NetScience Interview Mail 1998/09/24 Vol.022 |
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【田口善弘(たぐち・よしひろ)@中央大学 理学部 物理学科 助教授】
研究:粉粒体動力学、非線形物理
著書:「砂時計の七不思議」中公新書
ほか
ホームページ:http://www.granular.com/tag/index-j.html
○田口善弘さんへのインタビュー、第4回をお届けします。今回は引き続き粉粒体研究の難しさと、教育問題について。6回連続予定。(編集部)
[08: 思いこみは裏切られる] |
○粉体の学問というのはどのくらい昔からあるんですか? 19世紀にはもう研究されてましたよね?
■いや、ずっと昔からありましたよ。ただ、コンピュータが使えるようになるまでは、粉体工学なんかは、工学ですらなかったんです。なにせ、粉体の場合、中が見えないですからね。中で何が起こっているか全く分からなかったわけです。いまだって、MRIみたいなものを使わないと中は見えないわけです。
○MRIで中を見られるんですか。
■見えます。もちろん、プラスチックの粒子じゃだめですよ。中が液体のものじゃないと。芥子の粒とかね。そうすれば見える。すると、新しいことがやっぱり分かって来るんですよ。
○例えば…?
■さっきいった水平に置いた円筒をクルクルと回すと粒度によってシマができるという実験でも、昔は中が見えなかったからいい加減なことを言っていたわけです。ところが、外からだとシマシマだけど、中を見てみたら全く違っていたんです。
○どうなっていたんですか?
■バンドができる時に何が起こるかということで、みんなが漠然と考えていたのは、密度分布みたいなのが強調されて現れているんだろうとか、そんなことを思っていたわけですよ。
○うん、普通そう思いますね。ところが…?
■実際にはそうじゃなかったんです。真ん中にぶっといシンが通っていて、それがだんだん太ったり細くなったりしていた。その太いのが表面に出てくると、シマになって出てくる、ということだったんです。
○え?
■要するに金太郎飴みたいになっていたんですよ。Aという粒子とBという粒子があったら、それが立体構造を作っていた。最初はもちろん、表面にそんな構造はないわけ。埋まっているから見えないわけですよ。それがクルクル回しているうちに出てきていたんですよ。
○ふーん…。
■中を見てみると、膨らんでいるんだけど表面には出てこない、つまり外見上はシマが見えないんだけど定常状態なんてのがあることが分かっちゃって、これまでの説明は全部なくなっちゃった。これまでは「これはシマである」と思ってみんなやっていたのに、シマじゃなくって真ん中にぶっといシンがあってそれがボコボコなっているんだということになると、まるで話が違いますからね。
○それもMRIで見るまで分かんなかったんですか。シマだと思って、中に構造があるとは誰も思わなかったんですか。
■そう、まるで分からなかった。それと同じで、昔の人はコンピュータができるまでは何も中は見えなかった。ところがコンピュータが使えるようになって、しかもそれほど複雑な計算じゃなくって、丸い玉を動かせばいいっていうような奴だったから、一気にバーッと広がっちゃったんですよ。論文書くのは簡単だし、一応工学の役に立つようなフリはできますしね。
○「フリができる」って(笑)。
■現場の人に数値計算見せると、よく「こんなの役に立たない」って言われますよ。要するに現場の人っていうのは現実を理解するためのモデル実験をするんですよ。そのモデル実験は数値計算の範囲なんだけど、本当の現実のところまではなかなかいけない。
○その距離っていうのは…。
■だからパラメーター、初期条件ですよね。だから現実とモデルの間に「距離」がどのくらいあるか分からないんですよ。ちょっと変えただけでも劇的に変わっちゃうわけだから。
○ほんのちょっとかもしれないし、無茶苦茶遠いかもしれないわけですか。でも現場の人っていうのは勘所でだいたいのところは分かっているわけでしょ。
■うん、彼らはそう言うわけですよ。だからモデル実験なんかやる必要ない、と。でも少なくとも彼らも、シマシマの中に構造があることは知らなかったわけ。これは勘で分かる話じゃないから。
だから、分かっているところは分かっているんだけど、分かっていないところは分かっていないんですよ。その分かっていないところは数値計算でしかでないんだけど、彼らはそんなもの知らないから分かっていないことは誰にも分かんない。
○うーん…。いや、面白いですね。
■だから、非常に厳しいんですよ。僕なんかそろそろこれをメインにするのはやめようかと(笑)。下らない論文を書き続けていくか、何十年も何にも書かずに頑張るしかないわけですよ(笑)。
[09: 教育問題 〜大学化する大学院] |
○じゃあ、次は何を? もともと幅広い興味をお持ちですが…。
■これからは生物をやりたいと思ってます。系統とかね。
うちの学生もあんまり抵抗ないみたいですね。物理学科だからといって、物理だけ、という学生はいないですね。むしろマスコミでよくやるカオスだとか人工生命だとかフラクタルだとかに妙にかぶれている人が多いから(笑)。そういうのをやっているのは物理の人に多いですからね、もともと。
○そういう学生は多いですか。
■いや、ここにはそうはいないですけどね。私立だから学費も高いし、必ずしも第一候補になる大学じゃない。最近、国立大学は大学院生の枠をむちゃくちゃ増やしちゃって、ザルだしね。
○らしいですね。あちこちで問題視されているようですが。
■箸にも棒にもかからない学生も多いですから、取ればいいっていうものでもないですしね。
○でも、大学院生というのは、マスターで入った時にはまだまだで、やっているうちになんとかなってしまうものなんじゃないんですか。なんとかならない人はやめちゃうだろうし。マスターに入って、いきなり「勉強大好き、研究大好き」になっちゃう人もいるじゃないですか。
■うん、だからなんていうのかな、それが昔の大学だったわけですよ。昔は大学に入ったらみんな一生懸命勉強したんだから。それがだんだんダメになってきて、いまはマスターもダメになる方にシフトしちゃってるんですよ。「一生懸命勉強して入ったから、まずは遊びます」と。で、2年になってようやく何かやり始めるんだけど、でもそのころからはもう就職活動していると。
つまり、マスターが大学みたいになっちゃったんですよ。入ってまず遊ぶことが分かっているのに、学力の低い人に期待できるか、ということになっちゃうでしょ。
○そうすると、ドクターまで行ってもどうなの、っていうことになっちゃいますね。
■工学部なんかドクターまで行くのが当たり前になっちゃってるでしょ。工学系の企業は即戦力志向になっているから、優秀なドクターをちゃんと取るという形になってきつつあるんですよ。昔は学部出がスタンダードで、マスターがちょっとアドバンスドだった。昔は、マスターを取るというのは少なくともちょっとは進歩している人を、という意味だったんですよ。ところが最近はマスター出が学部出くらいの力しかないから結局教育しなくちゃいけない。こんなの取るんだったらドクターまで行った人を取った方が良い、ってことになっているんですよ。
○ふーん…。
■そんな感じだから、ドクター出たら研究者、じゃなくて、ドクター出たら企業へ行きます、になってるんですよ。コンピュータで粉粒体をやっている研究室なんかでもね、ドクターの学生を指して、ドクター3年間じゃなくて、マスターを5年間やったんだと思って下さいといって就職世話しているわけね。そう言わないと向こうも取ってくれないしね。
○理学部はどうなんですか。
■文学部と一緒ですよ。厳しくなってますよね。社会的要請もないしね。
世間がアウトプットで物事を判断するようになっちゃったから、アウトプットないところは段々評価されなくなってきちゃった。理学部なんかもアウトプットないわけだから。
○実用的なアウトプットということですか?
■とにかく何でも良いからアウトプットですよ(笑)。誰にも分からないけど何か研究しています、なんていうのは今や許されなくなりつつある。
○でも、そういう人いっぱいいるじゃないですか。
■だから、そういう人はだんだん淘汰されるんじゃないですかね。学生の方がアウトプットのない自己満足的な研究というのが嫌になってきているし。自分が楽しいだけの研究っていうのはダメなんですよ。
○そうですかね? 今時の学生さんでも、やっぱりそういう人は多いんじゃないかという気がするんですが。やっぱり他の分野には興味のない人が多いし、自分が好きなことだけやっている、という学生の人は多いんじゃないんですか。
■それは「好きなことだけやっている」んじゃなくて、何か目標があるんですよ。D論を取りたいとか、就職したいとか、そういう非常に短期的な目標があるからやっている学生が多いですよ。必ずしも好きなことをやっているとは限らないですね。
○うーん、そうか…。
■大学院に行くことも取りあえず修士号を取ることが目的であって、研究が目的じゃないんですよ。とにかく目標が短期的になってきちゃってる。
○次号へ続く…。
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■新刊、雑誌:
◇雑誌『生物の科学 遺伝』10月号 特集:日本人の起源
遺伝学,人類学,地質学,考古学など様々な分野から,その全体像に迫る.
本体1400円+税 裳華房 http://www02.so-net.ne.jp/~shokabo/
■URL:
◇医療施設動態調査(厚生省)
http://www.mhw.go.jp/toukei/iryosd/is1005.html
◇雲仙普賢岳の噴火とその背景
http://science.scc.kyushu-u.ac.jp/Museum/Museum.html
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