NetScience Interview Mail
2000/11/16 Vol.122
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【隅藏康一(すみくら・こういち)@東京大学 先端科学技術研究センター 知的財産権大部門・科学技術財産法分野】

 研究:知的財産政策・知的財産法
 著書:蛋白質核酸酵素・9月増刊号『再生医学と生命科学---生殖工学・幹細胞工学・組織工学』(共著、発行:共立出版)
    『ゲノム創薬の新潮流』(共著、発行:シーエムシー)

ホームページ: http://www.bio.rcast.u-tokyo.ac.jp/~sumikura/

○知的財産政策・知的財産法の研究者、隅藏康一さんのお話をお届けします。
テーマは「科学技術と特許」。
ゲノム・プロジェクトやバイオ産業の進展とともに、いま科学領域内外から注目を浴びているジャンルです。(編集部)



前号から続く (第3回)

[09: 特許システムの機能]

科学技術ソフトウェア
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■その前に、特許を取ってライセンスするということは、産業界のなか、あるいは研究開発のプロセスのなかでどういう役割を持っているかということからお話したいと思います。

○はい。

■話の前提として必ず議論しないといけないことなんですけどね。
 まず、特許というのは独占権なんですね。ですから自分自身で開発することもできるし、ライセンスすることによって別の人からライセンス料をもらうこともできる。つまり、特許自体が研究のインセンティブを高めるわけです。「特許が取れるからやってやろう」ということもありますよね。特に民間企業なんかは、だからこそそれだけの投資をしてやろうということがあるわけですから。

○ええ。

■もう一つ、開発投資のインセンティブを高めるという効果もあります。
 たとえば、上流の基礎的なデータがパブリックドメインにおかれた状況、すなわち単に論文として発表された状況を考えますと、A社はこれを使って次の開発段階を進めることができますね。当然その開発にもお金がかかるわけで、開発に対して投資をおこなわなければいけません。
 それと同時に、B社やC社が公開情報を使って開発を進める可能性もあるわけで。誰だって始める可能性があるというわけです。

○はい。

■そうなると、パブリックドメインのものを使って開発をしていても、見返りがあるという保証がほとんどないことになってしまいます。そうすると、企業が、その開発研究に投資をするインセンティブがなくなってしまうという危険もあるわけです。
 だから、基礎的な部分の次の段階の開発研究への投資意欲を保証する、という機能もあるのです。

○なるほど。基礎的な成果を出す研究者、開発を行う企業の双方に対する効果があるということですね。

■そうです。  もちろん、これと逆さまの話として、高すぎるライセンス料はディスインセンティブとなるでしょう。あとからライセンス受ける人は、必要な金額があまりに高いとやる気がなくなっちゃうわけですね。

○はい。

■さっきのレプチンの話だと、聞いた話ですが、アップフロント──つまり契約金が20億円。この他に、マイルストーンが必要です。マイルストーンというのは、開発計画のなかのある段階までいけばいくらもらいますよ、というような契約です。もちろん、開発しているうちにそれはダメでした、ということもあるわけです。その場合は、途中までのマイルストーンしか払われない、ということになります。

○なるほど。あとは?

■ロイヤルティー。製品になったときにどのくらいもらいますよ、というものですね。だいたい売り上げの3%から5%くらいのことが多いのですが、それが特許保有者に入ってくるわけです。

○アップフロント、マイルストーン、ロイヤルティーと、3つの段階があるというわけですね。一言でライセンス料と言っても。

■そうですね。もちろん契約のやりかたによって、アップフロントだけとか、ロイヤルティーだけの場合もありますよ。そこは契約によってだいぶ違います。アップフロントだけを高くする場合もあるし、アップフロントを安く押さえて、ロイヤルティ、特にランニングロイヤルティーと言いますけども、そちらのほうで少し高めに回収する場合もあります。そこは技術分野によっても異なり、あとは交渉戦術になってくるわけです。高くもらいたい側と低く払いたい側の。

○なるほど。

■もちろん最初のほうは価値がなくても、エンドプロダクトのほうで価値があがりそうな場合は、ライセンスを供与するほうでは、最初の契約金は低くてもロイヤルティのほうを高くもらいたいと思うでしょうし、受ける側としては、契約金だけで勘弁してもらって、あとは好きなように売れるようにしたがるわけです。

○分かりました。

[10: 物質特許と製法特許 〜特許は産業政策の要である〜]

■遺伝子特許の場合、医療費の高騰を招くと言われることがあります。

○はいはい。

■ただ、アメリカが特許を押さえると世界の医療費が上がってしまうという話がされることが、しばしばありますが、「アメリカが」という話は正確ではありません。アメリカでもどこでも良いんですが、民間企業が特許を取ってしまって、高額なライセンス戦略を取ると、ライセンス料というのが最終的なところまでのっかってきて、ユーザーである患者が高い薬代を払わなくならなくなるかもしれない、ということだと思うんですね。

○はい。

■特に途上国の場合、薬を買えないという問題が生じることがあります。  途上国の話も二つの側面があります。途上国の中で研究開発が進むということを想定すると、特許というのはパリ条約というやつで、「各国一制度」と決まっているんですね。つまり国によって違う。極端な話、遺伝子に特許は与えませんよ、という国だってあるかもしれない。
 いまでもエジプトなんかは、化学物質に対しては特許を与えないんです。製法に対しては特許を与えるんだけど、物質に対しては特許を与えないということになってるんですね。

○ふーん。

■物質特許の話をすると話がちょっと横へ逸れるんですが、昔、1975年くらいまでは、日本でもアメリカでもどこでも、化学物質に対する特許はなかったんです。物質特許というのがなかった。

○へえ、そういうものだったんですか?

■ええ。製法に対してしか特許しかなかった。AからBという物質ができても、Bという物質には特許がなかった。その製法にしか特許がなかったんです。けっこう最近までね。

○へー。

■モノが特許にならず製法だけが特許になるという段階だと、AからBを作る方法があっても、CからBを作る新しい方法を考えた人は、その新手法を特許化することができるわけです。

○……ははあ、なるほど。別の方法を考えればいいわけか。

■つまり、Bというモノ自体が特許化されてしまうと、どんな方法でBを作っても、それを特許化することはできません。もちろん作り方がすごく良い方法であれば、すなわちコストがかからないとか短時間でできるとかそういうことがあれば、特許化することはできますがね。
 でもBを押さえられてしまうと、別のBを作ってもBの生産についての独占権を持つことはできないので、新しい方法を考えようというインセンティブ、意欲が出てこない。

○なるほど。

■でも物質特許がなければ、新しい手法を考えようとするインセンティブが出てくる。そのことによって、化学産業における基礎的な知識が蓄積されていく。ですから化学産業の発達の初期段階においては、製法特許だけしかない方が望ましいのです。

○はい。

■そして化学産業が成熟してきた段階では、物質が特許化されていないと、権利が弱いので、一通り知識や手法が出尽くした段階では、物質を特許にしていこう、ということになるわけです。で、ブタペスト条約というのができまして、化学物質にも特許を認めようということになりました。

○なるほどね。

■逆に、まだ製法特許しか認めていない国は、国内の化学産業のなかに、それほどノウハウが蓄積されてないと思っているからでしょうね。

○なるほどなるほど。

■という意味で、特許制度というのは、それぞれの国の発展の度合いと密接にリンクしているので、各国違っていてもいいということになっているわけです。

○単に特許が取れれば儲かる、という話ではないんですね。

■ええ。特許とは産業政策の要なんですよ。
 特許というと必ず「お金儲けの手段」という発想がありますね(笑)。こないだ、とある大学で授業したときも、授業の感想を読むと、けっこう多くの学生たちが「大学にいるときに一個発明をしただけで、あとは遊んで暮らせるような発明をするには、どうしたらいいんでしょう」とか書いているわけですよ(笑)。

○特許を取って一儲け、っていう構図が、刷り込まれているからですよ(笑)。その気持ちは分かるな(笑)。

■特許というものを、各国の科学技術と産業を発展させるための制度だと捉えてもらいたいんですけどね。

○どこにお金を落とさせるか、というものなんですね。

■うん、個人個人は「お金が欲しいから」とか「投資をしても安全だから」とかといった理由で動いていいんですけども、国全体で見るとそういうものじゃないんです。

[11: 「特許の2000年問題」]

■さて、これで物質特許の話はいいとして。
 途上国のなかで、つまりそんなに産業が発達していない国の中で開発が行われる場合は、たとえば遺伝子には特許を与えないというシステムのもとで開発を行うこともできるわけです。そういうふうにしておけば、少なくともその国のなかでは開発を行えるというわけです。もっとも、多くの途上国の場合は問題はその前のレベルで、国内で開発を行うこともできず、外国から薬を買わざるを得ない、という国が多いわけです。

○ええ。

次号へ続く…。

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NetScience Interview Mail Vol.122 2000/11/16発行 (配信数:23,739 部)
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編集人:森山和道【フリーライター】
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