NetScience Interview Mail
1999/12/16 Vol.081
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◆Person of This Week:

【松元健二(まつもと・けんじ)@理化学研究所 脳科学総合研究センター】
                認知機能表現研究チーム 研究員
 研究:認知脳科学
 著書:朝日文庫『脳の謎を解く1,2』共著ほか

研究室ホームページ:http://www.brain.riken.go.jp/labs/cbms/

○認知脳科学の研究者、松元健二さんにお話を伺います。
 8回連続予定。(編集部)



前号から続く (第7回/全8回)

[22: 意識やクオリアの部品]

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○さっきから実は思っていたんですが。

■ええ。

○いや、「機械」みたいだな、と。これはニューラルネットワークの人たちが考えていたり、やっていたりする奴とすごく似ているのでは?

■うん、そうかもしれないですね。
 こういうのをまさに、意識とかクオリアとかとどう結びつけていくかというのが問題になるんですけどね。この図式からは直接にはいかないでしょうね。

○部品ですよね、これは。まあ、そういう部品が具体的にあるというのが、なんだか素朴に感動ですね。

■これはまだ仮説ですよ(笑)。

○でも、おおむねあるんじゃないか、というより、最低こういうのはないとダメだというお考えなんでしょう?

■そうですね。

[23: ワーキングメモリー]

○ワーキングメモリーについては?

■前頭連合野っていうのがワーキングメモリーの中心として役割を果たしているんじゃないかということが割とはっきり調べられていますね。それ自体を私は否定するつもりではなくて、ただ、私のやっているタスクっていうのは、わりとまとまったブロックとしてコンテキストを表現しています。
 従来言われてきたワーキングメモリーというのは、遅延期−−視覚刺激を受けてから行動を起こすまで、このときの情報をどう扱っているのか、なんらかの情報を入れてやって、何らかの処理をしてやって、それを出してやるというものですね。こういうことをしていると。

○ええ。

■それももちろんあるんだけど、ここでの情報処理っていうのに、ブロックレベルのコンテキストがきいてきてるだろうと。そしてそれが前頭連合野で行われているのではないかということは言われていないだろうと。だけれども、状況、いやコンテキストが変化することによって、それにうまく合うような働きを前頭連合野はすぐにまた作り出す。そういう柔軟な構造ですね。それが前頭連合野のより本質的な働きなんじゃないかと私は思うんです。

○ふーむ。

■もともと、前頭連合野が壊れることによって固執傾向が現れるってことがあるんですよね。まああれも、いろんな解釈の仕方があるんですけども、一つには、まず行動の柔軟性が失われることだと考えて良いだろうと。ところがその点についてはあまり追求されずに、ワーキングメモリーだと言っている。
 もちろんワーキングメモリーだってトライアルごとに違った情報をピックアップしてそれを保持しているわけですから、それも柔軟な脳の機能の一つだとは言えるんだけど、それでは説明しきれてないんじゃないかという感じがするんですよ。

○と、いうのは?

■もっと光をあてられるべき部分は、コンテキストを柔軟に把握して、行動を決めている部分じゃないかと思うんですよ。

○具体的には? それはここでやっているんだ、ということを突き詰めて行くべきだということですか?

■ええ、そうです。それをちゃんと、出していきたいと思っているんです。
 最近、ワーキングメモリー一辺倒からExective functionに関心が移っているんです。もともとのワーキングメモリーのバドリーなんかの図式のまん中に、Central Exectiveって書いてありますね。その中でやっている処理はなんなんだ、Working memoryと言いながら、一番重要なexective functionを今まで調べてこなかったじゃないかということを問題にして、それでExective Function、Exective Controlっていうことの中身を調べないとダメなんだ、ということになっているんですけども、うーん。でもまあ相変わらず、元々のワーキングメモリーの図式に帰ろう、と言い出したくらいのような感じがしますね。だからまだ随分ワーキングメモリー過信っていうのが尾を引いてるのかな、という気がしますね。

○でも先生は評価もしているんでしょ。

■少なくともこれまでのワーキングメモリーだと考えられているものは、かなり実験でクリアに示されてきましたからね。でも前頭連合野の本質はそこじゃないんじゃないかと。そういうことですね(笑)。

○先生の仰るようなやり方だと、いまワーキングメモリーと呼ばれているものがまた部分に分割されていって、つまりワーキングメモリーっていうものは食われていっちゃって、そのうちそんなものはなくなる、ということなんでしょうか?

■いや、なくならないですよ。ワーキングメモリーをワーキングメモリーとして独立に扱うんじゃなくて、コンテキストを柔軟に把握して、それを行動のコントロールに使う。その過程で、もちろんワーキングメモリーも関わっているんだと思うんですよ。だからその、インタラクションですよ。食っていくんじゃなくて、インタラクションです。

○? すいません、もう一度基本からおさらいなんですが、先生が仰るワーキングメモリーとはどういうものなんですか?

■基本的にはトライアルベースで、ある刺激が出たときに、その刺激から必要な情報を取り出して、その情報をあとの行動に使うために一時的に保持しておく。で、そのトライアルが終わったらその保持された情報というのはリセットされて、また次のトライアルのためにまた別の刺激から別の情報を取り出すと。それがワーキングメモリーです。  神経生理学の分野では、従来そういうふうに使われていると思うんですけども。

○はい。ふむ…。なるほど。それを、もっとインタラクションを考慮に入れて、ということですか。でも分かったような分からないような(笑)。

■行動のコンテキストとして、刺激、反応、報酬を捉えて、そのコンテキストに合わせて、その時々に必要な情報をワーキングメモリーに取り出して処理して、必要な情報を作り出す、という具合に、ワーキングメモリーとコンテキストとのインタラクションがあるんではないか、ということなんです。

[24: 脳は機械か]

○しかし先生のお話を聞くと、ますます脳は機械のように思えてきますね。でも先生は脳はコンピュータではないと考えていらっしゃると伺ってますが。

■ええ。それには反対なんですよ。かろうじて、報酬に注目したりとか、あるいは学習…。…でもこういうの見るとコンピュータみたいですよね(笑)。

○ええ。なんか、よく分からない仕組みのロボットがいて、それの中を開けてみて、ごちゃごちゃの配線を見ながら、ここをこうやってやると、ピッと足が上がったから、きっとこの部品はあれだ、って言ってるのと何が違うんだろうかというと、たぶん違いませんというのが自然な答えだと思うんですが、なのになぜ反対するんだろうかと(笑)。

■(笑)。まあ、あの…。
 信念なんですかね。その信念がどう形成されるのかというのもまたいろいろあると思うんですが、ただ、いまのところ、生物以外で意識を持っていそうなものってないですよね。

○意識ですか。
 先生の実験は情報がいかに重みづけされていくかといったものですよね。それって、いまのコンピュータの人でもやっていることだと思うんですよね。たぶん、意識っていうのはそこから先に、何か超えたところにあるんじゃないかと思うんですが、そこにたどり着けるのかなあ、と。

■うん、そこにたどり着けるのかというのは、うーん、どうなんでしょうね(笑)。まあその辺は、両方からのアプローチが必要だろうと思うんですけどね。

○両方?

■うん、両方というのは、神経生理学の立っている基盤自体が、あんまり盤石じゃないところがあるので…。まあそれは置いておくとしても、脳の実際の神経活動からボトムアップで意識に辿りつくようなアプローチと、それと、意識とはなんなのかというより哲学的なアプローチと。どこかでうまく繋がる方法を探していくのが良いんだろうと思うんですね。

○ええ。

■哲学的なアプローチっていうのは、私はそんなに得意じゃない。もっとも神経生理学が得意かというとこっちもそうでもないと思うんですが(笑)、そこをうまく、結びつけていきたいなあと。そしてその結び付けは、私自身の中で、なんとかうまく結びつけられるといいなあと思っているわけです。

○うん。そうでしょうね。
 科学の側としては、「何が考えられるか」ということだけやっていても、「もっと仕事しなさい」と言われちゃうでしょうしね(笑)。「何ができるか」ということをやらないと。

■そうですね。

○しかし「信念」っていうのは、それこそ前頭前野の働きで、固執傾向じゃないですか(笑)?

■ああ、そうですね。そうかもしれません(笑)。
 よく冗談で言うんですけどね、脳研究者は、自分の脳の中でうまく働かないところをやるといいんだと。私は前頭連合野が働かないから、そこに惹きつけられるんだろうと(笑)。
 まあこれは冗談ですけどね、あながち、外れた話ではないと思うんですよ。得意なものは考えないでも出来ちゃうから。だからそこは問題にならないんです。しかし不得意なものというのは考えないといけませんからね。どうしたらいいんだろうと悩む。そういうものをなんか研究テーマに選んでしまうんだと思いますね。

○なるほどね(笑)。

[25: 大学での「活動」]

■これで終わりなんですか? 私としてはこれで終わるとちょっと不本意なんですが。

○え?

■大学に入って、研究室に入るまでの期間の話をさせて下さい。大学の1年、2年、3年の間の経験が、私の研究の好みを決める上で大きな影響があったんです。

○分かりました。では、最初のころに伺った研究者への道の続きということで。
 で、影響を受けたものというのは何ですか。

■私は寮に入ってたんですよ。いや、それ以前の所からお話した方がいいですね。
 私は高校のときには、あんまりメジャーなところには行かずに、マイナーなところが好きだったんです。

○要するに、その頃から変わった人だったんですね(笑)。

■そんなことないと思うんですけど(笑)。まあ、マイナー志向だったんです。ただあんまりマイナーなことにこだわっていると、あんまり大きなことはできないなと。だから大学に行ったら──大学って入学したときはそれなりに希望みたいなものを持って行くでしょ──マイナーどころにはこだわらずに、メジャーな渦のなかにどんどん入って行こうと考えたんです。

○ええ。

■それで大学に入ったときに、自治会の関係に首を突っ込んだんです。よく言われることですが、中央から遠いところほど文部省の政策が行き渡るのが遅い。帯広畜産大学なんていうのは北の果てですからね、文化としては古いんです。私が入ったのは85年ですけども、文化の雰囲気としては70年代後半みたいな感じだったんだと思うんです。革マル派っていうセクトがありますよね。そのセクトが握っていた自治会だったんです、当時の帯広は。そのことを私は全然知らずに自治会にふらふらと入っていって、話を聞いたりしていたんです。

○ははあ、なるほど。

■同時に、碧雲寮っていう寮にも入ったんですが、寮でもやっぱり寮自治会っていうのがあって、寮自治についていろいろ説明してくれた人がいたんです。でもその人はなんかイマイチだなあと思って、関わらないほうがいいかなと思ったんですけどね(笑)。そんなことを同じ部屋の先輩、碧雲寮は二人部屋だったんですよ、その先輩に話したら、「そんなこというんだったら、○○さんのところに言って話を聞いてきて見ろ」と言われて寮の一番の長老のところに話に行ったんです。そしたらそんな年季の入った本物というのは、マルクスやらヘーゲルやらの哲学にも相当詳しくて、かといって、嫌みなところがあったり、押しつけがましいところがあったりすることもなくて。まあ、結局どちらの自治会も同じ穴の狢だったんですけども、そんな経緯で、寮務委員会というのに入って、寮自治の真ん中に入っていったんです。

○ええ。

■もともと私は哲学に私なりに興味を持っていましたから、そういう議論も大学に入ったらしたいと思っていたんですよ。ところが帯広畜産大学は動物が好きな人が集まってくるところで、哲学的な議論というのは一般的にはあんまりしないんですよね。哲研も社研もないし。

○そりゃそうでしょうね。

■ところが、やっぱり反戦活動とかやっている人は、どうしても哲学的になるでしょ。だから議論の相手としては、そっちのほうが圧倒的に面白いわけですよ。もちろん、そこに入ろうとしてぎりぎり入らないところにいる、っていう人たちが一番面白くて、だいたい私もその辺にいたんですが──だから結局マイナーなところにいたことになるんですけどね──。

[26: 影響を受けた弁証法]

■そしてその頃、私は弁証法に興味を持っていたんです。三浦つとむ『弁証法とはどういう科学か』(講談社現代新書)という本を読みましてね、結局分からないんですけどね。でも日本語だから分かっているはずだ、と高校生の頃でしたから思ったわけです。そのあとに、松村一人『弁証法とはどういうものか』(岩波新書)を読んでみると、なんでもかんでも弁証法と言っているいまの状況はよくない、弁証法は社会の歴史の認識においてこそ適用されるべきなんだ、といった、極めてマルクス主義的な、階級主義的な立場を明確にした本だったんですね、それは。
 それを読んで私は、そうか弁証法っていうのは社会の弁証法として考えないとダメなんだと思ったんですね。で大学に入って哲学らしき話をしていたときに、松村一人の弁証法が面白かったですと言ったら、松村一人はダメなんだと言われたんです。あれは過程的弁証法のみで場所的弁証法が抜けていると。たとえば、社会が資本主義から社会主義、そして共産主義へと移行する、そういう唯物史観を書いているところがもちろんあるんですけど、その部分の説明というのはこうなんです。資本主義社会の中に、共産主義の萌芽が現れてくる。そしてそれが徐々に徐々に上がってきて、やがて逆転する。そこで革命が起こる、と単純に言うとこういう捉え方だったんです。
 だけどここには何が抜けているかというと、社会の中で主体的に実践している人間が抜けているんだと。で、だから、その転換を客観的に捉えていてもダメで、人間自身が、転換点を実践によって作り出して行くという点についての認識が抜けているからダメなんだ、と。こういう批判がされていたんです。それはまあ、松村一人と梅本克巳の間の、いわゆる戦後主体性論争の一つということになるんですけど。そういう批判がなされている文章を紹介されて、私は梅本克巳ってどういう人なんだろう、と興味を持ったわけです。
 で、革マル派っていうのは黒田寛一っていう人が前の議長になるわけですけども、その人が独自の理論をうち立てましてね、ほとんど宗教のように。共産主義運動の一つの流れって言うのをつくりだしてきて、割と大きな組織を作ったわけです。たぶん今でも末端のいろんなところで動いている人はいると思うんですが。  で、その人がいうに、先生と言える人が3人いると。自分が実際に思想的に大きな影響を受けた人として挙げられる人が3人いるというわけです。それが梅本克巳と梯明秀と、対馬忠行だというんです。
 だから、その梅本克巳に興味を持つと同時に、黒田寛一にもどうしても興味を惹かれたんですね。
梅本克巳の主体性論と、もう一つは武谷技術論を取り入れたところが、黒田の特徴だと言われているんです。これは、人間の実践を基本に置いて、社会の変革に加わるんだと、そういう考え方につながっていきます。武谷技術論っていうのは、武谷三男っていう人の技術論なんですが、その人は湯川秀樹の一派で、哲学的な側面を担っていた人なんです。かなり古い、物理学者なんですけどね。ちょっと前に死にましたが。で、その武谷は、唯物論的に正しく、技術の本質規定をしたと言われているんです。「生活実践における客観的法則性の意識的適用」、これが技術の本質であると。これだけだとなんだか分からないんですけどね(笑)。
 もともと、日本共産党、正統派マルクス主義と昔言われていたような、そういうグループの技術の規定というのは、「生産手段の体系」であるというものだったんです。基本的に、唯物論というか、よくタダモノ論といわれますが、モノだけに切り縮めて認識しようとする。それを使う人とかその人の意識はぬかしてしまうと。でもそれじゃダメなんだと、武谷は言ったわけです。技術っていうのは実際にそれを使う人間が意識的に適用するものなんだ、そこが重要なんだと。だいたい分かりますか?

○ええ。

■それを社会科学にあてはめれば──あてはめちゃうと、その種の人たちからは「それはアテハメ主義だ」と言われちゃうんですが、あの、社会科学において、その武谷の技術論を生かしてみようとした場合には、社会の客観的法則っていうのを、追求していくことよりもむしろ、まず人間が実践していくことで、社会を変革することが大事だと。
 武谷の技術論っていうのも、科学っていうのは技術と密接に結びついていて、まず技術があって、その中で科学がその対象の認識として作られてきた。そういう立場なんですね。だから科学的にある対象が明らかになる前でも、実際に技術として──それは技能と呼ばれたりしますけど──そういう形で人間が脈々と自然と相互作用する中で、科学っていうのは作られて来るんだと。そういう立場なんです。
 だから社会においても、社会的実践がまずあって、そのあとで社会科学が作られていくと。そういう立場です。だから理論と実践の関係を考えると、まず実践があって、そこに理論が作られていくと。もちろん理論は実践を規定するし、実践はまた理論にフィードバックされる。基本的にはそんな話なんですが、とにかく実践というのを強調するわけです。

○はい。

■そうですね、それで私も最初は「意識」っていうのを考えていたんですが、「意識」っていっても非常に曖昧な、曖昧っていうか、いま私が持っている意識、この意識を知りたいって言っても、それだけじゃ、意識そのものはたぶん分からない。
 意識──をどういうものとして認識するかというと、やっぱりまず行動がある。行動している中での意識。そういう意識でなければ意味がないと。だから、何にも外界に働きかけないような生物。そんな生物はありえませんが、外界に働きかけることが重要でない生物、そこには意識は発生しえないだろうと思うんです。外界に積極的に働きかけていくっていうことがより重要な生物において、意識は発生するはずだ。
 だから、そこの部分をぬきにして意識を語ることはできない。だから単に視覚刺激を見せてやって、それが脳にどういうふうに反映されているか、これを見るだけじゃ意識は絶対に解明できないだろうなと。だからあくまで行動していく中での意識を調べていく必要があるんじゃないかなと。これが正しいかどうかは分からないところもありますけども(笑)。まあ、私の研究の好みっていうのは、そういうところで決まっているところがあります。

○ふむ。

■梅本克巳が『人間論』っていう本の中で、最初にフォイエルバッハの考えを紹介しているんですが、これは直観的唯物論という形でよく言われる考えです。その中で印象に残っているのは、「空の月も太陽も、星も、まわりのものが全て、汝自身を問うている」そんなことをどうやらフォイエルバッハは言っているらしい、ということなんです。それを読んだときに「これは……!」と思ったわけなんですよ。これは茂木健一郎さんらの話にも繋がってくると思うんですが、外界にあるものが外界にある、そう捉えるのが普通ですよね。で、実際に外界にあるんだと思うんですけども、それが私の中に取り込まれたときに、取り込まれたものが見えているんだけれども、それは結局は私自身を見ているんだという捉え方ですね。
 あるいはその対象というのは、基本的には働きかける対象としてある。だから働きかけうるものしか我々は見ることができないんだと思うんですけども…。ここは、実践の重視にもつながってきます。まあ、フォイエルバッハについてそんなことが書いてあったわけです。
 マルクスのフォイエルバッハ・テーゼって有名な文章があるんですけど、その第1テーゼは、「対象、現実、感性を実践として捉える」ということなんですよ。まあ、いろいろな解釈があるんだと思うんですが、私なりの捉えとしては、このあるがままの現実とか働きかけようとする対象、そしてそれらに対する感性は、実践を起こすための契機としてあると同時に、実践の結果としても捉えられる、そんなことなんじゃないか、と思っているんです。意識は、そういう実践において、どういうわけかは分からないけれども、多分必然的に創り出されるものなんじゃないか、と。

○ふーん…。

■だから意識ってことを考えていく上で、この立場の考え方っていうのは非常に有効なんじゃないだろうか、という気がしたんですね。
 まあ、その辺への──なんていいますかね、共感があったので、そういう「たたかっている」人たちとコンタクトを持っていたんです。
 だからときどきあれですよ、革マルの拠点というと早稲田になるわけですけども、早稲田の学生なんかが帯広にやってきて、帯広の近くに浜大樹という自衛隊の演習場があるんです。そこで上陸演習をやるんですけど、そこにがーっと押し掛けていって、例によってヘルメットかぶってサングラスかけてという格好で、デモ・ルックっていいますけど、そんな格好でデモンストレーションをやるんです。そういうのにいったこともありましたね。

○やってたんですか?

■昔の話ですけどね。脈ありと見た人には、だいたいまずデモに行かないか、と寮の部屋に誘いに来るわけですよ。現在これこれこういう情勢で、こういう演習をやろうとしている。これはこういう目的だろう。これを許していていいのか!とくるわけですよ。でも今の自分の感覚からデモをやるっていうのはどうもピンと来ない、ということを誰だって言うわけですよね。だけどピンとこないなんて平和ボケしているような状態じゃダメなんだ、そういう自分を否定するところから始めなければならない!というのがよくあるオルグのパターンなんですね(笑)。
 でまあそれで、とにかく参加してみないと、デモがどういうものなのかすら分からないし、分からないまま拒否してるだけでもよくないと思ったんですよ。今でこそ戦争の必要性を言う大学生もいるかと思いますけど、当時はさすがに戦争は反対というのが常識でしたから、反戦自体は正しいだろうということもあったんですけど。まあ、そんなで2年生のころまでは割と頻繁に出てましたね。で、出ながら「うーん、なんか違うなあ」と(笑)。でも次は何かつかめるかもしれないと。

○宗教の修行みたいですね。

■でも結局、つかめないですけどね(笑)。宗教の修行という言い方はしないけど、「洗脳しようとしている」という言い方で批判する人はいっぱいいるんですね。部屋にトントントンとノックしてやってきて「ちょっと話がしたいんだけど」と入ってきて、そういう話をガーッとこっちの頭がおかしくなるくらい議論をするわけですから(笑)。これは頭を疲れさせて無理矢理考えを入れていこうとしているんだから、洗脳じゃないかという考えはもちろんあるわけです。でも洗脳ではないと私は思っているんですけども。まあ、人によるんですけどね。実際、この人は洗脳したくて来てるんじゃないかという人もいたんですけど(笑)。でも議論していて、こちらが考えてしゃべっていることをちゃんと捉えて、それに基づいてもういっぺん話を進める、そういうことができる人もいるんですね。

○ふーん。

■で、結果的にデモの誘いにのるかのらないかは別問題として、その議論を通して自分なりに考えることがあったりするんですね。

○その辺はまあ分かりますけど。僕は正直いって革マルや中核の話ってよく分からないんですよ、世代の違いだと思いますけど。

■えっ、そうですか? 森山さんとの間に世代の違いなんてあるんですか?

○ありますよ、絶対。もちろん程度の差はありますけども。どういう時期に大学にいたのかということは、その人の思想背景に大きな影響があるように思いますね。

[27: 研究者の道]

○<インタビュー・メール>で必ず伺うことにしていることがあるんですが。このメールニュースは、大学院生や、研究者になろうかどうしようか迷っている人もけっこう読んでいると思うんです。そういう人たちに何か。何を考えて、どう、研究をやるべきなのか。なぜそういう道を選んだのか、ということです。
 ちょっと直接的な聞き方すぎて、答えにくいかとは思うんですが(笑)。

次号へ続く…。

[◆Information Board:イベント、URL、etc.]

■イベント:
◇RoboCup 小型ロボット部門の練習試合 12月18日(土)
 中部大学 ハイテクリサーチセンター(1F)
http://www.er.ams.eng.osaka-u.ac.jp/robocup/j-info/events/99/small-game.html

◇公開シンポジウム 「新バイオマスエネルギー生産と利用」
 1月17日(月) 13:00〜18:00
 農林水産省共済組合 南青山会館
http://www.afftis.or.jp/news/seminar/#c117

◇投票企画 ベストサイエンスブック'99
http://www.moriyama.com/questionnaire/questionnaire99.html

■URL:
◇宇宙の不思議 うそ、ほんと 〜さあ、宇宙へ飛び出そう!〜 NASDA
http://jem.tksc.nasda.go.jp/iss_faq/index.html

◇若田宇宙飛行士、STS-92に搭乗 NASDA
http://jem.tksc.nasda.go.jp/iss_jem/construct/3a/index.html

◇火星の古代の海岸線発見か
http://mars.tksc.nasda.go.jp/JPL/mgs/sci/mola/dec10-99rel/ocean_paper.html

◇AIBO Web Magazine 12月15日にオフィシャルリリース SONY
http://www.sony.co.jp/soj/aibo/webmagazine/index.html

◇国立天文台・天文ニュース (312) 高見沢さん、超新星を発見
http://www.nao.ac.jp/nao_news/mails/000312

◇インフルエンザウイルス情報 東京都立衛生研究所
http://www.tokyo-eiken.go.jp/topics/influenz.html

◇Nature BioNews 医学:男性にも不妊症がある理由
http://www.naturejpn.com/newnature/bionews/bionews991208/bionewsj-991208d.htm

◇第3回国際数学・理科教育調査ー第2段階調査ー(TIMSS-R)(国内調査中間報告(速報)) 文部省
http://www.monbu.go.jp/news/00000394/

 *ここは、科学に関連するイベントの一行告知、URL紹介など、
  皆様からお寄せいただいた情報を掲示する欄です。情報をお待ちしております。
  基本的には一行告知ですが、情報が少ないときにはこういう形で掲示していきます。
  なおこの欄は無料です。


NetScience Interview Mail Vol.081 1999/12/16発行 (配信数:20,470部)
発行人:田崎利雄【科学技術ソフトウェアデータベース・ネットサイエンス事業部】
編集人:森山和道【フリーライター】
tazaki@nexus.sse.co.jp
moriyama@moriyama.com
ホームページ:http://www.moriyama.com/netscience/
*本誌に関するご意見・お問い合わせはmoriyama@moriyama.comまでお寄せ下さい。
◆このメールニュースは、
◆<科学技術ソフトウェアデータベース・ネットサイエンス>
◆[http://netscience.nexusnet.ne.jp/] の提供で運営されています。

○当メールニュースでは、科学に関連するイベントの一行告知、研究室URL紹介などもやっていきたいと考えています。情報をお寄せ下さい。
本メールニュースの発行は、インターネットの本屋さん・まぐまぐを使って行われています。
メール配信先の変更、配信の中止は、以下のWWWサーバーで行って下さい。
 http://www.moriyama.com/netscience/
原則として手作業による変更、中止は行っておりません。
なお、複数による閲覧が可能なアドレス(メーリングリストなど)での登録はご遠慮下さい。
必要な場合には、発行人までその旨ご連絡下さい。
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