NetScience Interview Mail 2000/07/20 Vol.107 |
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【橋本公太郎(はしもと・こうたろう)@東京大学 大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻 助手】
研究:燃料化学・反応化学
著書:吉田忠雄,田村昌三監修「化学薬品の混触危険ハンドブック 第2版」
日刊工業新聞社、1997年(分担執筆)
ホームページ: http://www02.so-net.ne.jp/~hashi/kohtaro/index.html
○ディーゼルエンジン燃料や反応化学の研究者、橋本公太郎さんのお話をお届けします。
最近「悪者」として扱われることの多いディーゼルですが、こういう時期だからこそ、逆に現場の研究者の方はどんなことをどんなお考えで研究なさっているのか、例によって色々と伺ってみました。
化学の話だけにいつもよりカタカナが頻出し、ちょっととっつきにくいところもあるかもしれませんが、環境問題とも関連する話です。お楽しみ頂ければ幸いです。
(編集部)
[10: ディーゼルエンジンの特徴とガソリンエンジンの特徴は混ざってきつつある] |
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■根本的な違いはですね、火を自発的に点けさせるか、火花を散らせて点けるかというところですね。そこで決まっちゃうんですよ。でもいままでのディーゼルの場合は火の点きやすさって燃料の噴射のところで制御できるんですけども、かなり自然にまかせて火を点けさせるのがディーゼルで、火花で点けるのがガソリンですね。
○はい。
■でも最近、ディーゼル・エンジンの特徴と、ガソリン・エンジンの特徴は混ざってきつつあります。
○と仰いますと?
■ではその辺のところをご説明します。
最初に言ったように、火花着火と圧縮着火というのがガソリン・エンジンとディーゼル・エンジンの違いです。
それぞれに問題もあります。ガソリンの場合は燃費が悪い。ノッキングが起きるので圧縮比が制限されるのと、ポンピングロスが起きるということがあります。そしてディーゼルの場合は排ガスが非常に悪いと。
○はい。
■最初にまず、なぜディーゼルの排ガスが非常に悪いのかというところを説明します。
ガソリンエンジンの場合、3元触媒が使えるということが非常に大きいわけです。触媒を使えば、排ガス中のNOx、CO、未燃化炭化水素などを相当高い割合で、N2、CO2、H2Oに変換できちゃいます。
ただし3元触媒が働く割合というのが決まっています。3元触媒は、燃料と空気の混合比が、燃料が空気の中できちんと燃え切るような、そういう割合で燃やした場合のときにだけ有効なわけです。
○ディーゼルの場合は排ガスの中に余剰酸素が多くて、還元しても酸素とくっついてNOxに戻っちゃうんですよね。
■そうです。ですからディーゼルの場合は、基本的に希薄で燃焼させますので、3元触媒が使えません。ですので、ディーゼルはNOxが綺麗になりません。おまけに粒子状物質(PM)というのが出来ちゃいます。これは燃料を噴射して気化して混合させますので、空気と混ざらない場所ができちゃうからです。その部分で分解してCHになってそれが重合してすすになったりするわけですね。ですからこの二つの問題、3元触媒が使えないという問題と粒子状物質が発生するということでディーゼルは非常に排ガスが悪いといわれているわけです。
○ええ。
■ですからお互い短所があるわけです。ガソリンエンジンは燃費が悪い。ディーゼルエンジンは排ガスが悪い。
○はい。
[11: 直噴ガソリン・エンジン] |
■そこで出てきたのが直噴ガソリン・エンジンです。ガソリンの短所であるポンピング・ロスというのを希薄燃焼ができるようにしてなくそうと。
○CMではよく聞きますね。でも「直噴」ってなんなんですか。
■直噴っていうのはですね、ディーゼルと同じように、ガソリンをですね、エンジンの燃料室内に直接噴射します。そして、中で混合気を形成して、燃焼させる。そういうものです。
では、それだとなぜ希薄燃焼ができるのか?ということになりますよね。
○ええ。それと、いままでなぜそうできなかったのか。
■ええ。直噴ガソリンで希薄燃焼ができるのは「成層燃焼」ということができるからなんです。燃料を噴射いたしまして、圧縮途中で噴射して、燃料と空気を一部だけきちんと混ぜて、周りはまったく燃料がないような状態で燃やす、それを成層燃焼といいます。そうすると一部だと火がつくくらいの混合燃料なんだけど、そのまわりは空気だけなので全体的に見ると、非常に燃料が薄い状態になると。そういうことができるので、燃料の噴射量だけを減らすことができるので、ポンピング・ロスがなくなる。
○ええっと、燃料の噴射量だけを減らすことができるので…?
■空気の絞りが不必要になるわけです。
従来のガソリンエンジンは、吸気管で燃料と空気中の酸素がちょうど燃え切るような割合であらかじめ混合して、その混合気を燃焼室のなかに入れて点火プラグで火をつけて燃やしていたのです。低出力で運転する時、燃やす燃料を少なくしたいときも燃料と空気の割合は一定にしないといけないので、燃焼室内に入れる空気の量も少なくしないといけないのです。
空気の量を少なくするために、吸気絞りで空気の流れを抑えるのですが、そうする絞りのところでエネルギー損失が起こります。これをポンピングロスと言うのです。ガソリンエンジンは、通常の運転では出力は低い状態ですので、ポンピングロスが常に起こり、エネルギーを損失しているんです。
○ははあ、なるほど。
■一方、直噴ガソリンエンジンでは、空気と燃料の割合は一定にする必要がないので、出力が低い時は、燃料の噴射量だけを減らし、吸入する空気の量は少なくする必要がありません。従いまして、吸気絞りによるエネルギー損失がありません。
それでなぜ今までできなかったと言いますと、このような状態で燃料を増やして出力を上げようとしますと、一部分の燃料分が非常に濃くなってしまってですね、すすが出たり、きれいに火がつかなかったり、そういう問題が起こるんです。
ですので、噴射時期を固定して、成層燃焼のまま濃くしたり薄くしたりは、難しいんです。
○つまり成層燃焼は、出力が高くする時には不適なんだと。
■ええ。出力を高くするためには、従来のガソリンエンジンのように均一な混合気を作って燃焼させる必要があるのですが、従来の技術では、噴射時期を自由に変えることができなかったので、出力の高くできる直噴ガソリンエンジンができなかったのです。こういう理由でいままでできなかったと。
○なるほど。難しいですが。
■ところが、いまは燃料の噴射時期を自由に変えることができます。そうすると色々なことが考えられます。低負荷時には先ほど言いましたように圧縮途中で噴射しまして、部分的に高濃度の混合気を形成する。いっぽう高負荷時には膨張過程でさっさと燃料を噴射しまして、先にきれいに混合気を形成しまして、従来のガソリンエンジン燃焼と同じ様な働きをさせようと。
そういうのを組み合わせて、低負荷時には成層燃焼、高負荷時には均一混合燃焼というのをやっているのが、いまの直噴ガソリンエンジンなんです。
○それはやっぱり、コンピュータとセンサーのおかげなんですか。
■そうです。完全にコンピュータとセンサーですごい制御をするようになっています。「この回転数とこの負荷値だと、こういう燃料の量で、このくらいのタイミングで噴射する」というのがマッピングされていて、それで制御されているんです。
○それを毎秒毎秒やっているんですよね?
■ええ、そうです(笑)。ずーっとやっているわけです。
○ハーネス(車のセンサーを繋ぐ配線)の重さが問題になっているそうですが、さもありなんという感じですね。
■ええ。だから今だと、コンピュータによる制御がないと、ガソリンエンジンは動かないんですね。直噴の場合は特に、まったくのコンピュータ制御ですから。どのくらいの出力でどのくらいの回転数かというので、燃料の噴射時期や点火時期を変えてしまうんです。
かつ、ノッキングが起こりそうになったら点火時期をちょっと遅らせるとかやってるわけです。
○はあー。よくそんなことができますねー。
■そうなんですよ。こりゃあ、凄いですよ。
○ええ。
■まあこうやって直噴ガソリンエンジンというのが出てきたわけです。
ですけども直噴ガソリンは希薄燃焼しますので、この状態だと三元触媒が使えない、NOxが減らないという問題があります。
そこでトヨタが考えたのが、低負荷時にはNOxを3元触媒で還元できないのならば、何かに一時的に吸収させておこうというものです。そしてあるとき、高負荷時のときに、ぼんと、吸収させたNOxを3元触媒で一気に綺麗にすると。そういうふうな吸蔵合金を持った触媒をトヨタが作りましてね。そこでガソリンでも希薄燃焼しても綺麗なやつが出たんです。ですからいまは三菱の車にもトヨタの触媒が乗って使われています。
[12: NOxとPMが出ないディーゼル、予混合圧縮着火エンジン] |
■いっぽうですね、今度はディーゼルの場合です。
PMができちゃうという問題は、ぼんと燃料を噴射して、部分的に非常に濃い部分ができちゃうからだと考えられていますので、逆に均一にやっちゃえば、すすは出ないんじゃないか。そう考えた人がいます。そしてなおかつ、非常に綺麗に希薄にして燃やしますと、今度はNOxのできる温度(1000数百℃)より温度は低くなっちゃいますので、うまいことにNOxもできないと。辻村欽司という人たちのグループが考えたんですけどね。「予混合圧縮着火エンジン」と呼ばれるものです。
○ははあ。最近雑誌などでも見かけますね。
■そうです。いま注目されています。均一に希薄に燃焼させることで、NOxもPMもゼロになるような、燃焼を実現するエンジンです。
ただしこれにも問題がありまして。最大の問題は、着火を制御できないということです。
○「着火を制御できない」?
■これはどういうことかというと、従来型のディーゼルエンジンというのは燃料の噴射時期を変えることで着火を制御していました。ですので、燃料をちょっと多くして着火時期をちょっと変えたりして自分の思い通りの時間に着火させることができたんですけども、予混合圧縮着火エンジンは最初にきれいに混合しちゃいますので、なりゆきで、温度が上がってこのくらいの時期にぽんと火がつくということになっちゃうんです。燃料の性質によって着火時期が決まっちゃうんです。ですので機械的に制御できることは何もない。
○ふむ。
■一定の運転条件だったら別にそれでもいいんですけど、自動車の場合は、回転数とか出力が変わりますよね。そういう場合、燃料の量は変わっているのに着火時期が制御できないというのは非常に問題があるんです。これが最大の問題です。
○うむむ。うまくいかないもんですね。
■そこで、私がやりたいのもここなんです。予混合圧縮着火エンジンの着火制御です。
○どうやってやるんですか??
■それはですね、自動酸化というものを使ってやるわけです。燃料のセタン価をオンボード、つまり車の上で制御できればいいんじゃないかと。燃料の着火性そのものを変えることによって、燃料の着火時期を制御してやろうと。
○ああ、なるほど。随時、車のなかで、燃料そのものをいじってやろうと?
■そう、そのとおりです。そういうことができれば、予混合圧縮着火エンジンの問題は解決するんです。NOxもPMもすすもフリーのものができちゃいます。うまくいけば、すぐにでもこれはやりたいんですけどね。
○ひゃー、それは凄いですね、いろいろな意味で。
■着火の制御というのは、現在非常にホットな話題なんです。予混合圧縮着火エンジンを作る上で非常にクリティカルな問題なんで。
○なるほど。
■ですんで、ガソリンと同じく均一に燃やしてやろうというのがディーゼル側で進んでいて、いっぽうガソリンでは直噴エンジンという形で、いままでのディーゼルのように部分的に燃やしてやろうということになっているんです。ガソリンがディーゼルのように、ディーゼルがガソリンのようになってきているんです。こういうふうな面白い現象が起きているんですね。
○次号へ続く…。
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◇「21世紀夢の技術展」(愛称・ゆめテク) 7/21-8/6日 東京国際展示場
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◇雪印乳業食中毒事故対策本部の設置について 厚生省
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◇ロシア・サービスモジュール (国際宇宙ステーション組立フライト(1R))の打上げについて
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◇「NASDA NEWS」最新号(No.224 2000年 7月号)
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◇有珠山の火山活動に関する厚生省のこれまでの対応
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