NetScience Interview Mail 2000/12/07 Vol.124 |
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【隅藏康一(すみくら・こういち)@東京大学 先端科学技術研究センター 知的財産権大部門・科学技術財産法分野】
研究:知的財産政策・知的財産法
著書:蛋白質核酸酵素・9月増刊号『再生医学と生命科学---生殖工学・幹細胞工学・組織工学』(共著、発行:共立出版)
『ゲノム創薬の新潮流』(共著、発行:シーエムシー)
ホームページ: http://www.bio.rcast.u-tokyo.ac.jp/~sumikura/
○知的財産政策・知的財産法の研究者、隅藏康一さんのお話をお届けします。
テーマは「科学技術と特許」。
ゲノム・プロジェクトやバイオ産業の進展とともに、いま科学領域内外から注目を浴びているジャンルです。(編集部)
[15:とにかくフリーが常に良いとは限らない] |
データベース |
○ちょっと薬が効きすぎたというところですね(笑)。
■だからあとで誤解がないように、バイオ産業の役に立つような機能解明がされたものは特許を取ることができる、というコメントも発表しているのです。
ただ、もっともクリントン、ブレアがこのへんに関心があるかというと多分そうじゃなくて、あれは選挙前のキャンペーンのようなものでしょうね。
○そうでしょうね。
■一般の人はなんでもフリーにしたほうがいいというようなイメージはありますよね。権利を企業に囲い込ませるよりは、パブリックにしたほうがいいんだというような。
○そしたら株がナスダックに影響を与えるほど下がっちゃった、というのはおかしい話ですね(笑)。
[16: 第一世代、第二世代、第三世代の遺伝子特許] |
■ゲノム特許の現状をお話ししますと、アメリカの特許庁では、遺伝子の特許出願は第一世代、第二世代、第三世代と分けて考えられています。第一世代とは部分的な塩基配列を読んだだけで、それがどの遺伝子から来ているのかも、機能も分からない、というものです。単なる配列だけが分かっている状態のものです。これが500から600ほど出願されているそうなんですけど、これに関しては、日本もアメリカもヨーロッパも特許は認めないということになっています。
○はい。
■99年の六月に三局合同スタディの結果というのが出ていまして──それはまあ法律ではないんで拘束力はありませんが──なにをやったかと言いますと、98年に日本が審査基準を調和させるための前提として、いろんな事例を出し合って、それぞれのケースでそれぞれの特許庁がどういう判断をしたのか検討していこうという提案をしました。違う点を見つけるために、事例をぶつけあうということをやってたんです。で、その結果が99年の六月に好評されたんです。
○それは日本が言い出したんですか。
■そうです。日本もこの分野ではけっこうリーダーシップを取ってるんです。
で、機能が分からない遺伝子断片には特許を与えないということになったんです。ただ、その理由付けを見ていくと違う点も結構あるということが分かったわけです。
○理由付け?
■進歩性の判断はこうで、有用性の判断はこうだと書いているわけですよ。そのディテールが違う。
でもまあとにかく第一世代には特許は与えられないというのが共通了解になっています。
○なるほど。
■第二世代はですね、遺伝子の断片でも全長──全長というのはタンパク質になる最初から最後までのことですが──でもいいんですが、既知の遺伝子との類似性、ホモロジーから機能が推定されているようなもの。これが2500ほど出願されているのですが、事例を挙げると、98年の10月にインサイト社に対して認められた特許なんですが、キナーゼ──リン酸化酵素だろうというようなもの、44のDNA断片に対して、特許が与えられたんです。それもまあこのうちに含まれますね。
○ふむ。
■で、おおざっぱに言うと、アメリカはこれに特許を認めるケースもあって、日本は否定的です。
第3世代というのは蛋白質の機能が実験室で確認されているものです。これはまあ、日米欧それぞれ、特許を認める方向です。アメリカでは7000件が出願中だそうです。
アメリカでは、遺伝子特許が既に6000件ほど認められています。──これ、去年聞いたときにはまだ2000件くらいだったんですけどね。今年の夏に、アメリカの特許庁の人が言っていた数字が6000件なんです。
○ふーん…。
■まあ、統計の取り方も変わったかもしれませんけども。あれもですね、一個一個調べて数を数えているわけじゃないのです。やっぱりデータベース検索で、特定のキーワード入れて引っかかってきたものの数なんですね。
○なるほど、なるほど。
■たとえば、日本の誰かが、アメリカの特許庁のホームページ見て、何件あるかな、と検索するのとあんまり変わらないんです。アメリカの特許庁も、そこまでは調べてないんです。
○日本だとどのくらいですか。
■私が特許庁のデータベースをあるキーワードで調べてみたときは──そのときは発明の名称に「遺伝子」という言葉を含み、なおかつ請求の範囲に「配列」という言葉を含む特許の数を検索したんですが、481件がヒットしました。ほとんどがDNA塩基配列、またはアミノ酸配列をクレーム(特許請求範囲)に含むものでした。
○ほほう。
■まあ、キーワード自体が違うんで、比較のしようがないんですよね。また日本の場合は特許公開公報があるんですけども、アメリカの場合は特許が与えられたものしかデータベースに入っていないので。今年の11月から、出願後18ヶ月経つと、一部の例外を除いては公開になるんですけどね。
だから単純に比較はできないんですけども、まあ目安にはなりますね。
○なるほど。要するに「遺伝子特許が○件だ」という厳密なデータはどこにもないんですね。
[17: 特許のオーバーラップ問題] |
■何度も繰り返していますが、特許の要件というのは「新規性」と「進歩性」、進歩性というのは当業者──要するにその技術についてよく知っている同業者のことです──が先行技術の組み合わせから容易に思いつくかどうかといったことです。あと「有用性」がありますが、これは産業上の利用可能性のことです。厳密にいうと日本と欧州では産業上の利用可能性のことで、アメリカでは産業上利用可能でなくてもいいということになっています。
○ふむ。
■で、ライセンス料が高くなるという話には、レプチンの例のように一つの特許に対する契約料自体が高くなりすぎると困るという話もありますが、もう一つはですね、特許がオーバーラップしすぎるという問題があるんです。
○…?
■どういう話かと言いますと、たとえば、ESTの場合は塩基配列を解読した短い断片ですよね。それがあって、その配列に基づいて──まあ基づかなくてもいい、全長が決まったとしましょう。そうすると、ESTと全長は当然オーバーラップしますよね。
○なるほど。
■ESTがなんの機能も分からない場合は特許としては認められませんが、何かの診断に使えるとかといった理由で特許になっていた場合は、あとでそのタンパク質が原因の疾患の薬を開発するときに使おうとする人は、それぞれの権利者にライセンス料を払わなくてはならなくなるわけです。
○断片の人と全長の人と、両方にということですね。うーん。
■うん。ESTの他にもオーバーラップする場合があります。オーバーラップというのは開発段階がいくつにもなっている以上、当然どの分野でも起こりうることなんですが、遺伝子の分野では、オーバーラップしすぎているという問題があるんです。
[18:「物質特許」と「用途特許」] |
■一つは、「物質特許」と「用途特許」の問題です。物質特許とは、化学物質自体に与えられる特許です。遺伝子の場合でも、たとえば、新しい遺伝子を見つけて、一つの機能を解明したら、その遺伝子を見いだした時期が一番最初であれば、まず「物質」としての特許が与えられるわけですね。
○はいはい。DNAに特許が与えられると。
■そう。これは物質特許なんです。
……物質に特許が与えられる前に「天然物に特許が与えられるのか」というもう一つ前の問題があるんですが、それはですね、1980年代後半に日米欧の間で合意ができたんです。塩基配列が決定されるまでには、自然界に存在しないような状態で濃縮したり単離したりといった段階があるわけですが、そんな状態のものは自然界には存在しない。だからそういうものに特許を与えるんだと解釈しましょうということになりました。だからDNAには特許が与えられるということになっているのです。
○要するに人の手が加わったものには特許が与えられると。
■そう。ま、それは寧ろ、遺伝子というものが特許で保護される必要があるということが先にあって、どうやって特許法との整合性をつけるかという議論が次に出てきたのですが。まあとにかくそれで保護されるようになったんです。
ソフトウェアだって同じですよね。ソフトウェアが特許で保護されるべき状態になってきて、それでどうやって現行の特許制度に織り込んでいくかという話になったのです。
○なるほど。
■それはともかくとして、最初に遺伝子の機能を解明した人には、その遺伝子に対する、物質としての特許が与えられると。
○はい。
■次に、この遺伝子の別の用途を解明した人には、物質としては新規ではないわけですから、用途の発明として、用途特許が与えられるわけです。
○別の用途というのは例えば?
■たとえば、一つの分かりやすい例で言えば、バイアグラは心臓病の薬として開発されたんですが、あとになって勃起不全の薬にも効くとか植物にも効くとか、いろんな用途が発見されたわけです。それは、それぞれの用途に対して特許が認められるんです。
○タンパク質の場合は分かりますが…、同じなのかなあ。
■例えばある物質が細胞周期を調節する因子として開発されたとしますね。それがあとになって免疫系を活性化させて抗ガン剤として使えるとかですね、仮にそういうことになったら、それはそれで、また特許が取れると。
○ふむ…。
■HGSがですね、細胞の膜上のタンパク質を新たに見つけて特許を取ったんですね。HGSが調べたのは、細胞膜の上にあって、何らかの仕事をしているという機能だけだったんです。そこらへんに機能の定義の難しさがあるんですが、そのあとにですね、メリーランド大学のギャロという──あのAIDSのHIVウイルスの話で騒動を引き起こした、あの人を含むグループがですね、このタンパク質は、HIVが細胞内に入り込むときに足場として使うタンパク質であるということを解明したんです。
○なるほど。
■そういうことになると、このタンパク質の阻害剤を考えれば、HIVの薬になるわけです。
○ほう。
■当然、彼らもこのタンパク質の特許を、用途特許として出願中なんです。物質特許はHGSが取っちゃってますからね。そうなるとですね、このタンパク質を使ってHIVの薬を作りたい人は、両方のグループからライセンスを受ける必要があるわけです。
○なるほどね。
■物質特許っていうのは、その物質を使うとき、全部の場合において特許が生じて来るんです。ですから非常に「強い」特許なんですよ。ということで、HGSは単に細胞膜の上にあるということを示しただけで、HIVとの関係なんかぜんぜん知らなかったにも拘わらず、HIVの阻害剤を作る研究をコントロールするほどの力を持っているわけです。果たしてこれでフェアと言えるのだろうかと。
○ふむ。ちなみにギャロのグループの人たちは、HGSに対してお金をはらってるんですか?
■それはですね、特許が成立していれば払わなくちゃいけないんですけども、たぶん彼らが研究しはじめた頃はHGSの特許が成立するまえだったので、払わなくてよかったんじゃないかと。しかし、現在はHGSの特許が成立しているわけですから、ライセンス料を払わないといけなくなるでしょう。
[19: 物質特許の問題は今後緩和される、だが…] |
■ただですね、私が思うにこの問題は、もうすぐ自然と緩和されると思うんです。
○次号へ続く…。
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■新刊書籍・雑誌:
◇『無脊椎動物の多様性と系統』(バイオディバーシティ・シリーズ5) 白山義久 編
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電波がとらえた様々な天体や宇宙の姿を紹介するCD-ROM.インターネットで体験版あり.
◇雑誌「生物の科学 遺伝」12月号 特集:・バイカル湖の生物
本体1100円+税 裳華房 http://www.shokabo.co.jp/iden/iden3.1/54.12.html
世界最古・最深・最大容積をもつ淡水湖,バイカル湖とその周辺にすむ生物たちの魅力を紹介.
※※雑誌「遺伝」は2001年1月号より,隔月の刊行(偶数月25日発売)になります※※
■イベント :
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主催:大阪国際見本市委員会 場所:インテックス大阪 日時:2001/1/24-28
http://www.its-show.com/
■URL:
◇「NASDA NEWS」 No.229 2000年12月号
http://yyy.tksc.nasda.go.jp/Home/News/News-j/229index.htm
◇国立天文台・天文ニュース (395) 宇都宮・ジョーンズ彗星の発見・速報
http://www.nao.ac.jp/nao_news/mails/000395
◇21世紀の社会と科学技術を考える 科学技術庁
http://www.sta.go.jp/shimon/cst/kondan21/main.htm
◇H-IIAロケットの打上げについて
http://yyy.tksc.nasda.go.jp/Home/Press/j/200011/h2a_001129_j.html
◇コンピュータ/ネットワークの検索サイト Find'X 「ロボット」をアップデート
http://findx.nikkeibp.co.jp/robot_0.html
◇科学技術者のための総合リソースガイド・NetScience
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