NetScience Interview Mail 2004/07/15 Vol.283 |
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【柏野牧夫(かしの・まきお)@NTTコミュニケーション科学基礎研究所 人間情報研究部 感覚運動研究グループ】
研究:聴覚を中心とした認知神経科学
著書:『コミュニケーションを科学する チューリングテストを超えて』(共著/NTT出版)
「日経サイエンス」連載「錯覚の情報学」(2000年2号〜2001年1号)
月刊「言語」にて「知覚の認知脳科学」連載中
ホームページ:http://www.brl.ntt.co.jp/people/kashino/index_j.html
○光と音、音と音。これら刺激のタイミングはどのように知覚されているのでしょうか。たとえばコップを落としてしまったとき、床で割れる音とその光景はぴったりシンクロしているように感じられます。ですが実際には音のほうが少しだけ感覚器までの到達時間は遅れているはずです。また、その後の脳内の処理はどのようになっているのでしょうか。これらの問題を考えていくと、私たちが知覚している心理的な「時間」は、物理的な時間と同じものではなく、環境での出来事を脳が解釈した結果であるということが明らかになってきます。
聴覚を中心として研究を行っている柏野先生らによれば、同じようなことが空間に対しても言えるといいます。知覚している空間が伸びたり縮んだりするというのです。知覚の認知脳科学の世界を味わって頂ければと思います。(編集部)
○前回から続く…… (第7回)
■だからある種、知覚というのは仮説ですよね。脳内に蓄えられているいろいろな事前知識もあるし、それからいろいろな感覚器官から入ってくるいろいろな情報、それは全部、状況証拠なわけですよね。犯人に対する状況証拠だけど、それを踏まえた上で今、犯人だと思えるやつはこれなんじゃないかという仮説をどんどん作り出していくと。ある段階で犯人を100%絞りきれなくても、かなり強い証拠がポンと入ってきたらそれ以上聞かなくたってこれだとなるかもしれないし、そういうプロセスをどんどんやっていると。 ○ええ。
■だからその辺の情報が与えられてくる時間的な変化と、それを受けてこっちが変化する、受け手側の方が変化するその両方、この相互作用を込みで考えないといけないんじゃないのかなというのが−−、それがずっとある意味、通底する問題意識なんです。
○脳の情報処理の仕組みで、僕が以前から不思議だなと思っているのは、個別の出来事から一般性みたいなものを表現できるような形でたぶん圧縮されていて、逆に展開するときには、個別に適応できるような形でたぶん展開しているんですよね。なぜそんなことができるんだろうと。さっきの言葉の聞き取りの話とかもその一つだと思いますが。
■ああ、そうだと思いますね。それは非常に難しい問題ですよね。というか、カテゴリーなんて全部そうですよね。例えばスピーチの問題でも、典型的な「あ」というのはどうなんですかと言われたらそれは分かるんですよ。 ○境界ですか。 ■そうです。境界というのは常にフラジャイルなんですよね。コンテキストに対してセンシティブなのも境界。事例はいっぱい入ってくるわけで、あの人の「あ」、この人の「あ」、「いあい」の中での「あ」とか、「うあう」の中での「あ」とか、いろいろなものが莫大に入ってくる。 ○ええ。
■その中でたぶん、これが「あ」ですよいう、これぞ「あ」だという音はたぶん誰しもあるんです。けど、ところがこの「あ」という、この辺の周辺のこれというのはいったいどこまでが「あ」なんですかと言われたときに非常に話が難しくなる。じゃあ、東というのはどこら辺までが東なのか、どこから南に変わるのかとかね。それは、まあ、45度のところから変わるんでしょうけど、あんまりこの辺を指して東とは言わないですよね。 ○ええ。でも人間はそれをやってるんですよね。
■学習理論を理論的にやっている人がいて、例えばうちの研究所の中でもそういうことを専門に数理的な学習のモデルなんかをやっている人もいますけど、そこは確かに非常に問題ですよね。 ○ええ。認識ベースでは実は10ぐらい山があるんだけど、知覚のベースで1つにまとめているとかいうことも、あるかもしれないですね。 ■そうですね。つまり聴覚ベースではもっと区別ができるわけですよ。例えば1つのカテゴリーの中でも、単純に音響的区別できますかと言われたら、「あ」と「あ」、これは違いますと。違いますけど、じゃあ、日本語で書いたら何、というと「あ」と書くわけですね。そういうのが確かに非常に問題で、カテゴリー化の問題というのは、あるいはそれをどうやって学習するんですかというのは謎ですけど、そこに対して私はこれで謎が解けますみたいな見解を持ち合わせていないんです。
○今はどんな感じでやっていらっしゃるんですか。 ■最近、それ以降でやっている話としては時間の話とか、これはクロスモーダルの話、それから空間の話の延長でいけば、より神経科学的な話をやっていますね。 ○その辺の話をぜひ伺いたいと思いますけど。
■そうですね。空間の話からいくと、「伸び縮みする空間」という話がありましたけど、あれの中で一応、こういうふうなことが起きているんじゃないかと。 ○ふーん。それでいまは? ■今は神経的な実在をとらえようとしていまして、ほぼそれはこうなんじゃないかなというのがある程度、見えてきたところです。 ○見えてきたとは? どういうところへどうやって見えてくるんですか。
■人間でそれはちょっと難しいので、スナネズミというのがいましてね。空間知覚の上で非常に重要な神経部位は、脳幹の中にある下丘というところなんですよ。大脳皮質に行く前の段階で、それまでに空間的な情報が−−例えば両耳に到達した信号の時間差であるとか強さの差というものが検出されていて、下丘あたりになるとそういうものがだんだん統合されていたりするようなことになっているんですけど、下丘の中には当然、両耳に与えられた時間の差というものに、ある特定の時間差の範囲に選択的に応答するようなニューロンというのがいっぱいありますと。これらのコンテキスト・センシティビティーというのを調べたというわけです。 ○どのくらい上がるんですか。 ■まあ、ちょっとです。ちょっとというか、どのくらいと言われても難しいんですけど、人間の場合は4割ぐらいなんですよね。4割ぐらいというのは、それは人にもよるし条件にもよるんですけど。 ○4割ってどういう意味ですか。 ■例えば50マイクロ秒の時間差が分かっていたとしますよね。それが例えば30マイクロ秒ぐらいの違いが分かるというような話。 ○もともとの最小分解能というのはどのくらいなんですか。
■人によるんですけど、まあ、50マイクロ秒くらいです。人間によります。一般に水平方向は1度ぐらい分かるといわれるんですよね。1度というのはどれに対応するかというと、こっちに最大起こるのは人間の頭の幅から考えて、だいたい500〜600マイクロ秒ですから、だいたいこの90度が600マイクロセカンドとすると、1度というと数マイクロ秒ぐらいになりますかね。 ○次号へ続く…。
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