NetScience Interview Mail
1999/11/04 Vol.075
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◆Person of This Week:

【松元健二(まつもと・けんじ)@理化学研究所 脳科学総合研究センター】
                認知機能表現研究チーム 研究員
 研究:認知脳科学
 著書:朝日文庫『脳の謎を解く1,2』共著ほか

研究室ホームページ:http://www.brain.riken.go.jp/labs/cbms/

○認知脳科学の研究者、松元健二さんにお話を伺います。
 7回連続予定。(編集部)



■私からは、あんまり豊富な情報とか面白い話は出ないかもしれないですけど。

○いやいや、だいたい研究者ご自身が、ご自分の研究は一般の人が聞いても面白いんだ、ということに、気が付いてないだけってことの方が多いんですよ。というわけでよろしくどうぞお願いします。

[01: 前頭眼窩皮質]

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データベース

○まず先生が現在やっていることから伺いたいと思います。

■ちょっと歴史を遡りましょうか。私は理化学研究所に来る前は京都大学の霊長研にいたんです。

○詳しい経緯はあとでお伺いできれば…。

■そうですね。まあとにかく霊長研でやっていたことを今も引き続いてやっているわけですが、何をやっているかと言いますとね、視覚認知課題を行っているサルの脳の前頭眼窩皮質から、神経細胞の活動を記録するということをやっているんです。霊長研では視覚認知課題の中でも、視覚再認課題というのを使っていました。

○前頭眼窩皮質というのは脳の前のほうの下のほうのことですね(笑)。前頭葉の下の方にある。視覚再認記憶課題というのは?

■視覚刺激の弁別をテーマとしたプロジェクトだったんです。なぜ前頭眼窩皮質をやろうということになったかというと、そこが情動に関係しているのではないかという考えがあったからなんですが。
 …この調子で喋っていると長くなりますね。取りあえず今やっていることだけに話を絞りましょうか。

○そうですね、日々の実験がどんなものかということをまずお願いします。
 どんな実験で、どんな結果が?

■ではその時にやっていた実験のことを例にしてお話しますね。ここではなく、霊長研でやっていた実験の話ですが、基本的な方法としては、今もほとんど変わりませんから。

○お願いします。

[02: サルの手術]

○先生方はおおざっぱに言えば、サルの脳に電極を突き刺して、いろいろ刺激を見せて、それでタスクをやらせたときに電極を突っ込んだ所の神経細胞がどういう反応を見せるかということをやっていらっしゃるわけですよね。

■まあそうですね。

○データを取るために、最初にサルに手術をするわけですよね。
 どうやってやるんですか? てんかんの奴みたいに頭蓋に何か埋めるんですか? まずそこから教えて下さい。

■はい。記録するための電極を入れるために手術をするんですが、埋め込みはやりません。やる人もいますが。我々はやってません。
 基本的には針一本の電極を脳に刺してやって、あるところで止めて、その先端部分の神経活動を記録するわけです。

○埋め込みとはどう違うんでしょう?

■埋め込みは埋めっぱなしですよね。こちらは毎日、針を刺すわけです。で、記録したら抜く。次の日もまた連れてきたら針を刺して抜くと。
 細胞一つ一つを調べていきますから、これが、どこに刺さっているということをきっちり決める必要があるわけです。そうするためには、電極を固定しないといけないですよね。固定しておき、なおかつ目盛りを見ながら動かす必要がある。

○ええ。

■そのため、つまり電極を固定するために、頭蓋の上に金属の筒をくっつけてやるわけです。歯科用のセメントを使って骨の上にその筒を固定してやって、その筒の上に、電極を刺すためのマニピュレーターをセットしてやって、電極を差し込んでいく。そういうことをするわけです。

○ふむふむ。

■だから普段のサルはどういう状態かというと、頭の上にデンタル・セメントがのってて、その一部に金属の筒が載っている。で、その筒の中の骨には穴が空けてあって、そこから電極を刺すことができるようになっている。それを実験室に連れてきてやって、マニピュレーターをくっつけて、電極を刺していくわけです。

○よくそれで誤差が…。

■ああ、誤差は出てきますよ。だから昔は主に表面の方から、頭をあけたらすぐ見えるようなところから記録していたんですよ。だから頭頂葉とか、V1とか、そういうところの研究が進んだわけです。そういう表面だと、電極が大体どこに刺さっていたか、脳を取り出したときには、その痕を表面から見ることができる。
 そのうち奥の方をやるようになってきた。そうなるといくら電極をきっちり固定して刺してやっても、こう、まっすぐ刺さるとは限らない。そうするとまっすぐ刺すための筒、まあ注射器の針みたいなものですね、それを予め刺しておいて、その中に電極を通すことで、できるだけまっすぐ刺せるように工夫する。
 そして刺さった電極をX線なんかで見てやって、ちゃんとまっすぐ刺さってますよ、目的のところに電極の先端がいってますよ、ということを確認したりしながらやるわけです。
 最終的には脳の切片を作って組織学的に、どこに電極が刺さっていたか確認するします。電極が何度も刺さったところは、脳の中の方にも痕が残っているんで。

○なるほど。

■で、ここに確かに刺さってましたよ、というわけです。だから多少の誤差はあっても、あんまりこう、細かな目盛りで──たとえば500ミクロンおきに刺しました、とやっても、深いところではちょっと無理ですね。

○意味がないっていうふうに取られているんですか?

■いやそうではないです。表面からやるときは、500ミクロンくらいの細かさはやっぱり欲しいわけですよ。たとえばこのコラムと隣のコラムということをやっぱり区別したいわけです。
 ところが奥の方になってしまうと、それをいくら最初の入り口を細かくしてやっても、あまり信用できない。だから割と離して、だいたい1.5ミリくらい離して入れてやります。

○離して、とは?

■電極を刺す入り口を大きめにずらすわけです。

○それはなぜですか? もう一度。

■チェンバー(筒)があるとして、その下に脳があるとしますね。ある一定の入り口から10回刺しましたと。その次に、最初のところからちょっと横に3ミリほど離れたところに入り口をつくって、そこからまた10回刺しましたと。今度は最初の入り口から前に3ミリ離れたところに入り口をつくってまた10回刺しました、と。それをあとで切片を作って見てみると、最初に刺したところとあとに刺したところというのは、3ミリも離してあれば、ちゃんと区別できるんです、深いところでも。それは最初の入り口のところから、電極の刺さった跡を追っていけばいいから区別できるんです。
 ところがこれが500ミクロンくらいの細かさでやっちゃうと、区別できないんですね。複数の別の入り口から刺した電極の跡が混ざってしまって。だから区別できるくらいの間隔をあけてやらないと、どこから刺した電極の尖端がどこにあったか、ということがあとで確認できないということになるんです。

○じゃあ、いまはしょうがないからできるところからやろう、ということなんですか?  それ以上の細かさを求めることは…。

■そうですね。深いところに関しては仕方がないから諦めているわけです。

○素朴な疑問ですが、毎日ずぶずぶ針刺したり抜いたりしていたら、やっぱりサルは死んじゃうんですか?

■いや、普通はそれでは死なないです。毎日消毒して、感染対策をきちんとしないとだめですけど。

○実験はどのくらい続くものなんですか、こういう実験だと。

■一頭のサルについて一年、ニ年くらいですね。それでそのサルの実験は終わって、次のサルへいくと。一つのプロジェクトで、大体2頭から3頭のサルを使います。そうすると、やり方にもよりますが、3年から5年くらいで一つのプロジェクトが終わります。実験が終わったサルはsacrificeっていいますか…

○殺して、固定して、脳のスライスを作って見るわけですか。

■そうです。だから、感染で死なせてしまったりするのは研究者の自業自得といいますか、論外なんですが、そうでなくても生き物ですから、よく分からない理由でいきなり死んじゃったりすることもあって。たとえば、通称「腹ふくれ病」って呼ばれてる原因不明の病気があって、サルを実験に使っている研究者の頭を悩ましてるんです。
そうなるといくら迅速に処理しても、組織標本の質が落ちてしまうんで、研究者としても困るんです。だから、動物福祉なんていわなくても、我々の場合、実験に使っているサルには、できるだけ健康で、実験が完全に終わるまで元気でいてほしい。

○そりゃそうでしょうね。

[03: 「反応選択性」]

○で、その状態でいろいろな刺激を見せると。

■そうです。人の顔とか、食べ物とかの写真をモニターでサルに見せてやるわけです。サンプル刺激って言うんですけどね。
 サルがレバーを押して待っていたら、サンプル刺激を1秒間出して、2秒間待って、また一秒間出して。これを1回から4回くらい出してやって、別の刺激を出してやるんです。
 つまりサルにはレバーを押させておいて、写真がついたり消えたりするのを見せる。
 レバーを押すとしばらくして最初の刺激が出る。そのままレバーを押したままで、繰り返される写真を見て、違う写真が出たときにレバーを離す、っていうだけの課題なんです。

○違うのがこなければ押したままにしておくわけですね。

■そうです。サンプル刺激──最初の写真が出ているときに、その細胞が、写真によってどんな異なった活動をしているか、いわゆる「反応選択性」というのを見るわけです。

○なるほど。ニューロンの、ある特徴に選択的な反応性を見るわけですね。

[04: サルの訓練]

○しかし、アホみたいな感想ですいませんが、サルは賢いんですねえ。そんなことができるとは。

■できますよ。

○サルはどうしてそんな訓練ができるんですか?

■ああ、サルがどうしてやるかというと、のどが乾いているからです。

○??

■訓練のときによくやるやりかたとして、我々の世界では、水を制限してやるというのが普通なんです。心理学の行動実験では餌を制限するというのがよくやられている方法なんですが、我々は水を制限する。

○ははあ、なるほど。サルに水をやらずにのどが乾いた状態にしておくわけですか。

■そうです。実験室に連れてきて、正しい反応をすると水がもらえるという条件にしてやると、サルは水をもらうためにいろんなことをやってくれるようになるわけです。これが基本ですね。

○はい。

■最初は何から始めるかというと、実験室に連れてきて、実験に使う吸い口から水を飲ませる。まずこれをやらせるんです。
 で、これはすぐできるなと分かったら、次にレバーを押すと水がもらえるようにします。さらに単に押すだけではなくて、しばらく押していると水がもらえるようにしてやる。そうすると、バンバンレバーを押しまくっていたのが、レバーを押してしばらく待つようになるわけです、だんだんと。
 で、これができるようになったら押していなきゃならない時間をだんだん伸ばしてやって、今度は、レバーを離すタイミングを知らせる合図を出すようにします。その合図が出たときに一定時間以内でレバーを離したら、そこで水を与えてやる。するとレバーを押して、じーっと待って、合図が来たら離すという行動ができるようになるわけです。

○なるほど。サルが自分でそういうことを覚えるわけですか。

■二つのやり方がありましてね。一つはサルがやってくれるのを待つ。もう一つは実際に人がサルの手を持ったりしてやって…

○教え込む?

■…そうですね。手を持って手伝ってやったら当然、動かしたときに体性感覚からのフィードバックがかかりますよね。そういうのをうまく使ってやるわけです。まあそのどちらか。
 あと時間的なパラメータとかをうまく変えてやって、サルが分かってなくても半分くらいはできるようにして調節しながら、つまり、難しすぎてサルが諦めてしまわないように課題の難しさをうまく調節しながら、徐々にできるようにしてやるんです。

○サルってそんなに賢いんですか。なんかびっくりですね。人間でも結構難しいような気がしますが。

■こうして訓練したサルを使って、刺激に対する反応選択性を調べているわけです。

[05: 高校生の時は哲学に興味があった]

■やっぱり歴史を追ってしゃべっていいですかね。そのほうが喋りやすいんで。

○どうぞ。一人の研究者が誕生するまでを追いましょう(笑)。

次号へ続く…。

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http://www2.create.human.nagoya-u.ac.jp/~ari/stuff/ALnagoya.html

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http://www.keihanna-plaza.co.jp/KRI/

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http://web-proj.agr.ehime-u.ac.jp/proj1/99sympo/index.htm

◇郵政省「研究開発成果をいかに社会導入するか」ワークショップ 10/28開催 東京TFT
http://www2.park.or.jp/mpt/index.html
http://www.mpt.go.jp/pressrelease/japanese/tsusin/991019j501.html

◇中央大学理工学研究所 1999年度 特別講演会 「機械工学における近年の進歩」
 11月 11日(木) 15:00 - 17:30
http://www.ise.chuo-u.ac.jp/TISE/symp/1999/991111k/index.htm

■URL:
◇1兆ビット/平方インチ級の情報量に相当するナノ構造体配列をシリコンチップ上に書き込むことに成功
http://www.waseda.ac.jp/koho/news99/991020.html

◇宇宙飛行士候補者の基礎訓練 月間基礎訓練レポート10月号
http://jem.tksc.nasda.go.jp/astro/ascan/ascan_rep9910.html

◇NASDA スペースパーソンNo.31 「STS-95ミッションでの植物実験をサポート
-宇宙開発事業団宇宙環境利用システム本部 宇宙環境利用研究センター 相澤幸子-」
http://spaceboy.nasda.go.jp/Spacef/sp/j/spacep_j.html

◇第7回衛星設計コンテスト最終審査会の一般公開について(発表文)
http://yyy.tksc.nasda.go.jp/Home/Press/Press-j/199910/eisei_991012_j.html

◇東海大医学部・猪子英俊教授、英サンガーセンター、米フレッド・ハッチンソンがん研究センターなどが糖尿病やリウマチに関する遺伝子があると考えられる領域の解読に成功。
 参考:http://www.genome.ad.jp/brochure/japanese/p32.html

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 平成11年11月1日〜平成12年2月末日まで
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NetScience Interview Mail Vol.075 1999/11/04発行 (配信数:19,512部)
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編集人:森山和道【フリーライター】
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