NetScience Interview Mail 1999/02/25 Vol.042 |
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【春山純一(はるやま・じゅんいち)@宇宙開発事業団 つくば宇宙センター
先端ミッション研究センター】
研究:SELENE月探査計画、彗星研究
○NASDAの春山純一氏にお伺いします。
今回は月基地の可能性、技術開発とサイエンス、NASDAについてなど。
8回連続予定。(編集部)
[11: 隔離施設としての月基地] |
■将来、溶岩ドームの中に基地を作るかもしれないですね。そうそう、月に基地っていうのもまた面白い話の一つですよね。
○と、おっしゃいますと?
■というのはですね、これは宇宙ステーションでも良いんですけども、将来、宇宙からのサンプルをかなり取ってくる時代というのがきっと来ると思うんですよ。ところが、そのサンプルというのは何がなんだか分からないから面白いんだけれども、そういうのをダイレクトに地球に持ってくるというのは、嫌らしいと思う人がきっといると思うんですね。個人的にはそういう生態系を崩すようなサンプルはあまりないと思うんだけれども、それこそ有機物なんか取ってこようもんなら、そんなもの持ち込んで大丈夫なの、ということをきっと言われちゃう。
○言われるでしょうね。
■あるいは、もう少しサイエンティフィックに言えば、コンタミを受けちゃう。それをやらないように、もう少し安定的な、真空中に近いところとか、水がない環境下で解析したいですよね。そのためには、宇宙ステーションとか、あるいは着陸が大変ですけども月に基地を作って、そこで解析するっていうのは良いかな、という感覚があるんですよね。
まあ、別に月じゃなくても良いんですよ。ラグランジュ・ポイントでもいいし。
○曝露部を持ったようなものですか。
■そうですね。やっぱコンタミは嫌ですからね。地球に持って帰っても、必ず言われるでしょうからね。有機物らしきものが見つかったって、「それは地球のものじゃない?」って必ず言われるでしょうから。
○そうでしょうね。絶対言われるでしょうね。
でも月でも言われるんじゃないかな、と思いますが。
■月で人が扱ったからとか、持ってきた材料が、地球由来のものによって汚染されていたんじゃないかとかね。どうでしょうね。
でも、どこまでオートメーションできるかにもよるし、人がどれだけ殺菌できるかにもよるんだけれど。明らかに、地球に持って行くよりはコンタミの危険は少ないでしょうからね。
○うん、地球よりは安全だろうと思うんですけどね。
でも、例の話があるじゃないですか。アポロ12号が月面に2年半放置されていたサーベイヤー3号のカメラを持って帰ったら、中にバクテリアがいた、っていう。
■ああ、ありましたね。
○そう考えると、殺菌はほとんど不可能じゃないかと。繁殖はしないかもしれないですけど。
■それを考えると、生命って凄いですよね。どこにでもはびこる。
逆に言うとですね、どんな生物が生き残れるのかというテーマもあり得ますよね。各惑星探査機の周囲を調べて、どんな生き物が生き残っているのか調べるとかね。
○そうですね。それは非常に面白そうですよね。是非将来にはやって欲しいなあ。
■どうしてこれだけの多様性を持ったものができてきたんでしょうね。どう考えても不思議ですよね。
[12: 技術開発とサイエンス] |
○宇宙開発って、技術開発とサイエンスがなんとなくごっちゃになってるじゃないですか、はたから見ると。どこからどこまでがサイエンスで、どこからが技術開発なのか分かりにくいところがあるんですけども、春山さんは…。
■私はちょっとその辺はよく分からないな。私の立場はエンジニアじゃないんで…エンジニアっていうのは、周りの要求とか自分なりにこうしたほうが良いんじゃないかとかいうのがあって、突き詰めて開発するというのがあると思うんです。私は、自分の理学の立場からいうと、自分で、「こういうデータが欲しい」と。こういうデータが欲しいから、こういう機械が欲しい、作りたい。本当は作って欲しいんですけどね(笑)。でもエンジニアの人となかなかコミュニケーション取れなかったら、それは自分たちが作るしかないという発想なんですね。
○ええ。
■宇宙科学研究所は、自分たちがこういうデータが欲しい、だけど誰も作ってくれる人がいない(笑)。だから自分たちで、やっちゃうという文化だったんですね。
○傍目で見てると、宇宙研は…非常に言葉は悪くて申し訳ないんですが…貧乏くさいというか、手作り感覚に溢れていますね(笑)。大学の理学部を彷彿とさせるような。でもそれはサイエンスの側から発想されているからなんですかね。
[13: NASDA] |
○率直に申し上げますと、NASDAの30年計画で月に基地を作ってどうこう、という計画は、なんだか分からないんです。というのはつまり、今ひとつピンとこないというか。ルナローバーとか、ガラスの海による蓄熱システムの開発だとか、いろいろありますよね。なるほどそのコンセプトは分かる。でも実際にそれはいつやるのか、と聞くと、予算次第です、みたいな答えしか返ってこないんで、今ひとつ…、はっきり言っちゃうと「本当にやるのかなあ」と思っちゃうんですよね。日本にそういう技術開発能力はあるんだろうということは頭では分かるんですけど…。今後のタイムスケジュールなどはどうなっているんですか?
■ええ、私もNASDAに来てですね、ようやく世の中の仕組みというのが分かってきたんですけども。はっきり言って、国策がまだないんじゃないかと思うんですね。面白い国なんだな、と思いますね、日本は。長期計画をなかなか持たないですよね。だから例えば、5年計画10年計画って言ってるんだけど、それは自分たちがいまやっていることを位置づけるためであって、別にオーソライズされているわけでもないし、で、それによって予算がどうのこうのっていうわけでもないんですね。
○ふーむ。
■それと正直言って、NASDAに制限が多いんですね。
○宇宙開発事業団法のことですか。
■そうですね、それも含めて良いんですけどね。たとえば、宇宙「科学」はやはり宇宙研のテリトリーであって、科学には手を出さないとかですね。スーパー301でこういうことやっちゃいけないと制限があったりですね。私自身もどこまでがそういうことで制約されていて、それがどの程度のものなのかということは良く分からないんですけども、残念ながら…。そういうのが一つありますね。
もう一つは、私がちょっとやりづらいな、でも仕方ないかなと思うことは、NASDAっていうのはもの凄いお金を使うんですね。それで一般の人の目っていうのを非常に気にしてますよね。だから、物事の計画を立てる上でも、本当にそれが納税者に対してペイするものなのか、やっぱり失敗しちゃいけない、というのが、かなり原則的にあるんですよ。ところが、宇宙研の場合は、正直に言えば宇宙研の先生の「趣味」、っていっちゃあ言い過ぎなんですけど(笑)、そういう感覚なんですね。
○(笑)。確かにそう思います。
■でもね、そういう感覚っていうのが大事だなと思ったんですよ。人のためじゃない、誰のためのものでもない、っていうのがあるんです。その先生が絶対良いって思ってるんだったら、それはやっぱり何かしら魅力があるんですよ。他の人にとってはえーっ?と思うようなものでも、やっぱり出てきた結果がだんだんと、他の人達のレベルが上がってくると分かって来るんです。まあ宇宙研の場合は今まで広報がおろそかだった部分もあるけれど、このごろ、広報も力入れてますし。
非常に、なんていうかな、やっぱり誰か自分が責任を持って、やる、ということを言わないと、駄目なんですよ。いまやっと、我々のミッションとかがそういう形でやっているんですけど。これが取れなかったらNASDAのために申し訳なかった、無駄なお金を使ってしまった、っていうのも在るんだけど、一番悲しいのは自分がやってきた10年のキャリアが失われてしまう。データ取れなかったらその人のキャリアが全部失われてしまう、というのと直面してやっています。
ちょっと話が混乱しちゃいましたが、いずれにしてもそういう態度でやっています。
○ふむ。
■例えばカメラなんかでもそうですね。画像を撮るとそれは非常に多くの人の目に触れますね。だから絶対失敗できない、という制約があるもんですから、新しい技術開発に取り組むっていうのはリスクとのバランスですけども、なかなか許されない。ジレンマがありますよね。
どっちが良いのか分からないんですけど、いま日本の宇宙開発というのは模索しつつあって、個人の趣味(笑)、一部の特化した人の興味でやって、それを分かりやすくみんなに知らせるか、100%じゃなくてもとにかく失敗しない、ちょっとづつやっていくものとの間で揺れているんですね。
○ええ。
■普通、誰に聞いてもですね、「もっとトライアルなことをやったら良いじゃないか」というし、私もそう思うんだけど、いざ、それを国家予算でやるっていう段階になれば、「やったら?」って言ってくれてた以外の人は、それは国家予算の無駄使いじゃないの、とか、もっと福祉に回すべきじゃないの、とか、そういう観点を持つ人も当然出てくるわけですよね。その辺のバランスがなかなか難しいですよね。計画を野心的にするっていうのはなかなできていないと思いますね。
○では、春山さんご自身、あるいはここ(先端ミッション研究センター)の人たちレベルでの、今後のタイムラインっていうのはどうなんでしょう?
■正直言ってこの<セレーネ>が、はっきり言って宇宙に出ていく上での、第一歩のような気がするんですね。いままで宇宙研の探査機がいくつかありましたけども、大規模な地質関係のミッションは初めてなんですよ。だから、まずはこれを成功させるということが第一歩ですね。
もう一つは、次の<セレーネ2>っていうのがもう動き出そうとしています。これが2006年なんで、いまのところタイムスパンでいったら、5年間は模索かなあ、と思ってます。自分なりには10年計画なり20年計画なり持ちたいと思っているし、他の人も持っていると思うんですけども、声を大にして言えない状況なんですね。
○それはなぜですか?
■要するに自分たちでどの程度できるのかも分からない。そういう状態でやっているような気がしますね。
○じゃあここから先の探査計画っていうのはなかなか、ある意味で「絵に描いた餅」なんですか…?
■もう、モチモチですよ(笑)。 餅どころじゃない、って感じですよ。
○例えばホームページなどにはサンプルリターンとかローバーとか色々書いてあるじゃないですか。あれは分かるんだけど、「それで何をどうするの」っていうのも…。
■うんうん。まだね。あとですね、今までNASDAが描いてきた奴は、本当に技術開発のみに特化して書けと言われていたみたいですね。だからそこにはミッションがほとんどないんですよ。
○それはやっぱり事業団法の、宇宙の実利用がどうしたこうしたという奴に縛られていたからですか。
■そうでしょうね。でも、考えようによっては、科学だって宇宙の実利用のハズですよね。知的な成果を得ることだって利用ですよね。でもそこをですね、どこかのレベルでそう解釈しちゃいけないんだということがどっかにあるんでしょうね。そこはまだ僕もNASDAに入って3年なんで、よく分かってないんですけどね。
[14: 宇宙探査と宇宙開発] |
○昔は僕も宇宙にはバンバンドンドン出れば良いんだ、と脳天気に思っていたんですが…。
○次号へ続く…。
[◆Information Board:イベント、URL、etc.] |
■イベント:
◇農業情報ネットワーク全国大会 2/27-28 埼玉県大宮ソニックシティ
http://www.jsai.or.jp/~ssai/
■URL:
◇東京複雑系
http://chaos.c.u-tokyo.ac.jp/TokyoComplex/
◇視覚における「動き」と「位置」「形」の処理の間に関連性を発見、「ものを見る」仕組みの解明に前進(NTT)
http://info.ntt.co.jp/news/news99/9902/990218.html
◇富士山の一日を3分で (静岡インターネット)
http://www8.shizuokanet.ne.jp/info/FMPro?-DB=info.fmj&-Format=release2.html&-RecID=69&-Find
◇廃棄物焼却施設におけるダイオキシン類低減化技術に係る情報の収集について、厚生省
http://www.mhw.go.jp/houdou/1102/h0218-1_14.html
◇地球環境クイズ(環境庁)
http://www.eic.or.jp/quiz3/
◇東芝環境報告書
http://www.toshiba.co.jp/env/
◇医薬品情報検索サービス「マイドラッグ」 ニフティサーブ
http://www.nifty.ne.jp/mydrug/
◇「生物系廃棄物リサイクル研究会報告」について(農林水産省)
http://www.maff.go.jp/mlet/172-3.html
*ここは、科学に関連するイベントの一行告知、URL紹介など、
皆様からお寄せいただいた情報を掲示する欄です。情報をお待ちしております。
基本的には一行告知ですが、情報が少ないときにはこういう形で掲示していきます。
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