NetScience Interview Mail
1999/12/02 Vol.079
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◆Person of This Week:

【松元健二(まつもと・けんじ)@理化学研究所 脳科学総合研究センター】
                認知機能表現研究チーム 研究員
 研究:認知脳科学
 著書:朝日文庫『脳の謎を解く1,2』共著ほか

研究室ホームページ:http://www.brain.riken.go.jp/labs/cbms/

○認知脳科学の研究者、松元健二さんにお話を伺います。
 7回連続予定。(編集部)



前号から続く (第5回/全7回)

[14: 視覚再認課題時の反応選択制を前頭眼窩皮質で調べる]

科学技術ソフトウェア
データベース

■まあそういう経緯で、前頭眼窩皮質から、視覚再認記憶課題を使って記録するということになって始めたんですよ。
 その課題がどれだけ情動に関係するかというと、あまり期待できないところではあったんです。でも前頭眼窩皮質にはもともと興味があったんで、取りあえずやってみたと、そういうことです。学会で発表したのは95年だから、4年前くらいですけど。

○で、どんな実験で、どんな結果が?

■人の顔とか、食べ物とかの写真を、モニターでサルに見せてやるんです。「サンプル刺激」って言いますけど。
 サルはレバーを押して待っています。そこにサンプル刺激を1秒間出して、2秒間待って、また一秒間出して。これを1回から4回くらい出してやって、別の刺激を出してやるんです。
 つまりサルにはレバーを押させておいて、写真がついたり消えたりするのを見せる。レバーを押すとしばらくして最初の刺激が出る。そのままレバーを押したままで、繰り返される写真を見て、違う写真が出たときにレバーを離す、っていうだけの課題なんです。

○なるほど。違うのがこなければ押したままにしておくわけですね。

■そうです。サンプル刺激──最初の写真が出ているときに、ある細胞が写真によってどんな異なった活動をしているか。いわゆる「反応選択性」というのを見るわけです。

○なるほど。

■私が出したデータというのは、視覚再認課題をやっているときの視覚刺激に対する反応選択性を、前頭眼窩皮質で調べたというのもあるんですけども…。
 実験のときは「Fixation Point(注視点)」というのをモニターに出してやって、写真が出ている間、その点を見つめていないと報酬、つまり水がもらえないという形になっています。

○目線を外したかどうかはどうやって判断するんですか?

■いろいろ良い機械が出てましてね。頭を固定しておいて、目の動きだけを見ることができるんですよ。赤外線を眼にあててやって、それがどこに反射するかをモニターしたり、赤外線で眼を照らしてやって、それをCCDカメラで撮って、黒目の形から計算したりして、視線がどこに向いているか、注視点からそれていないかどうかということを見ることができるんです。

○なるほど。

■それで視線が外れてしまうと、そのトライアルはやりなおしになります。
 それまで霊長研の中村さんが側頭葉でやっていたのは、視線を固定させてなかったんです。まあそれには、視線を固定させることによって視覚刺激の一部分だけを見るようになってしまうのを避けるという理由があったんですけどね。
 私のときには、視線を固定している条件と固定していない条件の両方で調べて、視覚刺激に対する応答性は変わりませんよ、という結果を出したのと(笑)、それと、2種類の課題での比較もしました。
 両方の課題とも視線を固定してやるんですけど、最初のタスクは、これまでお話ししたのと同じ、視覚再認課題。つまり最初の写真サンプルを見て、それと次のが同じかどうかを判断する。で、違うものだとレバーを離す課題。
 もう一つは「視覚注視課題」と言って、注視点の変化をdetectして、レバーを離す課題。どういうものかというと、この課題のときも最初の課題と同じように、レバーを押すと、写真を1秒間だす。でも次の写真は出なくて、その代わりに注視点の形が変わります。そのときにレバーを離します。そういう課題です。

○はい。

■二つの課題の間で、物理的には全く同じ刺激を使って、目も固定してますから網膜上に映る刺激も同じ。時間的にも、最初の写真が消えるまでは、まったく同じです。
 違うのは、後でレバーを離すかどうか決めるときに、サンプル刺激として出した写真の視覚情報が必要か必要でないか、また写真に対する注意する必要があるかどうか、またその写真を記憶に保持する必要があるかとかいうことです。
 そんなふうに行動に必要な刺激として提示した写真だったら、前頭眼窩皮質の細胞は非常に強く応答するんだけど、行動に特に必要のない刺激として写真を提示する視覚注視課題だと、同じ写真を出しても前頭眼窩皮質の細胞は、それにはほとんど応じないんです。

○注意しているかどうかで発火状態が違う、脳の活動状態が違う、ということですか?

■そうですね。

[15: 「抑制」の重要性]

■テキストブックなんかにも最近よく出るんですけど、前頭眼窩皮質の壊れた人で、utilization behaviorっていうのが起こるということが割と注目されているんですよ。

○それはなんですか?

■メガネを置いてやると、何も言われないんだけれども「かけなきゃいけない」ような気がしてかけちゃうと。

○ほう…。

■で、また置いてやると、眼鏡をかけているのにその上にまた重ねてかけちゃうと。もう一度置いたらと、またかけちゃうと。そういうことをやるわけです。
 だから道具を目の前に置いてやるとほとんどautomaticalyに使っちゃうという例ですね。極端な例だと溲瓶(しびん)をおいてやると、実験者が正面にいて、患者さんを見ているんだけど、いきなりオシッコしようとしてしまう。そんなことまでやってしまう。
 だから、ある物体が目の前にあると、それを使うか使わないか、それを使って行動に結びつけるかどうか、そういうことがコントロールできなくなってしまうと。

○ふーむ。

■むしろその行動を抑制してしまうことが大事なのかもしれませんけどね。

○前頭眼窩皮質が、そういう仕事をやっているんじゃないかと?

■うん。これが特に抑制と結びついているかのどうか、ということは、私の実験ではうまく言えてないんだけど…。
 ある視覚刺激を行動に使う必要があるときには、その視覚刺激に対する選択的な応答をしている、ということですね。

○ふむ…。じゃあある刺激に対する「選択」ってところに関わっているということですか。

■まあでもこれが、前頭眼窩皮質特有の性質なのかってことはまだよく分かってないところで、側頭葉で同じように調べたら、実際にどうなるんだということもやらないと言えないことなんですけど。
 まあ、そういうutlilaization behaviorが起こるメカニズムの解釈なんかに有効なんじゃないかと思っているんですけどね。

○しかし、やらなきゃいけないような「気がして」って…。「気がして」ってなんなんですかね。

■これを使わなくちゃダメなのか、って相手の顔を伺うような顔をするそうですよ。

○ふむ…。不思議すぎて、なんだかよく分からない話ですね。

■ええ、そうですね。

[16: 前頭前野における、視覚刺激と運動と報酬との間の連合]

○その後の4年間は?

■そのあと、理研でやってるんですけどね。

○先生の研究を一言でいうとなんなんですか? よくパンフとか予算申請とかに書くやつだと。

■視覚刺激と運動と報酬との間の連合ですね。

○運動と報酬。

■ええ。それらの間の連合と前頭前野の関連。

○前頭前野における、視覚刺激と運動と報酬との間の連合、ということですか。

■そうですね。

○いま実際にやっていらっしゃる実験は、具体的にはどんなものなんですか。

■モニターに注視点を出して、サルにはジョイスティックを握らせるんですね。ジョイスティックは前後左右4方向に動きます。で、目の前のモニターには花の写真がいろいろ出ると。そういう中で課題をやらせます。

○はい。

■で、サルがする反応にはGOとNO GOの2種類があるんですが、GOのときにはサルはジョイスティックを引いて戻す。NO GOのときには何もしない、ジョイスティックをホールドさせておく。こういう2種類の反応をするようにサルを訓練します。

○はい。

■そこで、仮にAとBってしますけど、AとBという視覚刺激、花の写真ですね、それを二つ使ってやって、最初はまずたとえば、AがGOで、BがNO GOが正解という条件で、注視点が暗くなったときに、最初の視覚刺激に基づいて正しく反応したら、Aのときは報酬がつく、Bのときは報酬がつかないというふうにしておきます。

○はい。

■最初サルは、注視点が暗くなったときに、どうやったらいいか分からないわけです。AかBの写真が出て来るんですけど、そのあとGOをやったらいいのか、NO GOをやったらいいのか、サルは試行錯誤でルールを発見していきます。何もしなくていいのかなあ、何かしないといけないのかなあといろいろやりながら、この結びつきを学習していきます。一年くらいトレーニングすると、どちらの視覚刺激にはどちらの反応をしたらいいのか、すぐに学習できるようになります。

○へー。

■このルールをいったん学習したら、結びつきをを入れ替えます。運動反応と報酬の、どちらかを入れ替える。たとえば報酬を入れ替えたとすると、Aの正解がGOで、報酬なしというパターンだったのが、報酬アリに変わっちゃうと。一方で、BーNO GOー報酬ありだったのがB-NO GO-報酬なしになっちゃうと。で、それでまたやらせるんです。次に、今度はGO/NO GOを入れ替えます。そのあとにまた報槇り/報酬なしを入れ替えるということをするわけです。

○ふーむ。

■そうすると、Aで、1)GOで報酬あり、2)GOで報酬なし。3)NO GOで報酬あり、4)NO GOで報酬なし、の4つの組み合わせがあるわけです、一つの刺激について。もちろんBにも4つのパターンがあってそれも同時に作ることができる。

○ふーむ。

■主にいま私が見ているのは、刺激を見せたときに、前頭眼窩皮質の細胞がどう反応するか。単に視覚刺激Aに依存して応答しているんだったら、刺激がAだったら、正解がGOであろうがNO GOであろうが、報酬があろうがなかろうが、とにかくAだったら応答するでしょう。で、Bには応答しない。

○なるほど。

■細胞の反応が報酬のありなしに依存していて、報酬ありのときの視覚刺激Aに応答していたとしますね。報酬を入れ替えたら、その刺激Aは報酬ありの条件から、報酬なしの条件に変わって、刺激Bが報酬なしからありに変わります。そのときに報酬の結びつきに対応して、最初Aに対する応答していたのが、応答しなくなって、Bに対して反応するようになるだろうと。

○ふむふむ。

■もし運動に関係しているんだとしたら、報酬の結びつきの条件を変えたとしても、視覚刺激に対する応答は変わらなくて、運動の逆転をしてやると、視覚刺激に対する応答が変わるだろうと。つまり、例えば、Aの正解がGOで、Bの正解がNO GOだったときには、視覚刺激Aに応答して、運動逆転によって、Aの正解がGOからNO GOに変わって、Bの正解がNO GOからGOに変わると、今度は視覚刺激Bに対して応答が出てくるだろうと。

○ふーむ。

■ということで、視覚刺激そのものか、視覚刺激が示している運動の反応か、視覚刺激に結びついている報酬のありなしか、その3つのどれをコードしているかということを調べているんです。

○ふむふむ、なるほど。

[17: 報酬のあるなしに依存して視覚刺激に対する応答が決まる]

■なぜこれにいったかというと、それは前の仕事と関係してまして。
 前頭眼窩皮質の報酬に関する応答って言うのは、一部は、味覚に対する応答があるとかいうのが分かっているんですね。あと嗅覚に対する応答もあったりするんですよ。それに、いろいろな課題をサルがやってるときに、報酬をもらったときに細胞が応答するということがすでに分かっているんです。  ところが、私がやった昔のタスクでやると、報酬の水に対する応答というのはほとんど出てこない。

○は? それはどういうことでしょうか?

■いちおう出ては来るんですけどね。その割合は、予想外に低い。視覚再認課題だと、どのトライアルでも、正答したら水がもらえるんです。でもその報酬に対して、もっと多くの細胞が応答するだろうと予想されるんだけれども、あんまり応答しない。

○はい。

■ところが、報酬に応答しなかった奴でも、サルが何もしてないときに、つまり、レバーを押してもタスクが始まらないようにして、サルが、ただ休んでいるときに、吸い口からいきなり水をぽんと与えてやるとザンと応答するんです。だから、水に対しては絶対に応答しないというわけではなくて、課題をやっていて、水が来ることがわかっていると応答しないんじゃないかと。

○?

■水が来るかどうか分かってないときに、いきなり水が来ると応答するんです。

○ふむ。分かっていたら応答しないと。

■そうです。こういうのはドーパミン細胞なんかでも報告されていましてね。実は、私が「こんなのがある!」と喜んでいたときにちょうどシュルツがドーパミン細胞でこういうデータを出してきて(笑)。まあ、でもサポートされるようなデータだから喜ぶべきなのかな、と思ったんですけど。

○もう少し詳しく説明を。

■報酬があるかどうか分からないときというのは、学習している途中だろうと。学習している途中に、期待した以上の報酬が得られたときに応答するというのがドーパミン細胞の性質だろうと言われているんです。だから強化学習においてドーパミン細胞が重要だと言われているわけです。強化学習のモデルとも一致する。
 それと同じことが前頭眼窩皮質でもありそうだと。だからこの実験で報酬ありなしを作ってやって、学習過程を入れてやってということをやったわけです。
 こうすると確かに、報酬のありなしそのものとか、視覚刺激の結びついた報酬にdependした応答がたくさん見られるわけです。

○要するに報酬というのは、ある刺激が持っている意味合いということでしょうか?

■ええ、その「意味」っていうのがなんなのかということになると思うんです。もちろん刺激そのものが持っている意味──持ってないかもしれませんが(笑)、たとえばサルの顔なんか見せてやったりすると、なんらかの意味は持ってくると思うんです。そういう視覚そのものが持っている意味、それと、その視覚刺激が「こうしなさい」とサルに要求する運動ですね。それから、その視覚刺激に基づいてとった行動の結果として期待される報酬。

○これまで自分がどんなイベントを体験してきたか、というより、これまで体験してきたイベントによって付加される意味合いですか。

■まあそうですね。それは、過去のイベントがどうだったかということから、未来を予測することにも繋がってくるわけです。だから、この課題で、視覚刺激に結びついている意味としては、未来の運動であり、未来の報酬であると。

○なるほど。で、結局どういう結論、どういう結果が出つつあるんでしょう。

■いま出ているデータっていうのは、報酬のあるなしっていうのに依存して視覚刺激に対する応答が決まると。報酬がありだったらこう、なしだったらこう、そういう形で、報酬のありなしに依存した形で視覚刺激に応答する細胞がかなり見つかっています。いっぽう、運動に依存しているようなものはほとんど見つからない。

○細胞がかなり見つかってきてというのはどういう意味なのか、解説して頂けますか?

■一個一個細胞の反応を調べて、それが何に依存するかというのを決めていくわけです。この細胞は報酬のありなしに関係しました。この報酬は運動に関係しました。この細胞は、視覚刺激に関係しました、と、一個一個決めていくわけです。で、視覚刺激に連合された報酬に依存して視覚刺激に応答すると決めることのできた細胞がたくさん見つかってきていて、そういう細胞の割合が非常に高い、と。一方、運動とか視覚刺激に依存したものはほとんど見つかってこない。そういうことです。

○なるほど分かりました。──で、前頭眼窩皮質全体としては、たぶん報酬に関係しているんじゃないかと、そういう考え方なんですね。

■そうです。
 本当は学習との関係をきっちり押さえたいところなんですけど。学習していく過程──たとえば、このコンテキストというのを獲得していく過程だけで報酬に関連して応答する、なんていうのが見つかると、もっと、嬉しいところなんですが(笑)、いまのところまだそういうのが、十分解析できてないせいもあるんですが、言えてないですね。

○ふーむ。

[18: 刺激と反応と報酬のメカニズムは、脳の中でどう作られているのか]

■もう一つ「attention」という問題もあって。この課題だとある視覚刺激が出て、それが報酬に結びついているか結びついていないかということが、運動と独立に操作されてますよね。報酬が美味しいときにはなめて、不味いときにはなめないという条件での実験を、ロールズっていう有名な人がやっているんですけど、それだと報酬に注意が向くのはある種必然だと。

次号へ続く…。

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◇ユネスコ世界科学会議について 二十一世紀のための科学:新たなコミットメント
 文部省 学術国際局 国際学術課
http://www.monbu.go.jp/news/00000380/

◇科学・技術開発基盤の強化について〜次期科学技術基本計画の策定に望む〜 経団連
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/pol251/index.html

◇平成11年科学技術研究調査結果速報(要点)総務庁
http://www.stat.go.jp/0531.htm

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http://www.jamstec.go.jp/jamstec-j/PR/9911/1127/

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http://www.mhw.go.jp/houdou/1111/h1111-2_11.html

◇今冬のインフルエンザ総合対策について 厚生省
http://www.mhw.go.jp/topics/influ99_11/index.html

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