NetScience Interview Mail 2004/12/16 Vol.302 |
NetScience Interview Mail HOMEPAGE http://www.moriyama.com/netscience/ |
NetScience Interview Mail : Free Science Mailzine | |
---|---|
科学者インタビューを無料で配信中。今すぐご登録を! |
【その他提供中の情報】 | 新刊書籍情報 | | イベント情報 | | おすすめURL | etc... |
◆Person of This Week: |
【泰羅雅登(たいら・まさと)@日本大学総合科学研究所・日本大学医学部先端講座教授】
研究:認知神経生理学
著書:『脳のなんでも小事典』(共著/技術評論社)
『脳のしくみ』(池田書店)
研究内容の参考になるウェブサイト:三次元構造認知の神経メカニズム
○腕を伸ばしてコップを掴むとき、わたしたちは何も考えずに、適切な大きさに手を広げてコップを掴むことができます。どうしてでしょうか。人間がものを見たとき、脳ではどのような処理が行われているのでしょうか。たとえば人間は片目でものを見たときにも立体的に空間を感じることができます。それはどういう仕組みなのでしょうか。
また未知の空間を探索、すなわち知らない場所を訪れたとき、脳にはどのような変化が起きるのでしょうか。
今回からは、運動と視覚、この二つの神経学的基盤に関する研究についてのお話です。同時に、意識と無意識の際(きわ)の問題を探る話でもあります。(編集部)
…前号から続く (第9回)
○頭頂葉関連の話って面白いことがいっぱいありますよね。先日も脳梗塞を起こした元お医者さんっていう女性の書いた本を読んだんです。『壊れた脳、生存する知』(山田規畝子/講談社)という本です。それを読むと「私は二次元の住人だった」と言ってるんです。起きあがってベッドのどこに手をついていいか分からないとか、そういった話が、患者さん自身の主観で書かれていて、巻末には山鳥重先生が解説を書いてて面白い本でした。 ■うん、頭頂葉が壊れると立体感がなくなるっていうのは有名な話で症例もいっぱいあるんです。でも割と早く回復しちゃうみたいですね。 ○らしいですね。 ■文献を読むと、視差による立体視も、絵画的な手がかりによる立体視もどちらもやられているようなんですが、リハビリの人たちに、初期の症状が出来たときに視差による立体視だけができなくなっているのか、それとも絵画的な手がかりも利用できなくなっているのか調べてほしいとお願いしてるんですけどね。 ○ふむ。その人が書いている話で、階段が昇りの階段なのか下りの階段なのか分からない、という話があるんです。 ■うん、それも有名な症例ですね。それの話を聞くと、どうも絵画的な手がかりによる立体視もできないらしい……。 ○その感覚って、想像できないんですよね。だって、見下ろしてるんだったら下りに決まってるだろう、と今の僕らの頭では思えるわけですが、そういう感覚ともまた違うわけですよね。 ■違うみたいですね。床の、廊下の模様に見えちゃうんですから。 ○それがそもそも想像できないですよ。 ■部屋に入ったときに部屋のなかの机が床の模様に見えてぶつかるとかね。
○なるほど。 ■なんで左側だけ無視するのかとか?
○ええ。左側がそもそもないという感覚ってどんな感じなんだ、ってこととか。
■左視野欠損の患者さんは左側見えてないことにすぐに気がつくけど、半側空間無視の患者さんは気がるかないということは、見えてはいる。「左側がない」という感覚ではないんじゃないでしょうかね。 ○その場合、感覚系で知覚されている情報空間ってどんなふうに変化してるんでしょう。 ■難しいですねえ。視覚系の低次の情報処理レベルはそのままで、変化してないでしょうけど、その先で障害されるということですよね。もともと器質的な障害があるから、fMRIで調べてもわからないですしね。サルで半側空間無視が起こるかっていうと、たぶん起こらないような気がするんですよ。 ○え、どうしてですか? ■サルは右脳と左脳の機能の分化が、ヒトほどはないですから。チンパンジーくらいになるとあるかもしれないですけども。半側空間無視が左側に多いっていうのは、さっきも言ったように、右脳が視覚的イメージの処理にすごく関係しているからなんですよ。 ○はい。
■だから、右脳と左脳で機能分化が進んでいないサルでヒトと同じような半側空間無視の症例が作れるかっていうと無理じゃないかなという気がしますねえ。
○チンパンジーくらいだと右脳と左脳の機能の分化や半側空間無視もあるんじゃないかという話でしたが、チンパンジーはやっぱり実験には使えないんですか。 ■行動研究はOKですが、チンパンジーの脳に人為的に手を入れる研究は論外です。でも、チンパンジーも老齢になって、ヒトとおなじように脳梗塞を起こすようなのが出てくるかもしれない。そしたら、その内科的な治療をしながら、行動学的研究をすることはできるでしょうね。 ○いるんじゃないですか、そろそろ。 ■いるかもしれませんね。このあいだウチのサルも心臓から血栓が飛んで脳梗塞起こしちゃったのがいました。 ○先生は、ナショナルバイオリソースプロジェクトにも関わっておられますね。先日、お台場でマカクに関するシンポジウムが行われたと聞きましたが。
文部科学省新世紀重点研究創生プラン(RR2002)
RR2002企画シンポジウム「ニホンザルの研究利用と繁殖センター構想」 ■ええ、関係しています。ナショナルバイオリソースプロジェクトは、すごく大きなプロジェクトなんです。植物のシロイヌナズナからラットから、要するに日本のライフサイエンス研究に必要な生物資源を保護していこうというプロジェクトです。(http://shigen.lab.nig.ac.jp/shigen/nbrp/nbrp.jsp参照) ○はい。
■僕が関わっていってるのは、そのなかのニホンザルに関するものです。 ○ええ。 ■数年前のことになりますが、朝日新聞が業者の違法譲渡の話を取り上げました。
○ありましたね。実験用サルの違法譲渡に関与していたという記事でした。 ■この報道の影響は大きくて、実験が半年くらいできない状況になってしまったんです。我々研究者の甘いところだったのですが、どの様なサルがどの様な手続きをへて自分たちの手元にくるのか、それまではよく理解していなかったし、よく見えないすこし不透明な世界でもあったわけです。この点はいろいろな方面から批判されましたし、我々も反省をし、認識を新たにし、研究者もしっかりこの問題に取り組んでいこうということになりました。 ○はい。
■それとちょど同時期に、野生のサルを実験に使うことに対して、霊長類研究者、なかでもニホンザルの生態をフィールドで観察して研究している研究者の方々から危惧が出された。ちゃんとしたルールを定めないと、有害鳥獣の駆除ではなく、「実験用に使う」ということが目的となってサルがむやみに捕獲されてしまい、そのために、ニホンザルの生態系が壊れてしまう可能性があるというわけです。 ○なるほど。
■イギリスやアメリカでは制度の違いはありますが実験動物の取り扱いに関する法的なシステムができあがっています。日本にも法的システムはあるけれど、バイオリソースを機にいっそう充実させ、また、日本の実情に合わせたシステムであるように手を加えなければならないと思っています。 ○次号へ続く…。
|
科学技術ソフトウェア データベース
|
◆このメールニュースは、 ◆<科学技術ソフトウェアデータベース・ネットサイエンス> ◆[http://www.netscience.ne.jp/] の提供で運営されています。 |
発行人:株式会社サイネックス ネットサイエンス事業部【科学技術ソフトウェアデータベース・ネットサイエンス】 編集人:森山和道【フリーライター】 |
interview@netscience.ne.jp moriyama@moriyama.com |
ホームページ:http://www.moriyama.com/netscience/ *本誌に関するご意見・お問い合わせはmoriyama@moriyama.comまでお寄せ下さい。 *メールマガジンへの広告掲載に関するお問い合わせはinfo@netscience.ne.jpまで御願いします。 |
◆このメールニュースは、 ◆<科学技術ソフトウェアデータベース・ネットサイエンス> ◆[http://www.netscience.ne.jp/] の提供で運営されています。 |