既に絶賛されているベアの最新邦訳。全体的な雰囲気──最初、ベアは、本作ではストーリーを追うというよりも、ある世界を構築したくてこれを書いたのではないか、と思っていた。
その印象は上巻が終わり、下巻が始まっても続く。古代は生命のあった星・火星。その壮大な、地球とは全く違う環境。古代の異星の化石の石灰岩。そして、そこに住む人々。地球と火星の対立。
その辺りのイメージ喚起性はさすがだが、さらさらと読める割にはあんまり話が進まない。
ところが下巻後半に入るところでベアの無茶苦茶なところ(誉めているんですよ、念のため)がいきなり炸裂する。ここからは凄い。あとはもう、心臓マッサージされているように感じるほどのテンポで話が進む。はらはらどきどき。面白い。まさにSFだ。ラストもグッド。不思議な生態系を作る火星生命も面白い。
私の大体の印象は山岸真氏の<解説>に近いのだが、そこにははなかったことをつけ加えておく。ネタバレしないように書いているので、なんのことか分からないかもしれないが、そういう人は早く本を読めば問題ない(笑)。
本作でベアが採用したアイデア、そしてその後の展開は、私にはホーガンの「創世記機械」に似ている、と感じた。ほら、なんだかちょっと似てるじゃない?ホーガンならこういうネタをどう料理するのか、その辺にも興味がある。昔のホーガンなら書けるはずだ。
ベアは重要なハードSF作家の一人だが、今一人のハードSF作家・バクスターとは作風が全く違う。どう違うか?バクスターは遠い未来の、ある種我々からは「あまりにかけ離れた話」をする。だから、巨大な構造物や壮大なアイデアを提示しても、今一つ実感を持って「畏怖感」が心に迫ってこない。ここがバクスターの小説の欠点だが、一方、ベアはその辺をきちんと押さえつつも、(私たちにも分かる感覚で)壮大な話を描く。
ここが一番、ハードSF界で注目されている二人の作家の大きな違いだと思うんだが、いかがだろうか。
ネビュラ賞、SFクロニクル読者賞、ヒューゴー賞第2席、ローカス賞第2席、ジョン・W・キャンベル賞第3席受賞作。
↑上2行が何のことか分からない人、あなたは本書を手に取ってはいけない(笑)。表紙に引かれて、たまたま手にとってみたとしても、買わない方が良いですよ。
本書は、女性と猫、そして人生に対する「ハインラインの讃歌」である。ハインラインの「遺書」とも言えるのかもしれない。
この本をジャンル分けするとすれば、「ハインラインの小説」ということになると思うのだが、それで良いですね(笑)?それ以上、言いようがないもんなあ。ハインライン嫌いな人は、こんな本は絶対読まないだろうし。
個人的には、女性がこの本を読んでどういう感想を持つのか聞きたいのだが、この本を読める(つまり、ラザルス・ロングものを始めとして、ハインラインの小説をまあまあ読んでいる)女性の知り合いがいないので、聞くこともできない。誰か、該当する人は読んだらメールを下さい(爆)。
今回の物語を読んでいると、創元ノヴェルズから出てた「ナイトハンター」シリーズを思い出す。似てる。
この本は面白い。面白い。本当に。おすすめできる。しかもSFファンでない人にも。最近珍しい本だ。ストーリー構成にはなんだか甘いところや、それはちょっと変だろう、ってところや、なんでこの話をもっと突っ込まないの?と思ったりするところもあるが、そんなことはどうでも良いのだ。面白いんだから。
SFガジェットの使い方もさりげないし、未来の描き方には思わず( ̄ー ̄ )ニヤリとさせられる。中身は、ロビン・クックっぽいところや、苦悩するスペンサーっぽいところや、「ヴァーチャライズド・マン」っぽいところ(というよりこれはそのまんまか)などがうまい具合に構成されて詰め込まれている。普通の人でもそれなりに感情移入できるだろうし、それでいてしっかりSFだし。こういう本は貴重だよ。
これまで実はあんまりソウヤーを評価していなかった(というより、作品がそれほど記憶に残らなかった)僕だけど、見直しました。