最近は田舎でも少なくなってきたらしいが、筆者らが子供だった頃は池や川の中で遊び回っていた。中でも貯水池には巨大なウシガエルのおたまじゃくしがいた。いわゆる食用蛙だ。初めて見たときには驚いた。普通、成体で大きくても幼生は大したことない動物が多いが、ウシガエルは、おたまじゃくしの頃から破格の大きさなのである。実際には数倍程度だが、子供心には数十倍にも感じられた。普通のおたまじゃくしと比べると「おばけオタマ」だった。
さて、ウシガエルのそれに限らず、おたまじゃくしの尻尾は太い。なぜあんなに太いのだろうか。泳ぐためだけではない、と『生命をあやつるホルモン』(日本比較内分泌学会/講談社)にはある。では、なんのためだろう。おたまじゃくしはカエルの子。彼らは「変態」する動物である。足が生え手が生え、変態が始まると、やがて尻尾は消えてなくなってしまう。実は尻尾は、変態のためのエネルギー源にされてしまうのだ。
見れば分かるようにカエルとオタマジャクシとは口の形も全く違う。オタマジャクシには伸びる舌はついてないし口も裂けてない。また、オタマジャクシは水草をかじるための歯があるが、カエルに歯はない。食べ物も違うのだから、もちろん内臓もまったく違う。カエルの消化管はオタマ時代の1/10程度しかなく、消化酵素も肉食に適したものになっている。
変態が始まるとオタマジャクシは消化管を大改造するのである。そしてその間は、絶食する。だが変態にはエネルギーが必要である。ここで尾が出てくる。絶食器官中のエネルギー貯蔵庫。それがオタマの尾なのだ。シッポの細胞は自ら死んでいき、分解されて、変態のエネルギーに使われるのだ。生き物というのは良くできていて、単に無駄なものをなくすだけではなく、リサイクルするのである。
変わるのは外見や内臓だけではない。たとえば筋肉の構成成分も変わる。そのおかげでカエルは瞬発力が出せるようになる。変態によって外見だけではなく、分子レベルで何から何まで改造されていくのである。
この変態を引き起こすのがホルモンである。微量だがシグナルとして機能し、体の中の情報伝達を担っている。オタマの尾を伸ばすのはプロラクチンというホルモンだし、変態を引き起こすのは甲状腺ホルモンだ。
面白いのは、プロラクチンというホルモンの多機能性だ。このホルモン、人を含む哺乳類では母乳を作るためのシグナルとして働く。だがもともとは、体液濃度を調節するためのホルモンであるらしい。水のなかで暮らす淡水魚は薄い尿を排出することで体のなかの塩分濃度を一定に保つ。そこにプロラクチンが働いている。またミルクしか飲まない新生児も塩分濃度薄めのミルクでないと体の濃度バランスが崩れてしまう。
もともと母乳は血液から作られる。進化の過程で、機能をうまく使い回していることが、このへんの話からも伺えるのである。
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