NetScience Interview Mail
1998/12/24 Vol.034
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◆This Week Person:

◆Person of This Week:
【中田節也(なかだ・せつや)@東京大学 地震研究所 火山噴火予知研究推進センター 助教授】
 研究:火山岩岩石学
 著書:『火山とマグマ』(共著、東京大学出版会)
    『防災』(共著、東京大学出版会)
    ほか

 ホームページ:http://hakone.eri.u-tokyo.ac.jp/vrc/nakada/index.html

○今回も火山の研究者、中田節也氏にお伺いします。脱ガス効率を支配しているものは何なのかといったことを伺います。
 7回連続予定。(編集部)



前号から続く (第4回/全7回)

[09: 火山学の目指すところ]

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○基本的に火山学という学問の目指しているところというのはどこにあるんでしょうか。一つは社会的要請で噴火予知、っていうのはあると思いますが、もう一つはサイエンスとして火山が面白いというのが当然ありますよね。先生はどちらの方に重点を置いていらっしゃるんですか。先生の中での棲み分けというのか…。

■日本の火山屋さんの多くは、純粋なサイエンスとして火山学を捉えているんですね。それをやれば噴火予知もできるだろう、お釣りみたいな形でね、そう捉えている人が多いと思うんです。僕自身もそうですけヌ。で、本当に噴火予知だけに取り組んじゃうと、過去にどこどこで何年前に噴火しましたという、単に星取り表を作っちゃうだけになっちゃうんですよ。もっと、火山の根本までやらないと、最終的には噴火の予知はできないんです。だから、ほとんどの研究者っていうのは、噴火に伴う現象の、科学的な意味づけ、あるいはメカニズムの解析を目指していると思うんです。

○ええ。

■僕自身も、火山ごとにどうして脱ガスの過程が違うのかということをやりたいと。それができると噴火予知がすぐできるかというと必ずしもそうじゃないんだけど、こういう性質のマグマは過去にこういうことやっているというのが分かったら、オプションとしてね、噴火のオプションとしてより具体的にこういうことがあり得る、ということは言えると思うんです。
 そうじゃなくて、規模の大きい噴火と、雲仙とかセントヘレンズみたいな奴は基本的にマグマ溜まりの大きさが違うんだということになるかもしれないですね。それはよくわからないんですよ。

○ふーむ…。

■僕自身はマグマが上昇するときの脱ガスが重要だ重要だと言っているけど、ひょっとしたらそれは、地下に準備されたマグマの量が違うせいかもしれないんですよね。
 たとえばカルデラを作るような大きな噴火というのは、一気に何百立方メーターという量が出るわけですよね。ところが雲仙とか、セントヘレンズとかも本当は大した噴火じゃなくて、そういうものだと、一立方キロを遙かに下回ると。だから下で用意されているマグマの量が、ずいぶん違うんですよね。
 脱ガス速度はもちろんマグマの上昇速度によって決まるんですけど、大きなマグマ溜まりがあった途端に、一度噴火が始まれば、とんでもない速度でマグマが上がってくると。それはどうしてかというと、地下のどでかいマグマ溜まりで、結晶化がおこるなどでほんの少しだけ密度の変化があったとしますよね。でも、マグマ溜まり全体としてはとても大きな浮力になりますね。それが溜まりの天井の一ヶ所に集中すると、簡単に地上まで割れ目ができてしまって、一気にマグマが上昇してしまうかもしれないんですよ。

○割れ目が発生するメカニズムというのは分かっているんですか?

■それは単なる破壊ですから、マグマ溜まりの天井に対して、下のものがどれだけの圧力をかけているかですよね。単に割れ目試験をやっているだけで、どれだけの圧力をかければモノが割れるかということですよね。

○火道は斜めに上がるものが多いというふうに聞きましたが、あれは何か理由があるんでしょうか?

■いや、それはね、事実としてそういうのが多いんですよ。雲仙もそうだし、桜島もそうなんですよね。最近、地震学的にマグマの上昇が捉えられていると思われているのは、ほとんど斜めに上がってきてますね。
 で、なんで斜めに上がるのかということは実はよく分かってないんだけど、ただそれはマグマそのものには問題はなくて、上の岩盤がどれだけ不均質に押されているか、曲がっているかという問題なんです。ですから入れ物の問題です。

○なるほど、破壊試験と同じだと捉えるとそうでしょうね。
 でもそういうことを全部捉えないと、噴火がどう起こるかということも分からないんですよね。

■そうそう。だから噴火予知学なんてものは、単独では存在しえないんですよ。テクトニクスもやらないといけないし、マグマの結晶や脱ガスということもやらないといけないし、岩盤試験みたいなこともやらなくちゃいけないし。

[10: 雲仙の火道を掘る理由]

○先生が中でも脱ガスに注目された理由は何ですか。

■うん、取りあえず、雲仙と一番近場で比較できるのは、セントヘレンズだったんですね。セントヘレンズは溶岩ドーム噴火もしたし、爆発的噴火もした例だったんですよ。もちろんピナツボというのもありますが、あれはちょっと規模が違いますから。取りあえず、雲仙とセントヘレンズを比べてやろうと。そうすると出たマグマの量というのは変わらないんですよね。だけど一方では大爆発しているし、もう一方では溶岩ドームができるだけだった。その違いは何かというと、脱ガスの違いだと思うんですよ。それをもう少しマグマの上昇の仕方っていう面で、きちっと捉えたいんですよね。

○それだけですか?

■それもあるし、最近の世界中の珪酸分の多い噴火を見てみると、雲仙が一番極端なんですよ。つまり、溶岩ドームを作るだけに終わった、という意味でね。初めから終わりまで爆発力のない噴火だった。他の奴はピナツボを逆のエンドメンバーとして捉えるべきなんですけどね、その中間くらいにセントヘレンズがあって、それから、もう少し最近ではカリブ海で今噴火しているスーフリエールヒルズ火山っていうのがあるんですけど、それも最初は雲仙と似トいたんですよ。ところがある時点から急に爆発的になってきて、セントヘレンズ的になったんです。
 そういう意味で、雲仙っていうのは、珪酸分の多いマグマの噴火が爆発的から非爆発的まであるうちのもっとも静かな噴火の端成分的なものなわけですよ。そういう端成分の研究をきちっとやっておく必要があると思うんです。それで、とにかく雲仙で何が起こっているのかボーリングをしてきちっとさせたいという目論見なんです。

○なるほど。

■火道に穴を掘りたいっていうのも、雲仙では掘る意味があって、セントヘレンズでは掘る意味がないわけですよ。なんでかっていうと、セントヘレンズでは爆発的な噴火と、非爆発的な噴火を繰り返しているわけです。で、そこでボーリングやってみたんでは、両方の効果が地下に残っているとすると、掘ってみて岩脈や火道に当たったとしても、そこに残っている痕跡から読みとったモノが、何を意味しているかが分からないでしょう。

○ええ。

■ところが雲仙の場合は、溶岩流を出したこともありますけど、軽石噴火をするような大爆発はないわけですよ。だから雲仙の火道を掘ることで得られた情報は、全て非爆発的な噴火現象に還元することができるわけですね。

○なるほど、分かりました。

[11: マグマの上昇速度そのものに違いが出る理由]

○そもそも脱ガスの効率に大きな差が出る理由はどこにあるんでしょうか? つまりはマグマの上昇速度の違いなんでしょうけど、マグマの上昇速度そのものに違いが出る理由は…。

■それもよく分かってないんですよ。火道を掘ったときに、それが読めるかなという希望はあるんですけどね。
 マグマの上昇速度と脱ガスの効率というのは裏腹な関係にあって、例えばですね、マグマが上昇し始めて発泡しはじめるでしょ。そのときにできたガスが外に逃げてしまうと、そのマグマは液体だけのままでいますから、浮力は稼げないわけですよ。ところが泡のままでいると、浮力を稼いでもっと上昇速度は速くなります。

○ええ、ええ。

■で、先ほどは泡と液体がくっついていると言いましたけど、もっと深いところで泡のある流れと泡のない流れが区別されていて、泡だけが優先的に火道の外に逃げたとすると、中身は浮力を稼がないで上がることができますから、ゆっくり上がることができるわけですよ。
 ところが、泡が逃げなかったとすると、マグマの中に泡がいっぱいできますから、浮力を稼いで、もっと速く上がってしまう。速く上がれば上がるほど、火道の壁に対して、単位時間に接するマグマの量は多くなりますから、ますますガスは逃げにくくなるわけですね。もともと、火道の壁への脱ガスの効率はそんなによくありませんから。で、遅ければ遅いほど、ガスは逃げることができるから、上昇速度はますます遅くなるわけです。そういうことかもしれない。

○でも、それでは結局、なぜガスが逃げるか逃げないかの差がどこにあるのか分からないんですが…。

■差はつまり、マグマが通る「壁」にあるわけです。

○ ああ、そうか。壁そのものの材質──というか、いっぱい岩脈が走っているとか、断層があるとかそういうことによるわけですね。
 …でも、火道の太さとか大きさとか、形にもよるんじゃないんですか?

■そう、それが問題なんですよ。

○…結局のところ、何が支配的なんでしょうか?

■それも実は分かっていません、残念ながら(笑)。分かってなくて、同じ様なガスの透過率であれば、表面積の大きいほう、つまり径が小さいほど、あるいは平面のような形をしているほど、脱ガスの効率はよくなるはずですね。接している面積は大きくなりますから。
 ところが、それも分かってないんですよ、本当の火道がどんな形をしているのかが。基本的には穴を掘れば、複数の穴を掘れば形状も分かる。壁のサンプルも採れるわけですからね。実際に地上に持ってくる、あるいは直接持ってこなくてもボーリング孔の中で放射線を使って、密度とか透過率とか穴の空き具合とかを見ることができますから、それを調べられると思うんですよね。

○ふーむ。

■だから実はエンドメンバー的だといったけど、雲仙だけじゃなくって、ピナツボ式の火道も掘ってみないと対比が出来ないんだけど、まあとにかくエンドメンバーでやってみて、理論的にこういう値でうまく脱ガスが起こるかどうか検討ができるとは思うんですよ。

○じゃあ雲仙は、岩の質が脱ガスしやすいものであったんじゃないかというのが仮説なわけですね。ひょっとすると全然違うかもしれないんですか?

■違うかもしれない。実際には透過率の悪いものが詰まっていたということもあり得ますね。

次号へ続く…。


<まぐまぐ>年末年始休みのため、今年は本号が最後の配信となります。
次号は1月7日配信となります。

よいお年を&メリークリスマス!


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NetScience Interview Mail Vol.034 1998/12/24発行 (配信数:10,321部)
発行人:田崎利雄【住商エレクトロニクス・ネットサイエンス事業部】
編集人:森山和道【フリーライター】
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