NetScience Interview Mail 1999/02/18 Vol.041 |
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【春山純一(はるやま・じゅんいち)@宇宙開発事業団 つくば宇宙センター
先端ミッション研究センター】
研究:SELENE月探査計画、彗星研究
○NASDAの春山純一氏にお伺いします。
8回連続予定。(編集部)
[08: 月の氷で何が見つかるか] |
○極に氷があったとして、どういうものが見つかるだろうと検討をつけていらっしゃるんですか?
■セレーネでですか、それともセレーネ以降?
○セレーネ以降も含めて。
■全然まだ根拠ないんですけど、もしかしたら、氷があれば、氷の性質を調べることで、地球の水がちょっと重いっていう奴、D/H比っていうんですけど、それを調べることができるんじゃないかなと思います。月にある氷っていうのはまさにそういうものであるはずなんで。ただ、本当にD/H比が保存されるかどうかっていうのももいま計算しようとしているんですが、ちょっと怪しいかもしれないんですね。それを調べてみたいですね。
○なるほど。他には?
■あと氷というか水があったら、氷の上に薄く砂がのってますよね、そこに紫外線が照射する。宇宙線が降る。それがちょうど砂との間に薄い水ができるんじゃないかと。で、その上のダストの中に、もし仮にCとかNとかがあったら──揮発性成分なんであんまり期待できないんですけど──うまい具合に残っていたら、それらがアミノ酸を作り、もしかしたら重合しているかもしれない。
いまのところその可能性は少ないんですけどね。炭素とか窒素とかはまずほとんどないんですよ。それは、CとかNとかはまず軽いんで、月ができたときに捉えきれなくて出て行っちゃうと。降ってきても、揮発性に富むんで、どんどんどんどん抜けちゃう。たとえ冷たいところでも、かなり冷たくないと保存されずに抜けちゃうんで、なかなか難しいかなと思っているんですけど、そういう、水とダストが反応した結果が見えると面白いかなあ、というのはありますね。
○ふーむ。
■あとは、もし水が大量にあったら将来の月面基地に云々、というのがありますが、それは私は全然知らない話なんで(笑)、それはまあ利用法を考えたい人が考えれば良いんだけど、その前にちゃんと調べさせてねっていうのが私の立場ですね。
○あれこそ「宇宙の実利用」云々、というお題目のためなんでしょうね。もちろん将来的にはそういうことも実際あるでしょうけど。
でもあの氷って、レゴリスの空隙の中に水があるようなイメージなんでしょうかね?
■うーん。どうなんでしょうね。大きな水の塊があるようなイメージの人が多いんですよ。そうかもしれないんだけど、僕のイメージはさっき言ったように霜なんですよ。で、レゴリスなんてのは空隙の多いものだから、その空隙を通って、水分子が付着しているっていうのが僕のイメージなんですよ。
○じゃあそれが実際どうなっているのかも…。
■ええ、知りたいですね。これでもし凄く大きな氷の塊があったら、それはそれで非常に面白いテーマですね。
[09: 月はドライかウエットか] |
○春山さんは月の形成論についてはどうお考えですか。いろいろなシミュレーションが出ていますが…
■これは私は自分で研究していないから人の受け売りですが、論文読んだり人の話を聞く限りでは、やっぱりジャイアント・インパクト説が一番矛盾なく説明できると思うんで、信用しやすいですね。
○水のことを考えると、そこから考えないといけないのかなと思ったんですが。つまり月内部に元々どのくらい水があったのか、という問題は…。
■ああ、なるほど。少なくとも、アポロが持ち帰った試料だと、揮発性物質は全然少ないと。だから水はもともと少なかったんだろうなあと思います。
ジャイアントインパクト説で考えると、一発ぽーんと当たった奴が一挙にガス化して、また凝集したと。そんな奴に水は含まれにくいから、極に水が染み出したということは考えにくいと思います。
○月は最初から「乾いて」いたというイメージですか?
■ええ、そうです。
○その後のテクトニクスによる脱ガスなどでも、あまり水は出てこなかったと?
■ないんじゃないかなあと思いますね。ジャイアント・インパクトの後でも、まだ中に残っていた水が、どこかに染み出たのかもしれないんですが、そこは僕はちょっと分からないですね。
[10: セレーネのその他のミッション] |
○他のミッションだと?
■そうですね、この中だと私が一番興味があるのは、リレー衛星を使ったミッションですね。
月の裏側の重力場を測りたいんですよ。というのは重力場を測ることによって地殻の厚さとかが分かるわけですね。あるいはどこに重力異常があるのかとか。これは月の熱史を考える上では非常に大きなポイントです。
どうやって重力異常を調べるかというと、衛星のふらつきで調べるわけですね。表側は良いんですね、でも裏側はどういう風にふらついてるか分からないんですね。だから結局、内挿・外挿レベルの世界なんですよ。ところが、このリレー衛星を使うことによって、裏側でも周回衛星のポテンシャルの移動を中継してやろうという考えなんですよ。非常に面白いん考え方なんですけどね。
○なるほど、そのためのリレー衛星なんですね。
■そうです。初めはですね、裏側で取れたデータもリンクしようと思ったんですよ。エンジニアの人はそう思ったんで、ばかでかい衛星を考えたんですね。で、私が来たとき、そうじゃないんだ、データのリンクはいらないんだと言って、レンジングをしてくれれば良いんですよ、と言ったら、なんだそうなんだという話になって、もの凄く小さくなったんですね。
余談ですが、ミッションの本当にやりたいことを伝えると、小型化・軽量化できるんですね。
○なるほど。他には?
■あとはサウンダーですね。月レーダサウンダー。これはアンテナから電波を出してやって、不連続面があったらそこを見るということを考えてますね。ただ不連続面が本当にあるかどうかは科学者の間でも意見が分かれていて、そんなものないんじゃないかと言ってる人もいますね。岩盤なんかないんじゃないかと。でもアポロで、不連続面が見つかっているんですよ。同じ様なシステムで。だからそこから考えると、全部が全部gradualに変わっているんじゃなくて、かなり大きな不連続面があると考えているんですけどね。
○基本的なことから確認したいんですが、レゴリスはどのくらいあるんですか?
■レゴリスは薄いですよ。数十センチから数十メートルくらいですが、その下にメガレゴリス層というのがあるんですね。瓦礫なんですが、これが数百メートルから数キロあるんじゃないかと言われているんです。
○メガレゴリス層とはどういう層なんでしょうか?
■レゴリスは完全に砂ですよね。それに対して、もうちょっと瓦礫、石ですね。月の上がなぜレゴリスに覆われているかというと、一つは宇宙線やマイクロ・メテオライトによって壊されて、細かく砕かれているからですね。ところが下の奴は、バーンとぶつかって、ドーンと壊れた奴が落っこちたようなものなんです。だから下の方が大きな瓦礫になるんですね。実際アポロのコアサンプルでも、そんなに深くはないですけども、深くなるほど、大きな石ころが含まれているというサンプルになっていました。でも、その下が本当にどうなっているかは分からないですね。
○ふーむ。
■月震計をアポロは持っていったんですけど、そのデータを見ると、変な乱反射が起きているんです。だからやっぱりグチャグチャになっているんじゃないかと思うんですね。
○固結していないということですか?
■いや、角礫岩になっているんじゃないかということですね。アポロのサンプルも、ほとんどが角礫岩なんですね。インパクトによって、月表層下にあった岩石に圧密化作用が起きて、角礫岩ができると思われています。
○ああ、そういうイメージですか。
■その下がどうなっているのかは分からないんですね。もしかしたら綺麗な岩盤があるのかもしれない。それもとgradualになっているのか。
溶岩が何回か流れていれば、その上を薄いレゴリス層みたいになって、それが砂岩層みたいになって、また溶岩が流れて、っていう形になっているかもしれないですね。
○どうなっているんでしょうね、本当に。
■どうなっているか分かっていたらやる必要ないんですから(笑)。
アポロの写真を見ると、いくつか層構造みたいなものが見えているんですよ。
○ほう。それは先ほど仰ったような…。
■そうですね。
○月にはいくつか面白い地形がありますね。溶岩が流れたあと、中が空洞になっている溶岩チューブであるとか溶岩ドームであるとか。ああいうもののマップっていうものも、あまり綺麗には出来ていないんでしょうか。
■ないですね。ああいうのも面白いですね。サイエンティフィックに面白いというのもありますが、中が洞穴になっているのは楽しそうだな、と思います(笑)。
○素朴に面白いですね。グランド・キャニオンを見て面白いというのと似た感覚ではありますけど。
○次号へ続く…。
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◇「将来の科学技術に関する世論調査」結果(総理府)
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