NetScience Interview Mail 2004/08/26 Vol.289 |
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【柏野牧夫(かしの・まきお)@NTTコミュニケーション科学基礎研究所 人間情報研究部 感覚運動研究グループ】
研究:聴覚を中心とした認知神経科学
著書:『コミュニケーションを科学する チューリングテストを超えて』(共著/NTT出版)
「日経サイエンス」連載「錯覚の情報学」(2000年2号〜2001年1号)
月刊「言語」にて「知覚の認知脳科学」連載中
ホームページ:http://www.brl.ntt.co.jp/people/kashino/index_j.html
○光と音、音と音。これら刺激のタイミングはどのように知覚されているのでしょうか。たとえばコップを落としてしまったとき、床で割れる音とその光景はぴったりシンクロしているように感じられます。ですが実際には音のほうが少しだけ感覚器までの到達時間は遅れているはずです。また、その後の脳内の処理はどのようになっているのでしょうか。これらの問題を考えていくと、私たちが知覚している心理的な「時間」は、物理的な時間と同じものではなく、環境での出来事を脳が解釈した結果であるということが明らかになってきます。
聴覚を中心として研究を行っている柏野先生らによれば、同じようなことが空間に対しても言えるといいます。知覚している空間が伸びたり縮んだりするというのです。知覚の認知脳科学の世界を味わって頂ければと思います。(編集部)
○前回から続く…… (第13回)
○昨日、立体映像をやっている知り合いの先生とメールで雑談をしていたんです。昔からその先生が不思議だと思うんだよねと言っていたのは、立体映像の飛び出ている映像だと、思わず手がそこに出るじゃないですか。普通の物体が見えていても手は動かないんだけど、立体映像で提示されると、なんだか手が動いてしまう。
■うん、その話に関係あるかもしれませんが、つまり意識的、随意的運動というよりも非常に速くて、視覚から与えられるモーションの情報にダイレクトに誘発されるような運動制御というのがあると。
○へえ〜。それはリベットの実験を思い出しますね。
■そうですね。だから意識でコントロールできないんだけど、ただそういう反射がただの反射じゃなくて非常にうまくコーディネートされているんじゃないか。 ○ええ。 ■例えば当たる瞬間の微妙な感覚をどう調整するかなんて、極めて反射的なものでたぶん決まってくるんだろうけど、ただそれがまったく機械的な話だったら全然うまくいかないわけで。非常にうまくコーディネートされていながらこの刺激にうまく即応したような格好でないとできない。 ○でしょうね。
■ただ、それは随意的なコントロールよりもはるかに速くて、ある種、勝手に動いているというところ。それは例えばイチローなんかのインタビューでも、そんなことをよく言いますよね。「体が勝手に動きます」みたいなことを。たぶんそういう部分があるのかもしれないということで、タイミングというのはそういうふうに体が動いたという情報から後付けで、ああ、同時だったんだというふうに認識されているかもしれない。 ○なるほど。 ■その、「こうだったな」と、要するに同時だと思われた、そういう知覚意識に対して運動制御するというよりも、はるかに速く実は運動は起こっているという部分もかなりあると。
■もちろん意識的に動かす部分も当然あるわけです。だから数百ミリ秒の世界で起きていることというのは巧妙なことがあって、そこは可塑性で調整できる余地もあるし、そうでなくてもたぶん前後かなり融通が利いている部分もあるでしょうし。 ○リベットの実験なんかでも、運動を止めるのは自由意思なんじゃないか、みたいなことを言っていますよね。でも、それ、つまり運動を止めるっていう意志もニューロンの働きなんじゃないのか。言いだすときりがないですよね(笑)。 ■きりがないです。だから今の認知神経科学の一般にそうですけど、だんだん自由意思とかいうのが、どんどんよく分からないものになっていくと。 ○でもあるわけですよね。少なくとも僕らの主観的にはありますよね。それが何かある意味、昔、構造主義の人がはまったわなにちょっとずつはまっていっているんじゃないかなという気もしなくもないですけど。 ■そうですね。自由意思はあるようでないようで。実は知覚なんかでも、自由意思に委ねられているところって非常に少ないという言い方もできるんです。 ○たとえば? ■例えば、「曖昧図形」があるじゃないですか。例えばネッカーキューブとかあっちに飛び出すとかこっちに飛び出すとか。あれだって曖昧ですねと言うんですけど、実は、解を2つに絞るところまでは、非常に絞られているわけですよ。 ○ええ。 ■あれをこっちが出っ張っていると見るか、引っ込んでいるとみるかというところまでは、もうオートマチックにやられてしまっている。まあ、放っておけば勝手に反転するんですけど、こっちを見ようと思えば見えるという意味で自由意思の余地もちょっとあるんだけど、かといってあれを三角形で見ることは普通できないわけですね。やっぱりそこまでは知覚もある種、オートマチックに進んでしまっている。 ○ええ。
■それから学習なんかでも最近いろいろな話がありますけど、暗黙のうちに、自分が意識しないうちでも、刺激にさらされることによって、どんどん学習が進んでしまっているようなこともあるし。 ○特に先生みたいに「錯覚の」のというと。 ■そうですね。 ○だって、錯覚というのは主観的な知覚があって初めて成立するものですよね。単なる自動的な知覚だけだと、それは「錯覚」とは言えないんじゃないのという感じもするし。 ■まあ、かなりの部分は自動的でも起きてしまいますよね。というのは、例えば本当はこうなんですと言われたって、そう見えるものは見える。
○まあ、確かに。ネットとかでも話題になったコントラストの話とかはそうですよね。どう見ても違う色に見えるのに確かに、カット&ペーストで張ると同じ色なんだけど、という錯覚なんかは。
○そういえば先生が「日経サイエンス」にお書きになっていたことで、音声を認識する時にも運動指令の部分が働いているんだという話がなんかありましたけど、昔からそういう派閥の人がいるとか。今は、その辺はどうなんですか。
■うん、それもちょっと関係する話もあるにはあるんですけど。 ○システマティックとは? ■なぜシステマティックかというと、例えばパターン・プレイバックという音声合成装置ができたり、それからサウンド・スペクトログラフといういわゆる声紋を出す装置ができたりして、科学的な研究の俎上に乗ってきたということです。 ○ふーん……。
■それで分かったことは、さっきの話です。要するに、音響信号と知覚とは全然対応していないじゃないかと。 ○つまり生物的な制約ですか。 ■そう。調音器官がこういうふうに動くからこういう声が出ると、こういうのは出し得ないというふうな、いろいろな制約を中に持っているわけで、それを参照して、いったんその仮説を実際に作り出してみて、入ってきた音と比較することによって、合っているか違っているかということで、判断しているんじゃないかというような系統の話がだいたいもうここ40年とか50年とかあるわけですよ。 ○なるほど。自分の体の身体性をベースにした情報で判断しているんだといったことですか。 ■ハスキンス研究所のリバーマンという人たちがその提唱者だったんですが、結構それはインパクトが大きくて、いろいろな支持者も生み出した一方で反対者もあって。「モーター・セオリー」というんですけど、モーター・セオリーなんだ、いや、そうじゃないんだみたいな、そういう議論の中でお互いに出してきた反証みたいなもので、スピーチ・パーセプションの研究が進んできたという側面もあるわけですよ。 ○次号へ続く…。
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