NetScience Interview Mail 2004/07/08 Vol.282 |
NetScience Interview Mail HOMEPAGE http://www.moriyama.com/netscience/ |
NetScience Interview Mail : Free Science Mailzine | |
---|---|
科学者インタビューを無料で配信中。今すぐご登録を! |
【その他提供中の情報】 | 新刊書籍情報 | | イベント情報 | | おすすめURL | etc... |
◆Person of This Week: |
【柏野牧夫(かしの・まきお)@NTTコミュニケーション科学基礎研究所 人間情報研究部 感覚運動研究グループ】
研究:聴覚を中心とした認知神経科学
著書:『コミュニケーションを科学する チューリングテストを超えて』(共著/NTT出版)
「日経サイエンス」連載「錯覚の情報学」(2000年2号〜2001年1号)
月刊「言語」にて「知覚の認知脳科学」連載中
ホームページ:http://www.brl.ntt.co.jp/people/kashino/index_j.html
○光と音、音と音。これら刺激のタイミングはどのように知覚されているのでしょうか。たとえばコップを落としてしまったとき、床で割れる音とその光景はぴったりシンクロしているように感じられます。ですが実際には音のほうが少しだけ感覚器までの到達時間は遅れているはずです。また、その後の脳内の処理はどのようになっているのでしょうか。これらの問題を考えていくと、私たちが知覚している心理的な「時間」は、物理的な時間と同じものではなく、環境での出来事を脳が解釈した結果であるということが明らかになってきます。
聴覚を中心として研究を行っている柏野先生らによれば、同じようなことが空間に対しても言えるといいます。知覚している空間が伸びたり縮んだりするというのです。知覚の認知脳科学の世界を味わって頂ければと思います。(編集部)
○前回から続く…… (第6回)
■それと同じような話だと、音源分離なんかもそうですよ。我々の研究所でも音源分離というのをテーマの1つでやっていますけど。 ○まあ、それはそうなんですけど、僕らみたいに話してることを全部テープ起こしする人間からすると、早く何できないかと思うわけです(笑)。 ■そうですね、そういうシチュエーションは十分考えられて。だから、例えばこのテープ起こしをすることに使えるようなシステムでしたら、例えばうちの研究所でもある程度できているんです。これを分離してそれぞれを書き起こすというのは、それぞれの声を別々にするということは、今でもある程度できると思うんですよ。 ○え、ほんとに? 是非お借りしたいですね(笑)。 ■ただ、完全に認識してテキストに落としたときに、そのまま使えるレベルではもちろんないですけど、かなりいけると思いますけどね。 ○まあ、機械を開発するよりライターを1人雇った方が早いということだったりするんでしょうね。
■そうそう。だからその辺は、結局、実用化ということになってくるとそういういろいろな現実的なファクターが強いので、必ずしも人間がこれを分からなければいけないなんてことにはならないんですけど。 ○言いきってしまうとヤバイですよね(笑)。
○ところで、さっきの話ですけどね。雑音をかぶせたほうがブツブツ音が聞き取りやすくなるという話。 ■だから、「音」というのは音響信号だと思うからそうなのであって……。 ○……ん? ああ、そうか、そうか。 ■そうそう。この現象でもたぶん解釈は2通りあり得ますね。脳内でそこの欠けている部分に相当する音が実際にどこかで作り出されているという立場と、もう1つはそんなもの作り出す必要はないという立場とあると思うんですよ。 ○はい。
■要するに、前者の立場というのは、ある種、脳内で外界に対応するような神経活動が起きなければ知覚できないと。知覚するということは外界のある種、コピーを脳内のどこかに作り出すことだという観点に立てばそうなんですけど、論理的に考えてみると別に知覚するということはそういうことじゃなくてもいい。 ○はい。物事は急には変わらないと仮定をおくわけですね。 ■例えば、こういうふうに本当はここはないとしましょう。こことそっちにものすごくつながりのいい出来事があって、しかし本当は途中で終わっていて、その終わった瞬間に別の雑音が偶然にも入って、その雑音が終わった瞬間に、また偶然にも極めて前と相関が高いことが起きているという解釈もあり得るわけなんですけど、こういう可能性というのはかなり低いですよね。 ○つまり、音と音が繋がってるっぽかったら、繋がってると判断する。 ■そういうことですね。普通はつながっているものが、どこか邪魔されたと思うのがより自然な、つまり世の中でありがちなことであって、統計的にもそっちの方が非常に多いわけですよね。だったらそっちに張るわけで、別にここのところにデータが全部ないと、ここが何であるかが分からないかって、そんなことは全然ないわけです。要はここは切れていませんよということだけで十分だと。 ○ええ。
■だとすると、あえて脳内で欠けている部分を作り出す必要もないし、ましてや入ってくる音としてそこに音がないのに、何で聞こえるかということじゃなくて。 ○ふむ−−。 ■だから証拠と犯人とを混同しているんですよ、多くの理論は。脳のゴールは犯人捜しであって証拠捜しじゃないんですよ――証拠捜しじゃないって言っても、知覚というプロセスは証拠捜しではあるんですけど、最終的に知りたいのは犯人なんです。で、犯人の遺留品とかというのはいっぱいあるわけ。音響信号というのは犯人の遺留品にすぎないんです。 ○はい。
■犯人の遺留品がこうでしたと。例えばここに指紋があります、ここに犯行に使った凶器が落ちていましたとか何とかって断片的な情報が与えられるときに、それで犯人が特定できればそれでいいわけですよ。
○ふむふむ。なるほどね。もう、分かればいいんだと。そういうことですね。
○その、推測や判定みたいなことをやっているアルゴリズムが何かあるとして、それは今、どの程度まで分かってきているんですか。 ■いや、それは、どの程度まで分かってきているかというと非常に難しいんですけど、1つにはやっぱり、環境内でよく起こることと、まれにしか起こらないことを反映した形で学習が起こっているということですよね。つまり、個々のイベントごとの特殊事情ではなくて、いろいろなものに対して一般的に成り立つことというのは、まずベースラインとして獲得されているだろうと。もしかしたら遺伝的に組み込まれている。要するに系統発生のレベルでも獲得されているかもしれない。 ○ええ。
■例えば、世の中には不透明なものが多いから、手前にものが来たら奧にあるものは隠されます、ということは、これはたぶんかなり一般的な話ですよね。でもそれとて100%じゃなくて、じゃあ、これが透明だったらどうなるんですかとか、いろいろ例外はあるわけですけど。 ○ええ。
■あるいは、極めて人工的に、まったく無関係な、本来関係ないものでも、とにかく一緒に現われるように現われるようにすると、ほんの数分の経験だけでけっこう長期的にそれらが結び付いてしまうということもある。とにかく、いろいろなレベルでの獲得の仕方があるのかもしれないけれども、やはりそういう外界の統計的な分布というものをいろいろな意味で獲得していると。 ○それが知覚だと。 ■そう。それが知覚だと。 ○次号へ続く…。
|
科学技術ソフトウェア データベース
|
◆このメールニュースは、 ◆<科学技術ソフトウェアデータベース・ネットサイエンス> ◆[http://www.netscience.ne.jp/] の提供で運営されています。 |
発行人:株式会社サイネックス ネットサイエンス事業部【科学技術ソフトウェアデータベース・ネットサイエンス】 編集人:森山和道【フリーライター】 |
interview@netscience.ne.jp moriyama@moriyama.com |
ホームページ:http://www.moriyama.com/netscience/ *本誌に関するご意見・お問い合わせはmoriyama@moriyama.comまでお寄せ下さい。 *メールマガジンへの広告掲載に関するお問い合わせはinfo@netscience.ne.jpまで御願いします。 |
◆このメールニュースは、 ◆<科学技術ソフトウェアデータベース・ネットサイエンス> ◆[http://www.netscience.ne.jp/] の提供で運営されています。 |