NetScience Interview Mail
1998/12/17 Vol.033
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◆This Week Person:

◆Person of This Week:
【中田節也(なかだ・せつや)@東京大学 地震研究所 火山噴火予知研究推進センター 助教授】
 研究:火山岩岩石学
 著書:『火山とマグマ』(共著、東京大学出版会)
    『防災』(共著、東京大学出版会)
    ほか

 ホームページ:http://hakone.eri.u-tokyo.ac.jp/vrc/nakada/index.html

○今回も火山の研究者、中田節也氏にお伺いします。
 7回連続予定。

○弊誌の発行部数がついに1万部を超えました! どうも有り難うございます。
 これからもよろしくどうぞ御願い申し上げます。(編集部)



前号から続く (第3回/全7回)

[05: 地震波トモグラフィーとマグマ溜まり]

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○最近、地震波を使ったトモグラフィで深部構造を見ようという動きも盛んで、かなり注目されているようですが、あれについてはどうですか。

■トモグラフィでマグマ溜まりが十分に掴めるまでには、まだ至っていないんです。近い将来かなり良い制度でマグマ溜まりの位置や大きさが分かる可能性はありますけど、今のトモグラフィだと1キロ四方とか、よくても500m程度の解像度ですね…。今はちょっとそれ以上は解像度を上げられないですよね。

○ふーむ。

■それで、あることはあると分かっても、深さに関しては不明確であったり、というのがあって、きちんと分かっているのはほとんどないんですね。
比較的分かっているのはハワイのキラウエアの下のマグマ溜まりで、いびつな形をしているのがある、というのは有名ですね。それはなんで分かったかというと、周りで火山性地震がいっぱい起こりますからね、起こってないところだけ内側を囲むと、どうもマグマ溜まりらしい、と。
 だけどマグマ溜まりの中で、はたして液体の部分がどれだけあって、高温で少し溶けているだけかもしれない部分がどれだけあって、ということは、少しも分かってないんですね。

○じゃあ構造まではとても分からないわけですね。将来的には?

■将来的には、もっとマグマ溜まりのディメンジョンを決めたり、中身を読みとるっていうのは可能だと思いますけどね。もっと小さい微小地震を捉える機械が発達するとか、3次元的に波線の通ったところをもっと細かくインバージョンをやるとか、地震の波形解析をもっとやるとかね、方法はあると思いますよ。

[06: 仮想のマグマ上昇を高温高圧実験で再現する]

○そこから上はどうなんですか。火道から上ということですが。

■たとえば僕が興味を持っている何かというと。。。さっきから言っているように、マグマが上昇するときに脱ガスがおこるわけですね、脱ガスの速度によって、できる細かい結晶の密度というか、数が違うんですよ。ついでに結晶の組成も違うんです。それを正確に読みとってやると、マグマが地下からどのくらいの速度で上がってきたかということがある程度読めるんですよ。これを使って、マグマの上昇速度から脱ガスの効率を深さごとに決めていくようなことを定量的にやりたいと思っているんですけどね。

○なるほど。

■それは天然の試料からの解釈だけでは無理で、天然と同じ様な条件の実験をして、できたものと比べてやらないといけないですね。こういうことをやって、マグマが地上までどういう風に移動してきたかということを、つまりそのマグマの経歴を見てやりたいとおもって、いろいろ考えてはいるんですけどね。

○高温高圧実験をして、その結果を実際のところに戻してやる、と。それによって噴火の様式が分かるだろうということですか。

■そう。高温高圧実験っていうのは単にやるわけではなくって、目的のところの温度と圧力の条件に持っていったらどうなるか、という実験しか今のところやられてないんですが、そうじゃなくって、目的の水が入った仮想的なマグマを、目指す温度圧力にもっていってやって、仮想的なマグマ上昇の速度で、時間・圧力・温度をコントロールして移動してやるわけですよ、仮想の地上まで。だから、この場合は減圧実験ですが、それでどのくらい天然のモノを再現できるか。そういうことをきちんとやりたいんです。

○雲仙ならこう、ピナツボはこう、セントヘレンズならこう、という形でですか。

■そう。それをやると、上昇速度というのはおそらく脱ガス効率が決めているはずで、火山によって噴火の様式が違うのは、脱ガス効率がこうこうだからこう違ってきたと、はっきり言えると思うんです。

○溶液の組成というのは問題にならないんですか。

■組成はミクロには違うんですけど、マクロには、雲仙も、ピナツボも、セントヘレンズもほとんど同じですね。

○上昇速度っていうことは、圧力をどう低下させるかということですよね。それだけであれだけ噴火の様式が違うというのは驚きです。

[07: 火道の中の動きは捕らえられるか]

○ところで、火道の中ではメルトと気泡が別々に流れるのではないかという話はいろいろと面白そうです。あれは、どういう考え方からでてきたものなんですか?

■一番の問題は、メルトと、ガスを分離するということですよね。最終的に分離できれば、爆発的な噴火から非爆発的な噴火に変わっちゃうわけだから。で、分離っていうことを考えると、工学的な話とかありますよね、粉体流とか。密度の違うものは周りに寄せられるとか。そういう実験結果などから出てきた考え方なんですよ。

○しかし、粉体の話は非常に難しいらしいですね。そうすると、火道の中のマグマの動きなんか、ますます分からなくなってしまうんじゃないかという気がしますけど…。面白いですが、非常に難しそうだな、と…。

■難しいでしょうね(笑)。

○逆にマクロな目で見ると、そういう動きとかは関係なくなるんでしょうか。

■ある意味ではそうだろうと思うんですよ。でも、そういうちょっとしたことで、爆発的になったり非爆発的になったりするんじゃないかなと思うんです。

○上昇してきた奴が止まったり、あるいは沈降したりするのもそういう動きに寄るのかもしれないと?

■そうですね。

[08: 噴火活動のサイクル?]

○御本などを見ると、普賢岳は火山噴火指数に直すと「2」で、ごくごく小さい噴火であるということでしたね。でも一般では、普賢岳は凄い噴火だったと捉えられていると思うんですけど…。

■まあそれは、長い期間にわたったということと、人が何人か死んだということでそういうんでしょうね。それと、火砕流を茶の間で見られたということで、いかにも凄い噴火だというんでしょうね。でも規模でいえば、あんまり大きくないんですよ。

○昔は日本でも、2万年前の姶良(あいら)カルデラとか、6300年前の鬼界(きかい)カルデラとかを筆頭に、信じられないくらいの大きな噴火があったというデータが残っているわけですよね。一方で最近は──というと「最近」っていつだって言われちゃいそうですけど──それほど大きな噴火はありませんね。ああいうのは、地球全体の活動とか、環太平洋火山帯の活動であるとか、そういうサイクルのようなものがあるんですか?

■それは色々と議論されていて、ある人はサイクルがあるんだと言いますね。
 大噴火っていうのは、何千年か何万年かに一回しか起こらないっていう統計があるんですよ。日本では6000年前が一番新しいけれど、世界的には大噴火っていうのは例えば、インドネシアのタンボラっていうのは200年くらい前に噴火しているんですよね(1815年、死者92,000人)。だから世界的には何百年間に一回あるわけですよ。日本っていう狭いところを見ると、それこそ一万年に一回しか起こらないのかもしれない。たまたま我々がその狭間にいるだけかもしれない。

○実は火山の噴火という現象を、どう捉えれば良いんだろうか、ということも、今回お伺いしたかったことなんです。しょっちゅう起こっているようで、あんまり起こってないような気もするんですよね。凄い大規模な現象のようにも捉えられるし、一方でそうでないような気もする。桜島とか火山の間近に住んでいる方々とかは全然別の意識を持っていらっしゃるでしょうけど、大多数の日本人はそう思っているような気がするんですけど…。

■うん、その話の続きですけどね、最近小さい噴火がしょっちゅうありますね。これは数十年前からするとずーっと起こっているんですよ。ところが最近TVとかですぐ情報が流れるせいで「最近噴火が多いんじゃないか」という人がいるんですね。ところが我々からすると、普賢岳以降、ろくな噴火が起こってないんですよ。
 だからかえって、昔は、何年かに一回くらいは全国の大学が一斉に出かけていって観測するような噴火があったんですけど、ここ最近は、日本全体では噴火のレベルって下がったんじゃないかなあと思いたくなるくらいなんですよ。
 まあ、それは単にサイクルのどこもあるかだけの問題でしょうけどね。だから日本全体でも、短期間をとってみれば噴火が多かったったり少なかったりするだけの問題で、長い目で見れば、噴火のレベルが日本全体で上がってきているとか下がってきているかということはないんですよ。

○なるほど。

[09: 火山学の目指すところ]

○基本的に火山学という学問の目指しているところというのはどこにあるんでしょうか。一つは社会的要請で噴火予知、っていうのはあると思いますが、もう一つはサイエンスとして火山が面白いというのが当然ありますよね。先生はどちらの方に重点を置いていらっしゃるんですか。先生の中での棲み分けというのか…。

次号へ続く…。

[◆Information Board:イベント、URL、etc.]

■新刊:
◇『科学とオカルト』池田清彦 (山梨大学教育学部教授)著 PHP新書 本体:657 円
現代科学はオカルトから生まれた!?科学万能・科学至上主義の現代社会の盲点を解明。
http://www.php.co.jp/shinkan/ISBN4-569-60443-9.html

■イベント:
◇投票企画<ベスト・サイエンスブック'98>開催
http://www.moriyama.com/questionnaire/questionnaire98.html

◇21世紀の地学教育を考えるプレ大阪フォーラム ('99/01/23, 13:00-18:00)
 大阪教育大学附属高等学校 天王寺校舎小講堂
 講演者:中川康一、丸山茂徳、山極隆、磯崎哲雄、川西寿美子、池中隆
http://www.sci.osaka-cu.ac.jp/~knaka/osaka-forum.html

■URL:
◇科学教育研究協議会ホームページ
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◇NECコンセンサス:宇宙線研究所・神岡宇宙素粒子研究施設
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NetScience Interview Mail Vol.033 1998/12/17発行 (配信数:10,145部)
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編集人:森山和道【フリーライター】
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