NetScience Interview Mail 1999/09/30 Vol.071 |
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【淺間一(あさま・はじめ)@理化学研究所 工学基盤研究部 技術開発促進室】
極限環境メカトロニクスチーム チームリーダー
生化学システム研究室 副主任研究員
研究:ロボット工学
著書:長田正編著『自律分散をめざすロボットシステム』オーム社,東京,1995.ほか
研究室ホームページ:http://celultra.riken.go.jp/~asama/
○自律ロボットの研究者、淺間一さんにお話を伺います。
淺間氏はロボカップと呼ばれるロボットのサッカーに出場したり、様々な分散ロボットなどをお作りになっています。
近い将来、大きな役割を役割を果たすかもしれないロボット。
その研究現場からのお話、お楽しみ下さい。
7回連続予定。(編集部)
[06: テレオペレーション] |
■その他にテレオペレーションというのもやってます。
ロボットの自律化と環境との協調というのの他に、人間との協調っていうのも考えようということで、じゃあ人間が数台のロボットをどうテレオペレーションするかというのをやっているんですね。一つにはインターネットを使ってロボットをリモートで動かすと。インターフェースを作りましてね。
たとえば以前やった研究だと、三鷹に船舶技術研究所というのがあって、そこに原子力プラントのモデルがあるんですけども、そこにうちのロボットを2台ほど持ち込みましてですね、和光の理研からテレオペレーションすると。バルブをどっちから点検するとかいった知識は事前に与えておくんですけどね。そうすると、そのバルブを点検するにはこっち側とあっち側から見ないといけないなんてときは、画面上のバルブをクリックするだけで、2台のロボットだとお前はあっちへいけ俺はこっちへ行けといった指示は勝手に出してくれるんですね。そうすると正面図と側面図みたいなのをロボットがCCDカメラで見て、その画像をオペレーターに送ってくれるわけです。その画像を見て、異常があるかないか、っていうのをやったんですね。
各ロボットごとに前後左右回転だとかカメラのパンチルトズームっていう指示を理研から全部出す、ということでもできるようにしたんですけどね。
○でもある程度自律でも動けるんでしょう?
■そうです。逆にある程度自律で動けないとうまくいかない。なぜかというとインターネットっていうのは不確定な時間遅れがあるんですね。宇宙みたいにわりと時間遅れが6秒とか、そういう形で決まっているとですね、その6秒ということを前提にした制御系を組めば良いんですけども、インターネットはトラフィック依存なんで、どれだけ遅れるか分からないんですね。そうすると、その間をどうするか考えなくちゃいけなくって、ロボットの自律性ってことが出て来るんです。
○なるほど。
■ダイレクトオペレーションって言いましてね、ジョイスティックでロボットを直接動かせるんです。前へ倒したり横へ倒したりするとロボットが前後左右回転して動くんですけども、そのときに、制御コマンドがいくのに時間がかかるんですね。
たとえばですね。障害物があるとしますね。オペレータが見ていて、「あ、障害物がある。右へよけなきゃ」って言ってもそのままガンとぶつかっちゃったりするわけです。それとか、横に何かあっても見えなくて、そのままガンとぶつかっちゃったり。
そこでさっきのLOCISSを使いまして、赤外線センサーで周りの環境を認識しながらオペレーターが前に倒しても、前に障害物があったら行かない。そんなローカルなインテリジェンスていうか、自律性を持たせておくと、現場までちゃんといけますよ、っていうのがまあ一つありますね。
■それからもう一つやっているのがあって。計算機の中に3次元の環境モデルを入れておいて、実際にロボットがいる環境、あるいは見ている環境というのを3次元で出してやるんです。で、ヘッドマウントディスプレイで見てやると。
○ああ。
■で、オペレーションすると。一種のVRですね。そうすると、ロボットがいまどこにいるかという情報を、帰ってきてフィードバックさせてからやろうとすると、ものすごく操作しにくいですね、時間遅れがあるので。そこでですね、クローズドなループを、計算機とVR操作システムの中だけで組んでしまうんです。つまりこっちでジョイスティックを倒すと、グラフィックの中のロボットはそのまま動くんです。リアルタイムに動く。だからまさにゲームをやっている感覚でロボットを動かせるんです。そのコマンドはインターネット経由で実ロボットにも出ていて、しばらく時間差があってから動くんですが、結果的には、実ロボットと同じパフォーマンスがシミュレートされていれば、同じ動きをしばらくたってからやることになる。
○操作そのものを先読みしてこちらで見せてやるわけですね。
■そういうことです。ところが、実際のロボットはずれたりしますんで、センサー情報もこちらのコンピュータには時間遅れで送られてきています。で、人間が操作を休んだりしているときに、そのズレをグラフィック上で修正するんです。だからしばらくすると横へロボットがピッとずれたりするんです。それはいまいるロボットの位置を出来る限り正確に、出来る限りリアルタイムに表示しようということです。ただ操作性優先、ということです。
[07: 課題 小型化と段差の克服] |
■まあそんなことをやっているんですが、あとはその応用というか、小型化に挑戦しています。ロボカップの映像をご覧頂ければ分かるとおり、我々のロボットは遅いんですね。だから小さくしてもうちょっとさくさく動くようにしようと。
それから、今までの奴は段差に弱いんです。ちょっとした段差でもなかなか乗り越えられないんで。
○一見車輪がでかく見えるから平気なように見えるけど、フリーローラーの直径は小さいんですもんね。
■そうなんです。だからそっち側にガンとあたっちゃうとどうしようもないんです。だからいろいろな段差を乗り越えるために工夫を考えています。
○どんなものですか。
■いまやっているのはロッカーボギーという機構を考えているんです。胴体に関節があるんですね。ソジャーナっていう火星ローバーがありましたけど、あれがまさにこのロッカーボギー機構ですね。段差にぶつかると、前が上がって後ろで押すと。摩擦が失われないんで駆動できるというメリットがあるんです。
○なるほど。
■どうも、こういう車輪型のロボットも機構的には解析されつくしていて、うちでも色々やったんですが、どうもやっぱりロッカーボギーが良さそうだということになったんです。これだと一方向にしか登れないんですが、取りあえずそれでやってみようと。これで少しは、ある方向に関しては段差を乗り越えられるようになるだろうと。
○これはどういうアプリケーションを考えて…。
■やっぱね、外に出したいんですよ。これにたとえばGPSとか載せて、外で動かしてみたいなと考えています。取りあえず何か運ぶということもできるでしょうけど、それは少し大きくして人間を運ぶということを考えています。
○人間? じゃあけっこう大きするわけですか。それはまた見てみたいですね。
[08: 自己診断] |
■もう一つ重要なのに自己診断というのがありましてね。ロボットがちゃんと動いているかどうかというのは、たとえば全部記憶を残しておいて、それを後から人間が解析して、あ、ここでデータが取れてないじゃないかなんてことをいちいちやるのは大変なんですよ。
そこで自分の状態を診断するためのセンサをつけてやるわけです。自分の位置だとかですね。ぶつかったということを認識させたり、自分の電源がだんだん電圧が減ってきたということを検出したりだとか。そうやってセンサによって自分のコンディションをモニタリングしながら、たとえば電源が減ってきたら無駄使いしないような動きに変えるとか、自分の行動にフィードバックさせるようなロボットを作りたいな、と思ってます。まだ開発途上ですが、重要な技術です。
○ロボットが自分自身を知るようになるわけですね。そしてそれに応じて行動すると。
[09: 合体型のロボット] |
■移動ロボットに関してはだいたいこんな感じなんですが、たくさんのロボットを協調させるということで、もう一つやっているのがですね、合体型のロボットなんですよ。
○合体型?
■小さいモノを複数組み合わせるタイプのモノです。合体型のロボットには僕は昔から興味があってですね、ずっとやってたんですけども。一つは立方体をしていて、横にアームがついていてですね、それぞれが合体していろんな形を作れるロボットとかですね。
もう一つは分散型で一つ一つにCPUがついていて一つのモジュールのCPUが壊れてももう一つのモジュールで制御したりできる、非常に耐故障性に優れているマニピュレーターとかをやってました。
○ロボットのボディ自体をモジュール化して、その結合状態を変えていくということですね。
■そうです。そうするとタスクに応じて合体して構成できるような形でCPUの入ったセルをそれぞれ作っておきましてね、それを用途に応じて合体させるわけです。機能適応型マニピュレータと呼んでいました。
○それはまた面白いですね。
■それで、こういう分散型のモノで、2次元のものというのは他にもあるんですけど、3次元のものというのはあまりないんですよ。垂直方向の自己組織機械っていうのはなかなかなかったんです。こういうのは機械研の村田さんっていう人がけっこうやってるんですけど。うちもそれで垂直方向に組立つようなロボットということで、立体型自己組織型ロボットというのを始めたんです。
一つ一つのモジュールには側面にマグネットがついてまして、横にそれぞれアームがついています。本体同士はマグネットでくっつくんです。本体同士の結合を切るのに腕を使います。腕は回転させて、伸ばすことができるんです。で、お互いに腕を伸ばし合うと…。
○よっこらせっとお互い踏ん張って結合を切るわけですか。
■そうですね。腕をグンと伸ばすとお互い外れるわけですね。その状態で腕を回転させると移動できるというわけです。で、いわゆるアメーバロボットみたいなのを作って。一種の細胞ですね、一つ一つのモジュールが。それぞれを組み替えることによって階段を乗り越えていったりとか、そういうことを考えています。
○粘菌みたいですね。
■そうそう、まさにそのとおり。 もっとたくさんいるともっとそんな感じになるでしょうね。
○協調するための制御はどうやっているんですか。
■ええ、いまやっているのは集中制御なんですけど、ラジコンで動かしているんですが、明治大から来た学生さんがやっていたのは、各セルの中にCPUを埋めて、ローカルに赤外線でコミュニケーションしてやると。で、一つ一つのセルの上下左右にそれぞれ発信器と受信機があって、あとアームのところにもあって、つながりあっている状態ではじめて隣同士とコミュニケーションが取れると。
たとえば、あるアルゴリズムを作っておくとします。上にセルがあって左にあって右にあって、という状態であれば上の奴を切り離せ、といった形で、非常にローカルなアルゴリズムで動かせます。
○なるほど。
■こういう場合にはこうしろ、ああいう場合にはああしろと書いておくとですね、うんせうんせと動き出していくわけです。
○A-Lifeみたいですね。
■そうですね。ただこれの場合は予め組み込んでおくとそれしかできないですね。右へ行きなさい、ということにしようと思うとまたプログラムを入れ替えなくちゃいけない。取りあえず階段を乗り越えることに関してはどういう状態にしなさい、という一種のセルラーオートマトンみたいなプログラムだけでできるんです。
■あと、相互ハンドリングっていうのもやってました。たとえば大きな段差があったら一台では乗り越えられないですね。車輪の幅しか乗り越えられないわけですから。そういうときフォークリフトを持っていて、それぞれがお互いを持ち上げる、というものです。協調によってそれぞれ半分の重量をかけるだけで2台のロボットが登ることができるんです。一台で行けないところに2台使えばいけるようになるわけです。協調の面白いところはここですね。1+1=2じゃなくて、ここにまた新しい機能が出てくるというところが面白い。
そういう形で、協調のための色んなハードウエアの開発とそのための色んな学習とかのソフトとか、環境情報をやるためのデバイスをやってるんです。
[10: 分散処理の理由] |
○先生がやっていらっしゃることを見ると、分散処理っていうのがすごく多いですね。それは耐故障制御といったことを考えているからですか。
■そうですね、一つはまず適応性みたいなことがあって、いろいろと環境が変わってもうまく動くとか、一部が故障してもうまく動くとか、そういう、ある程度想定しない事情でもきちっと、100%は動かないにしても80%は動くとか、そういう状況の変化に強いロボットというのは、分散でやらないとどうしてもできない、というのが基本的な考え方です。
あとは並列処理みたいなので効率よくやるという話もありますけどね。
○どうしてそういう方向へ発想していくようになったんですか。 いまはみんなそういう流れにのっているじゃないですか。だからなんとなくは分かるんですけども、先生の場合は最初はそもそもどうして分散処理に?
■そうですね、やはり適応性の高い生物をみていると、基本的には分散処理してますよね。たとえばアリとか社会を構成している生物はやはり耐故障性にも優れているし環境の変化にも強いし。たくさんバーッと集まってきて、もの凄く違う機能を発揮したりだとか。やはり基本的なアイデアとしては一台二台のロボットをどんどん高機能化していくっていうんではなくて、むしろロボットの台数を増やしていってそこでどう協調させるかということをやっていったほうが、むしろ次元が上がるだろうと。
○次元が上がる。
[11:ロボットの設計] |
○そういう流れでそれぞれの課題を考えるときって、どういうふうに考えているんですか。たとえばフォークリフトで段を昇るやつにしろ合体で上がっていく奴にしろ、できたからといって、直にすぐ何かに実用、っていうわけじゃないですよね。現場から出てきているわけじゃないわけでしょ。だから、何かをよしやろう、って思うときって、どういう形でそれぞれの課題を決めているんだろうと。
■そうですね。だからやっぱり、模倣が多いかもしれないですね。ロボットでこういうのってできるんだろうかっていう発想から入るほうが多いですね(笑)。
○試しにやってみようと?
■ええ。たとえば相互ハンドリングの場合だと、ロボットがロボットをハンドリングしているというのはあんまりないんですよね。それで、生物っていうのは実際にそれをやってるでしょ。僕が興味を持っているのはツムギアリっていうアリなんですが、アリがアリをハンドリングするっていうか、アゴで前のアリをつかんでチェーンみたいなのを作るんですけども、非常に大きい葉っぱでもそうやって引き寄せたりするんです。あと、猿橋っていう話とかあるでしょ(笑)。サルが手を取り合って橋を渡すとか。そういう、一台では絶対にできないような機能を、お互いをハンドリングすることによって持たせたいと。
○ええ。
■今までは移動ロボットの協調ってロボカップみたいに平面的っていったらなんですけども、いわゆる協調だけで、そこから違う機能が出るという発想はなかったんですけども、生物っていうのはどうも違いそうだ、と。
○ええ。
■ちょうどそのころ、創発っていうプロジェクトもありまして。もう終わっちゃったんですが。科研費の重点領域でね。それはある部分部分のシステムが相互に、局所的にインタラクションしながら、全体としては全然違う機能を発現していく。その全体の機能によって、また自分の動作なりが拘束されると。そういう話だったんですけどね。
○まさに粘菌そのものですね。
■そうですね。普通の細胞だってそうで、肝臓っていうのは肝細胞から構成されているんだけども、肝細胞一つ一つの機能をどんなに分析してっても、全体として肝臓という機能があるとは思わないわけですね。それが非常に興味があって。じゃあ生物はどうやって個々のローカルなインタラクションから全然違う機能を作っているんだろうかと。そういう目で生物を見ているわけですよ。
たとえばツムギアリだとか見ていると、お互いをハンドリングする。動くだけじゃなくてマニピュレーションする機能があって、それで他の個体をマニピュレートすることによって新しい機能が生まれている。で、実際にロボットがロボットをハンドリングするケースってないから、ロボットがロボットをハンドリングするとどうなるんだろうかって思いついたのが段の上に上がることだったんですよ。
○ふむ。
■ふつう機械の設計というのは、明確に機能が決まっているわけですよ。こういう機能の機械を作りたいと。そうするとそっから、どのくらいのパワーが必要かとかどういう機構にするかとか決まってくるんですが、こういう機械の場合は、逆に「何ができればいいか」ということが決まってないんです。非常にオープンで。そういう意味で、設計原理というのは今までの設計原理ではうまくいかないわけです。
その辺は今まではどうやってたかというと機構はある程度仮定しちゃって、ソフトウェアで適応性なりなんなり出していこうと。それが人工知能の研究だったんですけどね。
○はい。
■ところが、どうも違いそうだと。ソフトウェアだけでなくて、ハードウェアも状況に応じて変わっていくようなシステムじゃないと、うまくいろんな状況に対応できないんじゃないかという話になりまして。そこで「細胞型のロボット」っていうか、たくさんのロボットがお互いの位置関係を変えるとか、configuration自身が変わっていくような、そういうシステムに興味を持つようになったんです。
○なるほど。
■その一つとして、わりと粗に結合しているのが移動ロボットがたくさんいるって話で、力学的インタラクションがあるのが、細胞型機械だとか相互ハンドリングだと捉えています。
いわゆるmetamorphosisっていうんですかね、構造が変わるっていう話。それが面白いんです。メカニカルな構造が変わるんですが、いま非常に興味があるのはプロセッシング自身、信号処理の回路自体が組み変わるっていう話をちょっとしています。
○それはどんなものなんですか?
■これはちょっとまだ言えないんで(笑)。詳しいことは勘弁して頂きたいんですが。
○理研の「あの辺」の人たちとやるんでしょうか。
■ええ、ここでやろうとしているんです。おもしろいことがやりたいんですけどね。
○次号へ続く…。
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■URL:
◇東京大学地震研究所地震予知情報センター -台湾地震特集-
http://wwweic.eri.u-tokyo.ac.jp/topics/taiwan/index-j.html
◇チャンドラX線望遠鏡による3つの超新星
http://science.nasa.gov/newhome/headlines/ast21sep99_2.htm
◇H-IIロケット8号機の打上げ延期について(続報)
http://yyy.tksc.nasda.go.jp/Home/Press/Press-j/199909/h28_990922_j.html
◇Nature BioNews 遺伝学:走り回るのは痩せたハツカネズミ
体重と活発性を結びつけるカギは遺伝子?
http://www.naturejpn.com/newnature/bionews/bionews990922/bionewsj-990922f.htm
◇Nature BioNews 脳:頭の中の配線図 MRIを使って情報の流れをたどる
http://www.naturejpn.com/newnature/bionews/bionews990922/bionewsj-990922e.htm
◇団藤保晴の「インターネットで読み解く!」
第75回 大地震に備える時が来ていないか
http://www.alles.or.jp/~dando/backno/990923.htm
◇Mars Climate Orbiter、ミッション失敗
http://mars.jpl.nasa.gov/msp98/orbiter/
◇特許から見たバイオテクノロジー産業の現状と課題
http://www.jpo-miti.go.jp/info/vaio.htm
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