NetScience Interview Mail 2004/11/11 Vol.298 |
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【泰羅雅登(たいら・まさと)@日本大学総合科学研究所・日本大学医学部先端講座教授】
研究:認知神経生理学
著書:『脳のなんでも小事典』(共著/技術評論社)
『脳のしくみ』(池田書店)
研究内容の参考になるウェブサイト:三次元構造認知の神経メカニズム
○腕を伸ばしてコップを掴むとき、わたしたちは何も考えずに、適切な大きさに手を広げてコップを掴むことができます。どうしてでしょうか。人間がものを見たとき、脳ではどのような処理が行われているのでしょうか。たとえば人間は片目でものを見たときにも立体的に空間を感じることができます。それはどういう仕組みなのでしょうか。
また未知の空間を探索、すなわち知らない場所を訪れたとき、脳にはどのような変化が起きるのでしょうか。
今回からは、運動と視覚、この二つの神経学的基盤に関する研究についてのお話です。同時に、意識と無意識の際(きわ)の問題を探る話でもあります。(編集部)
…前号から続く (第5回)
○輻輳で立体映像をやってる先生にやっぱりこの<インタビュー・メール>で話を伺ってるときに雑談として出てきたんですけどね、ヴァーチャル・リアリティ(VR)とかでバーンと飛び出てみえる映像を見ると、思わず手を伸ばしたくなると。あれってどうしてなんだろうね、って話が出たんですよ。
本誌バックナンバー参照
最初、僕はその質問の意味が分からなかったんですよ。でも、実物の缶だと目の前に立っていても手は出ないんだけど、CGで描かれた缶が、VRで目の前にものすごくリアルに見えていると、思わず手が出ちゃうと。 ■なるほどね。
○そう思い至ってから、どうしてなんだろうと僕もずっと気になっていることなんです。 ■それは、ごくごく一般的な答えかもしれないけども、それが実際に実在しているかどうか確かめようとしてるんじゃないですかね。 ○はい。そのときも、なんかそういうことなのかなあ、でもなんか違うんじゃないかなあ、という話になったんです。思わずスッと手が出てしまいそうになるというのは、なんかヘンですよね。
■うん。それとVRの場合は、どういうのかVRのなかを動く場合でも、こちらから動いて行くと言うよりは、向こうから画像が迫ってくるでしょ。そのあたりの、なんていうんでしょうかね、「違い」は大きいような気がしますね。向こうから迫ってくるものと、こちらから積極的に迫って行くときの違いですね。
○先生もVRの研究はなさってらっしゃるんですよね。 ■東大の舘先生が総括しておられたVRの特定研究に入れていただいて研究していました。最近の面の傾きの知覚に関する研究はその流れです。あと、ウェブにはあんまり出てないんですけども、大型のVRを使った実験もやっています。 ○どんなものですか? ■VRそのものの研究ではないですが、VRでビルディングをつくってね。そのなかをサルがジョイスティックを使って移動していくという課題で、サルがビルの中の認知地図をどうやって頭の中に作っているかという研究です。 ○ん?? ■ほら、僕らは建物のなかを内部の地図を思い浮かべて自由に移動できるでしょ。そういう地図が頭の中のどこにどんな風にあるのかを調べる実験です。 ○ああ、なるほど。 ■コンテンツは横浜にあるソリッドレイにお願いしてつくってもらっています。
○ふーん。ソリッドレイはVRで有名なところですもんね。 ■サルはちゃんとビルの内部を覚えることができるようになります。で、できるようになるし、ある場所に行くと必ず反応するニューロンとか、ある場所で曲がるときにだけ活動するニューロンとかが見つかっています。 ○それ、実際に曲がるときにも活動するんですか。 ■実験ではサルは動かさないですから、わかりません。これはVRのなかでの話だけですよね。 ○「サルも3Dゲームができる」ってことでしょうか。 ■そういうことです。ちゃんと玄関からある部屋への道順を覚えます。 ○その研究は、そこから先へはどういうふうに発展するんですか。 ■で、たとえば、ある部屋への道順をたどっているときに、あるところで左に曲がるときに反応するニューロンっていうのは、道順を覚えていることと非常に関係がありますよね。それ以外に、ラットの海馬の場所細胞のように、ある所にくると活動するニューロンというのが見つかります。そんなニューロンが組み合わさって、ビルディング全体がサルの脳のなかに再構成されているんだろうという話です。今のところはまだそこまでです。 ○どうしてそういう研究を始められたんですか。VRの研究の流れですか。
○すみません、一番最初に伺っておくべきことだったかもしれませんが、そもそもの一番おおもとの先生のご研究はなんだったんですか。 ■一番おおもとは、猫の顎運動です。 ○ガク? アゴですか。 ■僕は歯医者なんですよ。 ○ええ。それは拝見しまして、そのご経歴も不思議だったんですよ。 ■歯医者だったんだけど歯医者の仕事があまり好きじゃなかったんですよ(笑)。それはまあ冗談として、医科歯科大学の歯学部に中村嘉男先生という、東大の医学部脳研出身のすごく偉い先生がいらっしゃって、顎運動の研究、あれはほとんど自動運動ですが、その神経回路を調べていたんです。主な研究は脳幹が対象だったんですが、僕は、もうちょっと上のほうからのコントロールがあるはずだということで、大脳での顎運動制御のメカニズムを調べる仕事を始めたんです。 ○なるほど。
■だからもともと運動系は好きやったわけですね。 ○なるほど。
■そのころ東京でサルを使った研究をされている先生はそれほどいらっしゃらなかったんですが、東京都神経研に、ここ(日大)の先代の教授の酒田(英夫)先生がいらして、大学院を卒業してすぐそちらに行かせて頂いて、サルを使った研究を始めたんですよ。 ○はい。 ■そのニューロンを、もうちょっとシステマティックに調べましょう、っていって始めたのが、手の操作運動(マニピュレーション)の研究を始めたきっかけです。 ○最初は運動から始まって、そこから視覚へ? ■そうです。いまは視覚畑にいますけどね。もともとは運動屋なんです。 ○運動のための視覚って感じなんでしょうか。
■そうですね。頭頂葉での視覚は基本的にそうですね。最初の操作運動の仕事でも、対象物がどんな形態をしているのか、どう傾いているのかという視覚信号は、運動のためですよね。それから、さっき言った、VRのなかで動いて行くというのは、whole body movementですから、我々がニューロン活動で見ているのは、whole body movementに対する視覚情報ですよね。頭頂葉の視覚情報の特徴はそこにあるのは間違いないと思いますね。
○ゲームというか、3Dの画面を見ているときの動きですが、さきほど先生はwhole body movementだと仰いました。でもいっぽうで自分の運動指令もないし、遠心性コピーもないわけですね。そのへんがないときの空間マップの作られ方と、逆に遠心性コピー等があるときの空間マップの作られ方は違うんでしょうか。 ■可能性はありますね。イギリスのRollsたちがサルが実際に動き回っているときに反応するニューロンの活動を記録していますが、それについて面白いエピソードがあるといわれています。うそか本当か分からないですが、はじめ彼らはサルを、動輪がついている車いすみたいなものに乗せて実験室のあちこちを移動させていたんだけれど反応するニューロンが全然ない。あるときそれが倒れて、サルが引きずり回しながら歩いたら発火するニューロンが見つかった(笑)。嘘かホントか知らないですよ。根拠はないんですが、パッシブに動かされていたのでははダメで、自分の足で歩くことがすごく大切なんだと言われてますね。 ○ほほう。 ■でもそれは、ある程度本当のような気がします。VRを使った認知地図の研究の中でさえも、サルがジョイスティック動かしているときには強く反応するけれども、パッシブに画面だけ動かした時には反応しないっていうニューロンがありますからね。
○へえ〜。まあそれは、はたからゲームを見ていてもね、自分で動かすときと見てるだけのときは全然面白さが違いますからね(笑)。ゲーム世代としては「そりゃそうだろうな」と思います。
○むしろ、面白いとかそういうことで言えば、自分がジョイスティック動かして能動的に空間マップをつくっているときには報酬系の反応とかどうなってるのかなということが気になりますね(笑)。 ○次号へ続く…。
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