NetScience Interview Mail 2005/02/03 Vol.307 |
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【深井朋樹(ふかい・ともき)@玉川大学 工学部 知能情報システム学科 教授】
著書:『脳を知る・創る・守る 4』(共著、クバプロ)
『ニューラルネットの統計力学とカオス』 ニューラルネットワークシステムとカオス, pp 189-244.(椎野正寿,深井朋樹. 合原 一幸編. 東京電機大学出版会, 1993)
『脳の情報表現』深井朋樹、加藤英之、北野勝則. Computer Today 2002年7月号、pp. 9-15(サイエンス社).
『脳内時計の神経機構』(岡本洋、深井朋樹. 別冊・数理科学2002年10月, pp. 51-59(サイエンス社).
ホームページ:http://brain.inf.eng.tamagawa.ac.jp/indexJ.html
○脳はどのように時間や記憶を情報表現しているのでしょうか。どんなものであるにせよ神経の発火パターンとして表現されているはずです。ではそれはどんなものなのでしょうか。どんな神経回路で実現されているのでしょうか。このような問題を「神経情報表現」と呼びます。この問題に対してモデルの立場から研究を行っている深井先生のお話をお届けします。(編集部)
…前号から続く (第4回)
○それで先生方はどういうモデルを立てていらっしゃるんですか。 ■1つはね──ああ、今さっきの単体ニューロンの話の続きですか。 ○うん。 ■というかね、先ほどの問題をね、大きな言葉で引っくるめて言えば、結局、「情報の積分」ということなんですよね。 ○はい。 ■要するに、ある入力が−−例えば強さの入力が入ってくれば、それに応じて発火率が上がると。で、入力がなくなれば、その情報を保持していると。次に発火を抑制する入力があれば強さに応じて今度は発火率が下がる。すると入力が実際何を表しているかとか、単体ニューロンなのか、回路かと問わず、そのニューロンの回路なり、ニューロン自体が入力刺激を積分するインテグレーターになっている。情報を積分する必要はいろいろな行動の基本にあることなので、そのメカニズムをここのところずっと研究していますね。 ○はい。
■2つモデルを考えていて、1つは今さっきお話しした単体ニューロンのモデル。これは、さっきも言ったけど、海馬の実際の実験に触発されて、単体の神経細胞の活動をモデル化するところから始まったと。 ○どういうものか教えて下さい。 ■ええ。もともとこれらの2状態はね、少なくとも僕が知る限りにおいては、大脳基底核という部分があって、これは、運動のプランニングであるとか、あるいは運動の時系列の生成とか学習で、非常に重要な核で。実際、いわゆる運動に限らず、もっと深い、精神的ないろいろな働きにとっても、重要だろうと考えられているんですけれどもね。 ○ええ。
■そこの大脳皮質から入力を受けている入り口の部分に、線条体というところがありまして、そこで初めて、見つかった状態だと思うんですよ。 ○「アップ状態」というのは、発火ではないんですよね。
■発火ではないんです。発火の閾値のすぐ下までは電位が上がるけれど、発火しないでダウン状態に戻る細胞もあるから。まあ、しきい値あたりにへばり付いているような状態ですかね、発火の準備をしているというか。その2つの状態間を、1秒ぐらいの平均周期で行ったり来たりしている状態というのが見つかったんですね。
■で、今度は大脳皮質の神経回路をもっとよく見ていくと、そちらの方にも、そういうアップダウン・状態間でのトランジションが見られるということがはっきりしてきた。で、そのような活動の生理学的なメカニズムとか、それにいったい何の機能的意味があるかというのが、今、問題になっているんですね。 ○何の意味があるんですか。 ■うん、まだ全然分からない。今までほとんどの実験は、大脳皮質、大脳基底核に限らず、実際に行動しているとか、覚醒している状態の動物で得られたデータではなくて、麻酔をかけている状態であるとか、あるいは、ビトロといって、シャーレにネットワークを切り出してきて見ているわけです。そこではそういったアップダウン状態遷移があるけど、実際の行動下でもそういうものがあるかどうか、あったとして脳の機能に役立っているかということについては様々な相反する主張があって、いろんな議論になっているんです。 ○ふーん。
■で、まあそこは本当にまだ分からないんだけれども。 ○まあ、単純に0、1を表現しているんじゃないですか。
■まあまあ、そういうふうに言ってもいいですけれども、その0,1は通常のスパイクの意味での0,1ではないから、情報の表現は深みを増すわけです。例えば特定の機能に関係する可能性があるニューロン集団を、あらかじめ選び出しておくようなプロセスに関係するのかもしれない。 ○情報の積分器になると?
■例えば刺激を受け続けると、アップ状態になって発火可能なニューロンの割合が一定の速さで増加するし、もっと弱い刺激だったら、増加の速度がそれに応じて小さくなる。 ○うん。 ■それは今まだ、まだ論文にはちゃんとなっていないんだけれども、まだ投稿中の段階で査読者にいじめられているところかな。
■で、僕らのモデルの特徴というか、今までほかのモデルにはなかった性質が得られることもわかった。 ○ええ。 ■結局それは、回路中にかなりまちまちの大きさのシナプスがあって入力が入って来ると、次に最初にある一群のニューロンが発火して、次に別のニューロンが発火しだすというように。ニューロン間の発火の順番がかなり決まっていることになるんですよね。 ○発火の順番。
■結局、ニューロンごとにシナプス入力の大きさがかなり違うために、発火しやすいニューロンとか、発火しにくいニューロンとかがいろいろあって、それが入力の強さに応じて順番に発火する。そして、このぐらいの強さの入力だったらば、このニューロンまでが発火できるということが、織り込まれている。 ○ふむ。 ■だから当然もし実際にそういう回路でインテグレータが実現されているならば、実験の中で、いろんな大きさのEPSPが観察されなきゃいけない−−EPSPというのは「シナプス後電位」といって、シナプス入力の強さみたいなものですけど、そういうものが観察されなきゃいけない。そういう測定は試みられてますが、本当にそうかどうかはまだ分からない。 ○「興奮性後シナプス電位(Excitatory PostSynaptic Potential : EPSP)」ですね。 ■そうです。で、僕らのモデルはね、シナプスの個別の調節は必要なくて、平均的な強さがおおざっぱに決まっていればランダムに結合していてもよいし、一様につながっているような神経回路でかまわない。その結果、発火の順番が基本的に決まっていないんです。 ○ふむ。 ■ただし全体−−ニューロンのネットワーク全体の活動を平均して見ると、必ずいつも、ある一定の強さの入力に対しては一定の、スピードでインテグレートしていく挙動が現れる。 ○ふんふん。 ■だけれども、個々の、シミュレーションのトライアル、これは実際の事件での一回の試行に対応するわけですが、どのニューロンが発火するかとか、どの順番で発火するかということはまったくランダムになっています。それは完全にstochastic、確率過程で決まっちゃう。アップダウン状態を導入することで、そういう仕組みが実現できてしまうんですね。
■ご存じかもしれませんけど、普通、ニューロンの発火というのは実際の脳の中ではものすごく、試行ごとの変化が激しいんですよね。 ○次号へ続く…。
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