NetScience Interview Mail 2004/07/29 Vol.285 |
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【柏野牧夫(かしの・まきお)@NTTコミュニケーション科学基礎研究所 人間情報研究部 感覚運動研究グループ】
研究:聴覚を中心とした認知神経科学
著書:『コミュニケーションを科学する チューリングテストを超えて』(共著/NTT出版)
「日経サイエンス」連載「錯覚の情報学」(2000年2号〜2001年1号)
月刊「言語」にて「知覚の認知脳科学」連載中
ホームページ:http://www.brl.ntt.co.jp/people/kashino/index_j.html
○光と音、音と音。これら刺激のタイミングはどのように知覚されているのでしょうか。たとえばコップを落としてしまったとき、床で割れる音とその光景はぴったりシンクロしているように感じられます。ですが実際には音のほうが少しだけ感覚器までの到達時間は遅れているはずです。また、その後の脳内の処理はどのようになっているのでしょうか。これらの問題を考えていくと、私たちが知覚している心理的な「時間」は、物理的な時間と同じものではなく、環境での出来事を脳が解釈した結果であるということが明らかになってきます。
聴覚を中心として研究を行っている柏野先生らによれば、同じようなことが空間に対しても言えるといいます。知覚している空間が伸びたり縮んだりするというのです。知覚の認知脳科学の世界を味わって頂ければと思います。(編集部)
○前回から続く…… (第9回)
○どういうことですか? ■例えば聴覚系というのは最初の段階の方は時間解像度が非常に高いんですよ。大脳皮質の方に上がっていけばいくほど、時間解像度がだんだん落ちていきます。大脳皮質というのは1秒間に10回とか20回くらいまでの変化にしかついていけなくなっているんですね、聴覚野の信号というのは。ということは100ミリ秒とかそのぐらいの解像度になっているわけですよね。 ○ふーん。 ■ところが、例えば5ミリ秒で高い音と低い音が出されたときに、その順序というのが非常に正確に分かるというのはどういうことなんだという話です。それは時間分解能がまだ高いレベルの段階で、その順番を順番として、時間的なタイミングとしてではなくて、全然違う形の情報として符号化しているからではないかということなんですよ。もっと具体的に言うと周波数の変化の方向として符号化していると。 ○ベクトルみたいな表現で、空間に張り付けているような感じですか?
■そうです。要するに、周波数の中で上向きに変化したとか下向きに変化したということに対してセンシティビティーのあるニューロンというのはたくさんあるんですけど、上向きの変化とか下向きの変化として、ひとたび符号化してしまう。つまり、まず1つのグループにして、その中への変化のパターンとして1つの符合にしてしまうわけです。その1つの符合が下、上という順番を表しているわけですね、表しているという意味では。 ○なるほど、そこは分かりました。
■それを証明するような実験をやったりしてます。 ○ふむ。
■我々の脳が直面している問題というのはまさにそれで、本当に知りたいのは外界でどういうふうな順番で物事が起きたかということですね。
○ああ、あの話ですか。産総研が昨年、発表していたやつですか? ■あれはちょっと違う。 ○あれとはまた違うんですか。 ■外界でもそれだけずれがありますよということもあるけれども、それで話は済まない。産総研の話は外界のずれだけの話なんですけど。我々の話は違います。 ○どんなふうに違うんですか。
■花火の話は、外部で例えばそういう撹乱が入りますよというのはいいんですけど、同じような問題というのは脳内でもあるわけです。 ○なるほど。
■しかもそこで話が終わるわけじゃなくて、さらに動きを分析するところとか色を処理するところ、いろいろなところに情報がどんどん送られていくときに、さらに何十ミリ秒か、かかってくる。 ○なるほど。
■脳がやりたいのはあくまでも、脳内のどこかでのタイミングを測りたいわけではなくて、目と耳のところでのタイミングを測りたいわけでもなくて、あちらで何が起きたのかということを測りたいわけです。 ○ふむ。 ■産総研の人たちの話というのは、外界でのずれを距離知覚で補償するという話なので、脳の中のズレに関しては考えていないわけですね。それに対して、外部と内部、トータルのズレにどう対処するかというところが1つ問題であるよと。その問題に対していろいろな対処方法が考えられて、1つはさっき言ったようにローカルな情報の中に含まれた、例えば郵便物の中にタイミングが表されたような手掛かりが入っていればいいわけです。何がいいですかね、そのときにやったに違いないと思われるようなデータ。例えばインタビューのテープに背後で、そのときにやっていたテレビ番組が偶然録音されているとか。つまりローカルな観測の中で使えるような関係性の情報というのは、そのままどんなにたらい回しされようが、それはもう完全に分かりますよね。 ○ええ。 ■だからさっき言った聴覚の話で、聴覚の中で最初の方の段階で、周波数の変化というふうなローカルな関係性として符号化された情報というのは、その後いかに時間的にいいかげんなプロセスを通っていっても、結局中身としては非常に正確なタイミング情報が保たれているわけですね。
○ふーむ。 ■いや、さっきのは視覚と聴覚をマッチングする前の話、聴覚だけの話です。視聴覚のマッチングの方はまた別問題で、これは視覚と聴覚の間のローカルな関係性というのは符号化しようがないわけですね、目と耳と入り口が違うから。そこら辺はかなり最初の方の経路というのは独立なので、それを同時に符号化することはできない。だけど今度はある程度の範囲の刺激の分布というものを参照することはできると。 ○なるほど。 ■例えばイベントが1発ならどうしようもないんですけど、ある程度、続けて来ていると。それが一定の時間ずれを伴っている場合には、それはたぶん伝送経路に由来するものであるに違いない。そこで、同時の基準点をそっちの方向に移していけば、ある程度、ズレが相殺できるかもしれない。つまり、与えられてくる情報の中の統計的な構造に基づいて、今の同時点を推定し続けてやろうと。 ○相関を無理やり取ってやる? ■そうですね。それに近いこと、つまり視聴覚の間の同時性というものは固定的なものじゃなくて、その都度、その都度、与えられてくる情報の構造に応じて、常に校正され続けているようなものなのじゃないかという話ですね。 ○面白いですね。それは相互相関を取るようなバイモーダル・ニューロンか何かがあるんですか。 ■それが非常にポイントで、あるかもしれないと思っています。でもそこは全然、証明できている話じゃない。 ○仮にこれじゃないのとかいう神経が見つかったら、潰してやれば無茶苦茶になったりするんでしょうかね。
■ただ、あってもおかしくはないのかなというのは、我々がやったのは残効が出るんですよ。 ○残効? ■残効というのは視覚の話でもよく出ていますけど、ある一定の刺激にさらされると、その後でニュートラルなものが逆方向に知覚される。今の話で言えば、例えば視覚が常に先、視覚・聴覚、視覚・聴覚というふうになると、同時のものが逆の方向にずれるということですね。 ○同時だと逆。ああ、常にそれが来ると。
■むしろ同時だと逆に聴覚の方が先に聞こえてしまうと。 ○ああ。 ■だから、例えば運動残効というのが一番いい例で、右向きの動きをずっと見て、止まっているものを見たら左向きに動きますよという錯覚ですが、これは右向きに応答するニューロンと左向きに応答するニューロンというのがあって、右向きの動きをずっと見ているうちに右向きのニューロンの活動が下がってきて、結果的に止まっているものを見ても相対的に右向きのニューロンの活動の方が高くなると。 ○はい。滝をずっと見ていると、止まっているものが上にあがっていくような感じがするというヤツですね。
■こんなふうな説明が昔からよく行われてきていて、すべての残効現象がそうであるとは言えないんですけれども、ある意味ではそういう時間のズレというものに対して、センシビリティーを持つようなニューロンというものの存在を示唆しないではないという程度の意味ですね。 ○なるほど。 ○次号へ続く…。
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