NetScience Interview Mail 2001/11/15 Vol.165 |
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【牧野淳一郎(まきの・じゅんいちろう)@東京大学大学院 理学系研究科 天文学専攻 助教授】
研究:理論天文学、恒星系力学、重力多体シミュレーション
著書:杉本大一郎編「専用計算機によるシミュレーション」 1994, (朝倉書店、東京)(分担)
Junichiro Makino and Makoto Taiji, Scientific Simulations with Special-Purpose Computers --- The GRAPE Systems 1998, (John Wiley and Sons, Chichester).
牧野淳一郎「パソコン物理実地指導」, 1999, (共立出版、東京)
そのほか
ホームページ:http://grape.astron.s.u-tokyo.ac.jp/~makino/
○理論天文学の研究者で、ずば抜けた性能を持つ重力多体シミュレーションのための専用計算機GRAPE6の製作者・牧野淳一郎氏のお話をお届けします。(編集部)
…前号から続く (第5回)
[11:銀河中心の巨大ブラックホール] |
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■ええ。星のどうこうっていうのは僕自身というよりは共同研究者の仕事です。だからシミュレーションの、実際の星の軌道を計算する部分は僕ともう一人でやってるんですけどね。メインは何かというと、GRAPEを作るということがメインになってます。
そのほかは色々、あやしいことをやってるんですが。
○あやしいって(笑)?
■これもしばらく前からやってるんですけども、銀河中心にあるブラックホールがどう振る舞うのかというのをやってて。
我々の銀河中心には、太陽質量の300万倍くらいのブラックホールがある。これはかなり正確にわかっています。ブラックホールがあることはほぼ間違いない。我々の銀河だけではなく、たいていの銀河で−−高い分解能で観測されているもので、ブラックホールがないと思われるものは、ほとんどないんですね実は。……というと、怒る人もいるんですけど(笑)。必ず別の説を唱えている人はいますから。
まあとにかく一般的にはあると思われています。ブラックホールがないと分かっている例外的な銀河は、本当に一個か2個しかないんですよ。
○はい。
■じゃあどうやってブラックホールができたかということになると、これがあんまり、分かってない。というのは、大きなブラックホールを一遍に作る方法というのがあって、これは要するに、太陽質量の数百万倍とか1億倍くらいのガスがあって、それが一遍にバカッと潰れると。10の六乗倍くらいの質量だと相対論的な性質によって一遍にブラックホールになるという話があるんですね。
○銀河中心にあるブラックホールと、恒星の爆縮でできるブラックホールとは違うんですよね。裳華房から出ている『活動する宇宙』という本を読んで、僕は初めてその違いが分かりました。
■ああ。でも、本当に違うかどうかも分からないんですよ。
もちろん、質量はぜんぜん違っている。我々の銀河系でも100万倍くらいはあって、大きい奴だと10の9乗、10億倍くらいまでいくんですね。そういう奴は大銀河の中心になる。普通の渦巻き銀河にある奴はもっとずっと小さい。
非常におおざっぱに言うと、銀河の質量と銀河中心にあるブラックホールの質量との間には割合きれいな関係にある、といったことが観測的には分かっているんですが、なぜそういうのができたかという話になるとよく分からない。ガスが一遍に潰れてブラックホールができるといったことになると、親銀河の質量とぴったり関係があるといったことが、あまり説明できない。
○そう言われると、そうですね。
■あと、そもそもそんな質量のガスが一気に潰れるというのがどうもうまく起こりそうにない。小さなスケールでの揺らぎが先に潰れて星になるとか、あるいは角運動量が残って円盤になってそれが分裂するとかのほうがどう考えてもありそうなわけです。
○なるほど。
■まあ、そういうわけで、普通の円盤銀河とかがどうなのかは取りあえずおいといて、大きな銀河に大きなブラックホールがあるという話は、大きな銀河は普通の銀河が合体してできたとして、そのときに、中心部のブラックホールも合体できるとすればですね、いちおう話としては説明がつくと。
○ええ。
■じゃあブラックホールは合体できるのかという問題がある。これは20年くらい前にマーティン・リースという人、彼は非常に若い時にケンブリッジの教授になったまあ割合偉い人ですが、彼が「SCIENCE」に論文を書いているんです。それぞれ中心にブラックホールを持つ二つの銀河が合体したとして、そのとき多分二つのブラックホールは中心まで沈むんですが、それが結局合体できるかと。そんなに簡単には合体できないだろうという論文を書いたんですね。
○合体できない?
■理由はなんでかというと、最終的には重力波を出して合体できるくらいまで近づく必要があると。
○はい。重力波というのは物体の周囲の空間は歪んでいて、物体が運動するとそのゆがみが光速の波となって伝わるというものですね。
■そうです。で、重力波を出して合体するくらいまで近づくためにはですね、ブラックホールがお互いの周りをぐるぐる回るようになって、周りの星を跳ね飛ばすわけです。
跳ね飛ばすとその反作用で、ブラックホール連星としてはエネルギーを失うので、その結果としてお互いは少し近づくと。それをずっと繰り返していって重力波を放出するところまで近づいて欲しいと思うんですが、計算すると近づかないんです。
○なぜですか。
■なぜかというと、近づかない根本的な理由は要するに、ブラックホールは近くに来る星しか跳ね飛ばせないわけです。だからみんな跳ね飛ばしちゃうと、ブラックホールのまわりに星がなくなっちゃって、それ以上跳ね飛ばせなくなる。
それでずっと前のほうに言った熱力学がどうのこうのという話に戻るんですけども、星がなくなっても、じーっと待ってればやがては近くに星がやってくるんで、それを跳ね飛ばせるんですけども、星が近くにやってくるまでにものすごく時間がかかる。宇宙年齢くらいでは足らない。だからブラックホールは近づけないんじゃないかと彼らはその論文に書いていたんです。
じゃあそれは本当かと計算して調べるといったことをやってるんです。
[12: いま一つよく分からない巨大ブラックホールの進化] |
■やるとですね、どうも、よく分からないんですよ(笑)。
○え(笑)?
■よく分からないというのはですね、彼らの理論が正しいとすると、星を跳ね飛ばしてしまったあとは、ブラックホールの近くに星が入ってくるタイムスケールでブラックホールの進化のスピードが決まるということになる。ということはどういうことかというと、そのあとのブラックホールの進化の速度は、粒子数に反比例する。
○最初に伺った話ですね。
■そうです。ところが実際にシミュレーションして2000から20万個くらいまで星の数をいろいろ幅をとって変えてみたんですが、そんなに変わらないんです。100倍変えても、せいぜい5倍くらいしか変わらない。
普通の理論だとブラックホールのまわりを回る星の数を100倍増やしてやるとブラックホール連星系の進化も100倍ゆっくりになるというのが標準的な話なんですけどね。
○球状星団なんかではそうなってるわけですね。
■ええ。球状星団全体の進化とかではきれいにそうなってるんです。
ところがブラックホール連星だと全然そうならない。100倍星の数を増やしても5倍しか変わらない。
○それはどうしてですか。
■うん、それがどうしてなのかは実際にはあまり分かってません。
○分からないな。
ブラックホールだっていっても、シミュレーション上では単に重力が大きいだけの星なんですよね?
■そうです。単に大きくて重い星です。
だから、理由としてはブラックホールのまわりに星がなくなるということが単純には起きてないと。単純に起きてないのはいいんだけど、どれくらい起きてなくて、その結果としてどうして100倍じゃなくて5倍程度なのかと。もうちょっとちゃんとしたことが分からないんです。答えがあるはずなんですが。
○ちょっと確認なんですが、イメージだとどんな感じなんでしょうか。僕は井田先生のときの話(http://www.moriyama.com/netscience/Ida_Shigeru/index.html)を思い出してもらえればいいなと思いながら伺っていたんですが、ブラックホールが星を跳ね飛ばすということがそもそも分からない読者もいるかも、と……。
もう一つ、銀河中心核のイメージってどんななんだろうということが、僕も含めていま一つピンと来ないんじゃないかと思うんです。
■そうですね。ブラックホールが、というより連星系がという話なんですが、まずはお互いのまわりをぐるぐる回っていると。そこに全然関係ない星がふらふらとやってくる。もちろん十分遠ければ、普通に軌道が曲がるだけなんですけども、十分近くを通ったときには、一個の星だけではなくてぐるぐる回っている連星だということの影響を受けるんです。
その影響の受け方が−−基本的には勝手な影響を受けるんですが、ブラックホールの回ってる速さが速くて、入ってくる星のほうがブラックホールよりも軽いという状況があるとですね……、どういう説明がいいかというのはちょっと難しいんですが、“高踏的な”説明というのがあります(笑)。
○次号へ続く…。
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◇「インターネットで読み解く!」2001/11/10号 第111回「テーマパークの明日と複合現実感」
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