NetScience Interview Mail 2004/08/12 Vol.287 |
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【柏野牧夫(かしの・まきお)@NTTコミュニケーション科学基礎研究所 人間情報研究部 感覚運動研究グループ】
研究:聴覚を中心とした認知神経科学
著書:『コミュニケーションを科学する チューリングテストを超えて』(共著/NTT出版)
「日経サイエンス」連載「錯覚の情報学」(2000年2号〜2001年1号)
月刊「言語」にて「知覚の認知脳科学」連載中
ホームページ:http://www.brl.ntt.co.jp/people/kashino/index_j.html
○光と音、音と音。これら刺激のタイミングはどのように知覚されているのでしょうか。たとえばコップを落としてしまったとき、床で割れる音とその光景はぴったりシンクロしているように感じられます。ですが実際には音のほうが少しだけ感覚器までの到達時間は遅れているはずです。また、その後の脳内の処理はどのようになっているのでしょうか。これらの問題を考えていくと、私たちが知覚している心理的な「時間」は、物理的な時間と同じものではなく、環境での出来事を脳が解釈した結果であるということが明らかになってきます。
聴覚を中心として研究を行っている柏野先生らによれば、同じようなことが空間に対しても言えるといいます。知覚している空間が伸びたり縮んだりするというのです。知覚の認知脳科学の世界を味わって頂ければと思います。(編集部)
○前回から続く…… (第11回)
○テーマは今は? ■だから、先ほどの問題−−すなわち、視聴覚じゃなくても各モダリティでも基本的にばらばらにいろいろな情報が処理されている。その間のタイミングとか時間関係をどうやって復元するかという問題です。 ○それに関しては? ■やはり可塑的にそれを獲得するというか推定する、データから同時と思われる点を推定し続けていくというような方向ですよね。 ○それはどうやって獲得していくんですか? ■それはやっぱりお互いをズラした中に順応させるような。例えば逆さ眼鏡のアイデアだと思えばいいです。 ○逆さ眼鏡ですか? 逆さメガネをかけつづけていると、最初は世界が逆さまになっているから生活に苦労するんだけどだんだん馴れてくるというものですよね。 ■ええ。逆さ眼鏡というのは基本的に空間の方の問題ですけど、視覚入力と例えばほかのモダリティとを矛盾させるわけですよね。 ○ええ。 ■その中で順応していくと何が起きるかということを調べることによって、その間の対応を関係がどうやって作られているかを調べていきましょうという話ですけど、これもやっぱり例えば視聴覚のタイミングの問題だったらその中に一定のシステマティックなズレを入れてやると。だから、例えば聴覚だけズラすとか、視覚だけを遅らせるとかというようなことをやるときに、それに順応していくさまを見る。 ○どうやってずらすんですか? ■それは簡単に、まあ、計算機で作りますから。 ○ああ、そうか、そうか。たとえば音と絵がずれているような映像で見せてやって、それをずっと見させるとか、そういう意味ですか? ■そういうことです。 ○そういう実験をしながら、脳をイメージングで見る、みたいなことをやるんですか?
■イメージングまではまだやっていませんけど。だいたい我々のやり方としては、心理物理学的な方法である程度、かなり当たりを付けてから次にそういうニューラルな方向をやるということだと思うんですけど。だから、順応実験というかそういうのを探した後にどう変わるかということを、かなり細かく分析するわけですよ。
○実際にはどういう刺激を提示してやるんですか?
■ちょっと具体的に見ますか(ディスプレイを見ながら)。まあ、いろいろなのがあるんですけど、これはリングですね。視覚的なリングとピッという音、これとを一定時間ズラしてしばらく見る。 ○ズレてるにしてもタイミングがバラバラのような感じがしますが、これは?
■いろいろなタイミングで出ているのは、どっちが先かとか、同時だったか否かとか、そういう単純な判断をさせるためです。 ○同時性がズレる? ■ええ。これがズレがないときに順応したときに、どこがズレがないと思うかというとゼロに近いところがズレがないと思われるんですけど、実際には、視覚が早い方にしばらく順応した後に見ると視覚を早いしたときにズレがないと思われると。 ○えーっと、視覚が早い方が、ズレがないと思われるということですか?
■そうですね。ずっと、視覚、聴覚、視覚、聴覚というタイミングで順応すると、視覚を早くしたときにズレがないと思われる。逆に物理的に同時だと聴覚が早いと思われてしまうと。結構、何十ミリ秒も主観的な同時点がずれていくわけです。 ○ストライクゾーンが広がってくる? ■広がってくるわけです。だから外角ばっかり投げていると、外角側のストライクゾーンが広がると。 ○できの悪いゲームとかをやっていると、最初は何か辺だなと思ってもやっているとだんだん慣れてきますよね。あんな感じ?
■ああ、それですよ(笑)。ズレがランダムならどうしようもないですが、ズレが一定なら慣れてくるということです。 ○外すと。 ■外すと。だからここでいわゆる残効が起きてるわけですよ。順応によって残効が起きているわけだけど、もう因果性すら破壊されるほど、そういう残効というのは起こり得る。 ○ほう。
■つまり何かやったことに対する反応というのもそうだし、視覚と聴覚の関係もそうだけれど、そういうものは、脳内でハード的にでき上がっているわけではなくて、ある種、その都度の経験でもって結構フレキシブルに変わると。これはそれこそ、マルチメディア・インターフェイスのデザインなんかでも非常に大きなポイントです。
■ただ、視聴覚の同時性判断だけだと実験としてまだよくなくて、なぜならば、これは被験者がそう言っているだけかもしれないわけですよ。「同時ですか」と言われて、ここら辺まで、同時です、同時ですと答えているんですけど、それは反応バイアスかもしれないんですね。つまり、本当にそう知覚されたのか、答えているだけなのかわからない。 ○両方から点がやってくる−− ■ええ、こう来ていますよね。放っておくとだいたい通り過ぎるんです。放っておくと通り過ぎる。ところがここに音を鳴らす。通り過ぎる瞬間に。すると、音が鳴ると反発するように見える可能性が高まってくる。 ○ええ、確かに。反発しているように見えます。 ■この現象を使おうと。 ○これは何ていうんでしたっけ。現象名は何かあるんですか。
■これは「交差と反発の錯覚」というぐらいで、それ以上名前があるかと言われるとないんですけど。セキュラーという人たちが数年前に『ネイチャー』に発表した現象です。これを使って測ろうと。 ○なるほど。適切なタイミングで音を鳴らさないと駄目なんですね。 ■そう。こういう時間的な視覚情報と聴覚情報の時間的なタイミングに、こういうチューニングを持っているわけです。だから話としては、この現象で順応を見ようと。 ○どういうことですか。
■例えば、交差するときよりも一定時間遅れてから音が出るということにしてやって、それに順応させた後で、どのタイミングで音を提示したときに一番反発効果が出るかということを調べてやる。 ○なるほど。 ■そうやってみるとやっぱり同じように、基本的にこういう、さっきと同じようなカーブが出てくるわけです。さっきの実験結果がこのカーブだとしたら今のがこのカーブで、極めて似たようなカーブで出てくるというようなことで、結局、どういう測定をしてみても、視聴覚の同時性というのは直前にどういうものにさらされるかによって、結構変わってくるよということが言えると。 ○ふーむ。面白いですね。 ■ですから、一番シンプルなメッセージは、視聴覚のタイミングというのは、物理的なもの、あるいは脳内の神経活動のタイミングということじゃなくて、基本的には解釈として脳内のどこかで作り出されているものであって、しかもその解釈というのは極めて可塑的に変わり得る。 ○何によって? ■つまり、その直前に与えられた入力情報の統計的な性質です。これは一貫してこういう遅れた相関があるわけですね。そういうものだと、それをゼロと思うようにシステムが動くと。 ○なるほど。そこを基準にして考えることになっているんですかね。 ■そう。だからある種、相対主義なんですよ。 ○面白いですね。まさに出来事依存的という感じですね〜。 ■そう、出来事依存的です。だから我々の知覚は出来事依存的だと。おっしゃる通り。出来事依存的に、極めて相対的に、そこからの差異を見ようとするようにできているということですよね、一口に言えばね。 ○じゃあ、「もっともらしい」ように出来事を知るというか作るというか……。 ■そうです。だから何がもっともらしいかというと確率的な偏りを見るわけですよね。 ○次号へ続く…。
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