96年11月Science Book Review


CONTENTS


  • 昆虫の誕生 一千万種への進化と分化
    (石川良輔(いしかわ・りょうすけ)著 中公新書、700円)
  • 「昆虫の体制は節足動物本来の等体節制から合体節によってできた固有の不等体節制で」ある。昆虫の多様性は、ここにその由来がある。体節を再編成し、機能別に特殊化させ、進化してきた昆虫。子供時代、こいつらにハマらなかった人はあまりいないだろう。姿を眺めているだけでも見飽きない、連中だった。

    本書は、昆虫全体を概観する入門書である。それぞれの目について、簡潔にその特徴が述べられ、それぞれの章立ては分岐学的な、系統学的な記述で繋がれている。文章中には専門用語が多く文章も硬いが、多数の(78点)図版があるので、理解はそう難しくない。
    なにより、体系的にそれぞれの目がどういう関係があるのか、解説されている手ごろな本はあまりないので、存在そのものが有り難い。

    また、冒頭に引用したように節足動物と昆虫の関係も述べられている。昆虫の進化に興味がある人にも、手頃な本と言える。


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  • 感情の生理学 "こころ"をつくる仕組み
    (高田明和(たかだ・あきかず)著 日経サイエンス社、2400円)
  • どっかで見た名前、と思っていたら、ブルーバックス「病は気からの科学」を書いた方だった。どうりで。

    高校程度の神経の基礎の基礎の話からはじまり、感覚や感情、神経障害や精神障害のしくみを説く。最新の話題──メラトニンとか、脳の老化とか、肥満防止の向精神薬とか──の話題も含まれている。

    本文はさすがによくこなれていて、読みやすい。吟味されている文章、という感じ。
    良く書かれた入門書である。まだ、何も脳に関する本を読んだことのない方になら、文句なしでお薦めできる。それ以外の方は、やや物足りなく感じるかもしれない。

    物質がどのようにして感情や"こころ"を生むのか。これはやはり捉えがたい。即物的に考えるのは簡単だが、考えれば考えるほど、良く分からなくなってくる。分かったような、分からないような…。

    最後に自殺について触れられているのが妙に現代的で、面白い。

    これを書いているとき、ちょうどタイから肥満防止の向精神薬を持ち込もうとした男が成田で捕まった、というニュースが流れていた。今は違反かもしれないが、やがては。。。


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  • テラフォーミング <異星地球化計画>の夢
    (金子隆一(かねこ・りゅういち)著 NTT出版、1500円)
  • <テラフォーミング>の技術と思想について、人類の能力と未来の可能性を展望しつつ語る。

    本書でも触れられているが、<テラフォーミング研究会>という団体があるのをご存じだろうか。実は私も会員の一人だったりするのだが、テラフォーミングを研究する民間団体である。<学研最新科学論シリーズ>を編集している矢沢サイエンスオフィスが主宰している。興味を持った方は、本書か、上記最新科学論シリーズの「テラフォーミング」をめくって頂ければ、連絡先が書いてある。

    さて順序が逆になったが、テラフォーミングとは「地球化」という意味である。SFの世界ではもはや当たり前の言葉となっているので、このW3ページを見てくれている方はおそらく知っているだろうが、念のため解説すると、火星や金星、その他もろもろの惑星(には限らないのだが)など異星の環境を改造して「地球化」することをテラフォーミングという。

    テラフォーミングは空想ではなく科学である。もっとも、今の段階では空想に過ぎないと断じられても仕方ないものではある。自己増殖ロボットによる惑星改造、惑星全体を覆う天笠、その逆に惑星全土を照らすミラー、惑星の自転を早めるための惑星モーターなどなど、人間の想像力の限界に挑んでいるかのような巨大プランだからだ。
    (また、実際に上記のテクノロジーが実現できる段階に達したとしても、惑星の重力しか利用しないテラフォーミングよりもスペースコロニーの方が安く付き、投資コストが割に合わないのではないか、という概算もある)

    が、テラフォーミングを考える事とは、地球をもう一つ作ることを最初から考える事でもある。つまり、テラフォーミングの研究は、惑星改造工学に留まらず、地球そのもののシミュレーションでもあるのだ。生命圏も無生命圏もひっくるめてトータルとして地球を考える事が必要とされる現在、総合科学としてのテラフォーミングが注目を浴びつつある。実際、海外では学生の学習用の素材にも使われているらしい。

    なんだか分からない文章になってしまった。
    テラフォーミングについての本は少ないので、本書は貴重な一冊だ。
    テラフォーミングについて知っていた人も知らなかった人も読んで欲しい。
    テラフォーミングは、人類の能力の限界への挑戦でもあるのだから。


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  • イルカはなぜ鳴くのか
    (赤松友成(あかまつ・ともなり)著 文一総合出版、1854円)
  • イルカの音声にまつわる研究の様子を、研究者自らが紹介し、いまどの程度の事が分かっているのか解説する。例えばイルカの音声だが、これが気嚢か喉頭か、どこで発声しているのかも、まだ決定されていないのだという。まだこんな事も分からない、これが研究の魅力でもあるのだろう。

    文章は気取らず、ユーモアに溢れ取っつきやすい。ごくさりげなく、著者自らのイルカに対する素朴な興味関心、つまり研究の動機を綴っている。同時に、研究の実際と過程を描き、データの解析はどのように行っているのか、イルカについてどの程度の知識が蓄積されているのか、などなどを分かりやすく書く。お薦めの一冊である。

    本文末には、研究者になる人への誘いについて一章が割かれている。水中マイクはどこのメーカーのものが良いかといったえらく実用的な事から、研究者用メーリングリストやW3の紹介まである(このページ内からその幾つかへはリンクを張った)。現在、大学などに在籍中でまだ研究は行っていないものの、イルカ類に興味を持っている人にはここだけでも役に立つ本だろう。

    さて、本書はイルカの音声についての本であるので、当然エコロケーションについては大きく扱われている。その中で、エコロケーションによって得られる「像」をどのようにイルカが認識しているか、という議論があるのだが、ここで一つ不思議に思ったことがある。

    なぜ人間の"エコロケーション"能力から類推しないのだろうか?という事である。
    例えば、視覚障害者はある程度周囲の空間の様子を音で知覚することが知られている。実際、本書にも、人間の音波処理能力が、イルカと同程度であることを示す実験についての記述がある(イルカに使った、物体に対する超音波反射音をスロー再生して人間に聞かせてみたら、イルカ同様、人間にも違いが判別できた、というもの)。

    この辺りのことから考えて、視覚障害者の"エコロケーション"能力の解析が、イルカやコウモリのエコロケーション能力とそれによる知覚の研究に、ある程度貢献できることは間違いないと思うのだが、如何なものだろう?


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  • 現代思想 96年11月号 特集:複雑系
    (青土社、1200円)
  • 久々に、「現代思想」誌を取り上げる。
    読んでなかったわけではないのだが、今一つ、この書評欄では取り上げにくかった。

    さて、今月号の特集は「複雑系」だが、ん〜、どうも今一つ。
    なんだか良く分からない。

    取り上げられる内容は、狭義の複雑系(単純なものから複雑なものが生まれる)の話から、広義の複雑系(とにかく複雑な系)、そして全地球史解読計画から縞縞学まで扱われているのだが、どうにもイマイチ。

    どうも、全体的に見ても取り留めがなさすぎる。買うほどの事はないかもしれない。


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  • オオブタクサ、闘う 競争と適応の生態学
    (鷲谷いづみ(わしたに・いづみ)著 平凡社自然叢書、2060円)
  • オオブタクサはセイタカアワダチソウと並んで有名な外来雑草である。
    どうやら大豆などに混じって国内に持ち込まれ、廃棄物として河川などに不法投棄されたものが定着したらしい。著者は、このように不法投棄される産廃によって侵入植物の分布拡大が怒っているのではないか、と推測する。

    もともとは氾濫源などに生息する種だが、環境の似た畑などにも進出し、大発生している種である。キク科の一年草。風媒花であるため大量の花粉を飛ばし、花粉症の原因の一つではないか、とも見なされている。

    多年草にも負けないオオブタクサの競争力の秘密は、巨大な種と早い発芽時期である。時として草丈は6mにも達する。本書は、このオオブタクサを中心に植物間の競争と生態を描く。

    著者の目は優しい。本書の中には、門外漢にはなかなか専門的な内容も含まれているのだが(特に実際の研究過程をある程度紹介している箇所など)、その辺は勢いで読めるだろう。

    昔、中学1年の時、セイタカアワダチ草の研究をしていて、毎日毎日、計測計測の夏休みを過ごしていたのを思い出した。


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  • 闘う免疫 感染症・ガン・老化への挑戦
    (野本亀久雄(のもと・きくお)著 現代書林、1600円)
  • 著者は、九州大学生体防御医学研究所の教授である。また、日本臓器移植学会の理事でもある。
    だから、というわけでもないのだろうが、本書の内容はちょっと難しい。少なくとも、入門書ではない。
    かといって専門家向きか、というとそうでもないような気がするのだが。

    免疫、というのは信じられないくらい複雑で、どうしてうまく働いているのか分からないくらいよくできたシステムだ、ということは感覚として分かるだろうが…。

    なお、本書末には老化には「免疫ミルク」や「クロレラ」が効果あり、とある。興味のある方は、試してみても、損はないだろう。明らかな効果があるようなら、僕にも教えて下さい。


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  • 気象学のみかた。
    (AERA Mook 朝日新聞社、980円)
  • 通読してまず思ったのは、「やっぱり気象は、一度ちゃんと勉強しなくちゃダメか…」ってこと。昔、教科書も買ったんだけど、放り出しちゃったんだよな(^_^;)。

    おおざっぱな事と、古気候の変遷、地球環境との関わりなどは取りあえずの事は頭に入っているつもりだったものの、ダメ。結構、難しい。丹念に読めば分かるんだけどね。。。

    内容は、

    「20の分野の20人」
    各研究者が、自らの研究分野への興味関心・課題、研究希望者へ望むことを簡単に綴る。内容のわかりやすさには随分と差がある。編集者の手をもっと入れるべき。まあ、大学の先生にも色々だから難しいのは分かるんだけど。
    「研究前線」
    やはり、カオスや環境問題を巡る話が多い。
    「5つのミステリー」
    1.竜巻、2.恐竜の絶滅と気候(この内容には疑問が残った)、3.なぜ梅雨は東アジアだけにあるのか、4.蜃気楼、5.気候変動の原因について。

    その他、気象研究史、今後の天気予報など、となっている。

    また、入門書50冊(このリストは大変良い、と思う)や、気象学を学べる主な大学のリスト、気象予報士になるためには、といった内容。高校生にも役に立つ、か(?)

    ムック本だけあって、盛りだくさん。
    コストパフォーマンスは良いので、買って損はない。

    でもやっぱり、この本は難しいな。
    まず、言葉が良く分からないだろうし、説明もあんまりピンとこないのではないだろうか。もっと勉強しないとなあ、とばかり思わされる本だった。
    この本自体の文中の解説も、やや、中途半端か?(自分自身の勉強不足を実感させられまくったので<?>マークを付けざるを得ない。ご勘弁を)
    図解が少ないのが読解に苦しんだ理由の一つのような気もする。

    なお読み方だが、「研究前線」をまず読んで、その後「20の分野の…」を読んだ方が分かりやすい。

    地球全体を考える、その意味が最も理解されやすいのが、気象だろう。もっともっと、注目され、教育などに積極的に活用されるべき分野だろう。
    ところが、なかなか、地球全体を考えての教育はあまり行われていないように思う。メディアでの注目もこれまで(どういうわけか)あまりなかった。
    かなり難しいジャンルだとは思うが、もっともっと注目され、一般人にも開陳されるべきジャンルだと思うので、こういうムックという、一見取っつきやすい形式での出版は、非常に価値がある(と思う。すいません、今回かなり弱気です)。


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  • 性フェロモン オスを誘惑する物質の秘密
    (桑原保正(くわはら・やすまさ)著 講談社選書メチエ、1500円)
  • この本、私ならこういうタイトルにはしない。
    「昆虫の性フェロモン研究史 有機化学者の視点から生物を見る」といったところだ。売り上げは下がるかもしれないけどね。

    つまり、この本は昆虫(主にゴキブリ、ガなど)の性フェロモンの研究史の本である。
    はっきりいって、あまり面白くなかった。

    さて、フェロモンとは、1959年に、ギリシャ語の「運ぶ」という意味の「フェライン」と、「刺激する」という意味の言葉「ホルマン」を合成して作った造語だそうだ。分かりやすい名前の付け方だ。みんなに受け入れられたのも道理だが、名前が付けられたのが1959年、というのは意外だった。随分と新しい学問の世界なんだな。昆虫では、現在、およそ500種程度のフェロモンが見つかっているそうだ。

    本書の内容の前半は性フェロモンの発見史の全体的な話。後半は著者自身の研究史。ここは、さすがに詳しく書かれているので、まあまあ、面白くはある。数十万匹の昆虫を潰して、フェロモンを抽出する作業、まあ、聞いただけでも大変な作業であることは分かる。

    そして、あとはフェロモンの実用──昆虫を集めて一気に退治できる、無害な農薬としての役割の話になる。

    僕が個人的に面白いと思ったのは人間の実用の話ではなかった。フェロモンと同じ物質を出して、狩りをするクモや、フェロモンを感知して種を特定して寄生する蜂。そういった虫たちの攻防の話の方が面白かった。

    著者は、実際のフェロモンの研究の様子と、個々の発見史を紹介したかったらしい。そういうのが好きな方にはお薦めするが、それ以外の人には、ちょっと。この本の方がお薦めか。


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  • 地球って何だろう 環境変動46億年のメッセージ
    (鈴木宇耕(すずき・うこう)著 ダイヤモンド社、1500円)
  • 環境問題は良く論題に上がるが、その割に「地球」そのものについては比較的知られていない、という著者の思いは共感できるところ大。本書は、地球という惑星の進化・環境の変動などなどを優しく分かりやすく説いた本。

    なぜ地球には大陸地殻があるのか、大量絶滅や無酸素事変の理由は何か、石炭や石油の形成時期はそれらの変動とどのような関係があるのか(本書は「出光」の社内誌的なものに連載されていたものをまとめたものだから、こういうユニークな記事にもそれなりの紙幅が割かれているのだろう)、そして生命と地球との関わりは…などのトピックスと知見をまとめた本だ。

    概ねお薦めできるのだが、いくつか(変な参考文献を見たせいじゃないかと思うのだが)、おかしな所・気になった所があった。
    骨は海のカルシウムを閉じこめているとか、恐竜の絶滅原因と考えられている主力説は隕石衝突説だとか、書かれている(デカン高原などの大規模火成岩区の話は「爆発のタイプが低い玄武岩溶岩なので地球的規模とは言えず」とある。あのー(^_^;)。別のページでは海洋底拡大、二酸化炭素量、気温の推移、海水面の変動などを一覧できるグラフを掲示しているのに、なぜ?)。エディアカラ動物群などの扱いも、バージェス動物群の扱いに比べると圧倒的に小さく「クラゲやイソギンチャクのような姿をしていた」と書かれているだけだったりする。うーん。。。。

    せっかく分かりやすい本なのに、手放しではお薦めできない。残念な本だった。


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  • おはよう寄生虫さん 世にも不思議な生きものの話
    (亀谷了(かめがい・さとる)著 講談社+α文庫、680円)
  • 1965年に刊行されていた「寄生虫紳士録」という本に加筆訂正されて新装刊されたものだそう。著者は、言わずとしれた目黒寄生虫館の館長さんである。現在87才だそうである。

    書くことは、あまりない。どれも、実に愉快な(?)話である。
    寄生虫って、おかしな生き物だよね。何のためにあいつらは生きているのだろうか。
    なんて思った。

    子どもには良い機材を使わせ実験させる、という。こうでなくっちゃ、と思った。


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  • 最新・地震予知学 電磁波異常でわかる、その前兆
    (早川正士(はやかわ・まさし)著 祥伝社、850円)
  • 地電流の変化を読み取るVAN法は、ギリシャで成功している地震予知法として、すっかり有名になった。
    本書著者は、また別の方法を地震予知法の一つとして提唱する。

    岩盤の破壊が起こる直前、電磁波が発生する。また、ラドンなどのガスが発生する。それによって、震央上空では電離層が擾乱を受ける。そうすると、電波の伝搬異常が起こる。つまり、電波の伝搬異常から地震を予知することができるんじゃないか、ということだ。著者は、VLF帯あるいはUHF帯の伝搬異常を観測することで地震予知ができる、と提唱する。もっとも、まだまだ観測段階に過ぎないし、ノイズはものすごくあるようだ。しかも、かなり間接的な方法であることが気になる。

    しかしながら地震予知は、とにかく色々な方法を組み合わせていくしか、実現の方法が無いような気がする。また「予知」ができれば理屈なんか取りあえずどうでも良いわけで、見込みがあるなら、研究をさらに続けて欲しいものだと思う。

    おまけ。地震予知についての私の考えを。

    地震予知。地震学と地震予知は違う。確かにそれはその通り。でも、地震学の方法論では絶対に地震予知はできない、というのは本当なのかな?それはどこか違うように思う。今は年間100億をかけているという。それでもまだできないじゃないか、こういう論調が多い。本書もその一つだ。

    でも、考えてみて欲しい。100億程度で地震予知なんかできるはずがない。えっ?と思う人も、ちょっと考えて欲しい。地震予知や防災は「国防」だという。そういう観点で考えてみれば、100億なんか、まだまだ足らないと思う。大体、100億程度の予算で「国防」ができるわけがない。「国防」だというのなら、もっとマジメにカネをかけてから考えて欲しい。戦闘機1機も買えない金額で「国防」ができるか。ミサイルなんか買っている金があったら、もっと現実的な「国防」問題に金を使え。


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  • 人の顔を変えたのは何か 原人から現代人、未来人までの「顔」を科学する
    (原島博(はらしま・ひろし)・馬場悠男(ばば・ひさお)著 河出書房新社、680円)
  • 日本顔学会が「顔」をテーマに色々な研究をしている事はご存じだろう。
    この本は、これまで雑誌などに掲載された成果を本にしてくれたもの。

    二部構成。前半は、化石人類の顔の再現から始まって、原人から縄文人、弥生人、そして現代人へと至る「顔」の変遷を追い、さらに未来の顔まで考察する。西洋人の鼻が高いのは、鼻が高いのではなく顎が引っ込んだのだ、というのは面白い。

    後半は、コンピュータを使った「顔」の定量化を試みる。その成果は、各科学雑誌などにもよく触れられているので皆さんご存じだろう。今回改めて写真をじっくり眺めてみたのだが、やっぱり面白い。時代ごとの美人顔はやはり「それっぽい」し、プロレスラーの集団の平均顔、銀行員の平均顔など、やっぱり「それっぽい」。イラストレーターやメイクの人にも役に立ちそうだ。

    本書最後は「顔訓13箇条」なるもので締め括られている。ここにも引用してみよう。

    1. 自分の顔を好きになろう。
    2. 顔は見られることによって美しくなる。
    3. 顔はほめられることによって美しくなる。
    4. 人と違う顔の特徴は、自分の個性(チャームポイント)と思おう。
    5. コンプレックスは自分が気にしなければ、他人も気づかない。
    6. 眉間にシワを寄せると、胃にも同じシワができる。
    7. 目と目の間を広げよう。そうすれば人生の視界も広がる。
    8. 口と歯をきれいにして、大口を開けて笑おう。
    9. 左右対称の表情づくりを心がけよう。
    10. 美しいシワを人生の誇りとしよう。
    11. 人生の三分の一は眠り。寝る前にいい顔をしよう。
    12. 楽しい顔をしていると、心も楽しくなる。
    13. いい顔、悪い顔は人から人へと伝染する。

    しかし、私がかねがね不思議に思っている事が一つあるのだが。
    それは、柔らかいものを食べていると、だんだん顎が「退化」してくるのは何故か、ということだ。しかも、代々そういう生活をしていると、どんどん顎は引っ込んでくる、という。一体これはどういうメカニズムで子孫にまで伝わっているのだろうか。誰か分かるように教えて下さい。


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  • コンピュータ半世紀 コンピュータ文化を読み解く173冊
    (水越伸(みずこし・しん)・飯塚肇(いいづか・はじめ)・弓場敏嗣(ゆば・としつぐ)・信原幸弘(のぶはら・ゆきひろ)・桂英史(かつら・えいし)著 ジャストシステム、2000円)
  • コンピュータをとりまく、様々な立場からの「本」を通しての評論。
    以下の5章からなる。
    1. メディア論の立場から読む
    2. 計算機技術の立場から読む
    3. 人間機械論の立場から読む
    4. 認知科学の立場から読む
    5. 視覚芸術の立場から読む

    コンピュータ、という素材を使うと、結構な範囲の評論ができてしまうわけだ。
    それぞれの立場からコンピュータをああだこうだ言ってきた数々の本の書評をしながら、現在のコンピュータ環境・文化を評論する。かなりの冊数(173)が紹介されているので、参考書を探す上では役に立つだろう。

    まあ、コンピュータ文化に興味のある人は買ってもいいだろうが、それほどの本ではない、かな。比較の問題だが、私が一番面白かったのは「メディアの立場から」。電話がメディアである、というのはもっともっともっともっと注目されるべきだと思う。

    本書の中で一番気になったのは、本文ではなく註の部分にあった。
    第三章・人間機械論の立場からの註の一つなのだが、以下の通り。

    「哲学は愚痴に似て、積極的な意味あいにおいて有用性を欠く。しかし、精神衛生において、発散の術を提供する。精神の鬱屈した状態において、人は皆、哲学者となるが、語る相手を得ると愚痴として消失する。哲学はつまるところ、自己肯定であり、自己満足である。主張するところの普遍性に対する配慮の生むが愚痴と異なる。本稿が愚痴の集大成といわれることを危惧する。」

    ふむ。頷けるような、うーんと思ってしまうような。
    昔、仕事で、ある哲学者の先生(著作も何冊かある、その筋では知られた方です)に電話させて頂く機会があった。で、私はつい、挨拶もそこそこ「哲学(者)って、いま何やってるんですか?」と尋ねてしまった。今考えると、会ったこともない方に恐ろしいことを言ったものだ、と思うが、その先生、ハハハと笑って「そうですね、本当に何やってるんでしょうね(笑)」と、受けとめてくれた。もちろん、その後いろいろと質問させて頂いたのだが、その部分しか覚えていない。

    世の中は哲学ブーム。それは哲学書の売れ行きからも分かる。
    でも、現在の哲学の役割というのは、どういうものなのだろうか。
    昔は学問の王様だったが…。


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  • 遺伝子と脳 何が可能になったか
    NEW SCIENTIST, Inside Science Series, Edited by Richard Fifield 藤田忍訳 丸善、1648円)
  • 訳者の解説を一部そのまま頂く。
    'NEW SCIENTIST'というのは数百万人が読んでいるというイギリスの科学週刊誌であるが、その雑誌の連載シリーズ'Inside Science'を本にしたモノだそうな。邦訳版は主に分子遺伝学と脳に関するものを中心に編纂。

    先端的な話も多いが「高校生でも分かるように」というのが編集方針らしく、確かに分かりやすさを第一に心がけて書かれているようだ。

    内容は、ゲノム解析や遺伝子診断、ホメオボックスなどの話から、眠りの科学、脳の修復(再生)、脳の改造(脳への他細胞の移植)など。
    脳についての記事は、脳の機能面の話が多く、器質的な話より確かにこういう話の方が興味を引きやすいと思う。分量も適度で、読み飽きない程度に押さえられている。

    なお、コラム的に解説や参考文献リストが挿入されている。参考文献は訳者が独自につくったもので、日本語の一冊の本としても好感が持てる。何よりも実用的だ。

    高校生でも、本書なら読める、かもしれない。


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  • ロバート・フック ニュートンに消された男
    (中島秀人(なかじま・ひでひと)著 朝日選書、1500円)
  • ロバート・フックの名前を聞いた事のない人はおるまい。フックの法則と、コルクを顕微鏡で覗いて、それが"cell"という小部屋の集合であることを「発見」した人物である。また、真空ポンプ、精密かつ巨大な屈折式の望遠鏡などを造り上げた人物でもある。また、ボイルの法則も、ひょっとすると当時助手をしていたフックが発見したのかもしれないという。

    フックと、ほぼ同時代に生きた人物に、ニュートンがいる。ニュートンは、他人に求められないと自分の研究の成果を外に表さない、ごく内向的な人物であったという。一方フックは、時として他人の成果まで自分のものとしかねない類の人物であったという。

    そして、フックとニュートンはぶつかったのである。本書を通読する限り、フックがまだ若造であったニュートンに「言いがかり」を付けたようだ(年齢では7才年下だっただけだが、フックは早くから自分の成果を発表していた。また、ご存じの通りニュートンは早熟であったが書物にして発表するのは比較的遅かった)。
    結果、フックは破れ、一方、ニュートンは学問の歴史に輝いている。一つの転換点であった。
    もちろん、それほど事は単純に白黒に分けられるわけでもなく、両者共に色々あったようだが。

    著者は、フックが(比較的)歴史に名を残さなかった最も大きな理由として、ニュートンに比べると、科学研究を、実験観測装置を軸にして行ったことにある、という。著者は、ニュートンをもって理論科学を象徴させ、その理論科学を高く評価しがちな我々の視点が、フックを消し去っているのだ、と主張する。これが副題の意味だそうだ。

    その後、理学部と工学部だと理学部の方が「高く」評価されがちだ、と著者は続けていくのだが、私は、あまりその辺の議論にはあまり賛成できない。工学部と理学部の雰囲気は確かに全く違うが、世間からの評価が低いのはむしろ、理学部ではないかと思うのだが。
    この辺は感じ方の違いかもしれないが。


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  • 精神科医は何をしてくれるか 何をしている、何ができる
    (安藤春彦(あんどう・はるひこ)著 講談社ブルーバックス、740円)
  • 精神科医とカウンセラー、あるいは心理療法士との違い、分かるだろうか。そんなものあるの?と思うかもしれないが、本書によるとあるのだ。

    神経疾患など、身体的な原因による「こころの病」でも、こころの状態以外に症状が出ず、実は脳や神経の障害だった、というような時には既に手遅れ、といったことがあるという。ところが、薬はいらない、話を聞くだけで治る、といった「治療」がなされている事がある、と著者は警告する。

    つまり本書タイトルの裏には、精神科医と心理療法の違い、これがあるのだ。この違いは、どうも医師達の中でも混同があるらしい。精神病の中には、器質的な原因があり、環境療法や心理療法やカウンセリングだけではどうしようもないもののある。もちろん、カウンセリングはカウンセリングで役に立っているのだが、薬の投与など物理的な療法が必要なのか、カウンセリングだけでOKなのか、その判断が「できる」のは精神科医しかいない、今の法律では。


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  • 脳と神経内科
    (小長谷正明(こながや・まさあき)著 岩波新書、680円)
  • この本の著者は神経内科医である。神経内科とは、要するに神経の障害を治す医者だ。てんかん、ぼけ、腫瘍、これらは全て神経の障害によって起こる。

    本の内容そのものは、ちょっと退屈。

    「精神科と神経内科とでは視点がちがい、極端に言えば、唯心的にとらえるか、唯物的にとらえるかの差があるのかもしれない」、と著者は言う。
    このページの読者の方なら、この著者の言う「精神科」とは上述「精神科医は何をしてくれるか」でいうところの「精神科」とは意味が違う事に気づくだろう。
    本書の著者は、いわゆる精神科とカウンセリングを同列に考えているのだ。なぜ、「精神科医は何をしてくれるか」のような本が必要なのか、分かった気がする。

    自分のいる科を上に考えるのは結構だが、もうちょっと左右を見回すことも必要だろう。


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