97年8月SF Book Review



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  • エヴァンゲリオンの黙示録
    (香月映二著、
    なあぷる、1200円)
  • エヴァを、心理学や使用された音楽、そしてキリスト教的な背景や日本のピラミッドなどから分析しようとした、「エヴァ本」の一冊。
    私もご多分にもれず、何冊かには目を通している。で、なぜこの本だけこうやって取り上げるかというと、この本、出版社のプレゼント企画でもらったものなのだ。先着で本をプレゼントするから、かわりに評をどっかにのっけろ、というもの。この試み、本好きには有り難い限りだ。しかも、評の内容は自由にまかせるという。

    というわけで、自由に書かせてもらう。
    まず、この本をプレゼント企画でもらえなかったら、買うかどうか。買わないだろう、というのが私の結論。ざっとめくっただけでも、多分そういう判断を下すと思う。なぜか。はっきり言って、面白くないのだ。

    面倒くさいことばかりつらつら並べている、そんな印象がある。エヴァを衒学的に色々と解説してみせる本は多いが、この本の良くないところは、それが独りよがりに陥っているように感じてしまうところ。ほほう、と思わせるものがあまりないし。まあ、そういうのは、特にエヴァ本にはよくある内容だけど(僕は基本的に、作品は作品で楽しければそれでいいじゃないか、という人なのである)。

    それにエヴァの設定解釈にも間違っているところもあるように思う。解釈、というより基本的なデータの問題だが。例えばジオフロントの構造とか。リリスは確か、ジオフロントの中心にいたんじゃなかったっけ?それにゼーレのシンボルについてもごちゃごちゃと書かれているけど、あれってヤハウェの顔でしょ?私はエヴァの事はあまり詳しくないが(深夜再放送にて初見)、それでもそんな事思ってしまうのだから、詳しい人から見たらこの本は穴だらけなんじゃないかな。

    エヴァ本は山ほど出ているが、そろそろ、こういう衒学的解読系の本は流れから外れてきているように思う。「END OF 〜」が公開されてしまった今となってはなおさらだ。そういう意味で、ちょっと時期はずれ。まあ、最後の方のシンジの心象風景解読あたりはそうでもないかもしれないが…。

    僕なら、一人の著者によるこういう本ではなく、パソ通やネット上のエヴァ発言、あるいはエヴァの映画公開日の日記とか「だけ」を集めて一冊つくるけど。その方が、なんだか眺めてて面白そうだ。阪神大震災の時にはその手の、手記集みたいなのがいっぱい出たじゃないか。そういう本ね。


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  • CYBERPUNK HANDBOOK The Real Cyberpunk Fakebook
    (R・U・シリウス、バート・ナゲル共著、日本版編集:志賀隆生 BNN、3500円)
  • こう暑いと、マジな本は読めない。というわけで(と言い訳)、馬鹿な本を。しかし、高いな、この本。いくら「毛皮装丁(笑)」とはいえねー。なお、序文はブルース・スターリング。

    この本は、サイバーパンクの「フリ」をするにはどうすれば良いか、綴った本である。この本を読めば君もサイバー君だ!
    しかし、何よりびっくりなのは、こういう本が刊行されちゃうことだよ。まあ、僕みたいな奴が買ったりするからなんだろうけど。

    なお、日本版特別付録として、結構な紙幅を割いた「サイバーパンク・ブックガイド、ミュージックガイド、ムービーガイド」がついているが、こちらは至ってマジメ。マジメすぎるくらいでイマイチかな。

    昔、パンクな人に、「パンクってなんです?」って聞いたら、「これがパンクだ」と言えばそれがパンクにるんだ、と言われた。サイバーパンク(死語)も、名乗ればそれでオッケーよ。


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  • エスケープ・ヴェロシティー 世紀末のサイバーカルチャー
    (マーク・デリー著、松藤留美子訳 角川書店、2800円 原題:Escape Velocity, 1996)
  • はずれだったな、この本は。この程度の内容では退屈である。
    この本もSF小説ではないが、こっちに入れる。

    要するにサイバーっぽい話を散りばめただけの本だった。こういう内容の場合、何を言いたいのか、どこを盛り上げたいのか、その辺りをきちっと考えて、演出しながら書かないと、ただのダラダラ本になってしまう。その悪い例のようだ。

    解説は巽孝之氏なのだが、正直言って、良く分からない。この本の内容に賛成なのか反対なのか、その辺も分からない。その辺りをもっとはっきりして欲しいかな、と思う。

     この本の著者こそ、「脱出速度」を越えた方がいいんじゃないか、そんな風に思ってしまった一冊。


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  • 戦争を演じた神々たち
    大原まり子著、アスペクト、850円)
  • 僕はSFのハードカバーは買わない。基本的には買わない本は読まない。だから、「3001年」も買ってないし、第15回日本SF大賞を受賞したこの本も読んでなかった。この度、新書化。

    中身だが、「いつもの」といった感じ。寓話的な世界で本質を語る、大原ワールドが綴られている6編の小説。
    うーん。いろいろと書きたいことがあったのだが、忘れてしまった。書きたいことがあるような、ないような。私にとって、この著者の小説の読後感は、砕け散ったガラスに映ったバラバラの現実の断片のようで、それを一つ一つ書いていくのは、なんだか面倒なような、意味がないような。そんな気がするのである。もっとも、葉っぱの一枚一枚を書かなければ木のことは書けないわけではないように、そういうモノではないようにも思うのだが。

    なんだか、不思議な感覚なのだ。突き破れそうで突き破れない膜のような。それでいて、ぱん、と弾けてしまうあぶくのような世界。
    まあ、いいか。
    昔僕はイラストを描いていたことがあるのだが、大原まり子の小説を読むと、絵を描きたくなる。そんなことないですか?最後に一節を引用。

    なぜ、彼らがそんなに苦しんだか、わかる?
    それはね、とってもかんたんなことなの。
    人は所有することができないものがこの世にあることを、学ばねばならない。

    「宇宙で最高の美をめぐって」より


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  • フォーリング・エンジェル
    (ナンシー・A・コリンズ著、幹遥子訳 早川書房、680円)
  • ミッドナイト・ブルー」、第3部。死者が死に、また生き返る。新しい者が生まれ、そして世界が変わる、そんな話。一応、この作で完結しているが、主人公ソーニャが活躍する話はまだまだ続いているらしい。

    宿敵モーガンを巡る後半部分とクライマックスは、マキャモンばりの展開。それと、前作「ゴースト・トラップ」の書評でも書いたが、ますます「ナイトハンター」シリーズ的な、ダークファンタジーの要素が増えてきている。真世界と現実世界の関わりの設定が、作者の中でもだんだん明確化してきた、ということなのだろうか。面白くなってきたぞ、って感じですね。エンターテイメントに加速が入ってます。


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