NetScience Interview Mail
1999/02/04 Vol.039
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【春山純一(はるやま・じゅんいち)@宇宙開発事業団 つくば宇宙センター
                   先端ミッション研究センター】
 研究:SELENE月探査計画、彗星研究

○今回からNASDAの春山純一氏にお伺いします。
 今回はなぜ月を探査するのか、そして春山氏の生命観など。
 8回連続予定。(編集部)



前号から続く (第2回/全8回)

[03: 月の地質調査]

○春山さんの場合は、カメラでどういうデータを取ってやろうと…?

■そうですね、まずは地形ですね。地形を細かく見てやろうと。
 アポロで、かなり取られていることは確かなんですよ。ところがアポロのデータ──あるいはその前のルナオービーターって奴のデータを見てもらえれば良く分かると思うんですけど──アポロの場合は、我々誤解しているところがあるんですが、アポロっていうのは基本的に人を送り込むミッションだったんですね。だから人が降りるためにはエネルギーの問題から考えて、赤道域が一番良いわけです。そのためにですね、衛星を赤道域にしか回していないんですよ。極域に回しちゃうと、月の自転の関係で位置がずれちゃうんです。あ、いいなと思っても、次に回ってくるまで1ヶ月くらいかかっちゃうんですね。ですからアポロは、非常に低緯度を回していたんです。

○はい。

■そうすると、よくデータが取れているのは、赤道域だけに過ぎないんですね。でも天体っていうのは赤道域だけで議論はできない。月っていうのは見ていただければ分かるとおり、海──暗い部分があり、明るい部分がある。もっと全域を調べるっていうことが必要じゃないかということで、アポロとかで取られていない部分も含めて、データを取ってやろう、というのが目標ですね。

○なるほど。

■あと鉱物を見つけて、そのデータをしっかり取ってやろうというのもありますね。アポロが取ったところでは、確かにある程度分かってるんだけど、鉱物が本当にその他の地域でも同じように分布しているかどうかは分からないですよね。だからマルチバンドイメージャーで地質の分布を調べるとか、スペクトロプロファイラーで、どういう風な鉱物があるか調べることが目標なわけです。

○ええ。

■そうすることとですね、個人的な興味で言わせて頂ければ、「月がどうしてできているか」がやっぱり知りたいことなんですね。それと、月の内部がどのように進化してきたかが知りたいわけです。

○じゃあ基本的に形成史と熱史が知りたいということですか。

■そうですね、その通りです。「じゃあ、それをなぜ知りたいの?」って言われたら、それ以上のことは言えないんですけど。

○(笑)。

[04: 地球を知るために月を調べる]

■もう一ついうならば、本当は地球を知りたいんですよ。地球を知りたいんだけど、地球には大気があって、循環があるわけで、どうしても過去の情報は失われてしまっている。ところが月っていうのはそれこそ「化石」で、過去の情報を留めているんです。地球や惑星の形成について、非常に情報をもたらしてくれる。

○ええ。

■まあ正直いうと僕はドクターまではコメット、彗星が中心だったんですよ。火星とかも興味があるんですけどね。将来的には「生命」っていうのに非常に興味が在るんです。ただまあ、火星とかコメットっていうのは、私がいる立場では行ける、探査できる対象ではないんで、まずは月かな、と。私が「月をやらないか」って言われたときに──まあ、ちょっと迷ったんですけど(笑)──探査しようと思ったのは、何事もまず自分で進んでいかないと、口であれやりたいこれやりたいと言ってても何も進まないんで、まずできること、チャンスが与えられたものをやっているわけです。

○それが3年前ですか。その前はずっと彗星を?

■そうですね。宇宙研でドクター取ったあとに、アメリカに行ってたんですよ。アメリカのカリフォルニア工科大学ってところに。そこでは地球の形成史を少しやってたんです。理論ですけど。シミュレーションでいろいろやっていたんですけど、それがものになる前に(笑)、こっちへ来た、というわけになるんですけどね。

○それで今、こういうところですか。作業内容が全然違うんじゃないですか? そういった面でのズレはないんですか。

■ありますよ、それは(笑)。でも、なんていうんでしょうかね、目的がありますからね。自分が何かを知りたいって言ったときに、それに到達する最適な道をその場その場で判断していくわけですね。過去にこれしかやってなかったからこれしか進めないっていうことはないですよね。
 ただ、周りの人は大変かも知れません(笑)。僕なんかは結局、回路設計とか自分でやってきたわけじゃないんで、はっきり言って一から学んでいる。でもそれは僕だけじゃなくて一緒にやってくれる仲間がいるし、他の大学の先生も協力してくれるし、一緒にやってくれるメーカーさんもいるということで…。
 やっぱり、大変です(笑)。大変ですけど、目的さえあればそのしがらみに囚われる必要は全くないと思いますけどね。

○ふーむ、なるほど。
 けっきょく、地球の形成史を知るために月の形成史を知りたい、というのが今やっていらっしゃる研究内容ですか?

■そうですね。地球の形成史もあるし、それと、生命の起源ですね。二つですよね、大きく分けて。
 なぜ地球というのはここにあるか。そして、なんで生命が誕生して、我々がいまここにいるのか。これは大きなモチベーションかなあと思ってますけど。

○なるほど。
 「なぜ月を」って話ですが、以前『日経サイエンス』に出てた、アポロの成果をレビューした記事の中に「彼らは38万キロの距離を超えただけではなく同時にタイムトラベルもしていたのだ」といった内容の文章から始まるのがあったんですよ。距離だけではなく、20億年なり30億年なりの時間も超えていたのだと。それが凄い印象的で、うまい言い方するなあと感じていたんですけど…。

■ああ、そうですね。

[05: 彗星と生命、そして月面の氷]

■私の生命観、生命の起源観なんですけど、私は、たぶん、地球のどこか、たとえば熱水鉱床の近くでできたかもしれないんですけど、私としては、彗星が有機物の生成に大きな影響を与えたと思っているんですよ。

○彗星ですか。

■ええ。ハレー彗星のデータを見ると、まだ断定はできないんですけど、有機物があったようだし、地上実験でやられている結果を見たりしていろいろ考えてですね、やっぱり彗星っていうのに有機物ができているのは間違いないと思います。それと、水があるっていうのは大きなことだし、それがずっと低温状態にあるっていうのもね。あとは、どこまで重合してくれたのかっていうのがポイントだと思うんですけど、とにかくある程度大きくなって地球に降ってきたんじゃないかと思っているんです。かなり生命に近いものができて、それが地球に落ちてきて、地球の環境下でちょうど良いところに落ち着いた奴が爆発的に進化したんじゃないかと。まあ私の「考え」なんですけどね。まだ全然根拠が薄いんですけど、イメージ的にはそう思っているんです。

○なるほど。

■ですから地球圏外の有機物とか、生命の前駆体みたいなものに興味があるところなんです。だからそれはいつか調べたい。探査したいと思っています。
 じゃあ月に手がかりはあるのかというと、正直言って僕は「ない」と思っていたんです。私の生命の起源を調べるという興味から見ると、月はやはり死んだ天体なんで全然おもしろくないな、と、いうのが正直なところです。でもここのところ、月に氷が発見されたというのはご存じですね。

○ええ。

■私も勉強不足だったと思うんですけど、考えてみたら、あり得る話なんですね。過去には、彗星というのは宇宙に膨大に存在していて、水というのは普遍的に存在しうるものなんですね。それが、地球軌道では非常に蒸発しやすいもんなんで、地球くらい大きな天体じゃないとドンドン失われちゃうんですが、別に初めからある必要はなくて、彗星で降らして上げればいいわけです。で、月にぶつかりましたと。全部は昇華しきらないと思いますから、宇宙にいくらか分子の形で飛び散っても、月の重力場を抜けきらない奴が極に動いてですね、それが溜まっていくと。そうするとそこにも水ができるというのは、ある意味当然かな、と思うんですね。ですから、そういう月の水っていうのは面白い話題かなあ、と思ってます。

[06: 月の「水」と彗星]

○そういう理由もあって極域なんですか。

■そうですね。

次号へ続く…。

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NetScience Interview Mail Vol.039 1999/02/04発行 (配信数:11,255部)
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編集人:森山和道【フリーライター】
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