NetScience Interview Mail
2003/03/13 Vol.223
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【下条 誠(しもじょう・まこと)@電気通信大学 電気通信学部 知能機械工学科 教授】

 研究:触覚センサ、触覚ディスプレイ、メカトロニクス,歯車計測
 著書:人工現実感の展開 (3.2節), コロナ社, pp.87-98 (1994)
    Intelligent Sensors Handbook of Sensors and Actuators 3, Elsevier Press, p.165-176 (1996)など
    *参考になる書籍として
        『先端技術が拓く医工学の未来』アドスリー

 ホームページ:http://www.rm.mce.uec.ac.jp/index.html

○触覚ならびに神経インターフェースの研究をしていらっしゃる下条先生のお話をお送りします。触覚は身近な感覚ですが知らないことも多い感覚ではないでしょうか。また、神経接続インタフェースの話は、多くの読者が関心を持っているところだと思います。(編集部)



…前号から続く (第5回)

[13: 触覚提示]

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○じゃあもう一つのほう、触覚のディスプレイ、触覚提示の研究というのはどういうかたちになっているんですか。

■これは、最終的な目的としては、布地を提示させるディスプレイというのを計画しています。その前まではこんなやつを作っていたんだな。ちょっと待ってくださいね。これ、ピン間隔が1.3ミリぐらいで、100本ぐらいピンがあるんですね。それで、このところが凹構造になっていて、凹型の中に指を入れると、こういうふうピンがぶるぶる振動して、指先を刺激する。これはもともとバーチャルリアリティー研究の一環です。

○はい。

■例えば、指先が辺に接触したとすると、ふくらみをもっと線状に指先が刺激される。角だと接触する強さによって、点から楕円へと変化する、ということで指先がどのような形に触れているかを提示するものですね。

○なるほど。

■あとは、これは触ったときの凹凸を提示するディスプレイ。これがマウスなんですね。通常のマウスなんですけれども、左クリックの部分に8×8のディスプレイがある。このボタンのところですね。指をこういうふうに置くと感じることができますね。これは知覚障害者用のディスプレイなんです。

○ピンディスプレイみたいなもんですか。

■そうなんですね。視覚障害者がパソコンを使う場合、表示画面上の文字情報というのは、今は読み上げソフトがあり音声で教えてくれる。でも、図のレイアウトとかグラフィクス情報はとかは、やっぱり触ってみないとわからない。ということで、聞いて触れるディスプレイというやつをつくりまして。
 実際にこうコンソール画面上をマウスを使ってなでるとその画面上の凹凸というのが、わかる、するとグラフィクス情報も分かるのでは、というやつです。

○ふむ。

■こういうのをやっているうちに、やっぱり材質感というんですか、布地だったら布地を触ったような「材質感ディスプレイ」というのが実は非常におもしろいなと思って現在開発を進めています。

[14: 人間の指は周波数応答性が高い]

○昔からこういう触覚ディスプレイを見て不思議に思っていたんですけれども、あれって、要するにピンの出し入れなわけですよね、基本的には。そのピンの出し入れで、触覚を提示する。

■ええ、そうです。

○ピンの出し入れをどう制御すれば、こういう感覚になる、というのって、いったいどうやって決めていくんですか。

■あれは振動覚しかわからないんです。だから、そういう意味で言うと「本当の触覚」ではない。「本当の触覚」というのは何かというのは実は難しい。
 触覚というのは、基本的には本当は、広い面積にわたる3次元表現なんですね。

○ん?

■広い面積のところに3次元形状があって、人間がそれを自由になでることができて、かつその部分が例えば柔らかい部分であれば押せば適当にへこむし。あと熱的特性。例えば、木だと熱伝導率が少ないんですけれども、金属だと熱伝導率が高いからひやっとするとか。そういうのを全部出さないと、実は本当の触覚ディスプレイというのはできないんですね。

○はい。それは分かります。

■人間の触覚が一番難しいというのは−−ちょっと話が前後しちゃいますけれども、視覚というのは「非接触」なんですね。だから、離れたところから光--強弱,波長ですね--で出せばいいんです。
 けれども、人間の触覚は「接触情報」ですね。接触情報だと、いろいろな物理量が複雑に絡み合ってくる。
 それと、人間の指というのは周波数応答性が意外と高いんです。

○どういう意味ですか?

■応答性が高いというのもおかしいんですけれども、ある文献によると、1キロヘルツぐらいの周波数特性のある刺激を与えなくちゃいけない。

○そんな細かい分解能があるんですか、人間の方に。

■あるんです。時間に対してですね。
 普通は、こういう機械的な刺激を出す場合は、数100ヘルツオーダーでしょう。人間というのは少なくとも1キロヘルツ。文献によっては、10キロヘルツというのもありますが。

○へえ〜。

■「ファントム」ってご存じですか。よく触覚ディスプレイとして利用されています。手術訓練用の操作力の提示装置として使われていますね。3軸のマニピュレータの先端に指貫型のサックがついており、人間の指先をそこに入れて使うものです。

○ああ、何かここがあるとどうのこうのという。

■ええ。あれがやっぱり1キロヘルツなんですね。少なくとも、1キロヘルツくらいの応答性がないと触覚というのは、だませないんです。もっとも凹凸、動き等の力学量についてですが。
 本当の触覚というのは分布量なんですね。だから、ピンで触覚提示をやろうとすると、ピンがいっぱい3次元的な形状にあって、これがすべて1キロヘルツぐらいの応答速度で動かないとだめなんですね。だから特に難しい。かつ、動きだけじゃなくて、熱の特性とかいろいろなファクターがかかわってくるわけですね。そうしないとだめだという、そういう難しい感覚ではありますね。

○ふ〜む。

[15: 触覚のイリュージョン]

■そういう意味で言うと、聴覚というのも、音も空気の震動波だけなので、そう難しくはないのですね。
 触覚というのは接触量で速い周波数応答性が必要で、高かい空間分解が必要で、かつ温熱特性も必要だというところからして難しいんです。
 ただ、だますことはできる、いろいろなテクニックがあるから。

○例えばどんなテクニックが?

■ここでも、例えば触覚のイリュージョンというのがあるんですけどね。仮現運動とかファントムセンセーションですね。例えば仮現運動は、指先の2点を時間間隔を制御して刺激すると、刺激点が2点間の間を移動するのですね。例えばこれは視覚の例ですが、電光掲示板など並んだランプの点滅がある時間間隔で続いて行くと、スムーズに発光点が動いているように感じる現象と同じですね。ですから、鉛筆がなぞったような感覚で与えたいとか、それはできるんですね。

○要するに触覚の錯覚ですよね。

■そうです。仮現運動によって動いていくような感覚が生じる。こういう例は、これはある程度少ない数の物理的刺激でもって、より細かな位置刺激も伝えられる、そういう錯覚ですね。

○粗い解像度だけどリアルに見えるみたいな、そういうことの触覚版。

■ええ、そういうことです。

○ほかには触覚の錯覚ってどんなものがあるんですか。

■あとファントムセンセーション。2つの刺激がほぼ同時に加えられると、2つの刺激位置の中間に感覚が感じられる現象です。感じられる位置は、2つの刺激強度および刺激間時間遅れによって変化します。刺激強度の強い方にずれる。刺激間の距離は左右の指先のように離れていても可能だそうです。その場合の仮の感覚(phantom)は片方の腕を上がり、胴体を過ぎ、もう片方の腕へと、遅延時間を変えることで移動する。しかしながら、このように離れている場合、感覚は弱くて、最良の場合でも、実際に刺激を加えた点における2つの機械的振動以外の3つ目の感覚と知覚されるそうですね。
 ほかにはあまり知りませんね。

○意外とでも知られてないだけで、本当はありそうな気がしますけど。
 そういや、お台場のソニーエクスプローラサイエンスの中にもいくつか展示されてましたよ。

■うん、そうです、あるかもしれない。あとは「アリストテレスの錯覚」というのがある。ちょっと忘れちゃった。こういうふうにやると、どうやったかな。

○なんか歪んでいるように感じとか、そういうのですか。

■ああ、わかった。これは、人差し指と中指を交差させ、その間に細い棒をはさむと、1本の棒が2 本に感じられる現象ですね。

○「錯触」ですか。

■錯触。他にも確かに、探せばいろいろあるかと思うんですね。

○最近の聴覚の研究でも、錯聴とか、ありますよね。あのへんの話を聞いてると結構おもしろいのがいっぱいあるんだなと思って。人間の感覚は結構いいかげんにできているんだな、多分、そういうのがいっぱいあるんだなと思うんですが。

■ええ、そうなんですね。
 だから、実際に物理的な量をそのまま提示すれば感じるというのは真理ですが、でもそれはあまり利口ではないんです。だませればいい。

○そもそも人間が情報処理するのに色んなところを端折ってるから、そういうことが起こるわけですよね。

■そうです。ともかくだませればいいんです。錯覚もその一つ。どうだますのかというのが、アイデアですね。

[16: サッカーチームから神経インタフェース研究つながりに]

○触覚のディスプレイとかが、普通のやり方の触覚のインターフェースだとすると、より直接的というとあれですが「神経に直接つないでしまえ」というのは、また1ランク上がりますよね。昔からSFとかではよく出てきますが。下条先生がそういうインターフェースの研究の方に入ったのはどうしてだったんですか。

■これは実は私ではなく満渕先生です。私は満渕先生と一緒にちょっと入ってるだけなんです。

○じゃあ、もともと満渕先生と一緒にやることになったのはどういう経緯で?
 先程、筑波つながりというお話がありましたけれども、そのへんのお話を教えてください。

■ええ。満渕さんは、ラグビーとかサッカーが好きなんですね。しかも自分でやるのが好きというタイプ。私が昔所属した筑波の研究所にサッカーチームがあったのですね。弱いですが。

○サッカーチーム?

■ええ。いつも人数が足りない。満渕さんと石川先生が学生時代の友達だったんですね。それで研究室の同僚であった石川氏が、試合のたびに満渕先生を引っ張ってきたと。そういうことがありまして。だから20年ぐらいですね。それで、お付き合いができ、仕事をやり始めたのが始まりですね。

○はー(笑)。
 それで触覚は? 最初から触覚つながりだからという感じだったんですか?

■いや、満渕さんは、もともと触覚ではないんです。ご存じかもしれませんが人工臓器、人工心臓をやっていました。
 それで、今回「未来開拓」という題のプロジェクトがあって、その中で未来につながるようなことをやろうというので、そういう話を始めたと。そういうことなんです。

○なるほどね。

■満渕さんの研究については『先端技術が拓く医工学の未来』(古川俊之編/アドスリー)を読んで下さい。

次号へ続く…。

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◇毎日 スイカ定期券、今秋から新幹線や駅のコンビニで利用可能に
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◇読売 「日本育英会」で奨学金1500億円焦げ付きフリーター返さず、9〜5時大甘取り立てで“不良債権化”
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/yw/yw03031601.htm

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http://www.zakzak.co.jp/top/top0307_3_30.html

◇ZAKZAK 地球温暖化でゴビ砂漠からの黄砂が増加 2000年以降、3年連続して増加
http://www.zakzak.co.jp/top/t-2003_03/3t2003030729.html

◇ZDNet 現役高校生が語る「ケータイライフ」
http://www.zdnet.co.jp/mobile/0303/07/n_seito.html

◇BizTech 横浜市、元町商店街で歩行者への無線情報配信実験
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◇japan.internet.com JR東日本「Suica」利用者、電子マネーサービスを「利用したい」が7割
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◇Internet Watch 東レインター、“オートIDセンター”のタグ管理仕様に対応したICタグ
http://internet.watch.impress.co.jp/www/article/2003/0305/toray.htm

◇GameWatch 連載100回を微妙に突破!! 2年にわたり紹介した100の“e-Toy”を振り返る特別企画
http://www.watch.impress.co.jp/game/docs/20030306/toy102.htm

◇日本惑星協会 プルート・カイパーベルト・ミッションの打上げが確定
http://www.planetary.or.jp/HotTopics/topics030305_2.htm

◇タニタ 体脂肪計、血圧計、歩数計に通信機能を持たせ自宅のパソコン上で 健康管理が出来る世界ではじめての 通信機器対応型ヘルスサポートネットワークセット 「ヘルスプラネット」新開発
http://www.tanita.co.jp/topics/helthpl.html

◇エプソン、12.5グラムの超小型ロボット「ムッシュII-P」発表
http://www.epson.co.jp/osirase/2003/030310.htm

◇東芝 ノートパソコン用小型メタノール燃料電池の開発について
http://www.toshiba.co.jp/about/press/2003_03/pr_j0501.htm

◇AIST TODAY  2003.03 VOL.3 No.3
http://www.aist.go.jp/aist_j/aistinfo/aist_today/vol03_03/vol03_03_main.html

◇人工衛星観測ナビゲータ
http://star.gs/~sat/sat/jin_i.cgi

◇PC Watch 人と機械の境界面 第3回 人類初の“サイボーグ”−ケビン・ウォーリック教授来日 〜インタラクション2003レポート
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0306/kyokai04.htm

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NetScience Interview Mail Vol.223 2002/03/13発行 (配信数:24,815 部)
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編集人:森山和道【フリーライター】
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