NetScience Interview Mail 1998/10/29 Vol.026 |
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【中澤港(なかざわ・みなと)@東京大学 大学院医学系研究科 国際保健学専攻 人類生態学研究室 助手】
研究:人類生態学
著書:大塚柳太郎,片山一道,印東道子(編)『オセアニア(1)島嶼に生きる』
東京大学出版会, 東京, pp. 211-226(分担執筆)
ほか
ホームページ:http://www.humeco.m.u-tokyo.ac.jp/~minato/index-j.htm
○前回に続き、人類生態学の研究者、中澤港氏にお伺いします。
今回は再びフィールド調査について伺います。6回連続予定。(編集部)
[02: フィールド調査 〜パプア・ニューギニアのギデラ〜] (承前) |
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■それがなんでなのかっていうのは謎で、いまだに分かっていないんです。もしかしたら不妊の遺伝子っていうのがあるのかもしれないし、性病のせいなのかもしれない。クラミジアとか淋病とか、知らないうちに感染しているってのもありますからね。
なぜ子供が0の人が多いかはすごく大きな謎で、偶然だけでも起こるんじゃないか、婚姻システムのせいなんじゃないかと思っていろいろシミュレーションしたんですけどどうもそれでは説明できなかったんです。
○確認です。ギデラの人達は結婚しないと子供は産まないんですか?
■以前はそうでした。おととしと去年調べたら、未婚の母がずいぶん増えてましたけどね。特に高校とか行った子供が、妊娠してかえって来るんです。
○西洋文明の影響を受けちゃうわけですか。
■ええ、そうです。
○みんな、セックスはしているんですか?
■ええ、セックスはしているんだけど、子供ができないんです。
○それは不思議ですね。
■ええ。それで、もともとホルモンレベルに異常があって、生物学的に子供を持つ能力…受胎能力っていうんですが、いわゆる途上国で出生数が少ない人たちは、ホルモンレベルが低いんじゃないかということを、数年前からアメリカのキャンベルとかウッドとかいう人達が言ってまして。それを知ったので、僕らも一昨年と去年、尿中ホルモンを調べたんですが、特にホルモンレベルに異常があるということはなかったんです。出産数が0の人も0じゃない人も同じレベルだったんです。
それと、早期胎児死亡ってのも尿中ホルモンの検査でわかるんですが、それも多くなかったんです。だから、ホルモンでもなさそうだと。
で、かつては性病があったのかもしれないということにしてるんですけどね。クラミジアとかにかかると卵管がつまって子供ができなくなることがありますんで…。
○ちょっと確認したいんですが、子供を産んだことがないというのは、どうやって証明したんですか?
■聞き取りです。
○DNAとかで調べているわけではないんですか?
■ええ。
○例えば養子に出してしまっていて、社会的なシステムの影響で養子だとかそういう意識がまるでなかった場合は?
■いや、養子の意識はすごくあるんです。自分が子供を産んだ、という意識は凄くはっきりしています。そうじゃない部族もあると思うんですが、ギデラの人ははっきりしています。子どもの方に聞いても、自分は誰々の養子で、実の両親は誰と誰だってちゃんといいますし、この調査では母親に何人産んだか、と聞いているんで、0が多いのは間違いないと。
○主張しているだけではなくて、間違いないと?
■ええ。
それから、最近の人、まだ閉経に至っていない人を見ると、0じゃなくて一人産んだ、っていう人が凄く多いんですね。
○昔は0が多かったのに、最近は1が多くなったということですか?
■はい、そうです。そのうちこれが2くらいになるんじゃないかと思うんですけどね。最近はだんだんと衛生状態も良くなってきてますから、昔は性病で0が多かったということで辻褄だけはあうんです。検証のしようがないのが弱点なんですが…。
で、出生に関してはだいたいこんなところで、死亡に関してはマラリアが多いんです。村によって死亡率も違うんです。海に近い村と、南側の川に近い村と、北側の川に近い村と、内陸の村という4つに大別できるんですが、海に近い村が、死亡率が高くてマラリアの罹患率が高そうだったんです。村人の話を聞くと。実際に湿地帯もあって、蚊も多い。
それで、1989年に採血の調査をして、血液中の抗マラリア抗体価っていうのを測ったんです。日本ではそれ測れる所ってあまりないんですけど、群馬大の寄生虫学教室の鈴木守先生っていう人に頼んで、測らせてもらったんです。
○そうすると?
■そうすると、やっぱり…海岸のほうが罹患率がやっぱり高いということが分かりました。あとの死亡原因は戦闘とか、高齢になって死ぬ人が多いんです。そもそも出生率が高くないんで、そんなに死亡率も高くなかったはずなんです。多い人は10人くらい産むんですけど、なにせ少ない人は0ですから。だから合計出生率は高くない。それなのに絶滅せずに来たからにはそんなに死亡率は高くないはずだ、と。
○ええ。
■そうして、婚姻と、出生と死亡について分かったことを元に人口をシミュレーションするプログラムを書いて、出生のパラメータをいろいろいじってやってみたら、やっぱり低出生低死亡の時が実際のギデラ族の人口の変化に合うという結果になったんです。
ただそれだけだと人口学なんで、そこにマラリアの影響っていうことをもうちょっと考慮に入れてみたんです。
[03: マラリア発生地域の死亡率は、鉄の栄養状態によって変わるか?] |
○と、仰いますと?
■一つはマラリアに罹ると貧血になる、っていうのがありますよね。もっとも、マラリアと貧血の関係もまた難しいんですけど。だいたい、死ぬのは高熱で死んじゃいますから。あとは脳性マラリアって言って脳の血管にマラリア原虫が詰まって死ぬんです。
話を戻すと、マラリアに罹ると、マラリア原虫っていうのは赤血球に寄生するんで、溶血性貧血になるんです。だから鉄が不足するんじゃないかな、と思ったんです。それで鉄の栄養状態を調べようと思ったんです。
○マラリア原虫って赤血球に入って多数分裂するんでしたね。で、赤血球を破壊して飛び出すときに高熱を引き起こす、と。だから貧血になる。
■そうです。先ほど、13の村があって、4つの地域に分けられる、って言いましたよね。地域によって食事調査をしたら鉄の摂取量が全く違っていたんです。海に近い地域、マラリアの罹患率が高い地域だと30mg/日くらい。日本人は一日あたり10mgくらいですから、3倍くらいですね。で、南側の川沿いの村と内陸の村は50mgくらい、そして一番北側にある川沿いの村というのは100mgくらい摂っているんです。伝統的にそれくらい摂ってきています。ということは、それが何らかの意味があることなのではないかと思ったんです。
○何から取っているんですか?
■サゴヤシとかですね。
○サゴヤシそのものが含む鉄の量が違うということですか?
■いやそうじゃなくて、それは水にさらして食べるんで、そこに含まれる鉄の量というのはあまり変わらないらしいんです。ですが、水そのものの鉄含有量が結構高いです。北方の川沿いの村で特別な鉄のソースとなっているのは、ソテツの実と蓮の実なんです。ソテツの実というのは普通そのままでは食べられませんから水にさらして食べるんですが、それでも鉄は随分残っていて、そのせいで日本の10倍の量をとっているんです。
○そこには何か意味があるんではないかと?
■そうです。抗マラリア抗体価で見ると、北方の村と、南側の村はマラリアにかかっている頻度は同じくらいだろうと思ったんですが、鉄の栄養状態をみたら、北方の方は貧血の人はいなくて、0なんです。鉄の血中濃度を見ても非常に高いんです。十分な栄養状態だと。
ところが南側の人は貧血の人が多くて、溶血性貧血の人もいたんです。厳密に血液学者が溶血性貧血だと言えるほどの証拠じゃないんですけど、溶血の指標としてLDHとか測ると、ある程度高いし、そういう人が何人もいるんです。そうするとそれが防がれるようなメカニズムが、北の村の人にはできているんじゃないかと思ったんです。
○ええ。
■鉄の摂取量が違うということを人口のシミュレーションにいれてみたんです。鉄の摂取量が低いとマラリアによって溶血性貧血で死にやすくなると。
○マラリアの感染率は同じくらいだとしたわけですか?
■内陸の村はないんで、0、海岸が一番高い、という形でやってみました。
ところがあまりはっきりした結果はでなかったんです。それはなんでかというと、ダイレクトにマラリアが死亡率には効かない可能性が高いんだと思うんです。その意味では入れ方を工夫しないといけないんだと思うんですよね。
○ああ、そうすると、実体験、フィールドでの感覚からすると鉄の栄養状態が死亡率に効いてるんじゃないかという気がするわけですか?
■ええ、そうです。シミュレーションではあまり良い結果は出なかったんですが、きっとパラメータの入れ方を工夫すれば…。
シミュレーションで一番難しいのは、何をもって結果とあっている、と評価するかですよね。いちおう、いま使っているのは人口の変化と出生数の分布なんですけど。女性が一生のうちに産むグラフが実際の形と合っているかどうか。で、それでみるとあまり合わなくなっちゃったんです。
○鉄の栄養状態を考慮に入れると、ですか?
■ええ。
○他のパラメーターが効いているということですか? それとも鉄のパラメーターの設定の仕方が違うということですか?
■そうですね。鉄の入れ方が違うんだと思うんです。それを入れないときは比較的よく合ってたわけですから。鉄のパラメータを入れたらずれてしまったというのは…。
○三段論法的な乱暴な話ですが、じゃあ逆に鉄のパラメーターはそれほど効いていない、という結論は出せないんですか?
■それも、はっきりは言えないですね。
○何かによって相殺されているパラメーターかもしれないからですか?
■そうですね。
それと、なんでこんな面倒くさいことを考えるかというと、状況によって因果関係は変わると思っているからなんです。
○他のあるパラメーターによって鉄のパラメーターが効くか効かないかも決まる、ということですか?
■ええ、そうです。
○そうするとまた別のパラメーターが必要なのかもしれないということですか。別の栄養素とか。
■そうですね。タンパクとか。食料の種類も違っています。海の魚は海沿いしか食べませんし。
○地質とかは?土質とか。
■そうですね…。そもそも気候がちょっと違うんですけどね。高度差も50mくらいでほとんどないんですけど、人間の活動の影響で、もともと森だったところがサバンナになっていたりするんです。全般的な感触で言えば内陸部はあまり蚊もいないんです。草原のところはグラスワラビーもたくさん捕れるし、動物性蛋白もとれる。焼き畑するには何の問題もないんで、多分内陸にもともと住んでたのが、だんだん追い出されて、マ
ラリアが発生しているところに徐々に進出していったんだと思うんです。
そういうこともパラメーターに含めて、ここ何百年かの人口をシミュレーションできれば、この人たちの生存が理解できると思うんです。
[04: 文化人類学との違い 〜再び人類生態学とは] |
○率直に申し上げて良いですか? いまお話伺った感じだと、文化人類学と何が違うのかな、という気がするんですけど。「人類生態学」とわざわざ言わなくても、文化人類学という範囲に入れてしまえば良いんじゃないかと思うし、実際に同じ様なことはやっているんじゃないですか?
○次号へ続く…。
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