NetScience Interview Mail 2005/02/10 Vol.308 |
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【深井朋樹(ふかい・ともき)@玉川大学 工学部 知能情報システム学科 教授】
著書:『脳を知る・創る・守る 4』(共著、クバプロ)
『ニューラルネットの統計力学とカオス』 ニューラルネットワークシステムとカオス, pp 189-244.(椎野正寿,深井朋樹. 合原 一幸編. 東京電機大学出版会, 1993)
『脳の情報表現』深井朋樹、加藤英之、北野勝則. Computer Today 2002年7月号、pp. 9-15(サイエンス社).
『脳内時計の神経機構』(岡本洋、深井朋樹. 別冊・数理科学2002年10月, pp. 51-59(サイエンス社).
ホームページ:http://brain.inf.eng.tamagawa.ac.jp/indexJ.html
○脳はどのように時間や記憶を情報表現しているのでしょうか。どんなものであるにせよ神経の発火パターンとして表現されているはずです。ではそれはどんなものなのでしょうか。どんな神経回路で実現されているのでしょうか。このような問題を「神経情報表現」と呼びます。この問題に対してモデルの立場から研究を行っている深井先生のお話をお届けします。(編集部)
…前号から続く (第5回)
■ご存じかもしれませんけど、普通、ニューロンの発火というのは実際の脳の中ではものすごく、試行ごとの変化が激しいんですよね。 ○「試行ごとの変化が激しい」とは? ■試行ごとの変化ってどういう意味かというと、繰り返し同じタスクをやらせて、あるニューロンのスパイク列を記録して、違うトライアルのスパイク列を比較してみると、毎回全然違うでしょう、発火のパターンが。 ○ええ。 ■こういう多様性を見たときに、こんなもので何か情報がコードできるのかということも、また1つの問題になっているわけですけれども(笑)。 ○ふむ。 ■僕らのモデルはこの問題に対する一つの回答を与えています。つまり、一個一個のニューロンというのは、別にランダムにいろいろなことをやっているように見えても、それを回路内のニューロンの集団として見たときには、ちゃんと全体ではシステマチックに、1つの機能を生むことも出来るのだと。そういう描像をこのモデルから自然に出せるわけなんですね。 ○ふーん。
■で、それなんかもやっぱり実験で今後、確認していきたいことなわけですよ。 ○なるほど。どういう工夫で、そういうことができるように−−全体としてはちゃんと結果をはじき出すというモデルになっているんですか。
■ある程度は経験や、他分野の研究の結果を参考にして先読みはしますけど、その通りいくとは限らないしね。まあ、実はこのモデルでも、集団の発火率がほぼ一定に上昇していくメカニズムはね、僕らもまだ完全には理解していないんですよ。シミュレーションではそうなっているというのはあるんだけど。 ○はい。 ■で、そういうのをたくさん用意しておいて、それらが独立だとするとね、全体の活動を見ていくとどうなるかというと、最初は、一気にアップ状態になるニューロンの数が多いわけですね。 ○はい。 ■だけど時間がたつと、ダウン状態に残っているニューロンの数がどんどん減っていくでしょう。だから最後の方を見ると、全てのニューロンがアップ状態を取っている状態にゆるやかにどんどんサチっていって、全部発火、全部アップになったらそれで終わりなわけだけれども、そこに到達するときには変化が指数関数的にゆっくりになっちゃうわけなんですよ、独立な素子だと。 ○ええ。 ■だけども、リカレントなネットワークがあるせいでね、まだ下にとどまっているニューロンは、サーキットから結合を通じて、自分の周りにいる神経集団のどのぐらいの連中がもうアップになったかという情報を教えてもらうことができるわけですね。 ○なるほど。
■そうすると、その入力が適度に変化を加速する格好になって、トランジションがほぼ一定の速度で起こり続ける。 ○イメージとしては、そうだな、相互作用によって遷移確率そのものが変わるということですか? ■そうそう。時間とともに遷移が適度に加速されるように遷移確率が変わることで、最終状態の直前まで、一定の強さの入力に対しては、ほぼリニアに情報を積分できる。そんなふうなこう回路になっているというのが、直感的なイメージなんですね。 ○ふんふん。
■で、わりとこれが広い結合強度の範囲でうまく起きたりする。このように振る舞いの傾向がパラメタのある程度の範囲で保たれるという性質は、神経回路が幅広いレンジの情報を表現するときに、とても大切なことだと思います。
○こういう回路は、何をしているというふうに考えられているんですか。 ■いろいろあり得ると思う。 ○どういう機能が?
■例えばさっき言った金魚の脳の話だと、このそのものの回路じゃないかもしれないけど、こういうインテグレーターがあってね。 ○ええ。
■そのときに、自分が今どの位置、自分の目がどこを見ているかということがはっきりつかめないと、次のサッケードも準備できないし、サッケード自身がうまくできませんよね。そういう、位置情報をある種のニューロンの持続発火の発火率が表しているというのははっきり分かっていて。
■また、いわゆる量的情報の保持とか、インテグレーターとか、そういう話のはしりになった論文に、「パラメトリック・ワーキング・メモリー」という話があるんです。 ○「パラメトリック・ワーキング・メモリー」?
■ワーキング・メモリーというのは、実態は遅延期間中続く、持続発火なわけだけど−−ちなみに、持続発火というのも、これ、インテグレーションすべき外からの入力がないような状態が続くために一定の発火率で発火しているような、積分回路の特別な状態だと思えば、二つの神経活動は似たようなメカニズムで説明できることがわかる。 ○ええ。
■で、例えば、あるワーキングメモリの実験ではサルにタッピングの周波数を一時的に覚えさせることをやらせてみた。コンコンと。で、この周波数をいろいろ変えるんですね。で、しばらく時間を置いてまたタッピングして、二つの刺激の周波数の大小を判断させる。だからサルは1番目のタッピングの周波数を覚えておかなきゃいけない。 ○なるほど。コンコンコンと来るか、コン・コン・コンと間を開けたタップで来るかでやらなくちゃいけないことが違うわけですね。で、そのためにはタッピングの周波数を覚えている必要があると。 ■そうです。そうしたときにね、この保持している時間−−「遅延期間」と呼ばれているんですけど、この時間の間ね、これは前頭葉だったかな、ちょっと場所は忘れちゃいましたけど、タッピングの周波数に応じて、ファイリング・レート(発火率)が変わるようなね、そういう持続発火が見つかったわけなんですよ。 ○発火率が?
■つまり1秒間に何個スパイクを出すかという、活動のレベルがこう変わる。 ○ふむ。 ■例えばね、入力積分をする回路かニューロンがあれば、このような持続発火を説明することも難しくはない。例えば10ヘルツのタッピング刺激が加えられたとします。 ○はい。 ■そのときには、その強さに対応した刺激が短時間回路に入って来て、それを積分することでニューロンの発火率が上がる。で、遅延期間に入って刺激がなくなれば、積分すべき入力はないので発火率は同じ値に留まり、その情報を保っていると。 ○ええ。
■で、2回目には、例えば15ヘルツのタッピングが来ましたと。そうしたら前から持っていた情報と後から来た情報とを、何かの方法で比較できれば、このタスクが実行できるわけですね。ニューラルインテグレーターが量的な情報の保持に役に立つわけですね。 ○ふむふむ。 ■まあ、こんなふうに積分回路が一つあれば、一種の定量的な情報を保持することに使えるわけですね。目の位置なんていうのも、まさにそういう定量的な情報でしょう。まあ目だから角度なんだけど。 ○角度情報でしょう。 ■うん、真っ直ぐ前を見た状態から見てアングルが何度ずれたところにサッケードしましたという、その結果実現している現在の視点の位置を、ニューロンが、その発火率でコードするわけですね。角度が大きければ大きいほど高い周波数で発火する。そうすると逆に言えば、脳としてはニューロンの発火周波数を何かの方法で見てやれば、その神経活動で、自分の目がどこにあるかというころが分かるわけです。 ○なあるほど。 ■似たようなものはいろいろあると思うんですよ。まだ確かめられていないけれども。 ○次号へ続く…。
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発行人:株式会社サイネックス ネットサイエンス事業部【科学技術ソフトウェアデータベース・ネットサイエンス】 編集人:森山和道【フリーライター】 |
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