97年5月SF Book Review


掲示板廃棄。というわけで、ここに書いていた落書きを復活。それとも日記でもつけようか。
SFセミナー初参加。バクスター氏は超気さくな方だった。いろんな方々に会う。
諸々の事情で更新が遅れています。本は読んでるんですけど。
SFマガジン7月号、小説の方は全然読んでないんだけど、クズSFを巡る話はなんだか燃え上がっている。狭い世界なんだから、会って話せば?と思うのは、やっぱ浅はか?

CONTENTS



  • 火星転移 上・下
    (グレッグ・ベア、早川書房、各760円)
  • 例によって粗筋は書かない。その辺を知りたい人は他のページを参照するように。

    既に絶賛されているベアの最新邦訳。全体的な雰囲気──最初、ベアは、本作ではストーリーを追うというよりも、ある世界を構築したくてこれを書いたのではないか、と思っていた。
    その印象は上巻が終わり、下巻が始まっても続く。古代は生命のあった星・火星。その壮大な、地球とは全く違う環境。古代の異星の化石の石灰岩。そして、そこに住む人々。地球と火星の対立。
    その辺りのイメージ喚起性はさすがだが、さらさらと読める割にはあんまり話が進まない。

    ところが下巻後半に入るところでベアの無茶苦茶なところ(誉めているんですよ、念のため)がいきなり炸裂する。ここからは凄い。あとはもう、心臓マッサージされているように感じるほどのテンポで話が進む。はらはらどきどき。面白い。まさにSFだ。ラストもグッド。不思議な生態系を作る火星生命も面白い。

    私の大体の印象は山岸真氏の<解説>に近いのだが、そこにははなかったことをつけ加えておく。ネタバレしないように書いているので、なんのことか分からないかもしれないが、そういう人は早く本を読めば問題ない(笑)。
    本作でベアが採用したアイデア、そしてその後の展開は、私にはホーガンの「創世記機械」に似ている、と感じた。ほら、なんだかちょっと似てるじゃない?ホーガンならこういうネタをどう料理するのか、その辺にも興味がある。昔のホーガンなら書けるはずだ。

    ベアは重要なハードSF作家の一人だが、今一人のハードSF作家・バクスターとは作風が全く違う。どう違うか?バクスターは遠い未来の、ある種我々からは「あまりにかけ離れた話」をする。だから、巨大な構造物や壮大なアイデアを提示しても、今一つ実感を持って「畏怖感」が心に迫ってこない。ここがバクスターの小説の欠点だが、一方、ベアはその辺をきちんと押さえつつも、(私たちにも分かる感覚で)壮大な話を描く。
    ここが一番、ハードSF界で注目されている二人の作家の大きな違いだと思うんだが、いかがだろうか。

    ネビュラ賞、SFクロニクル読者賞、ヒューゴー賞第2席、ローカス賞第2席、ジョン・W・キャンベル賞第3席受賞作。


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  • 落日の彼方に向けて 上・下
    (ロバート・A・ハインライン、早川書房、各760円)
  • ハインライン最後の長編。
    ラザルス・ロングの母・モーリンの回顧録。

    ↑上2行が何のことか分からない人、あなたは本書を手に取ってはいけない(笑)。表紙に引かれて、たまたま手にとってみたとしても、買わない方が良いですよ。

    本書は、女性と猫、そして人生に対する「ハインラインの讃歌」である。ハインラインの「遺書」とも言えるのかもしれない。
    この本をジャンル分けするとすれば、「ハインラインの小説」ということになると思うのだが、それで良いですね(笑)?それ以上、言いようがないもんなあ。ハインライン嫌いな人は、こんな本は絶対読まないだろうし。

    個人的には、女性がこの本を読んでどういう感想を持つのか聞きたいのだが、この本を読める(つまり、ラザルス・ロングものを始めとして、ハインラインの小説をまあまあ読んでいる)女性の知り合いがいないので、聞くこともできない。誰か、該当する人は読んだらメールを下さい(爆)。


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  • ゴースト・トラップ
    (ナンシー・A・コリンズ、早川書房、680円)
  • ミッドナイト・ブルー」に続く、ソーニャ・ブルー・シリーズ第2弾。ますます魔術的世界観、すなわち<真世界>が展開されている。今回は読者が感情移入しやすいキャラクターも導入されているし、話の展開もストレート。この作家の描き方のクセがだんだん分かってきたぞ。どうも場面転換をパチパチと行い、一人称的3人称を切り替えるのが好きらしい。だから余計RPGのリプレイみたいな感じがするんだと思う。
    まあ、結構面白いよ。次作で一応完結だそうなので、期待しておこう。

    今回の物語を読んでいると、創元ノヴェルズから出てた「ナイトハンター」シリーズを思い出す。似てる。


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  • ターミナル・エクスペリメント
    (ロバート・J・ソウヤー、早川書房、800円)
  • まるで扶桑社ミステリーのような表紙。そんなことはどうでも良いか。

    この本は面白い。面白い。本当に。おすすめできる。しかもSFファンでない人にも。最近珍しい本だ。ストーリー構成にはなんだか甘いところや、それはちょっと変だろう、ってところや、なんでこの話をもっと突っ込まないの?と思ったりするところもあるが、そんなことはどうでも良いのだ。面白いんだから。

    SFガジェットの使い方もさりげないし、未来の描き方には思わず( ̄ー ̄ )ニヤリとさせられる。中身は、ロビン・クックっぽいところや、苦悩するスペンサーっぽいところや、「ヴァーチャライズド・マン」っぽいところ(というよりこれはそのまんまか)などがうまい具合に構成されて詰め込まれている。普通の人でもそれなりに感情移入できるだろうし、それでいてしっかりSFだし。こういう本は貴重だよ。

    これまで実はあんまりソウヤーを評価していなかった(というより、作品がそれほど記憶に残らなかった)僕だけど、見直しました。


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    moriyama@moriyama.com