NetScience Interview Mail
1999/12/23 Vol.082
NetScience Interview Mail HOMEPAGE
http://www.moriyama.com/netscience/

NetScience Interview Mail : Free Science Mailzine
科学者インタビューを無料で配信中。今すぐご登録を!
電子メールアドレス(半角):
【その他提供中の情報】
| 新刊書籍情報 |
| イベント情報 |
| おすすめURL |
etc...


◆Person of This Week:

【松元健二(まつもと・けんじ)@理化学研究所 脳科学総合研究センター】
                認知機能表現研究チーム 研究員
 研究:認知脳科学
 著書:朝日文庫『脳の謎を解く1,2』共著ほか

研究室ホームページ:http://www.brain.riken.go.jp/labs/cbms/

○認知脳科学の研究者、松元健二さんにお話を伺います。
 8回連続予定。(編集部)



前号から続く (第8回/全8回)

[27: 研究者の道]

科学技術ソフトウェア
データベース

○<インタビュー・メール>で必ず伺うことにしていることがあるんですが。このメールニュースは、大学院生や、研究者になろうかどうしようか迷っている人もけっこう読んでいると思うんです。そういう人たちに何か。何を考えて、どう、研究をやるべきなのか。なぜそういう道を選んだのか、ということです。  ちょっと直接的な聞き方すぎて、答えにくいかとは思うんですが(笑)。

■そうですね。答えにくいといえば、私自身が、研究者の道を他の道と比べて、いいのか悪いのかということを答えられないので、その点では言いにくいということはあるんですが。
 でもなんにしても、「何をやるか」ということだと思うんです。研究にしても、「本当にやりたいことは何か」というのがまずあって、それでどういう研究をしていこう、というのが本来あるべき姿だろうと。研究そのものが目的であるとか知的好奇心のみを強調する人が、この世界かなり多いと思うんですけど、私はそういう考え方にはむしろ否定的です。

○松元さんはある意味非常に珍しいというか、変わったケースじゃないですか? だって高校生のときから脳の研究をやりたいと思っていたわけでしょ。それでいまやっているわけですから。そういう人って意外とあんまりいないんじゃないかと思うんですけど。

■そうですかね(笑)。意識についてはちょっとまだ届かないなというところなんですけどね。

○特に最近は、目的もなく大学に入り…っていうのが普通のパターンだと言われているくらいですから。

■大学はいるときに目的はなくてもいいと思うんですけどね。そのあとに目的ができたら、目的を達成するために何をすべきかということであって。だから、やっぱり…。実際に、何をやったか。だと思うんですよね。
 非常に漠然とした言い方してますけど。
 先日、日本テレビの『知ってるつもり!?』でオギノ式の、荻野久作博士の番組があったでしょ。あの人の生き方なんか素晴らしいなと私は思ったんです。結局臨床家として生きていくということだったんですけども。子供のできない女性の当時の切迫した状況を背負って、自分自身の体験に基づいた問題意識を凄く強く持って、ああいう研究に向かったわけですよね。そして臨床に還元していく。ああじゃないとだめなんじゃないかと思うんです。

○あの番組は僕も見ました。あの当時、まったくわかってなかったころ、データを取るだけでも大変な時代に、大量のデータをあつめ、何をしていいかも分からなかったところで、ああいうパターンを発見するというのは研究者としても人間としても面白いなあと思いました。

■ああいう感じの生き方ができるといいなあと思うんですよね。
 そういう意味では、単に「意識とはなんなのか」という漠然としたこと、あるいはその意識を解明することだけを目的として生きていく研究者というのは、実はあまりよくないんじゃないかと私は思っているんです。
 なぜ意識を研究するのかということを、もっとビビッドに感じることができてないような状態で意識を解明しようというのは、ちょっと無理があるんじゃないかと思うんですよね。まあその辺が私自身の悩みだったりもするわけですけども。
 さっきの話にちょっと戻ってしまいますが、社会の変革だとか共産主義革命だとか、そのスジの人たちは言うわけじゃないですか。革命を起こそうなんていうことを、私自身が起こさなきゃならないなんてことは思えないわけですよね。そういうふうに思える人は、たぶん生き方として、ある意味で楽というか、明確な生き方ができるんだと思うんですね。そういう生き方している人も実際に知ってますけども。彼らは、一般的な人たちの人生からすると、まあかなりつらい人生を送っているわけですよね。それでもそういう人生を選ぶっていうことは、そういう思想に対する自信と誇りっていうのが多分あるからで。
 研究者も本来そうあるべきで。宇野弘蔵っていう経済学者がいますけれども、彼なんかも、多分そういうタイプの人なんでしょうね。

○さきほどから引っかかるんですが、意識の研究をするならば、「なぜ意識の研究をするのか」ということを考えなければならないと。では先生の場合、その「なぜ」というのは?

■それがまあ、私の悩みといえば悩みなんですけどね(笑)。これをきちんと言えないといけないんですけどね。
 先ほどちょっとお話したように、人間が実践するっていうのはどういうことなのか。そのことをきちんと明らかにできたとすれば、それは、そういう実践を非常に重視した思想に対して、かなり影響を与えられるのではないか。本当は、その思想を自分がもって実践しないとダメなんですけども。そういう部分にコミットしたいというのがあるんです。
 だから一つは、実践を重視した思想へのコミットということです。あるいはコントリビューションですね。

○科学からの?

■科学からの。  そしてその実践っていうのはもちろん、単に体を使って外界とこんなふうに相互作用したというのではなく、武谷の技術論に見られるような、まさに意識的な、客観的法則性の意識的適用ということが常に行われているわけで、意識をぬかしては考えられるものではないだろうなと。だから意識を漠然と抽象的に捉えたらダメで、どういう意識かということを具体的に問題にしながら出していかないとダメなんだと思うんです。だから一つには、刺激とか反応──反応とは運動だと私がサルにやらせている課題では捉えているんだけれども、それと、フィードバックされる報酬。報酬っていうのは、少なくとも私がやっているサルの系では、それが目的になっているわけです。
 だからある目的をもって、外界をどう認識して、どう反応して、またその結果がどうフィードバックされるか。そのインタラクションの中で、意識がどういうふうに作られていくか、ということを具体的に問題にする必要があるだろうと。

○ふむ。

■まあ、ちょっと漠然とした話なんで(笑)。

[28:「意識」の解明のためには ]

○ていうか…。
 外界を認識し、動いて、課題を処理して、それをフィードバックして学習するっていうんだったら、それだけだったら、それはロボットじゃないですか。工学の人がいう「知能」、課題をクリアするという意味での知能と区別がつかないんじゃないですか。それを「意識」という必要はないんじゃないかと。
 ちょっとひねくれた質問ですが。たとえばサルが水を飲むっていうことについても、先生が仰った内容を表面だけ捉えると、ロボットでもできますよね。課題を処理するっていう、そういう意味での知能の解明はされるかもしれないけども、そこから「意識」の解明へはかなり遠いんじゃないですか。

■ええ、遠いと思います。でも、私は必要条件だと思っているんです。
 外界の認識っていうのと同時に、おそらく目的の生成っていうのがあるんだと思うんですね。目的をどのように自分の中で生成するのかということも含めて外界とのインタラクションを考えていく必要があるだろうし。もちろん、それももしかしたらロボットでできるのかもしれませんけども。
 まあ、その先どういうロボットができたらいいのか、どうなったら意識を持っていると言えるのか、ということになってしまうと、それが言えればほとんど問題は解決してますから、言えることではないですよね。でもまあ、必要条件を一つ一つクリアしていくというのはやっぱり大事なことだと思います。

○うん…。やっぱりそれしかないんでしょうけどね。
 でも…。ロボットの人たちに追い越されちゃうんじゃないですか?

■私は追い越されてもいいと思っているんです。追い越せるのならむしろ追い越してほしいと。

○ふむ。  そちら(理研)の松本元さんなんかは「分からなくても作れる」と言ってますしね。

■まああれも極端な言い方ではありますけどね。分からなくても作れる、で、それで作る、まあ作ってもらっていいんですけども、でもそれが脳を理解するのに役に立ってもらったほうが、我々としてはありがたい。役に立たなくてもいいんだと言われたら、まあこちらの頭がよければ、それを理解して、さらに脳の理解に役立てることはできるかもしれない。工学屋さんが、もしそういう気がないような研究をしているんだったら、あまり利用できないだろうなとは思いますけどね。目的の違いは研究の方向性や中身に影響しますから。特に意識の問題となったら、やっぱり、意識を持っていると思われる脳の中に、創ったロボットと同じ機構が見つからないと、そのロボットの意識については、何も言えないんじゃないですか?

○工学の人もぜんぜん興味のベクトルが違うみたいですね。

■そうでしょうね。作ることそのものは重要だと思いますよ。『脳を創る』っていうのが目的の一つでもあるわけですからね(笑)。
 私は実践っていうのを重視する立場ですから、科学っていうのは、究極的にはその研究対象をつくれなければならない。そうでなくてもその研究対象を自由にコントロールできなければならない。そのための知識体系が科学だっていうのが私の考えなんですけども、だから意識の研究っていうのが十分に進めば、意識を自由にコントロールできるようになるだろうと。

○ふむ。

■究極としては意識をつくることができるということになるんでしょうけど。まあそのときには、おそらく生命を創ることも出来ているんじゃないか。やっぱり意識というのは、生命と同時に存在するんじゃないかなあと。意識だけ独立で作り出すことはできないんじゃないかなあという気がしてますけどね。

[29: 意識を創るとは]

○どんどん話が抽象的なところにいっちゃいますが、まあいいや(笑)。
 たぶんもうすぐ、そう遠くない将来、薬理学がどんどん進んでいって、意識を変容させる薬、抗精神薬も普通に出回るようになるんだろうな、と僕は思っているんですよ。アメリカは半ばそうなっているような気もしますが。

■そうでしょうね。

○ドラッグ、あるいはアルコールでもニコチンでもいいんですが、そんなような作用を持つ、でも副作用があまりないような薬が。副作用がぜんぜんないというのは定義の問題でしょうがあり得ないでしょうけどもね。そういうものがいっぱい出回るような世の中が来るだろうと。そういう世の中は、松元さんのような社会思想を持つ人からすると、どういうふうに思えるんだろうかなと。

■社会思想ですか(笑)。いやそんなこというと本物の人から怒られますからね。
 むしろサイエンティストとしていうと、ドラッグっていうのが意識に影響を与える。それがある程度、予測した効果を与えることができる。だとしても、それは自由に意識をコントロールできているとは思わない。ある意味、破壊実験とあんまり変わらないと思うんです。まあ破壊実験よりはレセプタレベルの話ですから細かいとは思いますけども、まあV1を壊してやったらものが見えなくなりますよと。それだってコントロールと言えばコントロールなんですよ。

○ああ。

■だから、薬物でどうこうというのは、自由に意識をコントロールするっていうのにはほど遠い。そういう段階でのコントロールでしかないと思いますよ。意識の本質にはちっとも迫り得ていない。

○本質とはなんですか?

■ああ、あんまりそういう言葉を使うのはよくないかもしれませんね。

○では、どういうのが意識のコントロールだと?

■たとえば、意識を創るっていうのは、ゼロ、いま何もないところから創るということですよね。意識をコントロールするというのは、既にある意識を自由にコントロールすることができる。たとえば、いまここにある私の意識。その視覚世界を、ここで絵を描いて、こういう世界に作り替えてみましょうと。そういう時に、どういう操作をしたらどうなるか、ということですね。

○それはたとえば、幻覚や妄想といったものを、人工的に起こすといったことですか。そういうレベルで、特定の領域のレセプターだけにきくようにするとか。

■そうですね。特定の期待した幻覚や妄想などを自由に起こすということです。脳の何をどう操作したかが明確で、適用範囲も極めて広いバーチャルリアリティとでも言えるかもしれません。

○将来DDS(ドラッグ・デリバリー・システム)が発達したらそういうことができるようになるんでしょうかね。いまの薬みたいにレセプター選択的ではなく、特定の神経回路網のみに効くような形でコントロールできるようになれば、そういうことができるようになるのかもしれませんね。逆に言えば妄想や幻覚なんかは、そういうことが起こっているのかもしれませんが。

■うん、可能性はもちろんあるんじゃないですか。可能性を現実のものにするだけの科学的知識がまだない。でも将来的にはありうるだろうと思います。そういう方向に向かうものだろうと思ってますから。

○遺伝子をいじることも含めて、ですか。

■そうでしょうね。まあ遺伝子レベルのコントロールについては色々な問題がありますよね。部位の問題もあるし、タイミングの問題もあるし。レセプター関連の遺伝子だとしたら、そのレセプターが、どういう状況、文脈でどういう部位でどう使われてどうなるか、ということも問題にしないとダメだろうし。だからなかなか、実際の認識レベルの現象とは、まだずいぶん遠いんじゃないでしょうかね。

○そうでしょうね。

[30: 認知脳科学ほど進んでいない科学は珍しい]

○最近の脳の研究の成果などは日進月歩で、しかも話はどんどんややこしくなる。我々みたいな人間は、何をどの程度信じてどう書けばいいのかというのがますます難しくなっています。そういう意味で、先生方のこういう研究はクリアーに出ているところはクリアーだから、分かりやすいです。

■クリアーに見せている、ってところもあるんですけどね。それと、特に高度な認知機能ということになるほど、知識も体系も幼稚なんだと思うんですよ。コンピュータに似ている、って仰いましたよね。それはむしろ、かなり持ち上げた表現だと思うんですよ。こういう細胞活動が見られたから、この領域はこういうことに関わっているっていうことの解釈っていうのは、本当はきちんと、このような神経回路網がこういうふうに働いて、その結果としてこういうことが起こり、それだからそこには必然的にこのような認知機能が生じたのだと説得力のある説明をしなきゃいけない。でもそんな説明とはずいぶんかけ離れていますから。

○そうですね。これがどういうふうに回路を作っているかは分からないわけですもんね。

■ええ。

○もし機械の機能を調べているんだとしたら、一番最初のとっかかりの部分ですよね。

■ええ、まさにそういう段階だと思うんですよ。

○いまの脳の研究というのは、細胞レベルまでのぞくと、そういうレベルなんだなあ、というのが今日の感想です。でもそれがまた面白いし。

■そうですね。現段階で、認知脳科学ほど進んでいない科学というのも珍しいんじゃないでしょうか。でもそろそろこの分野でも、頭の切れる研究者が大量に必要になってきたような感じもうけます。ほんとにこの数年で、研究の進度が数倍にもなったように感じます。競争も激しくなってきましたし。

○あと、頭の中をどうしてもよぎったのが、<インタビュー・メール>で以前配信した神崎亮平さんらの研究のことなんですが。あれと重なる部分、というか、重ならない部分ですね、そこが面白いなと。
 といいますのは、神崎さんらは数万ある昆虫の脳の神経細胞の形とつながりの全てを追いかけようとしている。そういう形で進んでいくものがある一方、こういうレベルのものがあるというのが何とも面白いというか。

■うんうん。複雑なものほど、複雑、いわゆる高次な機能を持っていることになっていて、そこへアプローチしないといけないのに、その対象の構造っていうのは、ほんのちょっとしか分かっていない。そういう現状の中で何を言っていくか、ということになっていると思うんですよね。霊長類の連合野を相手にしているんだから高次機能に関係したことを言わなくちゃいけないんだけど、データとしてはいまのところこの程度のデータしかない。こういうデータを、高次機能と結びつけたような説明は、どういえばいいのか。はっきりいって我々は、まだまだ、かなり幼稚でいい加減な説明をしているんだと思います。

○うーん…。
 昆虫の場合は、一個一個の細胞の機能が本当に具体的に分かっていて、しかもそれらが実際にある機能を果たしていることがはっきりしているわけですよね。まあ、そういうものもあるという話でしかないわけですが、いまは。でも、確かにそういうものがある。人間の場合も、そんなふうにきっちりと配線されているものなんでしょうか。

■どこまで厳密かという問題はあるでしょうけどね。第一次運動野とか、第一次体性感覚野みたいなプライマリーなエリアは、かなりソリッドな回路っていうものもあるんでしょうけどね。でも最近、それだけじゃないっていうのがむしろ流行っているので(笑)。どこまでそれが決まっているかは分からないところありますね。  でも連合野なんかに比べると、応答の仕方はかなり違いますよね。V1なんかで、あるオリエンテーションのバーを見せたときの活動なんかは、パッと見せた瞬間、ザーッとくるわけですよ。そしてバーが消えたらパッと消える。非常にデジタルな感じなんですけど、ザッと応答してバッと消える。連合野の場合は、刺激を見せた最初はザーッって応答し始めるんだけれども、刺激がついたままでも、そのまま応答は落ちていってしまうのがほとんどなんです。もっとも記憶に関係したようなものは、刺激が消えても応答し続ける、ということになるんですけど。でもこういうのが、連合野では、ザッっと応答してすぐにdecayしていってしまうようなのが非常にきれいな応答として見られる。
 だから研究している領野によって、「きれいな応答」っていうイメージがぜんぜん違うんですよね(笑)。そのくらいいい加減な応答の仕方をするわけです。

○ふーん。でもたとえば、前頭眼窩皮質の半分くらいが報酬に対してYesの反応をしていて、もう半分はNoの反応をしているといったことは分かっているわけですよね。で、それぞれが全部配線されている。その「配線図」までが明らかになる日っていうのは来るのだろうかと。もちろんそれが目標なんでしょうけど…。

■ええ、そうです。いつになるんでしょうね。

○そういうふうにいくものなのかなあ、という気持ちもあるんですけど。

■うん、やっぱりモデルにしかならないんじゃないでしょうかね。

○昆虫ではそういうことをやろうとしている人もいる。いっぽう、人間の脳でそういうことは全くないわけですよね。それは、そこまでやる必要がないということなのかどうなのかと。…僕らが、考えたり、感じたりといったことを明らかにしようとしたときに。

■こころの内的なものを明らかにしようとしたときに、そういう厳密なアプローチが──まあある程度は必要だと思いますけど──それをすべて明らかにすることが、必ずしも重要ではないんじゃないかと思います。
 もちろんニューラル・ネットワークを考えるうえで、必要最低限であるにも関わらず分かってないのは、やっぱり神経細胞一個一個の入出力関係だと思うんです。数千とか数万とか言われますけど、どう入力が入ってきて、それがどう処理されて、一本の軸索からどういう出力が出されているのか。これがまだ分かってないんですね。だから私が実験で出しているのも出力だけを見ていて、入力をぜんぜん見ていない。もちろん出力が次の細胞への入力になるわけですが、それがどんな細胞に入力されて、どんな入力と統合処理されて、どういう出力に変換されるかが分かっていない。  まずそこのところから明らかになっていかないと、ビジュアルの情報処理についてさえ、分からないと思うんですよ。

○そうですね。

■最近流行になってきているマルチユニットレコーディング──複数の細胞を同時に区別しながらに記録して、そのタイミングの同期性を見る、なんてのもありますけど、基本的には、出力を同時に見ているだけで、入出力関係に関して言えば、やっぱりほとんど何も言えないんじゃないか、と私は思います。たくさんあるうちの一つの入力しか問題にしてないわけですから。

○なるほど。

■それとごく最近、サルの連合野には、subventricular zoneというところから細胞が移動してきて、新しい神経細胞として加わるという衝撃的な報告がScience誌に出ましたね。それより少し前から、海馬でも似たようなことが分かっていて注目されてますけど、大脳皮質で、というのは、本当に驚きでした。
 そんなことが分かってくると、すべての結線を調べて、厳密にアプローチしていくという道は、ほとんど閉ざされてしまったのではないかとさえ思えてきます。新しく加わった神経細胞が、それまでの回路の中に、どのように位置づけられていくのかという、まったく新しい問題にも注意を払いながら、脳の高次機能システムのモデルを立てていくしかないんじゃないでしょうか。

○そうでしょうね。そうかもしれません。
 以前、どなただったか忘れましたが、脳の研究を指して、こんなことを言ってました。いまの脳研究は、ディスプレイもキーボードもないコンピュータの中で、いったい何のソフトが走っているのか見極めようとして、基盤を見ているのに似ている、と。

■ああ。そうなんでしょうね(笑)。あんまり、それに対抗するかたちではっきりとは反論できませんが、幸いにしてディスプレイもキーボードもあるわけです。それを手がかりにしてやっていくしかないんじゃないでしょうかね。脳だけを取り出してきて、ということだと、そもそも何のデータも取れないでしょうし、進んでいかないでしょうけどもね。

○そうですね。
 本日はどうもありがとうございました。

【1999/09/11、理化学研究所 和光キャンパス近くのご自宅にて】

| 松本氏インタビューindexへ | Interview Mailへ |


*次号からは月の内部構造の研究者、寺薗淳也氏のインタビューをお送りします。


[◆Information Board:イベント、URL、etc.]

■イベント:
◇文化庁メディア芸術文化祭企画展<鉄腕アトムからAIBOまで>
 
http://www.cgarts.or.jp/jam3/index.html
 2月25日(金)〜3月2日(木)10:00〜19:00

■URL:
◇ロボット創造国際競技大会「シンボルマーク」募集
 募集期間:平成11年12月15日(水)〜平成12年1月31日(月)
http://www.robofesta.net/

◇「インターネットで読み解く!」No.79「脳のドックから痴呆症の現在まで」
http://www.alles.or.jp/~dando/backno/991216.htm

◇ISASニュース 1999年11月号(No.224)
http://www.isas.ac.jp/docs/ISASnews/No.224/ISASnews224.html

◇元旦の天気、大予想(アンケート) Weathernews
http://www.wni.co.jp/cww/docs/msp/enquete.html

◇「H-IIロケット8号機」の第1段ロケットの2次調査の実施について
http://yyy.tksc.nasda.go.jp/Home/Press/Press-j/199912/h28_991217_j.html

◇平成12年「こころの健康づくり週間」標語募集! 厚生省
http://www.mhw.go.jp/topics/bosyuu/tp1217-1_11.html

 *ここは、科学に関連するイベントの一行告知、URL紹介など、
  皆様からお寄せいただいた情報を掲示する欄です。情報をお待ちしております。
  基本的には一行告知ですが、情報が少ないときにはこういう形で掲示していきます。
  なおこの欄は無料です。


NetScience Interview Mail Vol.082 1999/12/23発行 (配信数:20,566部)
発行人:田崎利雄【科学技術ソフトウェアデータベース・ネットサイエンス事業部】
編集人:森山和道【フリーライター】
tazaki@nexus.sse.co.jp
moriyama@moriyama.com
ホームページ:http://www.moriyama.com/netscience/
*本誌に関するご意見・お問い合わせはmoriyama@moriyama.comまでお寄せ下さい。
◆このメールニュースは、
◆<科学技術ソフトウェアデータベース・ネットサイエンス>
◆[http://netscience.nexusnet.ne.jp/] の提供で運営されています。

○当メールニュースでは、科学に関連するイベントの一行告知、研究室URL紹介などもやっていきたいと考えています。情報をお寄せ下さい。
本メールニュースの発行は、インターネットの本屋さん・まぐまぐを使って行われています。
メール配信先の変更、配信の中止は、以下のWWWサーバーで行って下さい。
 http://www.moriyama.com/netscience/
原則として手作業による変更、中止は行っておりません。
なお、複数による閲覧が可能なアドレス(メーリングリストなど)での登録はご遠慮下さい。
必要な場合には、発行人までその旨ご連絡下さい。
(配信先変更の場合は、現アドレスをいったん削除の上、新規にアドレスをご登録ください)