NetScience Interview Mail 2004/08/05 Vol.286 |
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【柏野牧夫(かしの・まきお)@NTTコミュニケーション科学基礎研究所 人間情報研究部 感覚運動研究グループ】
研究:聴覚を中心とした認知神経科学
著書:『コミュニケーションを科学する チューリングテストを超えて』(共著/NTT出版)
「日経サイエンス」連載「錯覚の情報学」(2000年2号〜2001年1号)
月刊「言語」にて「知覚の認知脳科学」連載中
ホームページ:http://www.brl.ntt.co.jp/people/kashino/index_j.html
○光と音、音と音。これら刺激のタイミングはどのように知覚されているのでしょうか。たとえばコップを落としてしまったとき、床で割れる音とその光景はぴったりシンクロしているように感じられます。ですが実際には音のほうが少しだけ感覚器までの到達時間は遅れているはずです。また、その後の脳内の処理はどのようになっているのでしょうか。これらの問題を考えていくと、私たちが知覚している心理的な「時間」は、物理的な時間と同じものではなく、環境での出来事を脳が解釈した結果であるということが明らかになってきます。
聴覚を中心として研究を行っている柏野先生らによれば、同じようなことが空間に対しても言えるといいます。知覚している空間が伸びたり縮んだりするというのです。知覚の認知脳科学の世界を味わって頂ければと思います。(編集部)
○前回から続く…… (第10回)
■脳内でのいろいろな時間差を克服する方法というのがいくつかあって。先ほどから言うように、聴覚の中で、ローカルな流れとか変化の方向という形で、時間的な情報ではなくて、非時間的な符号としてある種、安定に符号化されてしまえば、それは正確に判断できるけど、そうできないようなもの、グループになってないものはできませんよというのが1つ。 ○ええ。
■でも、ここで言いたいのは、いずれにしても我々が知覚する時間とかタイミングというものは、そういうふうにもちろん物理的なものに対応しているわけでもないし、神経信号のタイミングに対応しているわけでもないと。そういう問題意識をまずはっきりさせた上で、じゃあ、次にどうやって、というところを明らかにしようとしているところである、というのが今のところでしょうかね(笑)。 ○この辺の、下條信輔先生のところの神谷さんがやった実験とかは、初めて聞いたときウソだろうと僕は思いましたけどね(笑)。どう考えても不思議です。 ■TMSのやつですか。 ○ええ。未来の色が見えるというヤツ。ホント、不思議だなと思うんですけど。北澤先生からも、緑色の三角形から赤い色の四角を提示するとどうのこうのとかいう話を先日して頂きました。あるタイミングでパパッと見せると色が途中で変わるという……。 ■ああ、「仮現(かげん)運動」ですね。そうですね、仮現運動がまさにそうです。まあ、音でもそうですけど。仮現運動の場合には、緑色の丸と例えば赤の三角をパパッと切り替えると、滑らかに途中で色や形が変わっていっているのが見えるわけですが、物理的に言えば、二つ目が出されないことにはどう変わるか知る由もないわけで。 ○ええ。仮現運動というんですね。
■仮に現われると書きます。英語で「アパレント・モーション」ですね。仮現運動。仮現運動というのは歴史的にはそれこそ、ゲシュタルト心理学の人たちが、感覚というものは要素の総和以上のものだと。
○あの時代の人たちって、何ていうのか、ちょっと変な実験をいっぱいやっていますよね。 ■やっています。結局、それはもっと言えばそれは現象学というか、フッサールとかあの辺の影響があるわけですよ。 ■TMSのやつもあれですけど、筒みたいなのを頭にかぶせて強い磁場にさらすとなんかフォスフェン(ちらちらした閃光)が見えるとか言いだしたのもあのころなんでしょう? 前にそんな話を聞いたような気がするんですけど。やっぱりそういう時代的背景があるわけですね。
■そうですね。いろいろな価値観を壊した人たちが1900年前後に現われますよね。ニーチェとかフロイトとかもそうだけれども、フッサールなんかもそうで、とにかく現象というものは、要素には還元できないんだみたいな話が思想的背景としてはあった。 ○けど? ■そういう流れの中に我々も位置付けられると思いますよ。 ○現段階でどの程度分かってきているんですかね。 ■分かってきていることはものすごくたくさんあるけれども、最終的に意識に上る経験のすべてを説明できるわけではないですよね。だから、例えば見え方、聞こえ方というのは物理的なものに対応しないとか、過去と未来は逆転していますとか、さっきのフラッシュ・ラグじゃないですけど、同時に出しても遅れて見えますなんていうことは、およそ1950年代ぐらいまでの間に現象としては知られていたことですよね。 ○ええ。 ■だから、そういうのがどうやって起こるのかということに関して、もちろん簡単に説明できているものもあるけれども、それ以外の部分ではなかなか、今日に至るまで決着が付いてないというところじゃないでしょうかね。 ○この辺でやっているらしいよとかいうのも−−、たとえばファンクショナルMRIで調べると。こんなふうに反応していますよとかって実験がよく出てくるじゃないですか。僕は正直言って、あれを聞くたびに「だからどうしたんですか」という感じがするんですけどね。 ■そうです、その通りです。それは非常に正しい。なぜならばあれは、意味がないというんじゃないんですけど、カレーの作り方を尋ねるのに、「台所で作っています」と言うようなもので、それは答えてないんですよ、つまりどうやって作るんですかということには。 ○ええ。 ■ただ、うまく組めば、いろいろな部位の関係とか、少なくともここは台所なんだということとか、そういうことは分かる。だからもちろんいろいろな意味がありますけれども、逆に何でそういう意識的体験が生み出されるか、どういう手順で何をどうしたらそうなるんですかと言われたらそれは無力ですよね、そういう意味ではね。だからこそ、そこを別のアプローチ、例えば心理実験で確かめないといけない。 ○ええ。でないと僕ら素人も分かったような気にならないです。
■研究者もいろいろですから、とにかく自分の分野が一番偉いと思っている人もいるわけです。まあ、あまり過激な表現をすると差し障りがありますが(笑)。 ○ええ。
■もちろん、これは簡単にどっちが偉いとかどっちが重要という話じゃなくて、相補的だということでしょうね。それこそ最初のほうで学際的だという話をしたけど、さまざまなアプローチをうまく組み合わせていかないと、全然、全貌が見えてこないと。その中で錯覚とか心理物理学も、マクロレベルの解析として一定の貢献ができるだろうというふうに思ってやっているんですね。
○先生方のグループはどういう形でそこへ切り込んでいくわけですか。今、いろいろなことをやろうとしている、まさにその最中なんでしょうが……。 ■まあ、グループ全体として何かということでもないので。うちのグループは視覚の人、聴覚の人、運動の人、スピーチ絡みの人、それからロボティクスとかバーチャルリアリティー関係の人とか、いろいろな人がいるので。 ○みんな合わせて35人いるんですか。 ■だいたいそうですね、常に変動はしてますが。 ○多いですね。ロボティクスの人なんかもいるんですか。
■いるんですよ。ロボティクスとか新型ヒューマンインターフェイスとかいうようなものまで含めているんですけど。要するに人間周りのことはほとんど全部何でもやっていると考えていいですけど。 ○ええ。
■ただ、視覚・聴覚の部分というのは、さっきから言っているようなそういう主観的に経験される世界というものがどういうふうにして作り出されるかということに関して、心理物理学的な手法をメインに切り込んで、それプラス、可能な場合にはfMRIというようなブレインイメージングも使うし、それからさっきのネズミの神経生理みたいなこともやるし、というような感じなんです。 ○今はどういう仮説を立ているんですか。 ■仮説といってもそれはテーマがいっぱいあるので……。 ○次号へ続く…。
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