NetScience Interview Mail 1999/09/23 Vol.070 |
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【淺間一(あさま・はじめ)@理化学研究所 工学基盤研究部 技術開発促進室】
極限環境メカトロニクスチーム チームリーダー
生化学システム研究室 副主任研究員
研究:ロボット工学
著書:長田正編著『自律分散をめざすロボットシステム』オーム社,東京,1995.ほか
研究室ホームページ:http://celultra.riken.go.jp/~asama/
○自律ロボットの研究者、淺間一さんにお話を伺います。
淺間氏はロボカップと呼ばれるロボットのサッカーに出場したり、様々な分散ロボットなどをお作りになっています。
近い将来、大きな役割を役割を果たすかもしれないロボット。
その研究現場からのお話、お楽しみ下さい。
7回連続予定。(編集部)
[04: 赤外線通信センサシステム LOCISS(ローシス)] |
■あとセンサー系ですが、ロボカップのときはCCDカメラを使っているんですが、それ以外にも自分の状況を知るセンサ、周りの状況を知るセンサだとかがついています。エンコーダーっていうのは自分の車輪の回転を見て自分がどこにいるか知るのに使いますが、ジャイロとかコンパスっていうのは、方向を見るわけです。
ただし、なかなか万能なセンサってないんですね。ジャイロだとドリフトっていう現象があってだんだんずれて行っちゃうんですよ。コンパスも、地磁気を見るわけですが、近くに強力な磁界を発する装置があったりると急に乱れちゃってわけ分からなくなったりする。信頼性もあまりよくない。だから状況によって使い分けるということになります。
○ふむふむ。
■で、普通赤外線センサや超音波センサなども移動ロボットのセンサとして使われますが、まだRoboCupのロボットには積んでいませんが、ちょっと変わったセンサを開発しました。8方向に赤外線発光LEDと受光素子がそれぞれついていますが、これがLOCISS(ローシス, LOcally Communicable Infrared Sensory System)って呼んでいるセンサです。これは、たくさんのロボットがいる、いわゆるマルチロボットの環境で、他のロボットがどう動いているかとか、壁だとかを認識するために開発したものなんです。
この説明をする前に、超音波センサの話をしでおきましょう。このLOCISSの赤外線発光LEDと受光素子の間についているのが実は超音波のセンサなんですが、超音波センサというのはご存じのとおり、超音波を出て、その反射を見て、音速からそこまでの距離を推測するわけです。
これも、たとえば壁までの距離を測るときなんてのは正対していれば非常に使いやすいんですが、たとえば向こうに箱がおいてあって測るとしますね。そうすると超音波はピンポイントで出せませんから、ある広がりを持って出るんで、箱のどこかの一番近いところの角からの反射を見るということになっちゃいますね。つまり、超音波をあてたとき、どこまでの距離測っているのかがわからない、距離は分かってもどの角度からの反射か正確には分からない、ということになる。
○なるほど。
■で、実はこのようなセンサーのもう一つの問題は、マルチロボットの環境となると、うまく使えなくなるんです。
○信号干渉の問題ですか。
■そうです。たとえば超音波センサーがまさにそうなんですが、アクティブセンサーといって自分から信号を出していて、その反射を見て計測する、そういうタイプのセンサーっていうのは、すべてのロボットがそれを使い出すと、全部のロボットが信号を出しますから、どれが自分の信号か分からなくなるんですね。そういう干渉っていう問題が出る。
コウモリなんかはその辺うまく聞き分けているらしいんですけどね。そのメカニズムがまだよく分からない。こないだ東北大の矢野先生のところに行ったらやっぱりコウモリの耳の研究をやっていて、なんでも、外耳の形が聞き分けの上では大事らしい、とおっしゃっていました。
○へー。
■とにかく超音波センサーはマルチロボット環境下ではなかなか使いにくい。逆にCCDカメラみたいなパッシブなものを使おうとするといろんなものが動きまわるのでたくさんのものをトラッキングしなければならなくなって現状では技術的に大変難しいわけです。無線通信を使うという手もありますが、たくさんのロボットがいて、みんなが喋りだすと限られたバンド幅の中でやりとりするには限界があるのです。要するにマルチロボットの環境となると、既存のセンサーでは実はなかなか使えるものがないんですね。そこで考えたのが、赤外線を使って──ここがポイントなんですが、ローカルにコミュニケーションして、お互いの情報を交換しようと。
○なるほど。
■原理は非常に簡単で、たとえばロボットが自分の8方向のセンサーを使って自分のIDを発信する。そうすると、これは1mくらいしか届かないように設定されているので離れていたらお互い受信しないんですが、近づいてくると、ロボット1はロボット2のIDを、ロボット2はロボット1のIDを、それぞれ相手がいる方向のセンサーで受信することになります。そうするとお互い、自分のどっち方向に誰がいるかというのが分かる。
で、相手が障害物だと、障害物に反射してきた自分の信号を見ることになりますんで、これは検出レンジは狭くなるんですけども、自分のIDを受信することになります。要するに受信したIDをずっとモニタリングしていると、どっち方向で衝突しそうということを検出した瞬間、自分と同じIDだと、「あ、こいつはロボッじゃなくて障害物だ」と分かるし、自分と違うIDだと、「相手はロボットで、誰々だ」ということがわかります。障害物とロボットの区別でき、しかもロボットだと相手のIDを認識できる、ということになります。
○ふむ、ふむ。
■いっぱいロボットがいると相手が誰だか知るのって、画像や通信を使ってやろうとすると結構大変なんですけども、これだとそれがダイレクトにできるわけです。
○ふむ、ふむ。
■次に、じゃあ、お互い出している情報をIDだけでなく、お互いの移動情報も出したらどうだろうかと考えたんです。自分は誰々であってどっち方向にどれだけのスピードで進んでいますよということを常に周囲に発信しながら歩かせるわけです。
そうすると、遠いと分からないんですが、近づいてくるとだんだん「あ、こいつは誰々でどっち方向に進んでいるな」ということが分かる。
○なるほどね。IDC(インテリジェント・データ・キャリア)っていう奴ですか。
■あ、いや違うんです。それはまた別の話。
○でも考え方としてはIDCっていうのはそこらへんから出たものじゃないんですか?
■そうですね、ローカルなコミュニケーションという意味では近いですね。まあその話はあとで。
まず、LOCISSを使ってどうやって衝突を回避するかという話をしましょう。最初にやったとこは、衝突回避のルールを人間が作ってあげて、それをロボット上にプログラムするというやり方です。一応どういうふうに行動するかということは一応最初は人間が与えてやるわけです。
○教えておくわけですね。
■そう。他のロボットが向こう向かって来たら左側によけるとか、左から来たら止まるとか、同じ方向だとついていくとか、相手が障害物だったら左からよけるとか、そういう形でルールを決めておくわけです。このセンサを使えば、相手がロボットか、障害物かがわかって、かつ相手がロボットだと、それがどのように動いているかが、赤外線の信号を受信することによってわかりますので、状況に応じて自分の行動をうまく決めるということが、できるようになるわけでです。
○なるほど。
■しかし、これはマルチロボット用として開発したんですけども、右にも左にもロボットがいたらどうなるか、ということになると、どういう状況でどいう風によけたらいいかということをいちいち人間が考えて教えるのはえらく大変だ、という話になりますね。そこで次に、強化学習って話になるわけです。要するにどんな状況でどうよければいいかという行動を自分で獲得しなさい、自分で勉強して覚えなさい、ってことをやるわけです。
やり方は簡単で、8方向にセンサがあって、どのセンサーから信号を受信したかということと、相手の動きにしても8方向に限定してしまって、どの方向に動いているかということ、さらにスピードも4段階くらに、たとえば0、10、20、30cm/secくらいに非常にラフに離散化して、どれっくらいのスピードかということをセンサー情報から状況を認識して、どういうときにはどういう行動をとれ、というスコア表を持たせておくんですね。最初は全部、均等な確率にしておいて、どの行動も取るも良し、取らなくても良し、というふうにしとくんです。で、その確率に応じてその行動を選択する。
○ふむふむ。
■その行動を選択したあと、評価するわけです。その行動が良かったか悪かったか。そして、評価に応じてスコア表の確率を書き換えるわけです。
○どうやって評価するんですか。
■まあたとえば、自分の目標、ゴールがあって、近くにロボットや障害物があったとすると、ロボットや障害物からはうまく遠ざかったか。ゴールには近づいたか、そういう距離の関数の形で評価するんです。うまくロボットや障害物から遠ざかってゴールに近づいたら、その行動は良かったんだよ、と評価する。良かった行動に関しては報酬を与える。要するにスコア表のそこの値を増やすんですね。ダメだったら減らす。
ということでたとえば実際のロボットと似たような環境を計算機内に作って、まずシミュレーションをやりまして。そうすると次第に学習が進んでいくとスコアベースの中には、こういう状況ではこういうふうによけた方がいい、といったルールが自動的にできていく、というわけです。
○なるほど。
■で、ある程度学習したモノを実際のロボットにインプリンティングしてやって動かしてやる。そうすると、うまくいったんですね。4台の移動ロボットを壁のある環境で動かして、それぞれの目的地を与えて動かしてやる。するとたとえば、あるロボットは、左右から2台のロボットに挟まれそうになってもうまくすりぬけたり、壁とロボットを両方見ながらうまくよけたりすることができました。中には、周囲を囲まれてデッドロックみたいになる状況もあるんですけど、そういうときもちゃんと待っててですね、誰かがいなくなって、動けるようになってからスッと出る、といった行動が出るんですね。これはそういうふうに避けなさいと言ったわけじゃなくて、自分で獲得した行動なんです。そこが非常に面白いんです。
○ほほう。
■で、なかなかこういうマルチロボットの環境で、実際のロボットをたくさん使って周りの状況をきちっと認識しながら避けるなんてことをやったのは誰もいなくて、世界で初めてです。これはドクターコースにいた新井君っていう学生さんがやったんですが、国際学会で論文賞を取りました。
[05: IDC インテリジェント・データ・キャリア] |
■ここまではロボットを如何に知能的に動かすかという話だったんですが、なかなかどんな状況でもロボットに積んであるセンサだけで動かすというのは難しい。だから現実的にはロボットだけではなくて、それがいる環境も少しインテリジェント化してやろうと。これが<インテリジェント・データ・キャリア>っていう考え方です。
たとえばロボットが動き回るのに必要な情報を全部無線で管理しようとすると大変なことになりますが、ある情報はやっぱりその「場所」で有効な情報ってあるわけです。だから情報を「場所」で管理してやろうという発想です。
で、このインテリジェント・データ・キャリアっていうのはCPUとメモリと電池と、微弱な無線でコミュニケーションできるシステムが全部入ってまして、ヴァージョン1から、いまヴァージョン4までできています。ヴァージョン2で一度小型化したんだけどうまくいかなかったので3で元に戻して、4でまた小型化しました(笑)。
○(笑)。ちょうど電話のモジュラージャックカバーくらいですね。
■将来はちょうどカードくらいの大きさにまで小型化しようと思っています。
これは無線によって中にデータが読み書きできる。中でいろいろ処理ができる。電池を持っているので自分から電波も出せる。といった特徴があります。
データキャリアっていうのはそもそもモノにデータを付けるようなシステムをみんなデータキャリアって呼んでいるんですね。たとえばバーコードなんかもデータキャリアです。
○商品に、その商品は何かとか、値段はいくらかとかつけている…。
■そうです。IDカードなんかもそうなんですが、IDCはちょうどIDカードを進化させたようなものだと捉えています。電磁誘導とか接触式じゃなくて非接触でデータの読み書きができます。2m半くらい飛ぶんですが、離れていてもデータの読み書きができる。
これをですね、環境のあちこちに置いておこうと。たとえば壁とか床とかの中に置いておこうというわけです。ロボットがうまく環境認識ができなくても、近づくと環境側がいろいろ話しかけてくれるわけです。たとえば「その先は左に行きなさい」とか、危ないところがあると、ロボットが危ないと認識しなくても、危ないところが「こっちきちゃダメだよ」とか、あるいはロボットが荷物を運ぶときに荷物自身にIDCを付けておいてインテリジェント化しておく。そうするとロボットが近づいただけで「自分をどこそこに運んでいってください」と話しかけてくれる。
つまり「ロボット主体」ではなくて「モノ主体」のシステムっていうのができるんですね。ロボットは一種のタクシーみたいにばーっと走っていて、必要なモノがそれを呼び止めると。そういう分散的なシステムができあがるわけです。
○ユビキタス・コンピュータみたいな概念ですか。
■そうです。まさにそうです。ユビキタス・コンピューティングの一つの手段として使えるだろうと。そう考えています。
もう一つ面白いのはロボット自身がIDCを持ち運べるんですね。ロボットがIDCを持ち歩いていて、何か面白い環境情報を見つけたら、自分が獲得した知識とかデータを置いていくことができます。
○タグをロボット自身が持ち運ぶことができる。
■そうです。そういうことです。
一番単純なのは積み重ねられるユニットみたいなのを作りましてね、中にIDCが入っているんです。ロボットがフォークリフトで持ち運べるんですよ。で、ある情報を見つけるとIDCの束をまずそこに置きましてね、2個めから上を持ち去るんです。そうすると一個だけ、IDCが残る。そこに情報を書き込んで自分は去っていく。そうするとそこには情報だけが残っていくわけです。
○ははあ、じゃあメモリを、あるいは自分を外化して分散していくと。
■そうそう、そういうことです。自分の分身を環境にばらまいていくという感じです。私はこれを「フェロモン装置」と呼んでいます(笑)。
○あ、なるほどね(笑)。フェロモン型通信ですか。
■そうなんです。実際にアリっていうのは個体同士で直接にコミュニケーションしてなくて、化学物質を環境に置くことによってコミュニケーションしてますね。餌のありかからすみかまで、フェロモンでずっと印をつけている。そうすると、そういう環境に落とした情報を他のアリが見て、「あ、あっちには餌があるな」と分かるわけです。そういう「環境を介したコミュニケーション」というのが、このデバイスを使えば可能になるだろうというわけです。
○ふむふむふむふむ。
■それがIDCの面白いところです。自分の分身をあっちこっちに残していくわけですから。ま、イヌのおしっこなんかまさにそうですよね(笑)。おしっこを残しておくとここは自分のテリトリーだぞ、と。他のイヌが来たときも「あ、太郎のエリアだな」と分かるわけです。
で、自分が頻繁に回っていかなくてはいけなかったのが、そこにアクセスできる他の個体のチャンスを増やすことにもなるわけです。自分がそうやって分身を増やしていくとコミュニケーションがフレキシブルかつ効率的になりますから。創発的なシステムを作るには面白いデバイスだなと思ってます。
○創発的なシステムですか。
■ええ。一つはたとえば未知の迷路環境があるとしますね。そこに自分が入ってくると、右へ行っていいか左へ行っていいか分からないですよね。そこでたとえば曲がり角にIDCを一個置いて、「自分は右に行くよ!」と書き残して右へ行く。実はそこは突き当たりだった。そうすると戻ってきて、「右へ行ったけど突き当たりだったよ。だから左に行くよ」と書き残して左へ行く。
そうすると2台目のロボットが入ってくると、そこには前のロボットが書き残した情報がありますんで、今度のロボットは「あ、右へ行ってもつきあたりなのか」と分かるわけですね。だからすっと左へ行くことができる。
○なるほど。
■こうして、各ロボットが獲得した知識を、環境を介してうまく共有させることができる。で、効率的に動くことができるわけです。
○脳内マップをどんどん実空間に置いていく、って感じですね。
■そうですね。今までの話だとだいたいどこかにセントラルなシステムがあって、そこで地図を管理していると。たくさんのロボットが動いているとそれを全部コミュニケーションでやろうとすると誰かがそこにデータを読み書きするのに通信回線を占有するとそこにアクセスできないですよね。そうすると非常に効率が悪くなるんで、ローカルにすむものはローカルで片づけよう、管理しようという考え方です。
○こういうのはウェブにも欲しいですね。いや真面目な話(笑)。
[06: テレオペレーション] |
■その他にテレオペレーションというのもやってます。
○ふむふむ。
○次号へ続く…。
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http://forum.jr.chiba-u.ac.jp/
■URL:
◇宇宙医学研究分野の当面の研究シナリオ−中間報告−
http://jem.tksc.nasda.go.jp/utliz/jp_senario_med.html
◇「夢の地球観測衛星」〜こんな衛星あったらいいな〜 入選作品
http://yyy.tksc.nasda.go.jp/Home/Press/Press-j/199909/kansoku_990914_01_j.html
◇NASDAスペースパーソンNo.29
「経済効果を考えた「宇宙旅行」実現をめざす
-宇宙開発事業団 宇宙輸送システム本部 招聘研究員 パトリック・コリンズ-」
http://spaceboy.nasda.go.jp/Spacef/sp/j/spacep_j.html
◇チャンドラX線望遠鏡、不調(CNN)
http://www.cnn.com/TECH/space/9909/15/chandra.trouble/index.html
◇Hubble Spies Giant Star Clusters Near Galactic Center
http://oposite.stsci.edu/pubinfo/pr/1999/30/index.html
◇進化:羽毛で覆われた恐竜 nature BioNews 1999年9月15日
http://www.naturejpn.com/newnature/bionews/bionews990915/bionewsj-990915c.htm
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