NetScience Interview Mail 2004/03/04 Vol.267 |
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研究:運動の学習と制御の神経機構、脳内の時間順序表現メカニズム
著書:小脳における上肢随意運動の学習機構の解明.
『ブレインサイエンスレビュー2001』(伊藤正男,川合述史編/医学書院、2001:216-243.)
到達運動の制御と学習の神経機構.
『脳の高次機能』(丹治順,吉澤修治編/朝倉書店,2001:106-118.)
研究室ホームページ:http://www.med.juntendo.ac.jp/kenkyu/09index.html(建設予定)
研究内容の参考になるウェブサイト:
▼HFSP NewsLetter No.13 ―多才な運動を実現する脳の機構の解明へ―
http://jhfsp.jsf.or.jp/news/letter/no13/nl-05.html
▼HFSP NewsLetter No.17 ―ノイズが開く運動制御の可能性―
http://jhfsp.jsf.or.jp/news/letter/no17/nl-03.html
▼AIST Research Hot Line 手の交差で時間が逆転 ―脳の中の時間―
http://www.aist.go.jp/aist_j/aistinfo/aist_today/vol01_06/vol01_6_p12.pdf
○腕をコップに向けて伸ばす、このような運動を「到達運動」と言います。このとき、脳のなかでは腕を制御するためにある種の計算が行われていると考えられています。ではそれはどのような規範に基づいているのでしょうか。北澤先生はこのような運動制御における小脳の役割について研究しておられます。
また、北澤先生は実に不思議な現象を発見しました。右左の手をポンポンと叩く。どちらが先に叩かれたのかは、目をつぶっていても分かります。ところが、腕を交叉するとこの時間順序の判定が逆転するというのです。これはいったい何を意味するのでしょうか。
身近な身体に関する研究の話です。不思議なことは私たちのすぐそばにいくらでもあるということを感じて頂ければと思います。(編集部)
…前号から続く (第4回)
○「終点誤差分散最小仮説」? なんですかそれ。
■彼らが優れていたのは、「そもそも運動を滑らかにするということの生物学的な意味は何か」と考えた点です。ようく考えてみると、滑らかにするのにあんまり時間がかかったりコストがかかったりすると、かえって逆効果ですよね。取りあえず生物にとって何が一番大切かというと「思ったところに手が行く」ことですよね。だから彼らは、運動の目的とは、終点の誤差をできるだけ減らすことだと考えたんですね。 ○どういうことですか。 ■何か力を出して運動しようとすると、どうしても思い通りの力の大きさにはならなくて、力に比例した標準偏差のバラツキ、つまりはノイズがのるということです。 ○標準偏差が力に比例する。要するに、力を出せば出すほどノイズがのるってことですか。
■そうです。そういう傾向があると。だから、同じ運動をしようとしても、必ずちょっとバラついてしまう。そのときに、不必要に大きい力を使っていると、ノイズがいっぱいのるから、終点が大きくブレてしまうんだということですね。 ○ふーむ。 ■直感的に言えば、大きい力を使うとノイズがのる。だから不必要に大きい力は使わない。それはどういうことかというと、無駄な力が抜けている。無駄な力が抜けているというのは、滑らかな運動になっているんだ、という説明です。たとえばプロのスイングは、無駄な力が抜けているとよく言いますよね。
○ふーむ。 ■なるほど。 ○だから先生のお話は直感的にも良く分かるんですが、ただ、そのへんに関して、どうしても不思議というか引っかかるのが、生き物も本当にそういう原理で動いているんだろうか、ということなんです。生き物も本当にコスト計算やトルクや慣性質量の計算をしながら動いているんだろうか。そのへんがどうしても引っかかっていて。まあやってるんだと言われれば、「うーむ、そうなのか」と思うしかないんですけども。 ■なるほど。結局、誤差分散最小仮説もコストファンクションを書き出してみると、時々刻々送られてくる運動指令に、何かの係数をかけて足し算したものになっています。つまり運動の全域にわたる信号で定義される評価関数が最小になるような運動、っていう形になっちゃうんです。残念ながら。しかし、なんとか全域に渡るコストファンクションというのを、考えずに済ます手立てはないものだろうか。終点の誤差だけを問題にしていればいいんだという話にならないだろうか。加速から減速まですべて含めたコスト計算しているというのはすごく不自然に思えるんだけど、自分の手が目標に到達したかどうかは本質的に重要な問題ですから、終点だけを気にしていればいい、という話にならないだろうか。 ○なるほど。 ■終点の誤差の情報は登上線維にあるわけだから、使えます。もちろん可塑性もあります。終点の誤差だけで、本当に終点の誤差分散を小さくできれば、すべて問題は片づくだろうと、僕は思ってるわけですね。この点については改めて後で触れます。
■Harrisと Wolpertのモデルがもう一つ優れている点は、これは腕の運動でしたが、目の運動にも適用できるという点です。サッケードという点から点へスッと飛ぶような目の運動があります。5度、10度、20度、30度、40度、50度というふうに、運動の角度が大きくなると、ピーク速度がそのうち飽和して、後ろに尾を引くようになってきます。 ○なるほどね。人間の筋肉の特性の限界がありますもんね。それを「知ってる」んで すかね。 ■そうですね。もし最大筋力を使えばもっと速く動けると思います。だけど敢えて使わない、というのが生物の解なんだということなんだと思うんですね。僕は眼の最大筋力がどのくらいかは知りませんが。 ○実測のほうのグラフの線が、少しジャギジャギになってますが、これはなんですか。 ■これは計測信号自体にけっこうノイズがのっていて、ノイズを微分するのでさらにぎざぎざが目立ってしまったのではないかと思います。でも本当のところは知りません。僕の実験じゃないから。 ○眼のサッケードの話って、もともと脈の影響で眼球が揺れていて、それをキャンセルするような動きも入ってるんだと、どこかで読んだ覚えがあるんですが、その類なのかなと思ったんですが。
■あ、そうなんですか。それは僕は分からないですね。 ○ふーむ。面白いですね。
■とにかく、「すごい」と思いました。もう一つ僕が嬉しかったのは、終点の誤差だけで、終点の誤差分散を小さくすることができれば、こういう運動になるしかないんだということが説明できちゃうということですね。それで、何とかならないかと考えたわけですね。
■そこでまた先ほどの話に戻ります。平行線維入力が誤差とは独立であるという条件で、取りあえず、平均誤差がゼロになった状況を考えてみましょう。そのために小脳の状態を表す空間を考えてみます。たとえば小脳の平行線維とプルキンエ細胞の間のすべてのシナプスの結合係数を座標系とする空間を考えますと、小脳はこの空間の中の一点として表されます。一回運動すると、登上線維信号が出て結合係数がちょっと変わりますから、ちょっと場所が変わります。それを繰り返して、ポンポンポンと変わっていくと。 ○はい。状態空間の中を遷移していくわけですね。 ■この状態のなかで、終点の誤差がゼロであるような制御を実現する状態の集合を考えることができますね。それをZと呼ぶことにしましょう。シナプスの結合係数には生物学的な上限と下限がありますから、小脳が動けるのはその中でも境界に囲まれた一部の領域です。 ○はい。 ■取りあえず、平均誤差ゼロのところまでは、たどり着いたとします。しかし、平均誤差ゼロの中には「良い制御」もあれば「悪い制御」もあるわけですね。 ○ん? ■というのは、余計な動き、運動をしながらも平均誤差がゼロになる制御もあれば、素直に行く制御もあるわけですから。余計な動きをするものは終点誤差の分散という意味で、「悪い制御」、無駄な力を使わない制御はその意味で「良い制御」になります。 ○ああ、なるほど。 ■すると、いったん平均誤差ゼロになって動けなくなってしまうとすると、たまたま落ちた平均誤差ゼロの制御に捕らわれて、よりよい制御にいけないわけですよね。 ○はい。 ■そこで、何とか動かせないかと。そういう発想なんです。そのために平行線維の入力にノイズを足してやると、ノイズ×エラーの分は勝手に動けるじゃないかという考えです。平行線維のノイズがエラーで拡大された分だけ移動すると、ノイズはどの方向にも出ますから、ランダムな方向に行くということになるわけですね。ランダムウォークになるわけですね。いったん平均ゼロの平面にトラップされてもその上でまだ動けるぞ、というわけですね。 ○ふむ。 ■ランダムウォーク1ステップの動き幅は誤差に比例しているので、誤差がたくさん出るところでは動き幅が大きくなります。ノイズの分散が一定だとしておくと、ランダムウォークの1ステップの幅の分散は、まさにエラーの分散と比例してくるわけです。ということは、誤差分散が大きいところでは、拡散係数が大きい、ということが言えますね。で、エラーの分散が小さいところで拡散係数が小さいと。まさに拡散係数が終点の誤差分散に応じて埋め込まれているようなランダム・ウォークになっているんじゃないだろうか。 ○そうすると? ■悪い制御をしているところでは誤差分散が大きいですから、拡散係数が大きいわけです。そうするとそこからは速く逃げ出すことができる。 ○なるほど。
■良い制御のところに来ると、誤差分散が小さいですから、拡散係数も小さい。だから、滞在する時間が長い。 ○ふむ。 ○次号へ続く…。
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