NetScience Interview Mail 2005/02/17 Vol.309 |
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【深井朋樹(ふかい・ともき)@玉川大学 工学部 知能情報システム学科 教授】
著書:『脳を知る・創る・守る 4』(共著、クバプロ)
『ニューラルネットの統計力学とカオス』 ニューラルネットワークシステムとカオス, pp 189-244.(椎野正寿,深井朋樹. 合原 一幸編. 東京電機大学出版会, 1993)
『脳の情報表現』深井朋樹、加藤英之、北野勝則. Computer Today 2002年7月号、pp. 9-15(サイエンス社).
『脳内時計の神経機構』(岡本洋、深井朋樹. 別冊・数理科学2002年10月, pp. 51-59(サイエンス社).
ホームページ:http://brain.inf.eng.tamagawa.ac.jp/indexJ.html
○脳はどのように時間や記憶を情報表現しているのでしょうか。どんなものであるにせよ神経の発火パターンとして表現されているはずです。ではそれはどんなものなのでしょうか。どんな神経回路で実現されているのでしょうか。このような問題を「神経情報表現」と呼びます。この問題に対してモデルの立場から研究を行っている深井先生のお話をお届けします。(編集部)
…前号から続く (第6回)
■それから、連続的ではない、もっと離散的な情報だと、東北大学に丹治先生という先生がいらっしゃって。 ○丹治順先生ですね。有名な。
■そう、有名な。で、その丹治先生のやっぱり有名な仕事の1つが、試行の回数をカウントするニューロンというのがあってね、場所は、頭頂葉だったかな。
○ああ。聞いたことがあります。数を処理する神経細胞があるという話でしたね。 ■うん、例えば3回あることをやると、報酬がもらえるといったときに、これは1回目、これは2回目、これは3回目と、だんだんその回数に応じて、そのニューロンの発火率が上がっていく、そんなやつだったと思うんだけど。やっぱり似たような機構ですよね、必要なものは…… ○むしろ、どうやって同じ一まとまりのイベントだと考えているのかという方が、何か気になっちゃいますけどね。
■ああ、それはまたそれで、確かに重要な問題ではありますね。うん。 ○へえ、そういうのがあるんですか。
■うん、ごく最近になって、いろいろ議論されてきた話だと思うんだけどね。ヒトのfMRIを使った実験だったと思いますが。 ○ああ、何かその話はちょっと聞いたことのあるような。
■こういうニューロン活動があるということは、やっぱり脳は何かしらかのまとまりを付けて、外界を認知しているというわけですよね。まあ、そうじゃないと、学習なんて成立しないでしょうしね。
○ええ、一番最初に伺った時間の話とかは、まさにそういったことも含んでいると思うんですけど。
■そうですね。 ○はい。
■結局、節目というものをどう扱うのか、エピソードの記憶の問題というのはそこに尽きる。私の関心はそこに尽きるというか、他の人の関心は尽きやしないけれども(笑)。 ○ええ、ええ。 ■例えばね、記憶というと、僕自身はあんまりやっていないけど、海馬が重要だということは、誰でも知っているわけなんです。 ○ええ。 ■けれども例えば何かあるエピソードがあったときに、我々が覚えているのは、その経験した時間の長さそのもので覚えているわけじゃないでしょう。 ○うん。 ■連続的に流れている時間の中でエピソードを覚えているわけじゃなくて、その節目節目で何かしらかの意味的まとまりが、つまり認知的なイベントがあって、で、それをある時間順序を付けて、エピソードとして覚えているような、そういう側面がありますよね。 ○ええ。
■で、これはこれより先だったというのは、だいたい覚えているけれども、その間のことを全部覚えているわけじゃ普通はないわけで。 ○ふむ。 ■ある時間情報を保ちながらね。必ずしも、実際のエピソードの順序ではない場合もあるように思うけど。もちろんそのメカニズムの中には言語的なものもあるかもしれないんだけど、これはこれより前だっただとか、そういう言葉として覚えているとかいう。 ○ああ……。 ■そういう可能性もあるけれども、僕はやっぱりもっと原理的な段階で、出来事を時間方向に縮約しちゃうというか、完全に縮約して時間順序を失わせるという意味じゃなくて、出来事の順番と内容を本質的な枠組みだけ残して、エピソードを一連の関係あるものとして覚えていくという、そういう仕組みが、海馬とか、海馬と大脳皮質とのやりとり間にあるんじゃないかと思うんですよね。それがどんなものかまだよく分からないけど、そういう意味で記憶の問題に非常に興味があるんですよね。
■で、僕自身は海馬のモデルを真面目に考えたことはないんですが、僕はね、実は海馬のモデルとかいわれていた、連想記憶モデルの統計物理から、脳の分野に入ったんですけれども。 ○連想記憶の統計物理ですか。 ■うん、僕は物理屋なんだよ、もともとは。連想記憶ってご存じですか。 ○はい。 ■そうか、ご存じなら話は早いんだけど、シナプス結合に記憶パターン情報を埋め込んで、それを神経回路のダイナミクスで呼び出そうというモデル。 ○その分だけ与えれば出てくるというやつですよね。 ■そうそう。で、それも記憶の一面だから、一時期ずいぶんもてはやされた。もちろん、不完全な情報から記憶したパターンを再生するという考え方は、今だって記憶研究の中で重要性を失ったわけではない。で、連想記憶は統計物理に乗っかるということで、それをやってきたんですよね、ずっと10年ぐらい前は。 ○それはどういうふうに乗っかるんですか。それに、その話自体もかなり面白そうだとは思うんですけど。
■ああ、まあ、これは私の中では終わった話だけどね、もう。 ○ふむ。 ■ただ、ちょっとだけ変わるのは、そのときにお互い同士の相互作用というのが、何かしらかの記憶の情報を表現しなきゃいけないと。例えばある1、0のパターンを回路の安定固定点に保ちたい、そのときにどうしたらいいかという問題になるわけです。実は1、0のパターンを一つだけでなく複数個用意した上で、それからそういう一つ一つのパターンが安定になるようなシナプス結合と状態更新ルールというのは、わりと簡単なものを考えることができて。そうすると完全にランダムなスピン系の問題に乗っかっちゃう。 ○いわゆる「スピングラス」とか、そういう手の問題ですか。 ■そうそう。それで、どれだけの数の記憶パターンを覚えられるかとか、そういったことが統計力学の手法で計算できる。今は、大学院レベルの演習問題のようになってしまった(笑)。でも、もちろん最初にやった人は偉いと思うけど。 ○はい。
■もちろんいろいろな研究がされて、いろいろ分かったこともあるんだけど。 ○次号へ続く…。
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