NetScience Interview Mail 1998/06/25 Vol.009 |
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【丸山茂徳(まるやま・しげのり)@東京工業大学 理学部 地球惑星科学教室 教授】
研究:地質学、地球史
著書:「46億年 地球は何をしてきたか?」岩波書店
「生命と地球の歴史」共著、岩波書店
ほか
研究室ホームページ:http://www.geo.titech.ac.jp/maruyamalab/maruyamalab.html
○丸山茂徳氏へのインタビュー、今回が最終回です。
前回に続き、丸山氏独特の文明観と、科学に対する情熱を伺います。(編集部)
[06:人類が生き残るために必要な、新しい生と死の哲学?] |
データベース |
■そうじゃなくて、もっとしつこくサバイバルしようと思ったら、人間の総数を減らさなくちゃいけない。それはね、人間の本能をもっと呼び覚ましてね、ヒューマニズムを捨てようということですよ。そうしないと、とにかく無理なんだから。
今は可能ですよ。でもね、これから寒くなって、ニューヨークとロンドンを結ぶ線から北はみんな寒くなって、生物そのものがほとんどいきられないような状態になったとする。そうすると、餌の総量は最初から決まっているんだから取り合いですよ。現在の人間の50分の1くらいしか養えない。生きられる人間の数が決まってしまいますよね。
じゃあ、日本は江戸時代にバックして鎖国して、誰も入れないようにしよう、そうやってしまったら、マキシマムは3000万ですよ。我々の隣人の4人に3人はあの世に行ってもらわなくちゃいかん。4人に一人ですよ、生き残れるのは。それをやらないと、やっていけないでしょう。それでも大変ですよ。
それをクリアするためには、何かをやらなくちゃいかん。
これまでね、人類の知識の量というのは、爆発的に増えてきたわけですよ。特に産業革命以降ね。これだけ知識の総体が増えると、新しい哲学を作れるはずです。これまでの哲学というのは、キリスト教的な、ヒューマニズム肯定型のものです。初めに、そして最期までヒューマニズムありきというのがこれまでで、それではもう支えきれない、というのが現在でしょう。そうじゃない哲学、近代科学が蓄えてきた知識を総動員した哲学というのがあり得るはずです。
その哲学大系の中でもっとも大事なのは、死への恐怖、というのをなくすことでしょうね。
○どういうことでしょうか?
■人間の総数を減らす、というのは死への恐怖がなくならないとできないでしょう。
僕はいま49才です。お前の年はいくつだ、と聞かれたから、常識的には49と答えますね。ここで話しがそれますが僕は60兆から100兆の細胞の塊でしょう。でも元は生殖細胞で、さらにそれは母親のものだ。それをもっと遡っていったら俺の年は40億才ということになる。まわりの生き物、俺の腹の中の大腸菌、昨日殺したゴキブリ、こいつらはみんな兄弟と言うことになる。みんな肉親だ。それと同時に、子孫を残した俺は死ぬことはないということになる。それを「手応え」をもって感じるということが大切でね。
それは、生物としての命令に逆らうことになる。人間は、これまで手にした知識によって、総体として知的になる必要がある。それができた時だけ、生き残ることができるでしょうね。そのとき、真の意味の、種の寿命が尽きる前にいくらかのことができるでしょうね。
○その「いくらかのこと」というのは?
■良い言い方をすると、生物同士が調和を保って、そのバランスを崩さないように生きていけるようにする、ということだね。人間も含めて。
○バランスですか。
■ここで「バランスを崩す」というのは人為的なものじゃなくて、天体のリズムのことね。地球の歴史というのは、地球の中の熱エネルギーを出す、というだけのことだからね。それが、短期間にカタストロフィックに出る、ということになっているわけよ、物理的に。大量の熱エネルギーがドバッと出ると、例えば粉塵が地球を覆って寒冷化するというようなことが起こるわけでしょ。そうすると、地球表面のちょっとした変化に恐れおののきながら生きている生物なんてものは、大パニックになるわけですよ。それが生物の宿命だったわけね。
でも人間は、その仕組みまで突き止めているからね。それをどうやって緩和するか、ということを考えるよね。地球に太陽の光が足らんとなったら、地球のまわりにでかい鏡をおいてね、暖めてやろうといったことを考えるでしょ。地球が寒冷化したときに、もし力があったら、多分そういうシステムを作るでしょうね。そういうことはできなくはないでしょう。
○惑星レベルでのテクノロジーですね。
■そう。ですが、今のままではどちらにせよ駄目でしょう。そういうことをするには、また膨大なエネルギーが必要だしね。何らかの形でヒューマニズムを壊さないと無理でしょうね。もっとも現状はクラッシュが来るまで続くでしょうね。
○なるほど。しかし今のお話、おそらくほとんどの人は納得しないと思いますが…。
■それはね、知らないからだよ。
○知らない、と仰いますと? 実感を持って感じられない、ということですか? 地球が人間を支えられないということに。
■うん。なぜそう思わないのか、というのはね、まず知識がないんだ。それと、論理的に考える力がないんだ。それは仕方ないんだけど、「知らないから俺はそう思わない」というのではすまないわけね。必ず来るんだから。遙かに規模は小さいんだけど、奈良時代のようなことが起き、関ヶ原の頃も来た。それよりも遙かに大きな規模の寒冷化が来る。この1万年は、小春日和なんだから。その前の、普通の気候に地球が戻ろうとしているわけ。
ところがね、「普通の気候」とはなんなのか、ということを誰も知らんわけだね。我々は生まれてからずっと温室の中で暮らしているからね。そろそろ温室の寿命が来て破れそうになっているということが理解できないわけ。温室から出たことないからね。マスコミの社会的責任も問題だね。
○ふむ…。先生のお考えは分かりました。いろいろ異議はあると思いますが、これからの社会が大きな問題に直面するだろうこと、それに対して対策を探すべきであることには、異議はないと思います。
■うん。とにかくね、近視眼的に捉えては駄目なんだよ。本質を捉えて、解決法を探さなくてはいけない。人口問題、エネルギー問題、それから環境汚染問題。この3つは、人類存亡に関わる重大な問題ですよ。
強調しておきたいんだけど、環境問題には気候変動の問題と、環境汚染の問題があるわけね。この二つは切り離して考えなければいけない。地球環境の化学的汚染の問題こそ、マスコミはもっと取り上げるべきでしょう。
[07:時間と空間のスケールを大きく取る] |
○話を元の地球史解読へ戻しましょう。
地球の歴史は基本的に冷却過程で、地球史とは分化の歴史だということですね。先生は元々ご専門は岩石学ですよね。マグマからは冷却するに従っていろいろな鉱物が結晶分化してきますが、やはりそういう背景から、このような地球スケールの冷却過程と分化、といったお考えに至ったのでしょうか?
■まあそうだね。僕はマグマは直接はやったことないけどね。岩石学というのはちょうど良かったんだと思いますよ。地球科学の中にはいろいろな研究分野がありますね。生物学から物理学とか数値実験とかまである。そのだいたい真ん中にあるのが岩石学なわけよ。構造地質や隕石学とかもあるけど、岩石学というのは一番中心にいる。学際的に知識を広げるときに一番いい位置に、偶然いたわけですよ。
○先生は最初、徳島大にいらしたんですよね。その頃からそういうことを考えてらしたんですか?
■いやいや、そうじゃない。将来、自分が地学でメシを食っていくとか、科学者になる
才能があるとかは、僕自身全く思ってなかったしね。
家の都合もあって、僕は中学校の修学旅行まで四国を出たことがなかったんですよ。しかし、自分の頭の中に、小さな恐怖感があった。5才か6才の頃まで、僕は「あの山の向こうには地獄に続く滝がある」とおもってた。その滝の向こうには何にもない世界が広がっていると思っていた。その恐怖をよく覚えている。しかしあの山の向こうまで行ってみたい、とそう思っていた。小学生になって、遠足でその山の向こうにいったらまた山があった。修学旅行で四国をでたらそこには海があった。
まあ、そうこうしているウチに、教科書を読んだりして、おお、地球は丸なのかと思うようになり、世界観が広がっていくわけね。そうしていくと次に、俺はいったい何なのか、自分という存在は一体なんなのかと思うようになった。聖書地質学と同じですよ。これはみんなが持っている興味だと思うけど、僕はたまたまそういう興味をそのまま仕事にしているけどね、それ以下でも以上でもないと思う。
この部屋にある本も、別に僕の本じゃない。あなた方の税金で買っているもんなんだから。僕は、税金でもらっている給料の分を返すのは、科学を前に進めることだと思っている。そしてそれを、次の科学予備軍というか、若い人をトレーニングして一人前にするというのが僕の仕事なんで、逆にそれ以上のことはしたくない、と思っている。
だからね、今僕が言ったようなことは本当はマスコミの仕事なんだと思うわけ。温暖化なんかよりも、もっと本質を見て、建設すべきものは何かということを考えて書くべきだと思う。
○もっと大きな時間スケール、長期的なスケールで物事を見ろということですか。
■そう、時間と空間のスケールを大きく取ると、本質が見えるわけですよ。単純なことですよ。日本だけにいたら日本のことは逆に分からないでしょう。気候変動を考える場合は、時間と空間のスケールを大きく取って見ないといけないわけです。人間は本来、先を見通す力を持っているはずなんですよ。勉強すれば理解できるようになるんです。
科学だけが歴史的に進歩する文化なんですよ。他のモノは、本質はあんまり変わってないでしょう。一言で自然科学の進歩とは何かというと、絶対零度に近づくようなものですよ。絶対真理そのものに到達することはできない。だが、限りなく真理に近づくことはできる。これが、科学が歴史的に進歩するということの本当の意味ですよ。
[08:反論を恐れず、真に独創的な研究を] |
○先生が<プルームテクトニクス>を提唱し始めたときには結構反論がありましたね。
■我々の研究は学際的だからね。専門分野を飛び出して何かを言おうとすると、そういうことはいつも起こるんですよ。職能集団はね、自分たちの利権を守ろうとするんですよ、本能的に。科学者なんかその典型ですよ。でもね、そんなことを気にしてちゃいかんのです。
[09:全地球史解読] |
○最後に、全地球史解読の本質と意義をもう一度教えて頂けますか。
■結局のところこの計画の本質は何なのかというと、「生物とは何なのか」ということですよ。生物を生み、進化させた過程はなんなのか、ということね。それを理解するためには、手続き上、固体地球の進化を理解しなくちゃいかんのです。
そして、この計画が明らかにしたことは何か。聖書地質学では、人間が地上に生きる全てのものの頂点として君臨しているわけね。ところが真実は違う。
自然科学が明らかにしたことは、偶然の偶然の偶然の偶然の、ものすごい偶然が重なった上に我々が生まれてきたということなわけね。つまり「あの時にあのことがなければ」ということばっかりが地球の歴史であって、人間というのは神に選ばれた存在でもなんでもない、他の生物と全くの同格なんだ、ということを明らかにしてきた。
これが、ほとんどの科学がたどり着こうしてきている結論ですよ。ある意味で当たり前のことだけどね。今は宗教と科学の戦争の最終局面ですよ。日本では一部の例外を除いて全くそういう状況はないけど、世界のあっちこっちでは今も衝突が起こっているからね。
ただ、宗教と科学というのは、元々イコールだったんだけどね。根元的な疑問は同じところだったんだから。つまり、「自分とはなんなのか」という疑問ですよ。
聖書というのは大昔に書かれたものでしょ。それ以降、人類は膨大な知識を蓄えてきたわけですよ。だからいま、蓄えられた科学の知識で、新しい「生命と宇宙の歴史」を書けば良いんです。
○どうも有り難うございました。
【1998/04/16、東京工業大学にて】
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*次号からは、<ヴァーチャル・リアリティ>の河合隆史さんのインタビューをお送りします。
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◇クローン技術に関する基本的考え方について(中間発表)
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◇原子力白書 平成10年版
http://sta-atm.jst.go.jp/jicst/NC/hakusho10/index.htm
◇Microsoft TerraServer
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◇真鍋淑郎特別講演「大気海洋陸面結合モデルによる温暖化の予測」
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