NetScience Interview Mail
2000/03/16 Vol.091
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【山口真美(やまぐち・まさみ)@中央大学 文学部 心理学研究室 助教授】

 研究:認知心理学、発達心理学
 著書:単著・共著の著書はあまり書かないのですが,書店で手に入る本として,
    現代のエスプリ1996年350号(目撃者証言特集号)とか,
    言語1998年11月号(顔特集号),
    大顔展の図録(書店販売予定)などになります.

○認知心理学、発達心理学の研究者、山口真美さんにお話を伺います。
 山口さんは特に顔認知の研究を行っておられます。
 平均顔を作ったり、赤ん坊の認知発達の研究など、面白さが分かりやすい研究です。
 (編集部)



前号から続く (第3回/全6回)

[10: 表情の表出の発達]

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○赤ちゃんに関連してなんですけど、逆に赤ちゃんが表情を表出するようになってきますね、だんだんと。にこっと笑うようになったり。あれは、かくかくしかじか、こういう学習課程による、といった仮説みたいなものはあるんですか?

■うーん…。

○あれは、赤ちゃんが相手の表情をまねるんですか? それとも自分の中から出てくるものなんですか?

■なんか難しいんですけどね。いわゆる最初の「笑い」って、「3ヶ月微笑」とか昔言われていますね。教えていられないのに、赤ちゃんが、にこっと笑う…。 生理的反応だともいわれていますね. 情緒的な表出の基本感情は,出生直後から備わっているんだ,とする研究者もいますけど.表情の観察からそういうんで,どうしてそうなっているのか・・については,あまり答えになっていないですけどね.

○ええ。アレはなんなんでしょう。

■あれはなんだろうなあ…。そこらへんの メカニズムをちゃんとおさせているような研究って, あんまり見た覚えがないような気がするんですけど。こういう表情は生まれてすぐ見られます,だから生得的ですといった,記述的な研究はありますが.
 それと別に、赤ちゃんが大人の表情をまねる研究っていうのが流行りですね。いわゆる模倣、舌出し模倣とかを新生児がやる,それはなんでかという実験が流行ってます。 この現象は,生後数ヶ月で消えちゃうから,また不思議なんですね.

○それ、模倣なんですか、本当に?

■模倣といっても模倣をどう定義するかが問題なんですけどね(笑)。

○だって、類人猿だって「タン・ショー」っていう舌を突き出すっていう行動をするんでしょう?

■それもありますね。 チンパンジーでもヒトと同じような実験やって,それを支持する結果が出ているんです。

○でも、舌を単に出したいから出しているんだという可能性は?

■まあその可能性は否定できませんが(笑)。 ただ、目の前にいる人が舌を出すと,それにつられて出すんです。 単に何にもなしのときよりも頻繁に出す。でも、それが何を意味するのかというのは…。
  まあそういうのが応答的なコミュニケーションの最初の段階としてあるんじゃないかという考えはありますね。 昔はわりとこの領域に興味持っていたけど,あまり曖昧なんで,最近近づかないようにしているんですね,このあたり.これらの現象が,共感やシンクロニシティの端緒だといって考えていた頃もありましたが.もともと性格的に,周りのことやら他人のこととか,あまり考えないたちなんで,コミュニケーションとかヒトとのつながりの話には興味がなくなちゃって.それよりも今は,見えること自体や,見ているこの世界,といった自分で完結する世界に興味があるんで.

○ええ、ええ。そこはまあそれでいいとして、それは分かるんです。
 まず赤ちゃんが顔というものに認識できるようになって、そのあと男女の識別ができるようになる。そのあと−−あるいは同時進行なのかもしれませんが表情の認知ができるようになると。
 その過程で、自分で自分の顔の表情を作り出すっていうのは、どういうフィードバックとか学習がかかって行われるのだろうかということなんですが…。

■ 基本表情の表出自体は生得的にできるといわれていますが.それが機能的側面を持つには,つまり意味がわかるには,はやっぱり、強化でが必要しょうね。 笑えば可愛いって言われたり、ダッコしてもらったりだとか、何かしてもらえると。笑えばこうなるという強化。泣けば面倒見てもらえるのと同じで。

○ええ、強化は強化なんでしょうけど、最初に萌芽みたいなものがあったうえでの強化なのか、それともツンツルテンで、いろんな表情をしていたら特定の表情が強化されていくのか、どうなのかなと。たとえば表情は人類に一般的に共通のようですが。

■基本表情の表出自体は生得的なんでしょうね.表出の方は専門じゃないんですけど,今は..

○あ、すいません(笑)。

■赤ちゃん見ていて思うんですけども、笑い顔っていうか弛緩した顔っていうのは自然発生的にパッと出てくるみたいなんです。そんなあたりから多分…、「笑い」とか「泣き」とか、基本的な感情価の表情ってありますよね。あれはもう、なんていうのかな、そういう表出パターンを取るっていうのは決まっているんじゃないかな。筋肉の動かし方っていうのは、基本的な感情の場合は決まっているんじゃないかと思います。

○ふむふむ。

■で、たまたまそれが成立してくる。そのときに周りがどう行動するかで、強化が始まるんだと。「そうか、笑うとかまってもらえるんだ」とかね。

○なるほど。

■だから、基本的な表情−−喜怒哀楽といった表情表出のベースは持っているんじゃないかな、という気がしますね。そうでないと、本人は絶対に分かってないだろうっていうときに、にやにや、ってしてるのは説明できませんから。
 …でもあれは、なんでにやにや笑っているんでしょうね(笑)。 表情になれきった大人の勝手な解釈で,笑っていると勝手に意味付けしているだけかもしれませんが.緊張にたいする弛緩が基本なのかな.

○ふむ。

[11: 赤ちゃんは、まず「意味なし」でカテゴライズのみ行う]

○自分がにやにや、って笑ってるときに、にやにやって笑うと、だいたい相手の大人もにやにやって笑いますよね。そのとき「笑ってるな」っていうことを赤ちゃんは認知しているんでしょうか。つまり表情のカテゴリーが、そもそもどういうふうに発達していくのかという話なんですが。

■ああ、なるほどね。

○そのとき赤ちゃんが何を感じているのだろうかと。まあ、赤ちゃんに聞くわけにはいかないですが。

■うん。それは分からないでしょうね。
 私なんかが見てるっていうか、よくやっている実験は、視覚カテゴリなんです。 にやにやした顔とか,男の顔とかかの,形態が,どのような視覚的カテゴリを構成していくのか, ということを見る一連の実験をしているんです。
 だからそういう研究から見ると、赤ちゃんは、 まず最初の段階として, 意味なしでカテゴライズしているんです。意味っていうのは…。

○あとからついてくる?

■そう。

○それはそれで非常に面白い話ですね。
 じゃあもし、仮の話として、にやにや笑いながらゆりかごをガタガタガタッとしていたら、笑顔の持つ意味っていうのは全く変わってくる?

■ええ。怖い子になりそうですね。 ま,それを怖いと思うかどうかは,我々の先入観の問題で,先入観による判断は,文化によっては違うかもしれない.

○うーむ…。

■一つ面白い実験があるんです。意味よりも視覚カテゴリが先だっていうのを示している実験があるんですよ。

○ほほう。

■意味が先だとしたら、 表情あたりでは, 快/不快のレベルって 最初からはっきり別れるはずですね。だけれども、視覚カテゴリっていうのが出来てても,快/不快の表情カテゴリは出来ていないということを示す実験結果があるんです。
  複数の人達が作った様々な肯定表情,たとえば驚き顔や幸福顔と,同じ様々な人達が作った否定表情,怒り顔や悲しみ顔を,快・不快の次元で区別できるか調べたら,7ヶ月ではできなくて,10ヶ月でできるようになるという結果が出ています。それまでの沢山の研究から,恐れとか怒りとか幸福といった表情カテゴリ自体は7ヶ月でできるといわれているんですが、楽しいのが快であって、怖れとか怒りとかは不快だということは,10ヶ月にならないと分からないんですね。それぞれの表情が上位カテゴリの快/不快というのにそれぞれ属するんだということわかるには,表情カテゴリができた後で,時間がかかるんです.

○ふーむ。

■もし感情価が最初から分かるとすれば、 最初に 快・不快ということから見分けるはずですね。感情価がはっきりしているから。 もしくは,表情カテゴリの成立と同時に快・不快カテゴリができてもいいはずです. でもそれが後に来るっていうことは、やっぱり変な感じだなあと思いましたね。変な感じだなあというのは、というのは、先に視覚的なものは分かるんだけど意味が分からなくて、あとから意味が来るんだなということですが(笑)。

○うん。なんでそうなんですかねえ。

■なんでそうなんでしょう(笑)。

○すごく不思議な感じがするんですけど。先に快/不快を見分けられたほうが適応的だと思うんですけど。

■ええ、私もそう思うんですよ。 まあ,理論的には今までそのように考えられて来たんです. でも実験結果はそうなってるんですね。
 たまたまいま論文を書くために資料を読んでいたら、同じやつが二回も出てきて。でもその後、それを支持するものが出てきていないんで、そのグループだけが言っていることかもしれませんけども。快/不快が最初に分からないと困るだろうと実は私も論文に書いていたんですよ(笑)。ところがそれを否定するような話が出ていたんで。

○でも、それが本当だったら、それはそれでまた面白いですね。
 最近ぼくはロボットの人たちを取材してまわっているんですが、ロボットとかで感情表現とかあるいは認識とかやっている人たちは、最初に上位カテゴリから与えていって、で、学習させたりしているわけですよね。僕は人間もそうやって最初からある種の表情に快・不快といった上位カテゴリから重みづけをやっているのかなと思っていたんですが、いまのお話だとそうじゃないと。先に表情抽出やって、そのカテゴライズ「だけ」をやっているという話ですね。あとから意味がついてくると。

■ええ。ただ、持ち出したのが、快/不快っていう次元だというのがあるんですよね。私も快/不快っていうのは重要な次元だと思ってはいるんですが、もう一つ、表情次元では「緊張/緩和」っていう次元があるんですよね。もしかしたら緊張/緩和だったら出てくるのかな…。 赤ちゃんがやる実験タスクとしては,つまり視覚情報としては,簡単かもしれないし. でも意味的にはあんまり重要じゃないなと思ったりしているんですけどね。

○緊張/緩和…。「よしよし」とか、そういう表情ですか。

■そうですね。緊張だと怒った顔とか驚いた顔とかで、緩和だとhappyだとかですね。

○微妙な顔ですよね、緊張/緩和っていうのは。表情を読むのが難しい。

■ええ、そうです(笑)。 でも,そう思うのは意味の上で考える大人のバイアスがあるのかもしれませんねんね,視覚情報からいうと緊張/緩和の方が簡単かもしれない.筋肉的な緊張・緩和が出るから,見た目の区別は楽なのかもしれません.でも,快/不快が出ないっていうのは変な感じですよね。 どういうことなんだろうと思っているんです。
 そういえば,大昔の実験では,微妙な年齢ですが,生後8ヶ月あたりでangerにたいする不快・回避反応がみられると言っていたような・・.ひょっとすると回避反応はできるけど,・・つまり快不快の意味はわかるけれど,嫌な表情をひっくるめて不快,いい表情をひっくるめて快,といったカテゴリ化はできないぞ,くらいのことを言っているだけなのかもしれませんね.

○そうかあ…。

[12: 表情の特性は全体的な配置にある?]

○赤ちゃんが顔のどこを見て表情を抽出しているのかといったことは分かっているんですか。

■そうですね、最近は「どこを見て」っていう, 単純な話 はやらなくなっちゃいましたね。ちょっと前はやっていたんですが。最近は割と刺激を統制してますから。ちょっと前だとたとえば怒りの表情は口に注目している,という結果とか出していたんです。というのは、歯が見えるかどうかで分かるとかね。 今はそういう刺激自体使わないですよね.一部の特徴で表情が区別できてしまうような刺激は問題があるので,歯の見えない怒りとか使ったりしています.

○ああ。

■そういう「部分」に注目する研究は, あまり意味が無いな,ということになっていますね.まあ,目立つところに注目が行くのは当然ですし.それよりも,ヒトの顔認知の重要な特徴である,部分的な情報をある程度無視して全体的特徴を抽出できるようになるのはいつ頃か,という方が重要な問題で.で,顔を倒立すると顔が区別しにくくなる現象はいつ頃からみられるか,などというのがやられていますね. まあ技術が発達したので、刺激をかなり均一化させてしまったので、課題がはるかに子どもにとっては難しいものになっちゃってますね(笑)。
 そういうわけで、あんまりどこに注目して、っていうことはやられていないんです。だから目だけ注目してといったことは言いたがらない人が多いんですね,最近。そういうこというと、「お前の刺激が悪いんだろう」と揚げ足をとられることが多いっていうのもありますけども(笑)。

○でも、目だけ見て、なんとなく表情の見当がつくっていうのは、少なくとも大人になったらありますよね?

■そうですね。そういうのありますね。 目はわりと特別ですよね.目紋様的な刺激にはどうしても注目しちゃうし.コントラストの明確さだけではない,何かがありますね.そういう点では,赤ちゃんにとっても重要なはずなんで.そういえば最近,別の研究の流れで,視線に対する敏感性をサルや赤ちゃんで実験する研究もありますね.視線に目が行く,視線の方向に目が行く,というのは,他者の気持ちを推測する基盤だろうということから.顔の認知とはちょっと別で,もっと高次の,他者認識などを問題にしている研究の流れなんですけれど.

[13: 赤ちゃんは輪郭しか分からない]

■ でも、うんと小さい子どもだと,それ以前で処理が止まっちゃう、顔の中の情報にまで処理がいかない、という段階もあるんです。 生後1・2ヶ月くらいだと、物体の 「輪郭」 の情報ばっかり注目しちゃうとか。

○は?

次号へ続く…。

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http://yyy.tksc.nasda.go.jp/Home/Press/Press-j/200002/h28_000228_00_j.html

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http://www.kdd.co.jp/press00/00-007n1.html

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NetScience Interview Mail Vol.091 2000/03/16発行 (配信数:21,562部)
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