NetScience Interview Mail 2004/12/23 Vol.303 |
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【泰羅雅登(たいら・まさと)@日本大学総合科学研究所・日本大学医学部先端講座教授】
研究:認知神経生理学
著書:『脳のなんでも小事典』(共著/技術評論社)
『脳のしくみ』(池田書店)
研究内容の参考になるウェブサイト:三次元構造認知の神経メカニズム
○腕を伸ばしてコップを掴むとき、わたしたちは何も考えずに、適切な大きさに手を広げてコップを掴むことができます。どうしてでしょうか。人間がものを見たとき、脳ではどのような処理が行われているのでしょうか。たとえば人間は片目でものを見たときにも立体的に空間を感じることができます。それはどういう仕組みなのでしょうか。
また未知の空間を探索、すなわち知らない場所を訪れたとき、脳にはどのような変化が起きるのでしょうか。
今回からは、運動と視覚、この二つの神経学的基盤に関する研究についてのお話です。同時に、意識と無意識の際(きわ)の問題を探る話でもあります。(編集部)
…前号から続く (第10回)
○動物実験のことに関しては、このインタビュー・メールでも、一部は動物愛護団体の人からリンクを張られていたりしますし、最近は取材にいっても、たとえばマウスに注射してる写真なんかでさえ、まったく撮らせてもらえないという現状があります。なんでも学内にそういう規定があるんだとか。 ■ダメでしょうね。学生実習でも動物を使うことがダメになってきていますからね。 ○え、学生実習でダメなんですか?
■ええ。それはすごく矛盾なんですけどね。 ○ええ。 ■今の時点ではすべて動物実験なしで薬や医療を開発して、それを人間に受けさせるということは無理な話です。我々研究者も3Rの原則は理解しているから、数は減らす、代替法が使えるところでは代替法を使うとはっきり打ち出すわけです。人類の健康と福祉に対する貢献という大目標には異論がないですから、それを目標としてお互いに何がベストか、そうすれば歩み寄りができますよね。 ○はい。 ■実際、この10年ほどの間に、大学や研究所の動物実験の環境は大きく変化をしています。我々研究者はいろいろな批判を無視してきたわけでなく、動物福祉を考え改善してきたわけですから、そういう研究者のアピールも必要だと考えています。それが、この話のもとのシンポジウムの考え方です。 ○なるほど。 ■人類の健康と福祉に対する動物実験の貢献ということでいえば、ここの片山先生がやっておられる深部脳刺激(DBS)はその好例ですね。この治療法の効果は、ほんとうに劇的なんですよね。動画をみるとわかりますが、意志とは関係なしに勝手に体が動いてしまうジストニアという症状で何もできなかった子供さんが、しゃきっとして普通の生活できるわけですよ。
○ええ。テレビでドキュメンタリーを見たとき、びっくりしました。あれほどまでに劇的な効果があるとは。 ■このDBSで使われるテクニック−−脳のなかに電極を入れるっていうテクニックは動物実験で確立されたテクニックなんです。お台場のシンポジウムで片山先生に講演して頂いたんですがそれはもうすごいインパクトですよね。そのあと僕が話を引き継いで、実際にはこういう動物実験で行われている研究が、ああいう臨床に結びついてるんだと話をするわけです。そういうことを繰り返していけば、もっとひろく一般の方々に医療における動物実験の意義が理解してもらえるだろうと思ってるんですけどね。
○なるほど。
■このあいだお台場で講演したときにそのことにもふれました。確かに医療に対する貢献はとても重要な理由ではあるんだけど、それ以上に、人類が持っている知的な好奇心。欲。知識欲。それはもう絶対あるんだと。それは逃げずにちゃんと言いました。
○ここの研究室に、こんな学生に入ってきてもらいたい、というのはありますか。 ■うちの研究室は認知心理学的な研究が多いんですね。ですから、心理系の人にもっと入ってきてもらいたいなと思ってるんですよ。 ○心理系?
■ええ。それは一つ理由があって、機能的MRIなんかの機能画像の研究仕事がありますよね。機械の数からいったら日本はすごい数あるんです。でも日本から良い仕事がいっぱい出ているかというと、そんなに出てないんですよ。うちにも機械はあるし、仕事もたいした仕事を出してないから、こういう事言うと天につばするようなものなんですが、一流雑誌に出る本数が、機械の数に比べるとぜんぜん少ないんですよ。 ○なるほど。実験の組み方がうまい? ■そうそう。欧米の認知心理学はニューロサイエンスの教育をしていたわけです。 ○ああ、なるほど。逆に、パッチクランプやってるような、細胞生理やってる人が認知心理学を勉強すればいいんじゃないの、って言われませんか?
■それはちょっと方向性が違いますよね。僕も最初は細胞内記録やってたんですが、性が合わないと思ったんですよ。 ○なるほど。
○今後はどういったところに? 今日お話をお伺いしてもなかなか文脈が、こういうことだからこうだとはなかなか分かりにくいんですけれど。 ■分からないですよね。夢は大きく、ですよ(笑)。 ○どのへんに(笑)? ■そうですね。やっぱり、conscious、unconsciousですね。頭頂葉系はそれがたぶん、次の大きなステップになるような気がしますね。 ○なぜ頭頂葉で? ■いやいや、前頭葉でもかまわないですけど。僕のいまのフィールドが頭頂葉にあるっていうことと、一つは、グッデールたちの言ってることと、それに決着をつけるみたいなことがあるかもしれないし。側頭葉系との機能の違いを際だたせる可能性もあるし。それから頭頂葉でなんとなくアイデアがあるのと。でもたぶんやるとね、conscious、unconscious、どっちでもないっていう例が出てきてわけわからんようになるんですけどね(笑)。そこが面白いかなと。
○側頭葉系の情報も、頭頂葉で構成されるマップなり座標のなかにマッピングされてるんですかね。どういうふうに、こういう空間を認識しているのか、もうちょっと、モデルみたいにクリアに分かるようにならないものでしょうか。 ■背側視覚経路、腹側視覚経路のあの大きなコンセプトは間違ってないと思うんです。でもそのなかの細かなインタラクションっていうのは、クリアにするのは難しいでしょうね。 ○人間の場合、動くときには実にいろいろな知識を動員して動いてますよね。たとえばここは体重かけても大丈夫そうだな、とか。そういう仕組みがある程度解明されるには……。 ■そこまではやっぱり、難しいでしょうね。いろんな情報を総合して大丈夫そうだと判断する「大丈夫そうだニューロン」とかが捕まえられると面白いですけどね。 ○ロボットの人たちはそれを全部ゼロから作らなくちゃいけないから大変なんだろうと思うんです。手をついていい場所とそうでない場所をどうやってロボットに区別させればいいのか。そこが分かってくると面白いなと思うんですけど。 ■実験室の中でやると、サルをトレーニングしないといけないですよね。で、実験室の中では条件が制約されちゃうから、トレーニングっていうのは、それに対応するようなニューロンのネットワークと作っちゃうことなんですよね、この条件とこの条件がかぶれば大丈夫って。 ○ええ。 ■そうやってオーバートレーニングしてできあがってきたものが、サルが本来持っている能力と同じかどうか。ここに手をついていいかどうかっていうことを判断させるってことをオーバートレーニングしたものを、一般化できるかどうかは難しいですよね。 ○はい。でも、ないわけはないですよね。たとえばサルなら、ブラキエーションしているときに、あの枝に飛びつけるかどうかということは、どこかで判断しているはずですよね。 ■絶対にやってます。 ○それこそ3Dのゲームをやってるときでさえも、ここって飛びつけるかな、って僕らは判断しますよね。 ■うん、だから、サルの普段の行動を課題に持ってくるってことをやれば良いんでしょうけどね。なかなか難しいな。
○そうですね。 ■いやー、こちらもまとまった材料を持ってないから。でもきっと脳の話って、聞けば聞くほど「あ、全然分かってないな」と思うと思いますよ(笑)。
○そうかもしれませんね。いま一つ繋がらないんですよね。
【2004/04/08 日本大学医学部にて】 | 泰羅氏インタビューindexへ | Interview Mailへ | *次号からは脳のモデルの研究をしている、深井朋樹氏のインタビューをお送りします。
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