NetScience Interview Mail 2005/01/20 Vol.305 |
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【深井朋樹(ふかい・ともき)@玉川大学 工学部 知能情報システム学科 教授】
著書:『脳を知る・創る・守る 4』(共著、クバプロ)
『ニューラルネットの統計力学とカオス』 ニューラルネットワークシステムとカオス, pp 189-244.(椎野正寿,深井朋樹. 合原 一幸編. 東京電機大学出版会, 1993)
『脳の情報表現』深井朋樹、加藤英之、北野勝則. Computer Today 2002年7月号、pp. 9-15(サイエンス社).
『脳内時計の神経機構』(岡本洋、深井朋樹. 別冊・数理科学2002年10月, pp. 51-59(サイエンス社).
ホームページ:http://brain.inf.eng.tamagawa.ac.jp/indexJ.html
○脳はどのように時間や記憶を情報表現しているのでしょうか。どんなものであるにせよ神経の発火パターンとして表現されているはずです。ではそれはどんなものなのでしょうか。どんな神経回路で実現されているのでしょうか。このような問題を「神経情報表現」と呼びます。この問題に対してモデルの立場から研究を行っている深井先生のお話をお届けします。(編集部)
…前号から続く (第2回)
○最近は、今どこにフォーカスされているんですか。 ■やっぱりね、主には、あの時間のモデルもそうだけれども、大脳皮質のサーキットかな。例えば、「ワーキング・メモリー」とか−−あなたはその辺も取材されていましたね。 ○はい。 ■例えばワーキング・メモリーでのニューロンの持続的な発火活動なんかがどういう回路で実現できるか。あるいは、そういった回路が最初からあるわけじゃなくて、何かそれを作りだすメカニズムがあるわけなんだけれども、そういうメカニズムがどのように働くと、自己組織化的にワーキングメモリ回路が形成されるかとかね。さらに形成された回路はどんなシナプス結合の構造をもっていて、その回路で生み出される神経発火の時空間的構造は、大脳皮質の情報表現や処理にどんなふうに関係するのかとか。 ○具体的にはどういうことですか。 ■あの、そうだな。モデルの話はわかりにくとよく言われるのですが、せっかく来てもらったからある程度、その説明をしましょう。 ○お願いします。 ■一言で言えば「神経情報表現」に関する問題を手広くやってます。ニューロンはスパイク発火を通して情報を表現したり、伝えたりしているわけです。スパイクというのは、1ミリ秒程度の短い時間幅を持つ電位変化です。模式的に描かれた絵は見たことがあると思います。それぞれ、ばらばらな時間に不規則に発火している場合もあるし、あるいはもう少し規則的な場合もあるでしょう。 ○ええ。 ■伝統的な考え方では、例えば1秒間にスパイクが何個出たかとか、あるいは1秒じゃ長過ぎるから、100ミリ秒の間に何個出たか、スパイク発火の回数をを数えるのがいわゆる発火率表現というものなんですよね。まあ基本的には、そういったものに情報が載っかっていると考えるんです。 ○はい。 ■でも最近の研究では同時に複数のニューロンの活動を記録する技術が欧米を中心に開発されてきて、単にスパイク数だけでなく、複数のニューロンから、同期してスパイクが発射されるような状況があることがわかってきているんです。 ○同期。
■うん。で、そういった同期が何の役に立っているか、はっきりしたことはまだ分からないんだけど、いろんなところに見られる。さらに一つ一つのスパイクの正確なタイミングにも意味があるとする見方もあります。個人的には発火率とスパイク同期は質的に違う情報を表現していると思ってるんだけど。 ○それとワーキングメモリーの話の関係は?
■それはなかなか鋭い質問ですね。ワーキング・メモリーも、実際の実験では、多数の神経の活動を同時に見ているわけじゃなくて、普通1個の神経の活動を見ているだけなんですけど、同期した発火が見られるという報告も、少数ですがあります。 ○なるほど。情報を持続させるってことはニューロン集団による回路が持続的に発火しているということだから、それは具体的には何をしているのか、ということですね。 ■で、じゃあそういう持続発火をね、どうやったら神経回路で作れるだろうかと。で、一番簡単な考え方というか、古典的な考え方というのは、神経細胞がお互いに、興奮性シナプスでつながっていて、それらが互いに自分の発した信号を回していくと。 ○再帰的に回していくと。 ■そうそう、そうすれば回路全体としてそのアクティビティーが持続できるじゃないかと。で、それは1つの仮説で、そういうモデルがたくさんあるんですよ。で、ただ例えばそういうその仮説に従ったとしても、あの、実際やってみると分かるんだけれども、神経細胞ってそうするとどんどんどんどんこう、強い刺激をお互いにフィードバックしていくと、どんどんどんどん発火頻度が高くなっていってとなっちゃうはずだけど、実際にはそうはならないと。比較的一定の低い発火率のところで保たれている。それは何で起きているのかとかね。
■あと最近はね、実はそういう持続発火が回路のレベルじゃなくて、単体のレベルでそういう性質を持っている細胞とかも見つかっているんですよね。 ○単体で、ってことは振動みたいな活動をしてるわけですか。
■それはどういう実験かというと、シャーレの中に神経を取り出して実験するんだけれども、例えば1回神経を刺激するとね、ずっと持続的にほぼ一定の発火率で発火しているわけです。もう1回刺激すると、ちょっとだけ持続的にそのあと発火の発火率が上がる。例えば最初5ヘルツだったのが8ヘルツになりましたとか、そんな活動をする。で、もう1回刺激するとまたちょっと上がる。 ○なるほど。 ■そうすると、持続発火は回路がなくてもできる場合があるわけです、あるいはその発火率そのものに何か定量的な情報が−−この場合だったら、たたいた回数みたいな感じだけれども、載っかったりとか−−そういういろんな可能性が出てくるでしょう。 ○ええ。
■で、何ていうのかな……。ニューロンが行っている情報表現というのは、実験段階がいろいろ進んでくると、だんだん複雑な仕組みになってくる。 ○はい。 ■実際、僕らもそういう単体ニューロンのワーキングメモリのモデルも作っているし、あるいは連続的に調節可能な発火率を持つ持続発火を、回路レベルで今度は実現しようと思って、やっている人もいるんです。実際の脳の中で回路かシングル・セルによるのかというのは、まだちょっと決着がついていない話なんですが。実は、両方あるかもしれないし。 ○でもシングル・セルのやつがあるんだったら、シングル・セルでいいじゃんということにはならないんですか。あるいはシングル・セルのやつがいっぱい集まって、一つの機能を為している、とか。
■そこら辺がね、理論的にいろいろな可能性が示せると面白いでしょうね……。 ○と、おっしゃるのは?
■というのは、刺激がすごく長くないといけない。3秒とか4秒とか。強い刺激をそれだけ与え続けると、その刺激が終わった後には発火率が上がっているという感じなんですよ。 ○ええ。 ■それでもう十分なわけです。そうすると、そういう現象はシャーレの中ではあるかもしれないけれども、実際には、例えばワーキングメモリなんかには関係していないんじゃないのという議論もたくさんあって。 ○ふーん……。 ■それから、例えば、ワーキング・メモリーで見られるような持続発火の発火率で情報をコードしているような活動というのは、有名なところでは、金魚のね、眼球の向いている方向をコントロールしている場所でよく知られているんですよ。 ○ああ。自分の目がどこを向いているかという情報を短期記憶しておくわけですね。
■うん。そういった研究がいろいろ為されているんだけれども、仕組みについてはやっぱり、まだ回路なのか、単体なのかということは、全然決着がついていなくて、いろんな議論が続いています。各々のメカニズムをサポートする実験結果がどんどん積み上がっているような状態で、全然決着はついていないんですよね。
○先生はそこにどういう形で切り込んでいかれようとしているんですか。
■最終的にはそのように連続的に発火率が可変になっているようなニューロンで構成される神経回路の持続発火の機能に興味があるんです。 ○できれば。 ■僕らの仮説は、細胞内にはカルシウムストアというのがあるんだけれども、発火を長時間持続させるために、それが本質的に効いているのではないかと――そういう話って聞いたことあります? ○ええ。細胞内にあるカルシウムのストアからカルシウムが放出されることでどうこうという話ですね。それが細胞の生理的機能のスイッチとなって働くと。
■そうです。カルシウムを細胞内で放出するわけですね。ストア内部のカルシウム濃度は非常に高いので、カルシウム濃度が細胞内で著しく変わるわけです。 ○こういう仕組みがあれば、振動できますよというようなモデルを立てたと。 ■そうそう。で、まあ僕ら以外のモデルも何タイプかあってね、まあいろいろ議論がされているという感じなんですけれども。 ○実際に、その先生たちがお立てになったモデルに対応するような、実際の実態とか見つかってきているんですか。レセプターとかチャネルのタンパク質とかもろもろのモノは。
■ええとね、そういったものの存在を示す証拠は全部あります。ただそれが、本当に僕らがモデルで仮定したように、組み合わさって1つのダイナミカルなシステムとして働いているかということは、これはまた別の問題で、それを直接的に指し示す証拠までは、まだないですね。 ○なるほど。 ○次号へ続く…。
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