそういうことで言えば、自分がジョイスティック動かして能動的に空間マップをつくっているときには報酬系の反応とかどうなってるのかなということが気になりますね(笑)。

■それは、ちょっとわからないですね(笑)。僕らがニューロンの活動を記録するときにはオーバートレーニングをやって、完全に地図ができあがった状態ですから、学習の過程がどうなってるかは分からないですね。

○ええ。ただまあ素朴な疑問として、ゲームに「はまる」のって、どうしてなんだろうと思うんですよ。

■それはまた別のテーマとしては面白いですけね(笑)。はまるゲームとはまらないゲームの違いとかね。はやりのドーパミンがでるゲームとでないゲーム。

○ええ。面白いゲームとつまらないゲームって、微妙な違いなんだろうと思うんですが、逆に人間にとってはその違いが大きな違いなんですよね。

■ええ。

○完全に雑談ですが、3Dのシューティングゲームとかをやりこんでいくと、だんだん相手の動きが止まって見え始めるんですよね。映画「マトリックス」みたいに。最初の頃はわけがわからないんですけどね。これって空間認知とは多少関係あるんじゃないかと思うんですけども、どうしてなんでしょう。

■うーん、馴れて動体視力があがる、なんてことがあるかもしれない。それは冗談だけど、動きとしてとらえずに、要所、要所の画像が強く認識されるようになるんでしょうかね。

○ゲーム脳のはなしとかね(笑)。Googleで先生のお名前を検索すると、一番最初にゲーム脳のときのコメントインタビューが出てきますよね(笑)。

www.tv-game.com ゲイムマンのコラム
「ゲーム脳」徹底検証
日大医学部・泰羅助教授に聞く
http://www.tv-game.com/column/clbr01/

■ゲームの話は、いろいろ微妙なところがあるから話をするのは難しいんですよね(笑)。
 強調しておきたいのは、我々の研究ではゲームが脳に良い悪いって話は見えてこない。脳にどういう影響を与えるかはわからないけれど、脳がどう働くかっていうのはよく見えます。

○ほう。どんなふうなことが見えるんですか。

■このあいだNHKの番組で島津製作所の協力で脳の血流をみて脳の活動を計測する機械(機能的NIRS)を借りて実験をやったんです。
(編注:fMIRSについては島津製作所のサイトの記事
http://www.med.shimadzu.co.jp/application/other/03.html
などを参照)  うちの長男はゲームが得意で、たいてい何でもすいすいできちゃう。で、いわゆる横スクロール系のゲームで、普段からよくやっていて、馴れてほいほいと軽々クリアできるところで調べると、前頭葉がぜんぜん働かないんですよね。

○ふんふん。

■でも、新しい、あんまりなれていない場面に行くと、前頭葉がグーッと活動するんですよ。全然やったことのない、ゲームを始めると、やはり前頭葉は働いているんですよね。すぐにうまくできるようになるけど。

○それはつまり……?

■前頭葉が働くっていうことは、色んなものに注意払って、判断して行動しているような状況ですね。いろんなものを「気にしすぎている」状況ですね。それが、十分に馴れちゃうと、特化した処理経路ができちゃって、特に注意を払う必要がないから前頭葉の出番はないということでしょうね。

○なるほど。ここを見ておけばいいやと分かっちゃうわけですね。
 そのときって、まあ測ってないから分からないだろうとは思うんですが、頭頂葉はどうなってるんでしょうか。

■どうですかね。頭頂葉は単純なアテンションと関係があるから、意外とそのままかもしれないし、それすら必要なくなって活動しないかもしれない。
 基本的にヒトの脳の活動ってそうなんですけど、馴れてすごくうまくできるようになっちゃうと、脳はそんなに活動しなくなるんですよ。がちゃがちゃと「あれ、なんでやろう、こうかな?」ってやってるときはあちこち活動するんですが。うまくなっちゃって、苦もなくできるような状況のときはヒトの脳はあんまり活動しないですね。

○なるほどね。馴れてることをやっても活動しないわけだ。まあそのほうが経済的ですからね。

[18: 「タイミング」の重要性]

○話がまたズレてしまいますが、動作計画して実際に動作しているときにもずっと制御はかかってますよね。人間の動きにはポイントというか、「節」があって、そこだけ制御をかけているんだと東大の國吉康夫先生なんかは仰ってますよね。そういうのとも似ていると思うんです。
 特定のところ、ダイナミクスの収束点みたいなところ、ここはちゃんと制御しないといけないんだ、というところだけ制御かければいいんだ、ということだと思うんですが、そういう仕組みがあるとすれば、それ以前に、制御すべきところと、制御しなくてもいいところを振り分ける何かメカニズムがあるはずですよね。
 NTTコミュニケーション科学基礎研究所の柏野牧夫先生によれば、言語の聞き取りにおいてもそんなメカニズムがあるらしい。
*本誌バックナンバー参照
http://moriyama.com/netscience/Kashino_Makio/Kashino-5.html#08  ひょっとすると何かモダリティを超えた普遍的なメカニズムが脳にはあるんじゃないかと感じているんですが、そういうことと空間認知能力との関係は……。

■それは面白いですね。それはあるかもしれないですね。ヒトの脳って経済的に働くから。しょっちゅう注意して見ていると疲れちゃいますからね(笑)。
 それに近い話かどうかは分からないけど、手を伸ばすときだって、対象物を見せるタイミングがすごく大切だっていう実験があるんですよ。

○タイミング?

■運動を始める直前の数百ミリセカンドが非常に重要で、そこのところでちゃんと見せておけば、あとは見なくてもちゃんとできる、っていうことを示した仕事があります。そのときに、3Dの情報が大切なのか、2Dの情報が大切なのかを調べた研究もありますよ。たしかに、視覚情報はあるポイントのワンショットの情報で十分ですね。ダラダラ見てる必要はない。

○部屋の状況だってパッと見ただけで分かりますもんね。知覚としてはあとで再構成されているのかもしれませんが。

■そうそう。

[19: 筋肉の時系列的な制御の詳しい仕組みは、まだ不明]

○そういうときの動作計画って人間はどうやってるんでしょう。

■うーん、漠然と、高次運動野で−−補足運動野とか運動前野とか名前を聞かれたことあるでしょ? 高次運動野で運動のプログラミングをやってますよと言われてるんですが。
 ニューロンをみると、運動の準備をしている間活動があって、実際の運動が始まると活動が止まってしまう運動準備ニューロンや、東北大学の丹治先生のお仕事ですけど、3つの動作をある順番でやるときに、ある特定の順番をコードしているニューロンなんかが見つかっています。だから、高次運動野で運動のプログラミングが行われていると言われているんですけど。
 でも実際の運動のプログラミング、つまり、何か運動をするときには「この筋肉はこの時間、これだけ働きなさい」ということがそれぞれの筋肉に対して必要なはずじゃないですか。

○はい。

■一次運動野のニューロンが個々の筋肉への指令を送っているのはわかっていますが、それをどうやって時系列に従って駆動するか、動作の全体を統合するその本体は分かってないです。

○ええ。本をいろいろ拝見していて、僕のような素人がだんだん分からなくなるのは、じゃあ小脳は何しているのか、前頭前野は何をしているのかといったことが分からなくなってくるんです。たとえば小脳の章を読んでいるときは小脳のことは分かるんです。でも、統合してみようとすると、言葉は悪いんですが、なんか途中でごまかされてるような、騙されてるような感じがしてくるんです。そこらへんで、ロボットの人たちは「え?」と思っちゃうんでしょうね(笑)。コントローラーがぜんぜん分からないわけですよね。

■そうそう(笑)。一次運動野のニューロンの活動は、特定の筋肉の活動と綺麗な相関があるのは分かっている。だからある動作中に一次運動野のニューロンを見ると、それぞがある時系列に従って活動していくわけですよね。だけど、その時系列がどうやってコントロールされているのか、そこは全然分かってないです。一番大切なところだと思うんですけど。
 アメリカにいたとき一次運動野の研究をしていたので、すごく興味があって、やってみたい仕事ではあるんです。根拠はないですけど、筋肉の活動の時系列的な制御をやっているのは、一次運動野のなかの局所的な神経回路のような気はするのですが。それをどうやって拾い出していくか、いつも考えてはいるんですけどね……。

○人間の運動の制御が、実際にどういうサブセットで構成されているのか、そのへんのイメージがわかないんです。たとえば腕を動かすとき、その筋肉がそれぞれ制御されているわけですが、それがどういう単位で制御されているのか、とか。

■今わかっているのは、運動前野に「つまむ」動作では活動するけど、「掴む」動作では活動しない、親指と人差し指の運動を見るとどちらもそうかわらないですよね、というようなニューロンがあるということですね。イタリアのRizzolattiのグループの研究です。彼らは、このようなニューロンを運動の「ボキャブラリー」という言い方をしてます。
 それから、先ほども言いましたけど、丹治先生のグループの補足運動野のニューロンはプッシュ・プル・ターンっていうひとまとまりの系列動作に対するプログラミングですね。
 このレベルまでは、分かってきているのですけが、さっきから繰り返しているように、もう一段落下がった、本当の実行段階のプログラムが分かっていないんです。

○ふむ。

■じゃあ、それはまたなんだっていう話になるんだけどね(笑)。なるんだけど、それがまず分からないと「運動がちゃんと分かった」って話にはならないと思うんですよね。

○はい。

■やったら、ああそうだね、って言われちゃうような仕事かもしれないけども、それはすごく大事だと思う。

○数百ある人間の筋肉がどんなふうに制御されているのか具体的に分かれば、面白いと思います。

■うん。でもどうやってやるかとなると、地道に探していかないといけないでしょうね。

次号へ続く…。



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http://www.mainichi-msn.co.jp/kagaku/medical/news/20041113ddm016070044000c.html

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http://www.mainichi-msn.co.jp/kagaku/news/20041112k0000m040069000c.html

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http://www.mainichi-msn.co.jp/kagaku/science/news/20041111ddm010070153000c.html

◇毎日 米誌 プロセッサー内蔵シューズなどが新製品大賞
http://www.mainichi-msn.co.jp/it/computing/news/20041111org00m300079000c.html

◇毎日 白血病:日本初の遺伝子治療 筑波大付属病院
http://www.mainichi-msn.co.jp/kagaku/science/news/20041111k0000m040040000c.html

◇毎日 日医大教授:余った文科省補助金 業者を使ってプール
http://www.mainichi-msn.co.jp/kagaku/science/news/20041110k0000e040077000c.html

◇毎日 ITER:日本とEUの対立解けず、結論持ち越し
http://www.mainichi-msn.co.jp/kagaku/science/news/20041110k0000e030006000c.html

◇毎日 レゴ 教育用ロボットキットに制御ソフト
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◇毎日 デジタル放送 地デジと行政サービスのジレンマ
http://www.mainichi-msn.co.jp/it/coverstory/news/20041110org00m300069000c.html

◇読売 RNA注射でコレステロール減少、米独がマウス実験
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20041111i401.htm

◇読売 太陽光で飛行…米ソーラーセール宇宙船を来春打ち上げ
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20041111i502.htm

◇読売 「科学技術の光と影」、未来にらみ京都で初の国際会議
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20041114i111.htm

◇読売 新潟中越地震直後、メール・ネットの通信量7・6倍に
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20041114i501.htm

◇読売 上腕に卵巣移植、放射線治療のダメージ回避…オランダ
http://www.yomiuri.co.jp/main/news/20041110i406.htm

◇産経 愛知万博の認知度56% 「行ってみたい」は半数
http://www.sankei.co.jp/news/041113/sha047.htm

◇フジサンケイビジネスアイ カネボウ、タンパク質「セリシン」で髪のダメージを修復
http://www.business-i.jp/news/chemical/art-20041112211442-NLRRYYJIJE.nwc

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http://www.zakzak.co.jp/top/2004_11/t2004111226.html

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http://www.jst.go.jp/pr/info/info127/index.html

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NetScience Interview Mail Vol.298 2004/11/11 発行 (配信数:19,696 部)
発行人:株式会社サイネックス ネットサイエンス事業部【科学技術ソフトウェアデータベース・ネットサイエンス】
編集人:森山和道【フリーライター】
interview@netscience.ne.jp
moriyama@moriyama.com
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