NetScience Interview Mail 1998/11/19 Vol.029 |
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【中澤港(なかざわ・みなと)@東京大学 大学院医学系研究科 国際保健学専攻 人類生態学研究室 助手】
研究:人類生態学
著書:大塚柳太郎,片山一道,印東道子(編)『オセアニア(1)島嶼に生きる』
東京大学出版会, 東京, pp. 211-226(分担執筆)
ほか
ホームページ:http://www.humeco.m.u-tokyo.ac.jp/~minato/index-j.htm
○引き続き人類生態学の研究者、中澤港氏にお伺いします。今回も人類生態学の目標について。
6回連続予定。(編集部)
[09: 環境全体と、病気と人口、健康との関係] |
データベース |
○例えば?
■たとえば、またマラリアの話ですけど、ソロモンのマライタ島っていうところに、イルカを獲って暮らしている人達がいるんです。
そこの人達って、マングローブの生えている海岸からちょっと離れているところにイルカを追い込んできて、そこで獲るわけですよ。そうすると、海の上やマングローブ・ブッシュに、夕方に立つことになるんで、蚊に刺されることは避けられないんです。獲らないと暮らしていけませんから、やめられないんです。でなければライフスタイルを変えるか。
ある程度、病気にかかるリスクを冒してでも食べ物を獲らなくちゃいけないとなると、どういう風に、どんな食べ物を獲っているか、ということも考えないと、適応像全体が見えないんですよね。モデルにしてしまうと、そこを落としてしまいがちなんですが…。
○環境とのインタラクション、相互作用を常に考えないといけないということですか。
■ええ。なかなかそこまでいかないんですけどね(笑)。
○でも目標としては、こういう細かいところからデータを集めていって、普遍的な原理を発見し、やがては地球全体のことを追えるようになるといいな、というのが人類生態学の遠い目標ですか。
■ああ、そうですね。「僕が」考える、人類生態学の目標ですけど(笑)。そのほうが面白いんじゃないかと。そうしないと、満足できないだろうと思うんです。それがいまできる、すぐできるとはとても思えないですけどね。
○いま地球の人口が60億でしたっけ。
■ええ。
○60億の人間に、それぞれパラメーターを当てはめてシミュレーションしてやる…。頭がくらくらしますけど(笑)。
■いま僕が使っているパソコンだと、考えている要因が20くらいのモデルでも、人口5万人くらいで計算してやると、一年単位で動かしてやっても、200年分の計算に、1週間くらいかかるんですよ。その程度のパラメーターでも。
○人口論研究用にスーパーコンピュータが落ちてきたりしないんですか。一昔前には人口論ってずいぶん流行りましたよね。そうすると大バケするかもしれないですよね。
■ええ。パソコンじゃなくても、大型計算機使っても時間かかるんですよ。大型機だとメモリを使うのにすごくお金がかかりますし。今年買う予定のalphaチップを使ったマシンが来れば、今のパソコンよりは数倍速くなると思いますけどね。
[10: 過去をシミュレーションできないか] |
○なんとなく、人類生態学なる学問の目的や面白さが分かってきました。実をいえば最初、本を読んだときには何が面白いのかさっぱり分からなかったんですけど。産まれてから20年もたっている学問の割には面白くないなあ、と思っていたんです。文化人類学や人口論の下敷きがありながら、20年もこんなことやっていたのかなあ、と感じていたんで…。
■人類生態学は、大雑把に言うと、生態学と地理学と、人類学をベースにしているんですけど、扱う範囲が広いんで、ひとつのテーマを集中的に追うわけにはいかなくて、だからなかなか進んでない、という気はします。でも、その分、既存の学問では見えなかったヒトの生存の全体像が見えるようになるんじゃないかと期待してるんですけどね。
○将来は、たとえば逆に、エジプト文明がどういうふうに消長していったかとかも分かるようになるんですかね? 歴史学への応用というか。
■エジプトは難しいかもしれないですね。どのくらいデータが取れるか分からないんで、何とも言えませんが。縄文時代とかなら、小山修三さんっていう民博の人が、人口をシミュレーションしているんですよ。暮らしかたの物語も書いてますけど。遺跡から出ている骨からいつごろのものかを推定して、平均寿命は31才くらいだったろうとかといった形でやるんですけどね。あれくらいデータがあれば、復元できるかもしれませんけど。
○そういうのができると、それはまたそれで実に面白いですね。江戸時代でやっている人はいないんですか? 江戸時代はシミュレーションに向いているように思いますが。物質も入ってないし、開墾をどのくらいやったか、という資料も残っているから…。
■そうですね。シミュレーションでやっている人はいないです。関山直太郎さんという人がやった、宗門人別帳なんかからデータを取り出してやった人口推計はあるんですけど。病気のデータも残ってますしね。気候なんかもだいたい分かるでしょうし、シミュレーションもできそうですけどね。
○シミュレーション上で、実際通り、飢饉がおこったりしたら面白いですね。そうしたら、実際のところ何が効いていたのか分かるでしょうし。気温で決まっていたのか、それともまた別の因子があったのか。
■ええ、そうですね。学問的には面白いですね。
でも僕はやっぱり、過去のことより現在に関心があるんですけど(笑)。
[11: 遺伝子と人口と病気の関係を考慮に入れたモデルを] |
■遺伝子の話でも、遺伝子と病気の関係というのもやっているんですけどね。遺伝子の伝わりかた、っていうのを考えると、絶対、人口の変動を考えないといけないですし。遺伝子と人口と病気の関係っていうのをからめたモデルが必要だって言う声が出てきてて。生活習慣病で言えば、ライフスタイルが関係しているのは明らかなんで、遺伝子の発現の仕方、いや発現したもののレギュレートのされ方、淘汰のされ方っていうのは、栄養状態とか活動量とかで変わりますから。健康への影響、といっても良いですけど。その辺まで考えていくと、きっとそっちの方からもこの研究は重要になっていくと思うんです。
僕は、ヴァリエーションがあることが、重要だと考えているんです。なくした方が良いんじゃないかと思っているような形質でも、なくしたら環境にどういう影響があるか分からないですし。多様性が大切だっていうのは生態学の共通認識ですから。
[12: 環境と人間との間のループ] |
○多様性が大切だ、という話は心情的には非常に理解しやすいものですが、どのくらい科学的な、つまり定量的な根拠があるものなんでしょうか?
■ちょっと話は違いますが、僕の基本発想として、ヒトがしなかったことで、ヒトにとって好ましくないことが起こるんだったら、それは仕方がない。でも、ヒトがやったことで負のフィードバックがかかるんだったら、ヒトにとっては、嬉しくない。そういうのがあるんです。 例えば、薬の副作用で障害が起こるなんてのは最低ですね。それくらいなら治療しない方がいい。
○ええ。
■だから、何かをやったことで、それがどう跳ね返ってくるのかというのは、もっと考えないといけないと思うんですよね。
よく、「人間から環境への影響」と、「環境から人間への影響」というのは別々に語られる場合が多いんですけど、例えば環境科学だと環境が人間に与える影響っていうのを考えるし、保護運動をやっている人達は、人間が環境を壊しているとか言っているわけですよね。
○そうですね。
■でも「人が生存する」っていうことは、環境に否応なく影響を与えるし、それは返ってくるわけです。この返ってくるループを、ループとしてちゃんと捉えようと、そう考えているんです。
あまりうまい説明じゃないんですけど、人類生態学は、それが目標なんです。
○うん、分かりますよ、それは。
よくこの手の話で、木を伐りすぎて滅びた文明の話とかがでてきますね。イースター島とか。
■ええ、オーストラリアとかもそう言われていますよ。真ん中に広大な砂漠があるのも木を伐りすぎたからだという説があるくらいです。それとアボリジニが野焼きをしたこととですね。
○それは何か根拠があるものなんですか?
■考古学的な証拠がちょっとあったと思います。小山修三さんの本に、花粉分析からヒトが現れると森林がなくなることがわかったと書いてありました。
○地球環境全体が変動したからとかではなくって? そういう可能性も結構あるんじゃないかと思うんですけど。
■そうですね。もちろん砂漠化の最大の原因は気候変動なんですが、少なくとも最近砂漠が広がってきているのには森林伐採の影響も無視できない…保水力がなくなることもありますから…それは定説といっていいと思います。
○なるほど。
あの辺の話って、誰の話を聞いてもちょっとづつ違っているから、誰の話を聞いても「それは正しいのか?」と思っちゃうんですけど(笑)。
[13: シミュレーションの問題] |
■それはシミュレーションの抱えている問題でもありますけどね。
よく、あるデータを取るとこういうグラフで、シミュレーションでグラフを描くとこうなって、だいたい似ているから比較的合っています、という説明がありますよね。でもあれは本当は変な説明で、そのシミュレーションが現実のメカニズムを表しているかというと、その証拠にはぜんぜんならないですよね。その設定で偶然によって変動しうる幅がわかって、現実がその範囲に入っていたというだけのことで、全然別のメカニズムにした方が、もっと幅が狭くて、かつ実データがその範囲に入るかもしれないわけです。
シミュレーションが本当にある現実のメカニズムを表している可能性がある、というためには、パラメータや乱数をいろいろ変えてみて、何かの条件でピタッと合えばいいんです。100%合えば、それが現実に起こったことだった可能性に対して、誰も文句は言えなくなるんですけど…。
○でも一方で最近は「そういうことはあり得ない」と言われているじゃないですか。あれも変だとは思うんですけど。この状況、条件のときにはこういう値が出るはずだ、というのは正しいわけだから、ピッタリあうことがあっても良いんじゃないかと思うんですけどね。
■80年くらいには、シミュレーションに関心がある人口学者は、シミュレーションがピッタリあえば、少なくとも正しい可能性を否定できなくなるから、そこがシミュレーションの優れた点だと言っていたんですよ。…時間的な制約でしょうね。やっぱり。統計的に差はない、とかいって、今のところは誤魔化してますけど、本当はみんな、ぴったり合うのを探したいと思っているんですよ。
○うん、そうでしょうね。
○次号へ続く…。
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